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以下メモ
直哉が特級呪術師相当。
与えられた「役割」や「立ち位置」を遂行する覚悟がガン決まっている。
本人曰く究極の事なかれ主義とのことだが、事なかれの解決の仕方がパワープレイ過ぎる。
御三家はパワーバランス調整のため、高専に入らない限り特級にはならない(五条家の無下限+六眼と禪院家の十種まこら調伏は特別扱いではあるが、五条は高専入学と共に通常通り査定されている)。他の相伝はそれよりは弱いとされていることもある。
夏油離反無し/生存、灰原生存、甚爾生存。
夏油高専教師、甚爾高専体術教師(秘匿死刑延期中)、灰原東京高専付き呪術師。
甚爾生存と夏油離反なし、灰原生存には、直哉が関わっている。その過程で右目が見えなくなっており、黒い眼帯をしている。
甚爾が出奔するときに、忌庫のカギをわざと開けたままにしておいた直哉。呪力を込めると鋼鉄のごとく鋭く硬くなる扇子を持っている。甚爾がカギを開けておいてくれた礼(恩を売りたくないので)と要らんと寄越した。
甚爾の隣に立つのは俺、投射呪法を極めるのも俺。という覚悟ガン決まりの元、高専生くらいの歳には特別一級となっていた直哉。
甚爾の行方が分かるように一対の呪具を紛れ込ませる。片方は直哉が持っている。とはいえ、呪霊をボコして従わせて飲み込ませるとかはさすがに想定していないし、呪力0で感知されないように全部置いていくとかも想定してなくて、介入はギリギリになった。だから五条は覚醒済みだし、邪魔すんなって五条からも甚爾からも敵意を向けられて普通に死にかけくらいの大けがをしている。
ただ、それで少し冷静になった五条が、甚爾を捕獲の方向とする。戦力は多ければ多いほどいいため、秘匿死刑延長に尽力する。
灰原生存はたまたま近くにいた直哉が介入。灰原も七海も大けがではあったが死なずに済んだ。
夏油離反については、甚爾秘匿死刑回避と五条配下に置くことに禪院家が反発。直哉に甚爾を殺せとの命がくだる。縛りを結ばされそうになった直哉が大見えを切り、「直系相伝次期当主が能無しになったるから黙れや」と自身で右目をナイフで突き刺す。勢い余って脳まで到達してしまい、反転術式を取得。瞳は戻らなかったが、命は助かる。
という経緯を知り、呪術師、非呪術師の区別なくクズはクズである、という達観を得る夏油。
投射呪法は目で見えた景色(画角)内で正確に動きを作ること、が重要なため、宣言通り術師の能力としては落ち、異例の再査定により特別四級からやり直しになる。
再査定を行い等級が落ちたことにより(再査定を行ったのは反発していた禪院の者、あれだけ威張っていたガキが四級になったことでいい気味、と思っていた)、直哉の大見えが「縛り」になっている、と指摘する五条。晴れて(?)甚爾と、その息子の恵は、五条に身柄が移されることとなる。
直哉は自力で2~3年ほどで特別一級を取り戻す。次期当主候補の座も取り戻す。
投射呪法を極めに極めた結果、究極の不意打ちでの先手必勝が結局強い、という判断になる。
直哉本人はダサいと思っているので、そんなダサいことしないと、というかしても甚爾や五条どころか他の特級にすら遠く及ばないと、謎自己肯定感低になっている。1回4級に戻っている、というのもかなり異例中の異例(不名誉)のため。
内心ダサいと思いながら得物も使う(扇子とか)。でも本当はなるべく使いたくはない。
また、不意打ち・先手必勝・だまし討ちが強いので、呪力制御を行うことにより、弱いと見せかけて相手を油断させる方に特化させる。なので、特別一級? コネかなんかか? 二級の上くらいだろ、という感じに見える(とうじや五条には分かるし、夏油・乙骨・九十九は何となくからくりがあるな、と思って油断はしてくれないが)。二級くらいにしているのは、あんまり弱そうに見せすぎると禪院家で統率が取れなくなるため。途中で4級を挟んでるのもあって、それくらいまでなら抑えられる(流石に呪力0は無理)。
術式反転の過程で、1秒であれば時間を戻せるようになっている。
あくまで直前に作成した動き1秒分だけ。
1秒順転し、その攻撃が聞かなかったら1秒反転し、もう1度試し、という「攻撃が効くまで殴れば効く」も理論上は可能。
範囲を広げればモノや相手にも適応可能だし(もちろん無尽蔵ではない)、相手のその時間の記憶の有無(何度も繰り返せばずっと1秒ごとにボコされているという精神攻撃も可能)も調整可能。
反転を順転の2倍と解釈し、順転×2の攻撃も可能。効くまで順転反転繰り返し、攻撃が確定したら2倍の攻撃をくらわす、も理論上は可能(それをやらなきゃいけない相手は必然的に上手なため、返される可能性は高い)
反転術式で自身を治すことはできるし(アウトプットは不可)、領域展開も取得済み。
五条は「1秒順転→反転の繰り返し+相手に記憶有」は条件付き無量空処だし(直哉自身が術中で同じ情報量を食わなきゃいけないのと直哉本人が考えなきゃいけないこと、ただしこの男は覚悟ガン決まりでそれができてしまうこと、五条や甚爾などの格上の相手にはもちろん効かないこと)、たった1秒とはいえ、勝つまで倒せるまで殺せるまでその世界を確定させない、というのがコイツには出来てしまう(もちろん術式にはめることができれば、だが。出来てしまえばこいつのガン決まり精神なら可能だろう)、ことに気づく。
領域展開無しの超局所的必中必殺(になるまで殴り続ける)。領域展開無しの超局所的無量空処。
超局所的ではあるが、時間素行による世界改変系の能力。
もちろん領域展開ではないので術式が焼き切れることもなく、格下相手でしかも直哉のことをなめてくれたりしたら、余裕で無双だろう。
コイツの格上って言ったら、現状特級と天与の暴君くらいか?
