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以下メモ
直哉が女性として逆行転生する話。
本人の性格はほとんど変わらないが、周りが勝手に勘違いしたりして過保護になっていく。
甚爾生存、夏油生存離反無し、灰原生存、直哉東京高専卒IF。
5〜6歳頃。
術式発現時に、前世の直哉としての記憶が蘇る。
と同時に、今世の自分が女性であることにうげってなる直哉。
直哉……?
「あれ、俺の名前『直哉』やんな……?」
名前も直哉だし、来ている服も男児のもの(着物だが)。髪の毛もさっぱりと短く、まるで男児のようだ。
『俺』という一人称も、前世の記憶が蘇る前から使っているものだ。
周囲の反応も、前世の自分がこの歳の頃と大差が無いような。
……はい?
直毘人の元を訪れて慌てて確認する。
最初は冷たくあしらわれたが、しつこく食い下がるとやがて面倒くさそうに教えてくれた。
男児が生まれると信じきっていて名前を考えていなかったからそのまま『直哉』と名付けたこと。
服ももちろん男児のものしか用意がなく、そのままの流れで着せていること。
そのせいか周りが勘違いしたので、面倒だからそのままにしておいたこと。
「まあでも相伝であることが分かったし、このままお前には男児でいてもらおうか?」
女にしておくのはもったいないな、と冷たい瞳で言われる。
記憶の中よりだいぶ冷めた印象の父に、そりゃあ禪院家のボスだもんな、と怒るでもなくストンと納得する直哉。
女だろうが相伝だし強いので、普通に強さでのし上がっていく直哉。
女に負けるとかダサ、と余計に見下すし、女相手にも、自分が女だけど身一つでやっていけてるので、努力もせんと文句ばっか垂れててだるい、みたいな態度。
甚爾には相変わらず懐いているが、女児であることはすぐにバレた。
甚爾は末息子が末娘とは知らなかったな、と名前を聞くと『直哉』と答える。
「……テメエ、女じゃねえのか?」
「あ、やっぱ甚爾君には分かるんや」
と、自身にあまり興味がなさそうな父から聞いた話をする。
やっぱこの家クソだな、と思うし、虐げられる存在である側のコイツはそれでも甚爾を強いと言うし負ける気などないことに少しばかり心地の良い気持ちがする甚爾。
直哉10歳くらい?
前世同様、甚爾は大立ち回りして出奔する。
相伝術式があるとはいえ、その術式自体が強いと言うよりは、ステゴロでの戦闘となるため、やっぱり男の身体よりさらに筋肉のつきづらい女の体だと、昔の自分と比べても弱い、と感じる直哉。
比較対象が前世の自分であるため性差はどうしても埋めることはできず、自分は弱いという自己否定や自己肯定感の低さ、もしくは高い向上心の現れという風に捉えられることが多い。
女性への発言は自分にブーメランとなることがわかってあまり言わないようになっている。
ぺっぴんさんやね、は言う。無意識面食いだから。
自身の鍛錬に身を置いているため、真希・真依をいじめていない。が、別に助けてもいない。
直哉12歳くらい?
関東での任務の際、嫌がらせで置いて行かれる。
ご自慢の術式で帰ってこいってことなんだろう、と思うが迷ってしまう。
そう思っているうちに、みるみる天候が崩れ土砂降りに。
びっしょびしょだしケータイなども持ってないし、どうしようか、と思っていると声をかけられる。
「あなた、迷子? 大丈夫?」
自分より10歳くらい年上の女性。
なぜか、既視感があるような……。
固辞するが、向こうも頑固で、直哉のお腹が鳴ったのを皮切りに、「お夕飯も食べてって!!!!」と押し切られる。
着いていくとその家には甚爾がいた。
めちゃくちゃびっくりして固まる直哉。
「……甚爾君?」
「あ?」
嫁が連れて来た知らねえガキが名前を呼ぶので、訝し気にみる甚爾。
あれ、これ、禪院家が嫌いで出て行った甚爾の前に現れた禪院のクソガキでは? と客観視し、帰ろうとする直哉。
「……直哉か?」
「へ?」
覚えてるとは、と思って素っ頓狂な返事をしてしまうが、よく考えたら自分は女なので、名前覚えていてもおかしくないのか、と思う直哉。
「あれ!? 甚爾君の知り合いなの!?」
バスタオルを手に戻ってきた恵ママ。無遠慮にガシガシと直哉を拭く。
「痛っ……」
傷に触り思わず小さく声を上げる直哉。
「え? ご、ごめん! 怪我してるのね」
どうしよう、お風呂入れるかしら? とかパニクってる大人を見て、冷静になった直哉。
「禪院直哉言います。甚爾君の従兄弟です」
「まあ、そうだったのね! 偶然! よろしくね!」
握手されブンブンと手を振られる。水が飛び、「そうだ! お風呂!」という恵ママ。
「どうする? 甚爾君、一緒に入る? そういう歳じゃないかな?」
ピシッと止まる甚爾と直哉。
「?」を浮かべる恵ママ。
「……そいつは女だ」
「えっ!?」
とりあえずお風呂に突っ込まれて、恵ママの服を借りた直哉。傷の手当を受ける。
「ごめんね、お着物洗濯したことなくて」
「俺も無いし、乾かしてくれたらええよ」
「えっと、直哉、ちゃん? ……お家で何かあった?」
直哉が甚爾を見る。甚爾は、はなからこっちは見ちゃいないが、多分いくらか話してるんだろう、と思う直哉。
「別に、何も無いですよ」
「家(いえ)のモンは?」まさか、1人じゃねえだろ、と甚爾が直哉を見ずに言う。
まず、甚爾が直哉を気遣うようなことを言ったことに対して、衝撃を受ける直哉。
中々なんの反応もしない直哉に痺れを切らして、甚爾は直哉を見た。
「……なんだ、その顔」
「えと、もしかして、心配してくれてはる?」
甚爾君も、お嫁さんも、と直哉。
「心配するに決まってるじゃない」
ちょっと叱るように言う恵ママ。
「一緒に来てた奴は先帰ったで。いつものことやけど、今日は道に迷うてしもうて」雨も降ってくるし、ホンマ災難やわ、とため息をついた直哉。
「え……」絶句する恵ママ。
「つうか、お前まだそんな成りしてんのかよ」男物だろ、着物と言う甚爾。
「パ……ご当主様が男でいろって」でも多分、そろそろ難しいな。難しなったら、どうなるんやろ、俺、と言う直哉。
恵ママがびっくりして甚爾を見る。
「直哉、って名前もこの成りもそういうことだ」この甚爾の一言で伝わるくらいの内容は元々話してるんだな、と他人事みたいに思う直哉。
ぐーっとお腹の音が鳴る。
「ご飯にしよっか」
恵ママのご飯は美味しくて、疲れていたのか食べたら寝てしまった直哉。
翌日、帰ると言うとすごく心配されるが、(甚爾君はもう会いたないやろ)と思う直哉。
恵ママは近くに寄ったら来てね、必ず! 絶対! と推してくる。ちょっとドン引きながら帰る直哉。
また関東の仕事で置いて行かれる直哉。
はあ、またかと慣れた手つきで投射呪法を回そうとし。
「何してんだお前」
甚爾に首根っこを捕まえられてフリーズした。
「と、甚爾君!?」え、なんで、と思うがそのまま抱えられる。
「連れてこいってうるせえんだよ、アイツが」と面倒くさそうだ。そもそもなんで分かったんだろう、天与呪縛か? と思う直哉。
実際は、恵ママにおかしい、虐待だ、あの子を助けられないの? と詰められて、まあおかしいなと思っていた甚爾。慕ってくれた従姉妹が、あまり良く無い環境にいるな、とは思っており、時雨に頼んで案件情報を流してもらっていた。
あの家から連れ去るのは無理でも、たまの息抜きくらいさせてやるか、と思うくらいには気にかけていた。
そんなことを繰り返しているうちに、恵が生まれる。
恵の面倒を見たり、家事を手伝ったり(これは家でどっちつかずの扱いのため、一応女中から手解きを受けてはいた)を嫁とする姿を見て、(10歳しか離れてないけど)娘がいたらこんな感じなのかな、って思っている甚爾。
そういえば、と思い出す直哉。
(この人、亡くなってたんとちゃうかな)
前世の記憶で恵の母は亡くなっていたはず、と思って注意深く観察するようになる。
元々強さを見極める能力値が高いので、機微を感じとる能力も高い。
少し、疲れているような?
