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以下メモ
IF設定①と同一世界線。
体術の訓練をベンチで見ていた直哉。
虎「直哉さん!」
虎杖が駆けてくる。
直「何?」
虎「組手、相手してよ!」
真「術式の行使無し、武器OK!」
直「……いや、術式無しやったら一歩も動けへんで、俺」
確かに、という空気が流れる。
釘「そうだった、あんまり普通に動いてるもんだから忘れるわ……」
パ「生身の人間の範囲ならオッケーにするか?」
直「それ、俺の匙加減やない?」
対戦者を入れ替え、学生たちはああしろこうしろとお互いにアドバイスをし合いながら、ひとしきり組手を行った。
みんなは、直哉と手合わせするときに、不思議な感覚を覚える。
五条と手合わせするときの圧倒的な力の差を感じない。
七海と手合わせするときの、びくともしない、という手ごたえも感じない。
正直、自分と比較してとても強い、とは思わない。むしろ勝てるとすら思う。
それから、自分自身と相対してるような。
けれど、そう思った瞬間に、するりと手を抜けていくような感覚。
疲れたー、とみんな休憩する。
パンダ以外汗だくで座り込んで休憩する学生たちをしり目に、汗こそかいているものの、涼しそうな顔をして立っている直哉。
五「よっ、直哉先生」
五条が直哉の右肩に肘を置いた。
直「おわっ!?」
がくん、と直哉の右足が力を失い、倒れそうになる。一緒に来ていた七海が慌てて直哉の左腕を取り、倒れないように支えた。
五「あ、ごめん。乱れた? 術式」
直「……分かってんねやったら、先声掛けてや」
七「大丈夫ですか?」
直「大丈夫や。七海君、おおきに」
直哉は七海に支えてもらって立ち上がった。
五「相変わらずピーキーな術式を更にピーキーな運用してんね、お前」
直「無下限に言われたないわ」
七「さっき、何をしたんですか、五条さん」
五「肩に触れる瞬間に、無下限を”解いた”だけだよ」
直「わざとやないか」
五「っつか、それだと直哉の訓練にならなくない?」
直「高専生たちの授業の時間なんやから、俺はええやろ」
学生たちは「あ?」と血気立った。
真「手加減してたって言いたいのか?」
釘「ゴジョセンや七海さんの方が、よっぽど強かったけど!」
七海は直哉の方を見た。それに気づいた直哉が七海を見たので、顔を見合わせることになる。
直哉は肩を僅かに竦めた。
七「五条さん、は分かりませんが、私と直哉さんだったら直哉さんに軍配が上がるかと」
虎「え!? ナナミンが!?」
伏「失礼ですが、そこまで戦力差を感じるほどでは無かったですが……」
直哉は呆れたように溜息をついた。
直「そりゃそうやろ。そういう『ルール』やねんから」
七「どういうルールだったんです?」
真「術式行使無し、武器あり。例えば七海サンだったら、それ使っていい」
鈍を指さす。
パ「直哉は術式無いと動けないから、通常の人間の範囲ならOK! っていう特別ルール」
七海がああ、と言い思案した。
七「……それ、意味ありますか?」
直「試合や無くて訓練やで」
七「ああ、なるほど。では、そのルールに則って私と直哉さんが組手をした場合、勝敗は付かない、が正しいですね」
直「まあそうやなあ。さっきのルールで何遍今の君らと戦っても、君らは俺に勝てへん。けど、俺も君らに勝てへん」
学生の頭の上に「???」が飛ぶ。
五「まるで自分のような、優秀なNPCと戦ったなあ、と思ったんなら、さっきの組手は全部、直哉の術式の中だよ」
学生が目を丸くする。
釘「え、どういうこと!?」
直「そんな驚くことか? 言うたやろ、常時術式回してへんと動かれへんって」
投射呪法は作った動きをトレースする、と聞いている。それならば、自身の動きもその術式に組み込まれているということか?