(コイツ……特級じゃね?)
五条と夏油が東京高専の教師になることになり、甚爾もそれと同時に体育教師になることになり、東京高専にパワーバランスが偏ることを懸念した上層部や京都高専から反発があった。
灰原や七海(世間を知りたいと会社勤め予定だったが、絶対に、というわけではない)が、自分たちが京都高専所属になる、と申し出るが、五条は良しとしない(寂しいから)。
あと、七海の進路はいずれ呪術界としても財産になるから、と推す。
(あ、直哉)
そういえばアイツがいた、と五条の推薦で京都高専教師になることになる。
バサバサとテキスト類を置いて一言。
「お前、来年から京都高専教師だから。一発で教員免許取れなかったら殺す」
「……は?」
有無を言わさず、またパワーバランス的にはもうどうしようもなく、あれよあれよと決まってしまった。文句を言っていたが、覚悟を決め、(裏口)一発合格する直哉。
京都高専。東堂・加茂・西宮の代が1年生のときに、直哉が赴任する。
歌姫は、一応庵家が古くからの名家(御三家にはかなわないが)のため、幼少期からの直哉や五条と面識があった。
傍若無人を絵にかいたような2人。五条は学生時代に更に嫌いになったが、直哉もぶっちゃけ同じくらい嫌いだった。
たまに名家同士の会合に参加すれば、お前は当主かと言わんばかりの傍若無人ぶり。男尊女卑を着て歩いているような男に
「せっかくのお顔がぐずぐずやね。術式も弱い。なんの取柄もないやん。どないするん?」と煽り顔で笑われた記憶も鮮明に思い出せる。
そいつが、あの五条の差し金で、後輩に……。
歌姫は憂鬱で仕方が無かった。
新入生の入学式より前。見慣れた書生姿、金髪ピアスで現れたそいつは、スッと凪いだ顔で言った。
「初めてお目にかかります、庵先生。今日からお世話になります、禪院です。先輩としてご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
普段通り、京都訛りではあるものの、直哉の口から聞いたこともない丁寧な言葉が飛び出てきて、歌姫は目をまん丸にした。
というか、庵先生って。バカにしたような「歌姫ちゃん」しか聞いたことない。
というか初めましてでもないし。
と思っている間に、とてもたおやかに頭を下げられてしまい、更に瞠目する。
「……え、誰?」
「何? 歌姫ちゃん、もう物忘れ始まったん? 先生やめた方がええんやない?」
あ、直哉だ。人を馬鹿にしたような笑みを浮かべて言う直哉に安心すらしてしまった。
「いや、アンタが初めまして、って言ったんでしょうが」
「ん? 『私』が『庵先生』とお会いするのは、お初やさかい」
まただ。最初に挨拶したときの凪いだ笑み。どういうことだ。
「アンタ、何企んでんの」
「企む?」
きょとんとした顔で小首を傾げる。コイツのこんな仕草、「こんなんも分からんの?」という顔でしか見たことが無い。
「その話し方とか、初めましてとか、庵先生とか」
ますます分からない、という顔をする直哉。
「やって……ここは高専やし、『私』は先生、でしょう?」庵先生は先生としては先輩やさかい、と言われる。
「そういうこと……?」と思わず小さい声で言ってしまった。
歌姫だって自身に覚えはある。硝子の前では「歌姫先輩」だし、父母の前ではかわいいこどもの歌姫だ。生徒の前では「歌姫先生」である。
特別意識しているわけではないが、立ち居振る舞いが全く同じなわけないだろう。
それは、あのクソガキの五条と夏油だって同じだった。生徒に対してはちゃんと(と五条の場合言ってもいいか微妙だが比較的に)先生をやっている。
そういえばコイツと相対するときは、『禪院家次期当主候補』としてしかない。他の面を見たのは、初めてなのだ。
にしては変わりすぎだと思うが。
黙って考え込んでしまった歌姫の顔を直哉はのぞき込む。そこにはわずかに不安が除いていて。
(え)
「あの、変、でしょうか?」学校通ったことないさかい、ようわからんのよ、堪忍、とその不安そうな顔のまま、あの直哉が言った。あの、直哉が。
今目の前にいる『禪院先生』は、私、『庵先生』の後輩なのだと。歌姫は理解した。
「いえ、変なんてことはないわ。――これからよろしくね、『禪院先生』」
歌姫が安心させるように先輩の顔をして笑うと、直哉もほっと息をつき、よろしくお願いします、と言った。
新入生の前で自己紹介をした。
「お初にお目にかかります。今年から教師になりました、禪院と申します。どうぞよろしゅう」
東堂の不遜なよろしくと、西宮のゆるいよろしくーが重なった。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている加茂。
(あ、そうか……)
歌姫は御三家の次期当主候補、という直哉と同じ境遇の加茂を見た。恐らくは御三家での会合(の直哉の振る舞いを歌姫は知らないが推して図るべしだろう)で見た彼と一致しないんだろう。
「禪院先生は特別一級だから、戦闘面では良き師になると思うわ。新人同士、仲良くね」と念を押すように言う。
「特別って?」西宮が言う。強いってこと? と。
「『特別』言うんは、『みなし』くらいの意味やね。高専通ってないさかい、私は査定の上での級が付いてないんよ」
はい、とみんなに学生証を配る。
「その丸に書いてあるんが、皆の現在の級。……東堂君、加茂君は入学当初から『準二級』なんやね、すごいなあ」