「義姉さん」
「何?」
「病院行かはったら?」
「え?」
目を瞬かせる恵ママ。
「疲れてはるように見えたさかい」
「そりゃ疲れるよ、産後だし育児してるし」と眉を下げて笑う恵ママ。
「……悪いことは言わんから」と食い下がる直哉。
甚爾が死んでしまった経緯は深く知らないが、恵ママのことを一等愛しているのはとてもよく分かった。この人がいなくならなければ、甚爾も死なないのでは? という一縷の望みをかけて。
病院に行き、治療が必要な病気であることがわかる。闘病生活にはなるものの、死なずに済む恵ママ。
「直哉ちゃんに感謝しないとね」
その後、甚爾と会っていたことが家でバレてしまい、きつい折檻と監視を受け、会えなくなった(直哉本人もまあ、迷惑かけたいわけちゃうしな、と納得している)。
直哉14〜5歳、真希・真依4〜5歳。
直哉が高専に行くよりちょっと前。
直哉が離れで女中用の場所を清掃中にして湯浴みをしている(父からは隠すように言われているため一応)と、真希と真依が入ってきて(やめようよという真依を振り切って、訓練でめちゃくちゃ転がされて普通に風呂に入りたい真希が突入した)、空気が固まる。
「お前、女だったのか」
「別に俺、隠してへんのやけど、そんな分からんかな?」
直哉は真希を弱いとかなんだか煽るが、真希は、女の身一つでのし上がって行った従姉妹を尊敬するし、努力が足らない弱いという言葉もぐうの音も出ないと思う。
なぜか恒例となって、何度か一緒にお風呂に入ることに。
任務で受けた傷とかものともしていない従姉妹に、彼女を支えたい、彼女も含めて居場所を作りたいと密かに思う真希。
「お抱えの反転術者は?」
「こんなんで呼んでもらえると思う?」
おずおずと真依が手当を申し出て、まあしてもらえる分には、と思って手当を受けるようになる直哉。
直哉〜15歳頃。
直哉本人が積極的に隠しているわけではないし、第二次性徴とともに、周囲に性別は徐々にバレていくこととなる。
コテンパンにのした相手からも、性的からかいを受けるようになるし、兄さん方からは本当にあからさまな性的接触があった。
実力は十分であるものの、女である、ただ1点だけで自身より上へ行かないという安心感からなのか、周囲の人間の下卑た目線や行動は変わらない。
直哉は、どんどん稽古での態度が厳しく苛烈になっていって、蹴飛ばして転がし、悪循環を生んでいた。
もう少し女の子らしく大人しくできないのか、と甚壱や蘭太に言われ、ブチギレてコテンパンに転がした。
直哉に向かってやられるようになり、真希・真依への仕打ちは必然的に少なくなっている。
真希・真依は守ってもらっているという思いを持つようになり、直哉に更に懐くようになる。
女中へも強く当たるのは変わらないが、この苛烈さを持ってしないとこの男社会で上へ上り詰めることはできないし、それをこの子どもに背負わせてしまっているのだ、という思いを持つ女中が多く、『お嬢様』の甘えは甘んじて受けよう、という気概を見せる。
女中の心中を聞いてしまい、そんなつもりはなく、怖……と思った直哉は少し距離を保つようになる。
距離を保っているだけだが、優しくなったと思われたり甘えてくれなくなったと思われて、更に女中からの尊敬などを受けるようになる。
前世のアドバンテージもあり、実力だけであれば禪院家随一であるが、炳の筆頭ではないし、次期当主候補でもない。
性別が足を引っ張り、今世は無理かな、と思ってはいる。
直哉14歳頃。
正直今世は、父親が稽古を付けてくれるわけではないし、投射呪法の訓練自体は前の記憶を元に自分でやればいっか、と思って高専に行くことを決断する。
それまで特になかった花嫁修行(茶道とか花道とか)をやれと命じられ、ブチギレて持ち前の努力を厭わない性格と行動力から怒涛のスピードで習得し、この家のどの女よりもできるようになったんやからええよな? って言って京都じゃなくて東京高専へ入る。
(なんやかんや役に立ってんのがムカつくな)
寮に入って自分のことは自分でやることになり、普段着は着物なので他の人を頼ることもできず、花嫁修行()が役立っているのがムカつく直哉。
高専入学。クラスメイトに挨拶する。
「禪院直哉言います。どうぞよろしゅう」
「七海建人です。よろしくお願いします」
「灰原雄! よろしくね!」
と挨拶してオリエンテーリングが終わり、男子寮と女子寮の境で。
「ほな、また明日」
「「え」」
固まる七海と灰原。「?」を浮かべる直哉。
「えっと、ごめん本当にごめんなんだけど……直哉は女の子なの?」
「そうやけど」
「……大変申し訳ありません」
「ええ、何!? 何で謝られてるん俺」
大混乱の3人。