虎「ねえ、直哉さん! もうちょっと、ほんのちょっとだけ術式強め? に使えない?」
直「俺の匙加減過ぎるやろ」
伏「その、術式に俺たちの動きを組み込む、をやめていただければ」
直「うーん……対等なルールや無くなるけど、それでも君らがええならええよ」
虎「じゃあ俺から!」
虎杖が拳を振るう。直哉は避け、虎杖の左肩に右手をトンと付いて飛び、背中の後ろを取った。その瞬間、張り付いたように虎杖は動きを止めた。直哉はそのまま空中で半身を捻ると虎杖の首を狙って蹴りを入れる。
直「次」
虎杖は何が起きたのか分からないかのように、ぽかんとしたまま地面に転がっている。
狗「こんぶ!」
狗巻が素早く懐に入ろうと詰め寄る。直哉は横に身体を捻って除け、更にバク転して回避する。更に懐に向かって詰めてきた狗巻。その動きを利用し、直哉が胸目掛けて右膝で蹴りを繰り出した。狗巻はそれを腕でガードする。と、ピタリと動きを止めた。そのまま足裏を向けて蹴り飛ばす。
真希が呪具ではない長物を持ち、飛び出した。振るった剣先が直哉の首を狙うが、直哉は右腕でガードする。武器がピタリと動きをとめ、刃が腕を傷つけることは無かった。そのまま得物をはたき落す。直哉が武器を目で追うのを見て、勝機と考えた真希がにじり寄るが、それはブラフであった。真希よりも姿勢を低くし、右足で足払いをする。動けなかった真希が次に見た光景は、持っていた武器が喉元寸前に掲げられていた姿だった。
直哉は武器を投げ捨てる。
釘崎が投げてきた五寸釘が後ろから直哉の頭を狙う。身体を開き右手で受け止めると、釘が空中で止まった。そのまま掴んで翻り、釘崎ににじり寄る。釘崎がトンカチを振り回すがそれを除け、五寸釘を左手に持ち替えると、トンカチを持つ手を右腕で掴んだ。五寸釘を釘崎の眼前まで振り下ろし、止まる。そのまま手を放すと釘崎は地面へへたり込んだ。
パンダが大きく拳を振り下ろし、釘崎との間に割って入る。それを直哉が避ける。図体に似合わぬ素早い拳を左腕で受け止めつつ、応酬する。直哉が距離を取ろうとした瞬間、図体を生かしたリーチで蹴りが飛んでくるので、懐に忍び寄ると右手で胸倉を掴んだ。そのまま投げ捨てる。
伏黒が睨み上げながら直哉に迫った。直哉が右足で蹴りを繰り出すと避けられる。防戦一方ながら、右腕と右足の攻撃のみ器用に避ける伏黒。直哉は左腕で伏黒を掴むと、左手後ろ、伏黒からしたら前に手を引いた。そのまま右腕で背中を抑え、地面に押し伏せる。
結果。学生たちは全員地面に転がった。
直哉はパンパンっと手をはたき合せて埃を落とした。
五条はニヤニヤしている。
五「で、どうだった? みんな」
皆ぽかんとしている。
釘「……っきもちわるぅ」
五条は爆笑した。
真「っち、てめえ何したんだよ」
虎「え、え、何が起きた?」
パ「俺、一瞬寝てたか?」
伏「術式の効果ですか、これ」
狗「こんぶ!」
直「おわっ!? 何!? 君らがやれ言うたんやで?」
対等なルールやない、って言うたやろ! と詰め寄ってくる学生たちに言う直哉。
七「しかし、これが元々補助的利用されていた術式とは、にわかに信じがたいですね」
直「まあ、これも元はと言えばデメリットやからね」
釘「デメリットォ?」こんだけ死屍累々にしといて? と訝しむ釘崎。
直「正確な言い方やないけど……術式対象が投射呪法の動きについてこられへんとき、エラーを起こしてフリーズする、っちゅうんが簡単な仕組みやね」
虎「あ、さっき五条先生に触られた時」
直「そう。もちろん術者である俺も例外やない。あないな感じで茶々入れられると、術式は強制解除、フリーズして呪力も練れんようになる。近接戦やと文字通り致命的やね」
五「その致命的なエラーが、針に糸を通すような精密さをもってして何もかもを整えないと、割とすぐに起こる、っていうのが投射呪法の扱い辛いところだよね。当世の投射呪法の遣い手が、揃いも揃って近接アタッカーなの、マジでいかれてるよ」
直毘人と直哉じゃなかったら、とっくに死んでる、と五条は言った。
五「っつーことは、やっぱそっちが先に発動? しちゃうと、反転も効かないのか。難儀だな」
直「効かない、っちゅうか、順転も反転も同じ条件やねん。時間は前にしか進まれへん。ぶつかったら止まる」
五「そういうことね、本当に面倒な術式だな」
直「やから悟君に言われたないねん」