本当にすごいと思ってそうな顔で言っている隣の男に、歌姫は内心瞠目する。言えるんだ、本当に心から褒めているような顔でそういうこと。
「……加茂君?」加茂がやっと起動した。歌姫は、(ああ、普段は憲紀くんなんだな)と察した。
「禪院家次期当主の禪院直哉、だよな?」
「『候補』やけどね」そうやけど……何? と困惑する直哉。
「え、先生凄い人だ!」海外にいた西宮でも御三家は分かる。
「加茂君やって、加茂家次期当主、でしょう?」
「いや、まあ、そうだが……その、話し方は?」
「ここは高専やし、私は『先生』やさかい」
「なる……ほど……?」
歌姫は個人的に加茂に話しかけて、先生である以上は多分あの態度だ、と説明する。
御三家の会合に行ったときにびっくりしないように、と。
加茂は困惑したように、つい最近の御三家会合に、珍しく五条が来て、直哉と口論になり、一触即発取っ組み合い寸前で、お互いの父親(五条家先代当主と禪院家現当主)からげんこつをくらった場面を見たらしい。
……何やってんの、あいつら。
直哉が「加茂君からお友達に相談する分には構わない」とのことだったので、加茂は西宮、東堂に伝えたっぽい。東堂と西宮も困惑した表情を浮かべていたこともあったが、「禪院先生」として受け入れたようだった。
東堂は「禪院直哉」と呼んでいたが、全く言うことを聞かないわけではない。
そんなこんなで1年が過ぎ、次の年度の用意をしていた時。
「……庵先生、ちょっと相談させておくれやさしませんやろか」
神妙な面持ちの直哉。
「何かしら?」
「来年度の新入生のことで」
歌姫はああ、と思った。禪院真依のことである。
「えこひいき、では決してないんやけど、庵先生は何があっても禪院……真依さんの味方になってくれはりますか?」同じことを、先輩となる彼らにも伝えたいんです、と。
「もちろん、可愛い教え子だもの、悪いことは悪いと叱るけどね」と任せなさい、という気持ちで言うと、曖昧に微笑み返される。
次2年生の教室でも、先輩として迎えてあげて欲しい、と言う直哉。
加茂は硬い表情になった。直哉は加茂と目を合わせ、頷く。
新入生と対面するとき、彼らにも同席して欲しいと。もしくは、自分は会わない方が良いと直哉は言う。
先生である以上、会わないというのは無理筋なので、新入生歓迎会、の体で同じ教室に集まることに。
そして、新1年生である、三輪、真依、メカ丸がやって来て。
新2年生と顔合わせし、歌姫が挨拶して、渋る直哉を連れてきた。
「……お初にお目にかかります。禪院と申します。どうぞよろしゅう、三輪さん、メカ丸さん、……真依さん」とあいさつした瞬間。
「え」
顔面蒼白になって、真依はへたり込んだのであった。
三輪と西宮が慌てて駆け寄って真依に寄りそうようにしゃがんだ。背中を撫でるがガタガタと震えている。
直哉は歌姫の背中を押すと、「後はよろしゅう」と言い、消えた。術式を使ったようだ。
(もう、なんなのよ!)
と思いながらも真依をなだめる。
なんで、どうして、あいつが、と繰り返している。
(え)
もしかして、アイツが教師をしていることを知らない? だとしても、この怯えようは何?
何、というのは教師としてのアイツを見てきたからこそだった。何、なんてない。アイツは禪院の男で、この子は禪院の女だ。それ以上もそれ以下も無いことは、歌姫だってわかっていた。
「真依、落ち着け」加茂が真依の前にしゃがんだ。
「私は、加茂家次期当主、加茂憲紀だ」
「加茂……」
「そう、あの加茂家だ。大丈夫、分かっている」西宮も、東堂も、歌姫先生も。と告げると。
真依は泣き出してしまった。
歌姫は職員室兼補助監督室に来ていた。
西宮や加茂が、ここは任せて、と言ってくれたのだ。なんていい子たちだ。
歌姫が部屋に入ると、直哉は顔を上げた。
「庵先生」どうですか、落ち着きはりましたか? と直哉。
「どうもこうもないわよ」説明して、と歌姫。
「説明も何も……俺は禪院家次期当主候補、真依ちゃんは弱っちい術式しか持たん女」
「ちょっと」
「あんなけったいな家、出てったるわ、と来た先で、そのけったいな家そのものみたいな男がいたら、そりゃああなるんとちゃう?」ホンマ、パパも悟君も何考えとるんやろ、と直哉。
「……アンタも、『けったい』だと思ってるのね」
「……」余計な事言うたな、と言う顔。
「庵先生」スッと直哉は辞表を差し出す。
「は?」
「もちろん、今すぐやありません」五条先生の意向も聞かなあきまへんし、と直哉。
「ただ、庵先生が持っといてくれやしませんか? これは好きにしてくれて構いまへん。庵先生の判断なら、五条先生やって納得しはるやろし」
「私にそんな権限ないわよ」
「よろしゅうお願いします」ぐっと押し付けられる。
「……わかった」受け取って、自分の机にしまう歌姫。
「じゃあ、1年の担任はアンタね」
「は? ……はあっ!?」
「これを機に仲良くなりなさいよ。従兄弟なんでしょ」
「いや、そういう……問題やないんやけど……」見てはりましたよね? さっきの、と直哉
「見てたから言ってんの。このままだと気まずくてお互いに授業どころじゃないでしょ? さっさとどうにかしてきなさい」先輩からの宿題、と歌姫。
ため息をつく直哉。
「あんま、期待せんといてください」
一方、泣き止んだ真依は、まず、真依の話を聞く、と皆に言われて話していた。