「あの、まだお時間よければ少しお話ししませんか」
と七海が自販機前のベンチを指す。
「……ちゅうことで、直哉って名前で、この格好で。よう間違われるし、間違われるようなことしとんのはこっちやし。七海君と灰原君は気にせんでええよ」
「気にしますよ。その、あまり人のお家のことを言うのはアレですが……」
「うん、ちょっと……大丈夫?」
一般家庭出身の2人が最大限配慮した言葉で濁すので思わず笑ってしまう直哉。
「ああ、禪院家が腐った奴らしかおらんドブカスみたいな家って話?」
「そこまでは言っていませんが」
と言いながら苦虫を噛み潰したような顔をする七海。
「まあでも、同情も配慮もいらん。むしろ君らの方が大丈夫なん? 術師の基礎の基礎も知らんような雑魚やし。せいぜい死なんように気張りや」
「うん、よろしくね!」
「ぜひ、ご指導お願いします」
「教えるなんて言うてへんで」
「……わお、イケメンがいるー」
女子寮で棒読みの声がかけられた。硝子だ。
「未成年で煙草呑んではるべっぴんさんに言われても」
「はは、ウケる」
何がウケるんだ、と訝しげな顔をする直哉。
一応タバコを消してくれる硝子。
「1年の禪院直哉言います、どうぞよろしゅう」
「直哉?」
「まあ、色々あって」御三家の、と言うと、ああ、と硝子が言う。五条がいるから何となく察してくれたんだろう、と直哉は思う。
ああ、そうだ。と硝子は言う。
「2年の家入硝子。よろしくね」
2年との合同授業。
「禪院直哉です」
「禪院? いたっけこんなやつ」
と、まじまじと五条に睨まれた。
雑魚過ぎて気付かなかったかな、と言いながらサングラスをずらし、「あ?」と声を上げた。
今世では息子じゃないし御三家の会合に連れて行かれることもなく、五条との面識もない。
「お前……」と目を瞬かせる五条。
夏油が、雑魚だ何だと言い出した五条を嗜めようとするが、五条の様子がおかしいので、止まる。
やっぱり術式分かるんだなあ、と思う直哉。
「会ったことない、よな? 何でだ? お前、『それ』なら、直毘人の隣座っててもおかしくねえじゃん」
「会ったことはあらへんけど……元服の儀は参列しとったよ?」
「ああ?」知らねえよ、と五条。
「禪院直哉。……禪院家当主直毘人の『末娘』です。どうぞ、よろしゅう」
「末娘……女ぁ!?」
めっちゃくちゃ笑ってる硝子。
直哉の話を聞いて、ドン引きの夏油。
「そ、れは……その、直哉はそれでいいのかい?」
「良いも何もあらへん。禪院家で生きるっちゅうんはそういうことや」
七海も灰原も改めてドン引き。
五条もうげ、って顔をしている。
「お前の術式、相伝じゃん。俺と比べたら全然弱えけど、直毘人と比べても同じくらいじゃね? マジで女ってだけでその扱いなんだ?」
「あの家で『女』として真っ当に身を立てんなら、こんなとこで油売っとらんと、はよどっかの旧家から婿取って、相伝の男児を産むことになるやろね。優秀な胎になる気のない俺は、劣等生っちゅうこと」やから高専行きも許されたんやけど、と直哉。
「……何時代?」
「平成やで、硝子ちゃん」
星漿体の任務。
甚爾が関わって来たらここで死んでしまうことを思い出していて、でも恵ママが生きてるから大丈夫かな、とか思っていたら依頼受けててびっくりする直哉。
勝手に単独行動を取って、五条と甚爾の戦いの場所に行く。
まあ最悪助けられなかったとしても、正直、ちょっと最強同士の戦いが見たいな、が勝ってしまったので。
甚爾から直哉の名前が出る。……俺?
慌てて割って入る。
五条がぶちかまそうとしてたところだったので、直哉に気付いて照準をずらすし甚爾も庇おうとするが間に合わず、直哉が負傷。
冷静になった五条が駆け寄ろうとするが、甚爾が呪具を取り出して直哉を刺す。
五条が甚爾をぶち殺そうと殺気立つが、呪力の流れがおかしいことに気付く。
「……反転術式?」
「ああ」
ブッ刺した相手に反転術式と同等の呪力の流れが起こるもの、らしい。
呪霊相手だったら攻撃にもなる代物。
「あのガキにも使ってやれ」と五条に投げてよこす甚爾。
「は? 俺が今、お前を殺さない理由にならねえだろ」
「ガキが死んでも知らねえぞ」
チッ、と舌打ちして駆けて行く五条。
天内のところに行き、呪具を使って蘇生。
夏油や黒井が無事なことも確認した。
呪具を使って回復させて、甚爾と直哉の元に戻る。
直哉は身体を起こして、不思議そうにパチパチと目を瞬かせた。
「え、死んだん?」
「死んでねえよ」と甚爾に軽く頭を叩かれる。
甚爾は直哉と没交渉になった後、高専に入ったことを知り、高専に関わる任務としてこれを受けたとのこと。
(は? 俺のせいっちゅうこと???)