皆が「え」という反応をする。
虎「直哉さん反転使えんの!?」
直「まあ」
渋い顔で同意する直哉。
釘「何よその反応、嫌味?」
それくらい使えて当たり前、みたいな? と釘崎が牙を剥く。
直「ちゃう。……現状、使いこなせてない、ってだけや」
五「随分素直じゃん」
直「事実やからな。ほんの数年前に使えるようになったさかい、あんまり研究できてへんねん」
伏「反転術式による回復も可能なんですか?」
直「一応可能やで。アウトプットはできひんけどな」
真「使いこなせてない、とか一応、ってのはなんなんだよ」
直「んー……もちろん現状、ではあるんやけど。投射呪法の順転は、作った動きをトレースする、反転はそのトレースした動きを逆再生する、んよね。ただし、時間はそのまま進む。……順転で逆再生と同じ動きを再現する方がええんとちゃう? って」
七「なるほど?」
直「もちろん、『動きを作る』をスキップできるメリットはあるんやけど、順転と反転の切り替えの早さが、『動きを作る』早さを上回らんといかへん。今の俺やったら順転を回し続ける方が早いんよね」
五「順転の動きを反転で途中キャンセル、みたいな使い方は?」
直「それも可能ではある、んやけど……うーん、悟君、見てくれる?」
七海君的になってくれへん? 当てへんから、と言う直哉。
七「別に当てても構いませんが」
直「当てへん言うとるやろ」
直哉が深呼吸する。「見ててや」といい、素早い拳を七海に繰り出すと、直前でピタリと止まった。
直「こういうことやねんけど」
五「またお前、ややこしいことを……」
直「やって、現状やとこれでしかできひんねんもん」
五「まあそれが可能な時点で、”理論上”はできるってことだよな」
直「まあこれも、順転と反転の切り替えの早さが、術式に追いついてないってことなんやと思うわ」
真「待て、何が起きているか説明しろ」
釘「寸止めのパンチを繰り出したようにしか見えないんだけど」
五「反転キャンセルの動きを、順転でコーティングしてる」
パ「意味分からん。俺がパンダだからか?」
直「こう、拳を突き出す動きを順転で作成するとして」
パンチを繰り出す。
直「その中に、『反転でキャンセルする』も組み込む」
パンチを少し戻す。
直「この動きを作成した上で、順転で術式を回すと」
パンチを繰り出して、少し戻す。
直「こういう動きになんねん」
虎「わかんねえ!!!!」
伏「反転キャンセルも含めて動きを作成しなくてはならない、ってのは余りメリットが無いですね」
直「そやねん。それキャンセルちゃうやん、ってことやし」
真「反転術式の『一応』ってのは?」
直「回復の内容にもよるけど、順転でも反転でも術式を回転させる方に割ける呪力がないと、動かれへんようになるからやね。安全地帯に撤退してからならええけど、戦闘中に組み込んで、ってのはこの身体やと難しいな」
真「っち、本当にしょうもないな、禪院家(うち)は」
狗「こんぶ……」
途中から考え込んでいた七海が言葉を発した。
七「数年前に急に使えるようになったんですね、反転術式」
直「? そやけど」
七「……何があったんですか?」
直「あ」
やべ、という顔をする直哉。投射呪法で逃げようとするが、五条につかまる。
五「はい、確保ー。署までご同行願おうか」
直「ッチ、悟君さえいなければ逃げ切れたんに……」
七「説明していただきますよ」
パンダにがっちりホールドされ、抱きしめられるように座らされる直哉。囲むようにみんな車座になっている。
直「……何もあらへん」
真「いや無理だろ」
直「ちゅうか、なんでいっつもコイツらもおるん!?」
高専1,2年を指す。
五「お前がボロを出すのがコイツらがいるタイミングだからだよ」
釘「諦めろよ、直哉」
直「おう誰や今呼び捨てしたん」
虎「諦めなよ、ナオヤン」
直「けったいな呼び方すんな!」
七「で? 何があったんですか?」
呪力でとかではなく、シンプルに圧
直「……数年前、特級相手の任務の時に」
五条が「ん?」と引っかかりを感じ、思い出したように「ああ?」と声をあげる。
五「お前、もしかしてあれか!? ばっ、馬鹿だろ、ばっかじゃないの!?」
直哉の胸ぐらを掴んでぐらぐら揺らす。
直「ほんまにアレは反省しとるって!!!!」
五「反転習得なんて結果論だろ! 僕が気付かなかったらお前、どうなってたと思ってんだよ!!」