正直に話していい、と言われ、禪院家では禪院直哉が暴君として君臨し、灯に所属していた真依は、ほかの団員と共にコテンパンにやられ、暴力的な稽古を受けていた、と。
男尊女卑のあの家で、この程度の能力しか持たぬ自分など、居場所は無いのだと。
西宮は信じられない気持ちでいた。だって「禪院先生」はそんなことしないししそうもないからだ。でも加茂や歌姫に聞いた話から、何より直哉本人が真依を信じてやってくれ、というので信じることにした。
加茂も、御三家の会合での話をし、古い家だから歌姫先生も似たり寄ったりの彼を見たことがあるはず、と言う。しかし、と。
「ここでの彼は、『禪院先生』なんだ。『禪院家次期当主』ではなく」
「あのね、直哉先生に言われたの。真依ちゃんのこと信じてあげてって。先輩として守ってあげてって」
「え」信じられないという顔をする真依。
「御三家だの禪院家だのは知らんが、そもそも『禪院直哉』は暴君として君臨できるほど強いと感じないが」
「ええっ」
どういうこと、と固まってしまった真依。
「三輪ちゃん、メカ丸。貴方たちも同級生として、真依ちゃんを支えてくれる?」
「もちろんです」「ああ」
「真依ちゃん」真依は顔を上げる。
「直哉先生。……禪院直哉を好きになれとか、慕えとか、そういうことは言わない。ううん。私たちには言う権利なんかない。けど、ここにいるのは『先生』なんだって。覚えていて欲しいの」
「あのー……終わったん?」おずおずと教室のドアの影から、顔だけ出す直哉。びっくりするみんな。
「は? さっきのさっきで何でアンタが来てんのよ」
「庵先生にお前が行け言われたんよ。先輩命令には逆らえないさかいに、堪忍」とドアの外から言う。真依にとって、謝ったことが何より衝撃だった。
遠慮してか、入ってこない直哉。
直哉は、三輪とメカ丸が真依を庇う用にしているのを見て、微笑んだ。
真依は、この男が「初対面」の挨拶をしてきたことを思い出して、立ち上がった。
「……”初めまして”。新入生の禪院真依です。これから、よろしくお願いします。”先生”」
直哉がほっとしたような顔をする。
「改めて、よろしゅう。”真依さん”」
真依も禪院の女だった。この場合は悪くも。
すっかり『先生』の直哉に慣れた真依は、『直哉先生』と呼び、クソガキ煽りムーブを存分に行っている。逆に直哉の方がたじたじだ。
西宮は、(あの時の私の決意を返してくれ)と思ったが、あの死にそうに震えていた真依は二度と見たくないので良かった、と思った。
からかう真依と、流される三輪。三輪に弱いメカ丸にからかわれる直哉。
いつもの風景となっていた。
2年と1年の合同実践授業。直哉が担当することになり、案件が重なったため先にやっといて、となった。
真依はどうやってからかうか、を考えている。一応西宮は窘めたが。
東堂は「本当に禪院直哉は禪院家で一番強いのか?」
「ご当主は直哉さんのお父様だし、一番、ではないんじゃないかしら」と真依。
「にしてもだ、弱すぎる。手を抜いている、のであれば胸糞悪いな」
加茂は東堂がこの間の組手で直哉に勝っていたのを思い出した。
「そういえば、伏黒恵が禪院家に挨拶に行った際、ちょっかいをかけて吹き飛ばされた、と聞いたな」
「それ私も聞いたわ」
「直哉先生が弱いってこと?」三輪ちゃん、言うわね……と真依と西宮が思う。
「……出させてみましょうか、本気」真依が不適に笑う。東堂がおお、と目を輝かせた。
「ちょっと! 授業が大変になるでしょ」西宮は止める。
「しかし、御三家会合で見る彼の姿からしてと、禪院先生は生ぬるいとは感じるな」
結局真依と東堂が乗り気で、加茂も止めず、他も流され……煽ってちょっと怒らせてみよう、となってしまったのである。
ようは皆、直哉をなめていたのだ。
直哉が戻ってくる。
「遅うなりました。……休憩中?」
皆が組手をしていないことに、首を傾げる。
「禪院直哉。本当にお前、特別一級か?」東堂が急に不敵に笑う。
「何の話?」
「随分と、腑抜けちゃったわね、直哉さん。って話」真依がクスクスと笑う。
「ここでの『先生』の様子、お家に帰って話しちゃおうかしら。生徒に負けて、ぽーんって投げられてるのよ、って」
加茂は煽るな、と窘める。
「御三家の会合で見る貴方とは、かなり様子が違うと思ったのだ。ここでの貴方は、正直少々生ぬるい」
「俺に負けるようで一級とは笑わせるな」
「東堂君は、そない急がんでもそのうち一級に推薦されると思いますよ」
「俺は、俺より弱い奴に従うつもりはない、と言ってるんだ」
直哉は凪いだ目で皆をみた。
三輪もそうだそうだーと楽しそうに合いの手を入れている。
真依がクスクスと笑う。
「高専で五条悟に学んだ今なら、お姉ちゃんのほうが強いんじゃない?」
「禪院家の相伝としては、十種影法術の方が強いだろう。このままでは次期当主候補も外されてしまうのではないか?」
西宮とメカ丸は静観しているが、止める様子はない。
全員をぐるりと見まわして、ふう、と息をついた直哉。
「これ、やり始めたの誰でっしゃろ? ……真依ちゃん?」
先生としての呼び方じゃない直哉に、効いてるとクスクス笑う真依。
「だったらなんだって言うの?」
「そ。……分かった」
直哉が音もなく消えた。ふっと東堂のすぐ後ろに現れる。東堂が拍手をする。東堂は術式が発動した、と思ったが。何も変わらなかった。