「家だろ。何があった」
「え、ああ……甚爾君と会ってたことバレて、まあ、色々」
「……お前、禪院じゃなくて伏黒になる気はねえか」
「は?」
その場にいる全員の頭に「?」が浮かんだ。
「まっ……待って待って甚爾君。え? 義姉さん生きとる、よね? 別れてへんよね?」
「ああ? 生きてるに決まってんだろ、気色の悪いこと言ってんじゃねえ。養子だ養子」とまた強めに頭を叩かれる。
「ええ!? それこそ義姉さんの意思無視したらあかんよ!?」
「してねえよ、アイツが言い出したんだよ」
直哉ちゃんは命の恩人だから、今度は私が助けるの、と言っているらしい。
「いや無茶苦茶やん。無理やろ、禪院家当主の実子を養子??? 無理やろし、そんなつもりはあらへんよ」
大混乱の直哉。
「お取り込み中のところ悪いが、その男は拘束させてもらうよ」と夏油。
天内も黒井も死んでないが、一応やったことがやったことなので、高専身柄預かりになる甚爾。
甚爾の留守中、伏黒家に行かせてくれ、と言う直哉。
五条と夏油が反発したが、ゴリ押してなんとか行けることになる。
大きくなった恵と、知らないうちに昔の女から養育権をとった津美紀、恵ママに会う。
恵ママには泣かれてしまうし、お母さんが泣くので子供2人も泣く。
かいつまんで伏せて説明。恵ママには一応もうちょっと深く説明した。
甚爾は高専身柄預かりで高専の案件を受けることになった。
時雨も報告対象に(実質窓)。
保護監督官が付いていれば帰宅していいことになったので、たまに直哉がついて行って伏黒家に帰っている。
産土任務。七海と灰原で行くことになる。
禪院家側の案件を受けていた直哉と現場がバッティング。直哉は直哉でギリ特級クラスの呪霊を相手取っており、そちらを単独で倒した後、七海と灰原の元へ駆け付ける。
灰原は意識を失っており、七海も負傷。
直哉と七海で灰原を庇いながら倒すが、七海と直哉は右目を負傷する。
高専へ帰還し、硝子の治療を受けるが、七海と直哉の右目は見えなくなった。
灰原も顔に傷を負う。
灰原と七海に謝られるが、
「いつまで辛気臭い顔しとるん。ただでさえ取り柄のお顔もぐずぐずなってもうたのに。俺の実力不足に口出ししたいんやったら、せめて一級くらいになってから言いや」と直哉に煽られる。
1、2年合同の訓練があり、みんな大怪我したしリハビリを兼ねて、となる。
術式を軽く行使することになり、直哉は全く有効に使えなくなっていることに気付く。
(ああ、やっぱり)
え、いう反応をみんなにされる。
「また鍛え直しかあ」と事もなげに言う直哉。
「もしかして、目か?」と五条。
「……まあ、そやね」と直哉。
「投射呪法は画角内で動きを作る。遠近感含め、かなりシビアなんよね」
「……あの」
「七海君、灰原君。君らどう言う了見で謝ろとしとるんやろ。君らみたな雑魚、居ても居なくても結果は変わらんかったわ」
甚爾の身柄は拘束中のため、夏油に稽古を頼む直哉。
「……私でいいのかい?」
「悟君は真面目に相手してくれへん。……七海君と灰原君は、辛気臭い顔しかせえへん」
クスクスと笑う夏油。
「彼らは優しいからね。気にしているんだろう」
「顔に傷入ったり目見えなくなったんは2人やっておんなしなんにな」
「あー……」
女の子だから、と言う言葉を口に出そうとして、多分直哉はそれを嫌がるだろう、と思う夏油。
直哉にそのつもりは全くないが、精神的に来ていた夏油にとって、この稽古は息抜きになる。
目の怪我で高専の任務を受けられなくなり、禪院家へ帰ることが多くなった直哉。
断れねえのかよ、と五条あたりは言うが、直哉は炳としての役目を果たさなあかんと言って帰っていく。
「へい、と言うのは?」
「禪院家内の組織で準一級相当以上の術師で構成される集団」
「それじゃ、直哉が請け負ってる案件も」
「ま、一級以上の案件になるだろうな」
「ええ!? 何のために高専の案件休んでると思ってるんでしょうか?」
「あの家にそういうのはねえよ」
帰ってきた直哉と偶然会う硝子。
怪我をしているのに何の声もかけなかったことを怒る。
「直哉。怪我してんなら早く言って」
「いや、これは……」
視線を彷徨わせる直哉。いつもなら歯に衣着せぬ発言だし、ちょっとやそっとの怪我でも早よ治してや、硝子ちゃんそれしかできひんのやから、みたいな態度なので、おかしいなと思う。
「別に何でもあらへん」
疲れたし寝るわ、と去っていこうとするので、直哉の腕をとる。
「痛っ……」
「え?」
ごめん、だけどそんなに強く握ってないよ、と硝子。
押し問答をしているところに夏油がやってくる。怪我をしているところを咎めて、硝子が運んで、と言うので、俵抱きにして医務室へ。
観念して治療を受ける直哉。
直哉はベッドに腰掛けて、夏油はカーテンの向こう側の椅子に座っている。
衣服を脱ぐのに躊躇いを見せる直哉を見て、何となく察してしまう硝子。
「……ごめん。でも傷見ないと治療できないから」
右目の損傷で弱くなったのをいいことに、今までのやり返しだとでも言うように暴力を受けた直哉。
さらに、兄さん方には無体を敷かれた。
27歳青年の精神としては、(若い子に見せられへんな、こんなの)と硝子の精神の方を心配している。
その跡を見咎めて、思わず舌打ちをする硝子。
「傑に運ばせて悪かった」
「へ? ああ、ええよ別に。男やからどうとかないし」
カーテンの向こう側の声が自分の名前を呼び、「?」となる夏油。
「これ、いつもなの?」
「いや、俺が弱なったから今や、って思うたんとちゃう?」
「誰」
「聞いてどうするん? ……兄さん方や」
「ごめん」
「なんで硝子ちゃんが謝んの」
「……硝子、直哉。大丈夫かい?」
外した方がいい? とカーテンの向こう側から声をかける夏油。
「別にどっちでもええよ」
治療が終わってカーテンが開く。
誰も話さない。直哉が口を開いた。
「傑君。次の案件、連れてってくれへん?」
へら、っと軽薄そうな笑みで言う。
「何があったの」
「いや、何もあらへんよ。足手纏いになるのは分かってんねん。けど」
けど、禪院家に帰らなあかんくなるから。と、後を続けると何もあらへんくないなあ、と思って口をつぐむ直哉。
硝子が顔を顰める。