直「人のこと言いなや! 悟君が反転術式使えるようになったんやって、似たような経緯やって聞いたで!?」
五条がパッと手を離す。
五「……それはそれ、これはこれ」
直「誤魔化されへんで」
五「まず、なんであんな案件受けてんだよ。僕に回せば良かっただろ」
直「行ける思うたんやもん」
五「コイツ……」拳を握るそぶりをする。暴力反対! と直哉が喚いた。
七「五条さんが対応するほどの呪霊だったんですか?」
五「ああ。相手は特級。それも必中必殺の領域を持った呪霊だ」
えっ、と1,2年から声が上がった。
伏「禪院家への案件として、依頼されていたんですよね」
五「それもおかしいんだよ。どう考えても東京高専、っつうか僕への案件だ」
直「……俺が炳の筆頭になって、禪院家が呪霊討伐数1位になって、出る杭邪魔やなあ、って思った人がいらはったんやない?」と言って、上を指さした。
七「上層部、ですか」
直「みなまで言わんかったんに」
五「アイツらほんと、腐ってんなマジで」
直「せやけど多分、お上も俺が受ける、とは思ってへんかったんちゃうかな」
虎「そうなん?」
直「禪院家の次期当主筆頭やーって威張ってるガキが、五条家当主に『僕ちゃんには無理だからお願いします』って、頭下げてる姿が見たかったんちゃう? なんや、思い通りになんのムカつくやん? やから言うたんよ、俺がやるって」
伏「それが理由で五条先生を頼らなかったんだったとしたら、貴方は大馬鹿者です」
直「いやー、依頼受けた時のお偉方の顔、ホンマ傑作やったわ。写真でも撮っとけば良かったかな」
五「コイツほんと……ぶっ飛ばしてやろうかな」
真「で? 身の丈に合わない仕事受けて、犬死にのつもりだったのかよ、禪院家のお坊ちゃんは」
チンケなプライドで死ぬなんて、さすが禪院家の人間だな、と真希。
直「勝手に殺すなや。もちろん、策はあった。無謀やなくいける思うたから受けたんや」
真「『落花の情』か?」
直「それもそうやけど」
五条があの時のことを思い起こす。
五「……領域展開」
直哉は眉を下げ、自嘲気味に笑った。
五条が頭を抱える。
五「そういうことか……」
七「何があったか聞いても?」
五「僕が帳の中に入ったとき、虫の息で血まみれのコイツと、術式が焼き切れてる特級がいたんだよ。まさにコイツが止めを刺されそうになってたから、さっさと祓ったんだけど。術式焼き切れてんのなんて雑魚だし。……相手の領域を『落花の情』で耐えきったのかと思ってたけど、違うんだな」
直哉が自嘲気味に眉を八の字に下げた。
五「……領域の押し合いの結果か」
1,2年、七海が「え」となった。
七「は?」
伏「禪院さんは、領域展開ができる、ってことですか?」
直「まあ、『一応』やな」
五「あの様子だと、押し合いには勝ったんだろ。なんであの有様だったんだよ」
直「これは俺の考慮不足、というか、領域展開自体が2回目やったから知らんのかったんやけど」
真「待て、1回目はいつだ?」
直「懲罰房に閉じ込められたとき」
一同絶句。
直「術式が焼き切れるのに、必中必殺の術式が発動すんのは、領域用に術式が一時コピーされる、みたいな感じなんやね。その術式を回してやらんと、領域に付与された術式は発動せえへん。……1回目は、腕も足も自力で動かれへんかったけど、相手に領域を持った呪霊がおらんかったさかい、投射呪法が早いんのもあいまって、術式が焼き切れる寸前で、領域側の術式を回せたんよね」
五「ああ、そういうことかよ」
直「特級の時は、相手も領域を持っていたさかい、領域の押し合いが発生した。領域内でのやり取りが発生したんよ。領域の押し合いに勝って、領域の術式を回す前に、術式が焼き切れた。俺は動けんようになって、領域も解かれたんよ。で、後は悟君の言う通り」
五「俺も反転アウトプットはできねえし、硝子のとこに飛ぶか、って思ったらひょこっと起きて。お前なんて言ったか覚えてるか?」
直「え、覚えてへん。なんか言うたっけ?」
五「『悟君、久しぶり』」
釘「絶対違うでしょ!!!!」
真「やっぱいかれてるよコイツ」
直「ええ、覚えてへんホンマに……。身体動かれへんようになって、死ぬんや、って思ったら悟君来たのは分かって、『あ、反転術式』って思い出して。やってみたらできたんよね」