「は」
直哉は東堂を思い切り引き倒し背中に馬乗りになると、ナイフを手に取り、背中から突き刺す。血が噴き出る。
「東堂!」
加茂が構えた時には、姿が消え、加茂の後ろにいた。ナイフで首をかき切って血が噴き出す。
西宮がほうきに乗る。直哉は飛び上がった。(うそでしょ)西宮はけり落される。
三輪が構えるが刀を取られ、庇おうとしたメカ丸を一刀両断する。三輪の顔のすぐ横に刀を突きさし、髪が切れると、三輪は気絶した。
「はっ、はっ」
真依がガタガタ震える手で、鼻血を出しながら銃を構える。
「あーあ」禪院家で見た顔で笑った。
「真依ちゃんのせいやで? 笑けてまうくらい弱っちいのに、相手の力量も見極めんと煽って。久しぶりで加減できんかったわ。みんなとまた会えるとええね」
真依の拳銃を取り上げ、撃鉄を下げ、真依に向けた。
「どお? 従兄弟が術師殺しになる気分は?」
「あっ、ごめ……」
「みぃんなに、会わせたるよ。バイバイ、真依ちゃん」銃声を聞き、真依は気を失った。
「庵先生……」
「うわ、びっくりした! あれ、授業は?」
職員室。青白い顔で直哉に呼ばれ、歌姫は肩を跳ねさせた
「え、顔色悪っ!? は、血!? 何、本当にどうしたのよ」
「……やりすぎてしもうた」と顔を抑えながらずるずるとしゃがみ込む。
「何々!? 大丈夫? ってか、生徒たちは?」
「……生きとるよ」
「は、当たり前……アンタなんかしたの?」
「大けがはしてないけどみんな気絶してはるから、手当と……メンタルケアをおねがいしてもええでっしゃろか」
「はあ!?」
大急ぎでグラウンドへ向かうと、呆然と上半身を起こす生徒たちがいた。皆、手を不思議そうに眺めている。
東堂と加茂は血まみれで、歌姫はひえ、と悲鳴を上げた。
「……生きてる」三輪が呆然と呟く。
「東堂、加茂! 血が」
「……怪我はしていない」と東堂。
加茂が懐をごそごそ漁った。「……いつの間に」
ナイフで切られた血液パックが転がっていて、拾い上げた。
東堂も同様に拾い上げて肩を竦める。
三輪がはっとする。「メカ丸!」「……大丈夫ダ、動けナイガナ」
呆然としたまま、顔をペタペタと触っている真依。
「……とりあえず、皆怪我は無い?」嘘つかないで自己申告! と歌姫は言った。
次の授業はお休みにして、みんなに着替えさせて、談話室に集めた。
ホットココアやお茶を入れてあげる歌姫。メカ丸は飲めないけど。
「……落ち着いた?」
「……」東堂もぶすりとして何も言わない、本当に珍しかった。
「で、何があったの?」
誰も何も言わない。
「禪院先生から、やり過ぎたからみんなのケアをしてくれって言われたんだけど。アイツ締めとけばいい?」
東堂以外、びくりと肩を震わせる。東堂はますますぶすっとした。
「あの、私のせいなんです」と真依。
「私も結局止めなかったから」
「私も、不用意なことを言った」
「……もとはと言えば東堂が!」
「俺は今、相手の力量を見誤った己を律しているんだ。黙っていろ」
「はあ!?」
「わ、私も一緒になって煽っちゃったし……」
「止めなかッタのは俺も同じダ」
「何何!? 分からないわ。ちゃんと話してちょうだい」
生徒たちの話を要約すると、本気をだしてないのか弱いのかしらんけど、直哉を煽って怒らせたろ、の結果らしいことが分かった。
「貴方たち……馬鹿ね……」頭を抱える歌姫
「ごめんなさい」と西宮
「謝る相手が違うわね。でどうしたいの?」
「えっ」
「正直、煽りに乗ってやり過ぎた禪院先生も禪院先生だし、私はあなたたちの味方だから。謝ってもいい謝らなくてもいい、許してもいいし許さなくてもいい。どうしたいの?」
「先生……」
謝りたい、とみんなぽつぽつと言い出す。
「分かったわ」電話をかける歌姫
「もしもし? 今、談話室だから。5秒で来て。5,4,3,……」
スマホを耳に当てながらパッと現れる直哉。
「そんな急ぎちゃうやろ」スマホを切る。
「『禪院先生』にみんなが言いたいことがあるんだって」
「謝る、言うんやったら俺は聞かんで」
腕を組み、壁に体を預け、生徒たちを睨む姿は、「先生」では無かった。
みな肩を揺らすが、果敢にも東堂が口火を切る。
「Mr.禪院」
「ん?」
「俺は、お前の力量を見誤っていたようだ。無礼な言動、申し訳なく思う」
怪訝な顔をする直哉。
「謝るんやったら聞かん、言うたやろ。聞いてへんかった?」
「『禪院先生』」
直哉は目を瞑り、大きく深呼吸をした。次に目を開けたときには、いつもの凪いだ先生の顔だった。
「私がみんなに家でやっているようなことをしないのは、手を抜いてるんとちゃうんです。”必要ない”からやらない。ただそれだけです」
「必要ない?」目を瞬かせる加茂。
「禪院家で統率を取る、ということが、どういうことか知っとる? アレは獣の群れや。食われる前に食う。力でねじ伏せ、恐怖で支配する、そういう場所」
真依がびくっとする。
「トップになりました、ちゃんちゃん、やないねん。みぃんな虎視眈々と俺の足元をすくおうと、邪魔したろうと、……なんなら死んでくれへんかな、って願っとるんや。やから、一瞬たりとも隙を見せたらあかん。常に、俺が、一番上やと、分からせたらなアカンのや」
禪院の顔に戻っていた直哉が、また息をつく。