「何かあったんだね。……それは、私には言いにくいことで、硝子にはまだ言えること、なんだね」
「硝子ちゃんにだって言うつもりなかったんやけど」
どこまでかは知らんけど察されているなあ、と思う直哉。
例の村の案件、甚爾と直哉と夏油で行くことになる。
オーバースペックだが、甚爾の保護監督という名目でついて行くことになる直哉。
甚爾は至極面倒そうに後ろを歩いているだけだった。座敷牢に幽閉されたミミナナを見て、夏油の瞳孔がぎゅっと締まる。
瞬間、甚爾が座敷牢をぶち壊した。
直哉はいない。
「……え?」
甚爾も駆け出すので、慌てて夏油も追いかけると、村中の人たちをボコしていて、慌てて止める。
「ちょっと、2人とも、何やってるの?」
直哉はそもそも保護監督官でしょ、と夏油。
ぶす、と喧嘩を止められたみたいな反応する甚爾と直哉。
あの座敷牢が禪院家にあるもの似ていて、閉じ込められた時のことを思い出し、ぶち切れたと。
「……え?」
「あ? お前もあんのかよ」
「まさにこないだ帰った時にぶち込まれたで」
「は?」
やっぱお前、伏黒になれよ、という甚爾。
とにかくミミナナを連れて帰ろう、という夏油。
なにすかしてるんだよ、お前も殴れと言われたので、ミミナナの悪口を言っていた村人を殴る夏油。
帰って来た3人は夜蛾の前で正座させられるが、事情が事情のため、とりあえず処遇は夜蛾預かりになった。ミミナナはパンダと一緒に夜蛾に生育されることになる。
このやりとりを経て、灰原の励ましもあり、夏油は呪術師向けの児童福祉施設を設立することとなる。一般家庭に産まれた呪術師の受け入れ先が主だが、いずれは呪術師家系で望まぬ未来を歩まされる人たちも救えたら、と思っている(五条や直哉など。2人がそれを望んでいるか否かはわからないけれど)。
直哉は卒業し、能力も戻して禪院家に戻ってくる。
真希が15歳の頃、啖呵をきって当主になるという。
直毘人は笑いそれを了承した。真希が去っていこうとするのを押し止める。
「まあ待て。おい、アイツを呼べ」
と呼ばれて来たのは直哉だった。
「は?」
「直哉。お前を炳の筆頭に任命し、次期当主候補とする」
直哉も流石にびっくりするが、恭しく頭を下げる。
「謹んでお受けいたします」
女の真希を認めるのであれば、その前に実力も上である直哉を認めなければ、という一応の直毘人の筋。
だが、真希は自分の言ったことで、従姉妹をこの家に縛り付けてしまった、と思い、私たちと従姉妹の居場所を作るんだ、との思いを強くする。
五条は教師になり、甚爾も保護監督付きで教師となる(五条が無理やりそうした)。
灰原は高専付きの呪術師。七海も脱サラして戻って来た。
直哉は急に任命された炳の筆頭と次期当主候補の仕事で忙しくしていた。
真希から直哉が炳の筆頭で次期当主候補であることを告げられびっくりする五条。
「は? 僕聞いてないんだけど?」
高専の仕事を振ると直哉がやってくる。
「ああ、言うてないやろね」御三家の会合やって出てへんし、恵君にだって会うてへん、と直哉。
「そうだよ、この間恵連れてったときも居なかったよね?」
「会わせてもらえるわけあらへんやろ」
「……炳の筆頭だし次期当主候補なんだよね?」
「せやで。仕事だけは一丁前にぎょうさんあるわ」と直哉が辟易した顔で言った。
新人補助監督に「以前、案件で一緒になった方がいて」と車に忘れ物をしたから、と話をされる釘崎。名前はわからないが、金髪で隻眼のイケメンで、確か一級術師だと言う。ああ、七海さんだ、と思う釘崎。
「……ピアス?」
してたっけ、七海さん。と想像し、いや、しててもおかしくないな絶対似合う、クソが(?)と、謎に似合うことにムカつきながら、七海を探す。
中庭で手合わせをしている音が。
(おお、すげえ迫力)
七海と灰原が組み手をしていた。2人とも穏やかで大人な性格だが、さすがは一級術師、と思う釘崎。声をかける。
「七海さん、灰原さん」
「こんにちは、釘崎さん」
「こんにちは!」
新人補助監督と仕事をしたことが、と聞きあるというので、忘れものしませんでしたか? と渡してくれって言われていたピアスを渡す。
顔を見合わせる七海と灰原。
「私はピアスをしませんが」
「え?」
キョロキョロと左右の耳をみたが、確かに穴1つ空いていない。
「その人は、七海だって?」
「あ、いえ。名前は覚えていなかったみたいで、えっと、金髪で隻眼のイケメンで、一級術師だって」
2人揃って首を傾げた後、「ああ」と揃って声を上げる七海と灰原。
「あの人、まだ『そう』思われているんですね」
「まあ、かっこいいもんね!」もちろん、七海もかっこいいよ! という灰原と、うるさいですよ灰原、と言う七海。
え、金髪隻眼のイケメン一級術師ってそんなポンポンいるもんじゃなくない??? と思う釘崎。
一方、お互い任務終わりでたまたま高専内で会った甚爾と直哉。甚爾が自販機で当たり前のように飲み物を要求し、軽いため息だけで直哉が奢る。
甚爾が家のことを聞く。
「……甚爾君はさ、甚壱君と蘭太君、どっちがええと思う?」
「は? つか蘭太って誰だ」
「あ、知らんのか。俺とそないに歳変わらん炳の奴やで」一応、恵君も名前上がっとったけど、禪院家って法律知らんのかな? 知らんか、と他人事みたいに言って水を煽る直哉。
「……は?」
直哉的にはアホちゃう? こんなこと言うて来てんねんで、全員お断りやわ、くらいの面白い会話提供のつもりで言ったけど、ほぼ娘みたいに思っている甚爾は、そんな風に受け止めるわけなく。甚爾がパシッと直哉の腕をとる。
「お前、さっさと伏黒になれよ」
「このタイミングでそれ言うと色々ややこしない?」恵君の名前出したで、あとまだ言うとんの、と呆れたように笑う直哉。
ぐいっと肩を引かれて、バランスを崩す直哉。
「おわっ!? ……なんや、真希ちゃんか」
真希が直哉の肩を引き、抱き寄せていた。
「……手、離せよ甚爾」
「『伏黒先生』、だろ?」
チッと舌打ちをして甚爾を睨む真希。ニヤリと笑う甚爾。
(何この状況)
他人事みたいに現実逃避している直哉。
……を、甚爾の「伏黒になれ」くらいから見ていた釘崎(+七海、灰原)。
(は? 伏黒先生って伏黒のお父さんよね? 妻帯者でしょ、何男に迫ってんの? ってか真希さんも何? 恋のライバル的な???)