「……みんなはちゃうやろ。俺が黒板向いて背中見せても、ちゃあんと椅子座って、お話聞いて。あれはあきまへん、これやってくれはる、言うたら、分かってくれはるやろ。獣の群れのボスは必要ないんよ。ここは学校で、皆は生徒で、私は先生なんやから」
皆言葉を失っていた。
「せやから。これは、私からのお願いです。……ここでは私を、『先生』でいさせてくれへん?」
困ったように直哉は笑った。
ここでは先生だったのに、禪院の彼を引っ張り出してきたのは、ほかならぬ自分たちなのだと。
「ごめんなさい」「すまなかった」「申し訳ない」誰からともなく謝った。
「ええよ別に。怒ってへん」
「アンタも謝りなさい。……やりすぎよ」
「せやね、みんな堪忍な」
直哉も歩み寄って、みんなの車座に加わった。
「……ちゅうか、真依ちゃんは里帰りすれば嫌でも味わえるやんか」家には『禪院先生』はおらんよ、と直哉
「いやよ、あんな家」
「加茂君も。御三家会合来てくれはったってええんよ?」
「遠慮する。せっかく免除になっているんだ」
2人の回答に直哉はけらけらと笑った。
「……先生には、帰らナイ、行かナイという選択肢はないんだナ」ぽつりとメカ丸が言う。
「あるわけないやろ」とこともなげに言い、「庵先生、私の分あります?」とお茶をねだった。
シン、となる一同に首を傾げる直哉。
「……何?」
「なんでもないわよ。お茶でいい?」と歌姫が苦笑して渡す。おおきに、と受け取り音もなく呑む姿は優雅そのものだ。
「……というか、アンタ洋服持ってたのね」
「そこ?」と直哉は笑う。
細身のパンツに書生服と同じカッターシャツ、カーディガンを羽織った姿だった。
「街中の案件やと、いつもの服やと悪目立ちすることがあるさかい、ある程度はもっとるんよ。さっき……やりすぎてその、血を浴びたから」着物を脱いできたのだと言う。東堂と加茂に謝り、必要なら弁償するから、という直哉。
「……初めて見た」と瞠目する真依
「今?」と更におかしそうに笑った。
「なんか、先生洋服だと若……え、いくつだっけ?」と西宮。
「え、何急に……えっと、26? ああ。七海一級術師や灰原一級術師と同い年やで」
「えっ!?」歌姫まで驚く
「庵先生が驚くのはおかしないですか?」
「いや、でもそっか。五条の1個下だもんね。そっか……」
五条先生やって十分若いやろ、そんな貫禄ないかなあ、と言うが多分、七海に貫禄がある過ぎる気がする。
「Mr.禪院がボスなら、当主は何なんだ?」東堂が急にぶち込む
周りがおい、東堂空気よめ、と窘めたがどこ吹く風だ。
「ん? ……ああ、さっきの話です? ええ、そうやなあ……」
腕を組み逡巡。「……園長?」
どう考えても動物園の園長だ。想像した真依は噴き出した。
「ぷっ……あははっ! 直毘人さんが、園長……!」
「やめてや、想像せんといて、今絶対脳内でツナギ着せたやろ」
直哉はギュッと目を細めるが、明らかに笑いを抑えている。
それは、直毘人の見た目を知っている加茂、歌姫にも波及した。
「……ぐっ、やめてください先生、真依笑うな」
「ふふっ……あははっ」
他の面々も、「?」を浮かべていたが、4人が楽しそうなのでつられて笑うのであった。
2年連続、交流会には来ない直哉。
真依たちが2年に上がってからの交流会については、襲撃は会ったものの、皆怪我人で済んでいる。呪物は持ち出されてしまい、真人は逃したが、花御は夏油が取りこんでる。
「アイツ呼べばよかったな」
「あん? 直哉か?」
「そ。そしたらもっと楽だったのに」と押し付ける気満々の五条。
「そういえば、教師になってから会ってないね」と夏油
え、となる京都高専の面々。
「ん? 何その反応」
「いえ、えっと……御三家の会合などは?」
「たまーーーーに行ってるけど、たまーーーにね」げえという顔を五条がする
「俺が会ったのは……恵連れてった時が最後か?」たまに連絡は来るが、と甚爾。
「ああ、あれか」伏黒がすごく嫌そうな顔をした。五条先生がやりすぎのやつ、と
「ええ、だって直哉が煽るんだもん」やれってことでしょ、あれは。熱湯風呂だよ熱湯風呂! と五条。
真依と加茂は顔を見合わせる。多分、恵を連れてった時に禪院先生が吹き飛ばされた、というあれだ。あれ、五条悟だったのか、と。
はた、と気づく。もしかして彼らは『禪院先生』を知らない? と。
「ふーん」真依がにやりと笑う。歌姫が真依、と窘めた
「だって歌姫先生。……ねえ?」
「いや、七海と灰原は会ってるわよ」
「あらあ、残念」
「何?」
五条がイラついたように言った。歌姫は目を瞬かせる。
「聞いてない? 七海か灰原から」
「何を? 直哉のこと? 一緒に案件やった、とかは知ってるけど」
あ、これ、隠されてるな、と思う歌姫。
あと、硝子と呑んだときには言ったので、多分硝子にも隠されている。
……3年も!?
「アンタら……人望無さ過ぎでしょ」
「ああ!? 何で人望の話になるんだよ」
「待て、私もかい?」
甚爾はどこ吹く風だ。お前もだよ、と歌姫は内心毒づいた。
「直哉さんって、あの直哉さんですよね?」
煽り散らして五条に吹き飛ばされたのを見た、恵が言う。
「おい真依、お前アイツに嫌がらせとかされてねえだろうな」
本気で心配している真希が言う。
「ぜーんぜん。私たち、ちゃんと慕ってるもの。『直哉先生』のこと」
シーンとなる面々。
私「たち」!? 直哉「先生」!? え、え、アイツが教師をやっているのは知っているが(五条が引っ張ってきたので)したわれている?
「先生!?」五条がたまらず声を上げた。
「いや、アンタがそれはおかしいでしょ」アンタが引っ張ってきたんでしょうが、禪院先生を、と歌姫。
「ぜ、禪院先生? 歌姫、直哉のこと禪院先生って呼んでるの?」
「そうだけど……」
「まあ無理もない。私も初めは信じられなかったからな。『禪院先生』のこと」と加茂。
あ、これわざとだ、と思う京都高。
「私は逆にあの『直哉先生』を怒らせた時が、信じられなかったな」
「元はといえば『Mr.禪院』が手を抜くからだ」
「東堂が真依ちゃんを焚き付けるからでしょ」
「でもでも普段はとっても優しいですよ、『直哉先生』」
「ああ。『禪院先生』がいて良かったと俺も思っていル」
東京高専は唖然とした。虎杖と釘崎は会ったことがないので「?」だが。
棘とパンダもあったことないが、真希から伝え聞いているので。
「真依」
真希は本当に心配そうに真依の名前を呼んだ。姉を心配させるのは本意ではないので真依はかぶりをふる。
「お姉ちゃん、本当に大丈夫なの」信じられないと思うけど、京都高専にいるのは『直哉先生』なのよ、と。
意味がわからない、という顔をする真希。
五条が名案、とばかりに手を叩いた。
「懇親会しよう!」
「は?」
某日。直哉は東京高専を訪れていた。
甚爾との案件に帯同してほしいとのことだ。
正直、甚爾一人で倒せない呪霊などそうそういないのだが、甚爾が保護監督扱いになっていることが影響している。
あと、帳を下ろせないし下ろす気がない、というのも。補助監督兼監視である。
五条も夏油も出払っているとのことで、甚爾の名前を出せば、直哉は嬉々としてやって来たのだった。
甚爾の戦いを間近で見られるなら金払ってでも補助監督まがいのことやったる、と言ってドン引きさせたのはいつだったか。
全く問題なく終わり、「ちゃんと報告せなアカンよ」と甚爾をなだめ、補助監督室へと向かう直哉。
「へーへー」
といつになく素直に従う甚爾。いつもならよろしく、と逃げてしまうのだが。
「?」を浮かべている間、階段を上がった先には
「ひっさしぶりー直哉!」
「は?」
ずらりと並ぶ東京高専のみんなと、京都高専のみんながいた。
「……え?」
直哉が甚爾を見る。甚爾は知らねえとばかりに五条を無言で指さした。
「やあ、久しいね直哉」と夏油。
「この間交流戦をやっただろう。その後の懇親会をしないか、ということになっていてね」
「……聞いてへんのやけど」
「言ってねーもん」
っていうか、乙骨もいる。お前は出てなかっただろう、交流戦に、と直哉は思う。
はあ、とため息をついて、目を瞬かせた。『先生』の表情だ。
「庵先生?」
歌姫を見る。
「ごめんなさい、禪院先生」と京都高専のみんなを見る。「うちの子たちが、どうしても先生を自慢したいんですって」
「……はい?」思ってもみなかった返答に、目をぱちぱちと瞬かせた。
「先生」と京都高専の生徒が呼ぶ。
「……わかった」呆れたように言うと、直哉の姿が消え、京都高専のみんなの前に現れた。東京高専と向かうように立つ。
懐から扇子を出して、ばっと広げる。
「お初にお目にかかります。京都高専の教師をやっとります、禪院、と申します。どうぞ、よろしゅう。……伏黒先生、五条先生、夏油先生。ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます」
「は?」
鳩に豆鉄砲喰らったような、甚爾、五条、夏油(と伏黒と真希)に、京都高専のみんなはとても満足したのであった。
なんだその呼び名、初めましてって何? からの
「『私』は先生方に初めてお会いしますさかいに」
「なるほど?」
と夏油は言った。
「確かに、教師の直哉とは初めて会うね」と。
立場によって自身の一人称を変えたり、話し方を変えたりするのは覚えがある。
というか、五条に「僕」を教えたのは夏油だ。
にしても極端だな、と思う。
「……お前、そういう話し方知ってたんだな」
甚爾が関心したように言う。敬語、インプットされてたんだ、直哉に、という風だ。
「いや……伏黒先生が言いはります?」
恵が深く頷いた。甚爾にノールックでゲンコツを食らっている。
「あ? 七海や灰原は」
「お会いしとりますよ」
「アイツら黙ってやがったな」あとで処す、と五条。
「……そんなんだからお話ししてもらえんのとちゃいます?」
「ああ?」
真希が信じられない、と言う顔で真依を見た。
大人たちが比較的すんなり受け止めているのも含めて、だ。
口火を切ったのは伏黒だった。
「今日は突っかかって来ないんですね」良いんですか、当主の座は、と。
「伏黒君」
「……伏黒君?」
加茂があ、それ私もやったなあ、と言う目で伏黒を見る。
「今は『京都高専教師の禪院』と、『東京高専生徒の伏黒君』やさかい、その話は置いといてくれはります?」というか、と言い、五条と甚爾を見て、伏黒を見た。
「……なりたいん? 当主」
「いえ」
「やんなあ」と呆れたように笑う。
「まあ、気が変わったら教えてや」と、ふっと笑うので伏黒は面喰らった。
思わず五条と甚爾を順に見上げるが、別に2人はびっくりしてなかった。これは想定内なんだ!? と内心びっくりする伏黒。
次期当主候補としての役割を覚悟ガン決まりで遂行しているだけ。甚爾が生きてるので。
「どういう風の吹き回しだ?」なら、寄越せよ私に、と真希
「それは現当主に言うてくれはります?」
「あのジジイが死んだあとはお前だろ」
うーん、と逡巡する直哉。はあ?となる真希。大体もっと煽り言葉が出てくると思ったのに、拍子抜けだ。
「……どうやろ、五条家のご当主様に聞いてみましょか?」
「ああ?」
「僕に投げんなよ」
「正確には、禪院家当主の遺言が第一、どうしてもまとまらへんかったら、五条家のご当主様と加茂家のご当主様を引っ張り出して来て証人になってもらって……ってなるやろか」
その際はよろしくお願いします、と五条と加茂を順番に見る直哉。
「真面目か」
「父を勝手に殺さないでもらいたい」
煽りとかじゃなくてガチ回答が飛んできて、「はあ……?」ってなる真希。面白そうに笑う真依。
五条と甚爾は絶対に何がなんでも当主になりたい、と直哉が思っていないことは知っている。ただ実力的にも統率的にも彼だろうし、伏黒を当主とかいうめんどくさいことさせたくないし禪院家入りさせたくないので、直哉がやってくれるのが1番なんだけどなーって思ってる。
「つーか、いつまでこの大人数で立ち話すんだよ」帰って良いか? とおおあくびの甚爾。
じゃあ、懇親会ってことでーと食堂に向かう面々。
みんな各々ちょっとグループになって話しながら歩き出す。真希が真依に詰め寄っていたり、東堂が虎杖にグイグイ行って引かれていたり。
甚爾と直哉はなんとなく後ろから歩いていた。
横並びではなく、甚爾の後ろを歩く直哉。
瞬間、甚爾の姿が消え、直哉の頭を押さえて引き倒した。
音で振り向くみんな。
「……っとぉ、危ねえ」
とニヤリと笑った甚爾を、ギッと左目で睨む直哉。その左目がギラリと輝くのを見て、
「あ、やべ」と甚爾がわずかに焦った。
「はい、おしまいー」と五条がべしんっと直哉に目隠しを押し当てた。
みんなは先頭をふりかえる。我先にと五条は先頭を歩いていたからだ。
グッと悔しそうに噛み締める直哉。
甚爾がため息をついた。
「んな、あからさまに消したらわかんだろ」
「甚爾くんだけやで、それ」
「そもそも、俺と一緒にいてお前が気配消そうとすんのがおかしいんだよ」
どんな信頼だよ、と思う伏黒。
カチャ、と音がして、伏黒はその音を振り返った。乙骨の刀の音だった。
ふと、夏油の方を見ると、臨戦態勢で今まさに呪霊を出さんとするところだった。
……あれ? そんなだったか?