「直哉」
七海が呼びかける。七海が下の名前呼び捨てなのもびっくりする釘崎。
直哉が七海の声に振り向く。右目の眼帯が見える。
耳にはたくさんのピアス。
「……あ! 金髪隻眼イケメンピアス!」
釘崎が指差す。
「人を指さしてはいけませんよ、釘崎さん」
「え、何急に、悪口なんかもよう分からん」
怪訝そうにする直哉。
「直哉を探してたんだよ、釘崎さんが」
と灰原が言うと、直哉は甚爾が掴む腕と真希が掴む肩を軽く振り解いて、七海、灰原、釘崎に歩み寄った。
釘崎が直哉の服装を見る。書生服だ。
「いやどう考えても、他に特徴あるだろ!」金髪隻眼イケメンピアスより! 何時代!? と書生服の袖を掴んだ。直哉が嫌そうに半歩下がり、釘崎の手を軽くはたき落とす。
「何? この何の礼儀もなってない子」
嫌そうに顔を歪めて釘崎を指差す直哉。
「釘崎さん」七海が軽く嗜めるように名前を呼ぶ。
「ああ、そうだった。はい、これ」渡してって頼まれて、と補助監督の名前を出すがピンときていなさそうな直哉。
「東京高専(ここ)の補助監督の方です。車内に忘れたのでは?」
「ああ、確かに無くしててん。おおきに」
と言うと、左耳の近くの髪をかき上げて、つけようとする。まだつけんのか、と釘崎は思ったが、確かに何もついてないピアスの穴が空いていた。
鏡もなく上手くつけられなかったのか、そのまま懐にしまおうとした手から、灰原がピアスを受け取る。
直哉は当たり前かのように腕を組んで首を傾げ、灰原に耳を向けた。
「できた」
「ん」
思わず七海を見上げる釘崎。当たり前の光景かのようにこちらも全く動じていない。
……いや、距離感バグってるだろ。
「相変わらず仲良しだな」と真希が不服そうに言う。あんまり距離感バグりに関しては真希と、同じく全く動じてない甚爾も人のこと言えないと思うが。
「ってか、誰?」
「そういえば紹介がまだだったね」
と紹介しようとする灰原と七海を直哉が制する。
「先、君が名乗り。ほんまに礼儀の無い子やね」どないな育ちしたらこんなになるんやろ、と蔑むように言う直哉。
この野郎、とピキるが、言っていることはまあ正しいため、名乗る釘崎。
「東京高専1年の釘崎野薔薇。そこの男の息子の同期よ」
と甚爾を指さしながら言う。
「ああ、芻霊呪法の」
伏黒の、とかじゃなくて、術式で言われて驚く釘崎。甚爾なのか真希なのか恵なのか分からないけど、誰かが話したんだろう。
「で、アンタは?」
「禪院直哉。甚爾君と真希ちゃんのいとこや」
相変わらず嫌そうに言う直哉。
禪院? とイラつきが顔に出てしまう釘崎。禪院といったら、真希さんの家だ。
敬愛する真希さんを苦しめているあの家の男。
……ん? 禪院の男を真希があんな風に肩を抱いたりするか……?
「七海さんと灰原さんはこの金髪隻眼イケメンピアスと知り合いなの?」
「ええ、同期です。高専時代の」
「さっきから何なん? 名乗ったんやけど。名前も覚えられんほど脳みそ小さいんか?」
とイラついて眉を釣り上げる直哉。
「補助監督の方が、そう呼んでたんだって」
正確にはあだ名みたいに言い出したのは釘崎だが、黙っておくことにした。
直哉の顔がイラつきやムカつきでは無い困惑した表情に変わる。
「……もしかして、まだ『そう』思われとる?」
「ええ、恐らくは」
甚爾の「伏黒になれ」発言、真希が肩を抱いて引き止めること、『そう』思われている……。
「……もしかして、女の人?」
「もしかしなくてもそうなんやけど」
と腕を組んで首をかしげる直哉。
「え……ええっ!?!?」
「いや、自分で言うたやん」なんで驚いてるん? とますます訝し気にする直哉。
「もうさすがに隠してへんのやけど」
「お前がややこしい格好してるからだろ」
「女性の着物も似合うと思うけどな」
「ほなら真希ちゃんが着たらええんとちゃう? べっぴんさんなんやし」
「いやそもそもナオヤ、って名前……漢字は?」と釘崎が言う。真希が空中にこういう漢字、と書いた。全然全く男性名だ。
「何で?」
「俺が聞きたいわ」真希ちゃん、真依ちゃんはかいらしい名前なんにな。考えんのが面倒ってなんやねん、と直哉。
「?」が飛ぶ釘崎。七海が直哉と目を合わせた。はあ、と直哉がため息をつく。
「禪院家当主の『息子』として育てられたんよ。まあ無理あるし、今はこうチグハグな感じになっとるけどな」女に立場が無いんは、真希ちゃんからよう聞いとるんない? と直哉。
「ええ……クソじゃん」
釘崎の思わずの呟きに、甚爾がハッと笑った。
またある日のこと。
高専1年の教室。
扉横の壁が「トントン」と叩かれた。
釘崎は振り返る。
「直哉さん」
と言うと、直哉は片手を上げて軽く挨拶して、部屋に入ってきた。
「あとの2人は?」
「コンビニ」パシらせましたー、と悪気も無く言う釘崎に顔を引き攣らせる直哉。
「今、授業中やないん?」
「そうよ、自習だから、これ」社会勉強、と言う釘崎。
「で? 伏黒に用とか?」
「3人に用やったんやけど」虎杖君、伏黒君が帰ってきてからでええわ、と直哉。
手に持っていた巾着袋をトンと釘崎の机の上に置いた。
上等そうな布製のものだ。
「ん?」
「こないなの好きかな、と思うて」どれでも、と言うので開けると、そこにはリップが入っていた。
「え……えっ!? これとか限定じゃん!」
これとか、本国限定版だ。これとか、どんなに店舗周っても買えなくて諦めたやつ!!!!
「そうなんや」
と釘崎の隣に座る直哉。
「どうしたの、これ!?」
「こういうのが手に入るお仕事もあるんよ」
マジで、最高じゃん呪術師、と釘崎が呟くと、クスッと直哉が笑った。
「俺は使わないさかい、方々に配っとんの」
真希ちゃんと硝子ちゃんにもあげようかな、と直哉。
「えー、どうしよ、本当に悩む……!!!!」
と全部並べてこれも、あれもとしている釘崎に、んー、と悩んで手に取った直哉。
「これとかどやろ」
と釘崎の手を取ってタッチアップする。
あとこの辺とか、と隣にもう1つ。
フレッシュなオレンジ系の色と、それよりは落ち着いたコーラルピンク。
やたらと肌馴染みの良い2色に、目をパチパチと瞬かせた。
「……イケメン有能BA?」
「変なあだ名増やさんといてや」
硝子ちゃんはこれかな、真希さんはこれ! 大人っぽ過ぎひん? とかやって。
釘崎は結局タッチアップした2本で迷っていた。
「どうしよう」
「2本もろたら?」
「え、いいの!?」
「まだあるし」あと真依ちゃん、霞ちゃん、桃ちゃん、歌姫ちゃん、くらい? と本数を数える直哉。