と思うが、甚爾も焦った顔をしたし、五条もアイマスクをとっている(直哉の目を塞ぐためかもだが)。
「お前、ふざけんなよ」
「ふざけてへん」
「本気だったなら余計ダメだよ」
呆れたように笑う五条。顔が引きつっている。
「いい加減離してや、悟くん。なんも見えへん」
「なんも見えへんくしてんだよ、お前がとんでもねえことしようとするから」
この場から逃げたいだけでそんなことしてんじゃねえよ、と直哉の頭を叩く五条。
「コイツ何しようとしたんだ?」
「あ? 分かってなかったんだ」真っ先に引き倒したから分かってやってんのかと、と五条。
はあ、とため息をつく直哉。
「もうせえへん」と左手を挙げる。
五条と甚爾がどく。直哉が地面に座るように身を起こした。
「せえへんよ。天与の暴君と人類最強に抑え込まれて? 特級2人が臨戦態勢。随分名誉なことやなあ。俺は特級呪詛師か? お望み通りなったろかな。なあ、甚爾くん。俺と組んで闇夜に溶けようや。報酬は期待してくれてええよ?」髪、黒く戻そかなあ、と直哉。
「ほお」
面白しれえじゃねえか、という反応をする甚爾。
「馬鹿馬鹿! 甚爾、乗り気になるな! お前らが組んだらシャレにならないだろ!」
甚爾と直哉の頭を叩く五条。
特級がと言われて、はっとなって、刀をしまう乙骨と臨戦態勢をとく夏油。
みんなはそれを見て、え、となった。構えていたんだ、と。
五条がみんなを見渡して、ふっ、と笑った。
「傑は言わずもがな、憂太もさすが。東堂と棘もまあ、合格。あとは」首を切るように親指を動かした。
「しまへん。生徒相手に」勝手に試験にしないでくれはります? と直哉。
え、え、と困惑する面々。
「まずは場所移動しようか?」
がっちり甚爾と五条にホールドされて食堂まで連れて来られた直哉。ぶすくれている。
各々適当な場所に座る。
「で、何しようとしてたんだ、コイツ」と真希。
「ああ、それは」
「五条先生。……術式の開示を勝手にすんのは、マナー違反とちゃいますか?」
「ええ、じゃあ自分で説明しなよ」
「……逃げようとしたら甚爾くんに捕まったから、……1秒に閉じこめたろかと」
「ふーん、誰を? というか、どこまで」
「どこまで」
と繰り返し、甚爾を見て、それから食堂を見渡した。五条が手で直哉の左目を隠すようにして視界を遮る。
「お前ふざけんなよマジで」
「やってへんのやからええやん」
「僕が止めたの!」止めてなかったらやってたでしょ! と五条が怒る。
「……お前、『先生』になったんじゃないのか」
「あんときの俺は『禪院家』の俺や」
「『禪院直哉』でもやるなよ」
「ごめん先生たち、全然わかんない」
と虎杖が素直に手をあげる。
甚爾と直哉と五条が目を瞬かせる。五条が直哉越しに甚爾を見た。
「術式反転?」
「正解」
直哉が嫌そうな顔をする。
「なるほどわからん、パンダだからか?」
「しゃけ」
五条が直哉を見るので、直哉はため息をついた。
「……投射呪法は、1秒の動きを画角内で作ってその動きをトレースする、みたいな感じなんやけど」
虎杖、釘崎あたりはすでに「?」みたいな感じだ。
「それは順転の話。反転はその逆」
は? と伏黒が声を上げる。はい、伏黒くんと五条が指名した。
「……もしかして、時間が戻せる、って言ってますか?」
「正解⭐︎」
「1秒だけ、な」
たった1秒、されど1秒。そんなこと可能なのか? とみんながスペースキャットを背後に飼う。
東堂がすっと手をあげる。一応この形式に乗ってくれるらしい。
「はい、東堂」五条が指名する。
「時間だけの話をすると、術式範疇内で順転だと1秒進み、反転だと1秒戻る……という理解まではあっているか?」
「あってますよ」先生モードの直哉。
「たとえば、順転、反転を繰り返したとして、いつどこでその1秒は確定するんだ?」
「術者が術式の行使を終了するか、順転を2連続で回すまで」まあ、邪魔が入ったらわからんけど、と直哉。
つまり、術者次第と言うことで。
「もう1つ。……俺は、1度殺されているな?」
「殺してへん! 流石に殺してはおらんよ!?」
直哉が慌てて立ち上がる。
「刺したんだな」
「……」
「『先生』」普段は先生と呼ばない東堂が言う。
「あー……、まあ、うん、はい、そうです……」
力なく座り込む直哉。
はあ? と歌姫が立ち上がり、直哉の後ろまで行き、パカっと頭を叩いた。
「アンタ、やり過ぎたってそういうこと!? それを、堪忍なー、で済まそうとしてたってこと?」
「……そうどす」
コイツ……と拳を握る歌姫。
「え、何? コイツ何したの?」と五条
「私たちの可愛い教え子を全員気絶させた……と思ってたけど、さっきの話だと、東堂と加茂は刺してるってこと?」
京都高専のみんなからひえ、と悲鳴が上がり、加茂は首を抑えた。
ねえ」
「あれ、甚爾さんもそう
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