「じゃあこっち」
と釘崎はコーラルピンクを直哉に渡した。
「ん?」
「え、塗ってよ。イケメン有能BA」鏡ない、と言う釘崎
「君、ホンマに礼儀なってないな」
「お育ちがお悪うござんして」ケッと顔を歪める釘崎。
はあ、とため息をついて、釘崎の顎を持ち、口紅を丁寧に塗っていく。
……ところに、伏黒と虎杖が帰ってくる。
「たっだい、ま?」
伏黒と虎杖は固まったが、直哉は一瞥もくれず「おかえり」と言った。釘崎は手だけで。ズレたら大変なので。
指でちょっと整えて、「できた」と言ってリップの蓋を閉め、釘崎に渡した。
「ありがと」
瞬間、動き出した虎杖と伏黒が、2人を引き剥がす。伏黒は直哉を、虎杖は釘崎を。
「……直哉さん! ダメです、相手は津美紀じゃないんですよ!」
「びっくりした! びっくりしたびっくりした!」
「は? 野郎共急に何?」
頭に「?」を浮かべている釘崎に、またもや爆弾が投下される。
「あ、俺を殺そうとした人だ」
「……は?」
直哉を抑えていた伏黒が声を上げる。
「お久しゅう、虎杖君。恵君」
そういえば、虎杖の名前知ってたな、と思う釘崎。
「どういうことですか?」
「そや。悟君から伝言。悟君も甚爾君も、先生やあらへんけど建人君も雄君も不在やて。やから次も自習って」ああ、あと、テストだけ返却しといて言われたんやけど。何パシリ使うてくれてんねん、あの目隠し、と伝言事項をつらつら述べていく直哉。
テスト、それやから。よろしゅう、と教壇を指差して去っていこうとする。
「待てぃ!」
釘崎が止める。
「ん?」
「待ってください、虎杖を殺そうとしたって何ですか?」
「そのまんまの意味やけど」
「はあ?」
「伏黒の知り合い?」
「あれ、言わんかったっけ?」
「今それじゃないでしょ!!!!」
わちゃわちゃやって、とりあえず教室内に押し留める。
「で、虎杖殺すって何?」
「虎杖君に聞けばええやん」
と、直哉本人に話す気が無いので、釘崎と伏黒が虎杖を見る。
「この間、ナナミンと一緒に任務があったときに……」
七海と任務に出た虎杖。呪霊を祓い終わり、帳が上がる。
「つっかれたあー!」
「ご飯でも行きましょうか」
と会話しているところに、急に人影と気配。バッと音を立てて振り返る2人。
「なんや、悟君ちゃうんや」
誰、と虎杖が見上げる。
「直哉? 何でここに」
七海が名前を呼んだ。知り合いなんだ、目を瞬かせながら思う虎杖。
「七海一級術師。と、『宿儺の器』、やんね」
先ほど親しげに名前を呼んだときの空気が一変し、七海は虎杖を庇うように一歩前へ出る。
「……何が目的ですか? 禪院特別一級術師」
「禪院……」
真希さんの名字だ、と思う虎杖。
「分かるやろ? 『宿儺の器』……虎杖君殺そかと思うて」上の命令や、と軽い口調で笑いながら言う直哉。
息を呑み、構える虎杖。
「でも七海一級術師と一緒とは思わんかったわ。めんどいなあ。腕の1本や2本、折っといたろかな」
「テメエ」
七海を傷付ける、という旨の発言をされて、威嚇する虎杖。
「五条悟やったら良かったのに」
「ん?」
発言に疑問を持った瞬間、目の前の直哉が消えた。
次の瞬間には七海の後ろに現れて、顔に一発喰らわせる。
七海がそのまま耐え、十劃呪法で弱点を捉える。が、弱点を撃つ前に避け、蹴りを喰らわせる。七海は吹き飛び、空中で立て直して着地した。
虎杖が飛び出す。
「虎杖君! ダメです、下がっていてください!」
「狙いは俺なんだろ!」
虎杖の拳を難なく避け、虎杖の身体に触れる直哉。固まったように動かなくなった虎杖を蹴り飛ばした。
「ぐえっ!?」
七海と同じくらいの場所まで吹き飛ぶ。
「大丈夫ですか、虎杖君」
「うん」
「君らタフやなあ。もうちょい強めにやっても良かったかな?」
「虎杖君。君は下がっていなさい」
「でも」
「あの人は、君が攻撃しない限り君を狙うことはありません」
「え? 何で」だって俺を殺そうとしてるんじゃ、と虎杖。
「私を信じてくれませんか?」
よく分からないが、他ならぬ七海の頼みのため、こくんと頷く虎杖。でも、七海が危なそうだったらその約束を守る気もないので、じっと戦況を見つめる。
速い。とにかく速く、目視で追うことは難しいと思うほどだ。七海が翻弄されているように見えるが、なんとなく、おかしいような?
多分彼なら避けられそうな攻撃を、わざと手でいなすようにして受けている。
七海も十劃呪法で弱点を導き出したにもかかわらず、ずらして撃つ。
というか、多分あのスピードなら虎杖に迫って一発ぶん殴る、とかも合間にできるだろうに、七海にかかりきりですよ、みたいな顔で。
(なんか、組み手みたい、だな?)
と、思っている間に殺気を感じた。
パッと一級術師2人ともにその方向を見つめる。呪霊だ。
「えっ!?」
報告にあがった呪霊は倒し切ったはず、と虎杖は驚いた声を上げた。
その声を目印にしたのか、虎杖に向かって呪霊が迫る。
受けて立とう、と構えると七海が割って入って叩き切った。
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」
七海と戦っていたはずの人が、帳を下ろす。
「助かります」
「ええよ、建人君苦手やろ」
建人君、と言った人から、虎杖や七海に対する殺気が消えた。
七海の隣にストン、と軽い音を立てて降りてくる。
七海が切り取ったはずの呪霊の腕が生えてくる。
「再生能力、ですか。厄介ですね」
トントンと軽く飛ぶと、直哉が飛び出した。やはりさっきのは組み手だったんだろう。目にも止まらぬ速さで叩き潰すが、その呪霊は消えずに元通りにくっついた。
「多分やけど、急所を2箇所同時に叩かなアカンな」俺の術式でもダメやったから、ホンマに『同時』に、と直哉。
七海は怪訝な顔をする。
「……そんなこと可能なんですか?」
「建人君は好きなとこ叩いてや。俺が合わすわ」
と言うと七海と直哉が駆けていく。七海が弱点を作り出し叩くと同時に、直哉も叩いた。
七海の斬撃に黒い稲光が走る。
「げ」という顔を直哉がし、七海ももう一度鈍を振るった。直哉も同時に拳を叩き込み、呪霊が倒れた。帳が上がる。
「……同時に叩かなアカン言うたやろ」
「おや、すみません。無意識なもので」とサングラスを上げた。
「ムカつくわホンマ」
「えっと……」
と虎杖は手を挙げる。「どうしたらいいの? 俺」
「ああ、忘れとったわ」
「ええ……殺しに来たんじゃ無いの、俺を」
「まあ、そうなんやけど。不幸中の幸い、コイツのせいにするわ」と呪霊がいた場所を指差した。
「んん?」ずっと「?」が頭の上にある虎杖。
「虎杖君。怪我はありませんか?」
「え? うん大丈夫……ってかナナミンたちの方が怪我してない?」きったはったをしてたし、と虎杖は思う。
「私は大丈夫です」
「こんなん怪我に入らん。……っちゅうか、ナナミンって呼ばれてんねや」随分かいらしいやん、とクツクツ笑いながら直哉が言う。
「俺も今度からそう呼ぼかな」
「やめてください」
「ええと、ナナミンたちは知り合いなの?」
「ええ。高専時代の同期です」
「あと雄君も、やな」知っとる? と直哉が聞くので頷く虎杖。
「で、これは『いつもの』ですか?」
「まあ、そやね」
「『いつもの』?」
「禪院家から課される無茶振り、みたいなもん。秘匿死刑扱いやった甚爾君、乙骨君、それに君、虎杖君。恵君や悟君の時もあったな。完全に私怨やけど」と指折り数えていく直哉。
「だいたい俺より強うて敵わんとか、隣悟君おったわ、とか言うとったんやけど、今回は建人君やったから、そうもいかへんし。さっきの呪霊のせいにでもしとくわ」と手をひらひらさせながら言う直哉。
最初から殺す気など無かったのか、と思う虎杖。
「五条先生だったら、ってそういうことか」と虎杖が言うと、ニマ、と直哉は笑った。
「言われてんで? 建人君。君が弱っちいから余計な怪我せんと行けんくなったって」
「言ってない言ってない!!」
「あまり揶揄わないであげてください」と七海はため息をつく。
「でも君、狙われてんのは変わらんから。道中お気を付けてや」
と直哉は帰ろうとする。
「ご飯一緒に食べんの?」ナナミンの同期なんでしょ? と虎杖。
直哉は立ち止まって振り返り、目を丸くした。
「え、何言うとんのこの子……。俺、君を殺そうとしたんやで?」
「うん。でも、殺す気なかったよね?」
直哉は七海を見る。
全く虎杖君は、みたいな、さすがは虎杖君ですね、みたいな面映い顔をしていて、ムカつく直哉。
「キショい顔しとらんとなんか言うてや、建人君」
「してませんよそんな顔」
「しとった」
してない、を繰り返していると、虎杖のお腹の虫が鳴く。
「ご飯食べに行きましょうか。直哉の奢りで」
「あ? まあ、別にええけど」
「……ってことがあって」
「お前ら仲良すぎだろ!!!!」
「ツッコミどころそこなのか?」
釘崎が辛抱たまらず直哉を指差した。
「指、人に向けない」
「私はこの間、灰原さんがコイツにピアス付けんの、見せつけられてんのよ」
「見せつけてへんよ、キショい言い方やめてや」
仲良いってそっち? 俺が怒られてんのかと思った、と虎杖が笑う。
「お前もお前だ」命狙ってきた奴と飯行くか? 普通、と伏黒が呆れたように言う。
「姫じゃん、同期の」
「ちょ、お前……!」
「君もやろ。鏡見たら?」
「鏡無いって言ってんでしょ」
「おん、なら周り見てみ」
「何、パシリしかいないけど? あーあ、私も七海さんや灰原さんみたいな騎士が同期だったらなあ」
「姫に財布出させる奴のどこが騎士やねん」建人君も雄君も絶対財布出さんよ、俺のが稼いどるやろ言うて、稼いどるけど、と直哉。
禪院家の次期当主候補を姫呼ばわりする釘崎を止めようとした伏黒の手が空中で止まった。
え、受け入れるんだ、姫……。
「アンタら距離感おかしいのよ。男同士でもやらないでしょ、ピアス付けるとか」
「硝子ちゃんやって似たようなことしとるで」こないだ傑君がタバコに火付けとった、と直哉。
真希さんは姫と言うか騎士、ほなら姫は乙骨君? 姫強すぎ、みたいな会話を繰り広げる直哉と釘崎。
釘崎と硝子と真希と同列に語られる直哉に、虎杖が笑った。
「なんか、その言い方だと直哉さん女子みたいだね?」
釘崎と直哉が顔を見合わせて、「ああ」という顔をする。
「え、何、その顔」
「そういえば私も最初勘違いしたんだったわ」
「女子みたいやね、というか……そうなんやけど」え、このやり取り何回すればええん、ホンマに、とうんざりした顔で直哉が言う。
「えっ……えぇっ!?」虎杖が驚く。隣で伏黒も目を丸くしている。
「いやいやいや、ちょお待ち。虎杖君は分かるわ。恵君はおかしやろ」小学生くらいからの記憶はある、よな? と直哉。
「そんな小さい頃からの仲なんだ」と釘崎。
「まあ一応親戚やからね」甚爾君と俺が従兄弟やから、恵君と俺は従甥、従叔母の関係やね、と直哉。
「……じゃあ
高専大浴場で女子会。
任務だか何だかの折に、東京高専の共同浴場を皆で使うことになる。
野薔薇と真依がくだらないことで小競り合いになって、先に自分が入る、ってなってバタバタする。真希と西宮は呆れている。
ガラッと乱暴に扉を開けると先客が。
「うるさいで、静かぁに入って来れへんの?」
「うわっ!?」三輪がびっくりする。
人をお化けみたいに……と直哉。
「珍しいな、お前が大浴場使うなんて」
「雨に降られてしもうて」
芯まで冷えてしもうたわ、と言いながら身体を洗っている彼女は確かに青白い。
女子学生たちの邪魔にならないように、端っこに入ったら、え、なんで? みたいな反応をされた。
「こんなに広いんやから、広く使うたらええやないの」
「つれないこと言わないでよ」
しぶしぶ女子会に混ざる。
「なんか、不思議な感じがしますね」
と三輪が言う。
「霞ちゃん、最初イケメンがいる、って言ってたもんね」ミーハー過ぎるでしょ、と西宮が笑った。
やっぱり勘違いされてるんだ、と思う釘崎。
血色の戻ってきた横顔を見る。
「……何?」
「え、いや……それ天然?」
と目元を指した。
「どれ」
「目元。つけまとかアイライナーとかしてないわよね、さすがに」お風呂だし、ウォータープルーフ? と釘崎。
「してへんよ。っちゅうか、普段から化粧せえへん」
「は? 羨ましい、ムカつくわなんか」とマジマジと覗き込む釘崎の手を直哉が叩く。
「近い」
「え! でも本当、綺麗なお顔ですよね!」と無邪気に笑う三輪。
直哉は直哉で、やっぱり真希は天与呪縛なんだなあ、と思う。幼子といえど、その当時の自分自身の薄い身体と比べて、筋肉質なように見える。
というか、なんなら真依と比べても自分の身体は薄かったような?
見比べて二の腕とか触ってたら、真希と真依にバレてニヤニヤされる。
「なんやねん、その顔」
「いや、直哉さんにも悩みってあるんだなって思って」
「うっさいで、真依ちゃん。君雑魚やのによう口が回るな」
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