五「だから結果論だろ……。『悟君、来てくれへんかったら死ぬとこやったわー、ほんまおおきに! さ、帰ろ!』ってスタスタ歩いて行きやがって。マジでぶん殴ってやればよかったわ、そん時」
直「そんなこと言うてた!? アカン、ホンマに覚えてへん……」
伏「……ん? 禪院さん、ご自身で歩いて行ったんですか?」
五「そうだけ、ど」
あ、という顔をする五条。
伏「……脳みそぶっ壊して、反転で治しました、よね?」
直「え? うん。やって、術式焼き切れてたら俺、動かれへんもん」
きょとん、とする直哉。「悟君やって、やってるもんな?」
五「こっ……!!! なっ……!!!!」
真「なんでもかんでも悟の真似すんなよ、ガキか!」
釘「もう、仕方ないのかも。幼馴染のお兄ちゃんが五条悟だったら」
虎「お手本にしちゃったかあ」
五「僕が悪いの!?」
七「必中必殺の領域を持ち、領域展開後の呪力大量消費状態で、脳を呪力で破壊後に身体の傷を含めて反転術式で治すことができる……この人、本当に私と同じ1級ですか?」
直「俺、黒閃出されへんよ?」
七「ここまできたらそんなの些末な問題です」
直「でもホンマに、特級にはほど遠いねん。術式反転に関しては、修練の余地ありやけど、反転術式と領域展開に関しては、実践では使えん。……現状俺は、順転術式だけを使える、1級術師なんよ」
右手を伸ばす。
直「目とか、手とか、足とか、強さには意外と大切やってんな。人体ってままならんわ」
パンダも同じように手を伸ばす。
パ「それに関してはパンダだって同じだぜ」
直「ほな、肉体が、かあ」
狗巻が直哉の右手を抑えた。
狗「おかか!」
直「え、何? 死なへんよ?」
釘「いや、今のは『なら肉体捨てるかあ』のニュアンスだったから」
七「怖いこと言わないでください」
直「……ああ」その発想は無かった、という反応をした。
瞬間、パンダがギュッと抱え込むように抱きしめる。
直「何々!? 苦し、ぐぇ」
頭を抱える五条、天を仰ぐ七海。
七「この人、禪院家に残しておいて大丈夫ですか? 色んな意味で」
直哉にとって環境が良くない、の意味と、いかれた奴がいかれた家にいるとどう脅威になるか分からない、の意。
五「ああ、うん……うん、そうね。本当に色々、ヤバかったら高専で引き取るわ……」
現状禪院家を率いてもらうのが一番なのは分かっている五条。
****
直哉が京都高専の仕事を請け負い、補助監督室に入って報告書を提出していると、歌姫がやってきた。
直哉がいることに気づくと、歌姫はげぇという顔をする。
直「こんにちは、歌姫ちゃん」
歌「帰れ」
直「仕事や仕事」
歌「だったらちゃっちゃと終わらせてちゃっちゃと帰ってちょうだい、教育に悪いから」
俺かて好きでいるんとちゃうで、と書類の申請等が終わったことを確認し、ほな、さいなら、と出て行こうとする直哉。ふと、補助監督室の机の上の案件の紙が目に入る。
直「なんか多ない?」
歌「アンタには関係ないでしょう」
直「あるやろ」
高専の仕事を手伝ってくれ、という依頼があるからこうやって赴いているのだ。
歌姫の静止も効かず、紙束を手に取って捲る。
歌「でも、そうなのよね。最近ちょっとずつ数が増えてて」
直「禪院家はそうでもあらへんよ。この間東京高専も行ったけど、いつも通りやった」
歌「え?」
直「嘘や思うんやったら確認したら? 愛しの悟君に」
歌「二度とその名前を出すんじゃないわよ」
苦虫を潰したような顔をする歌姫。直哉はそれを無視して紙束を持って思案する。
(偶然、か?)
偶然にしては、といくつか捲って、違和感を覚えた。
案件の詳細を指で追う。覚えがある。
紙束を机の上に広げた。
歌「ちょ、ちょっと!」
直「ちょお静かにして」
せっかくそろっていた書類をバラバラにする直哉に苦言を呈するが、いたずらというわけでも無さそうな姿に黙る歌姫。
(これも、これも、これも……これなんか階級違いや、これも、これも)
1つ1つ素早く目を通し、文字に指を這わせ、覚えがあるものがあれば、束ねていく。
直哉が手元に置かなかったものは、歌姫に乱暴に押し付ける。
歌姫は渡されたそれ以外の案件に目を通してみた。階級で分けられているわけではないらしい。今手に取っている三級は直哉の方の束に、次に手を取った1級は、歌姫に押し付けられた。
ひとしきり終えて、直哉は、はあ、とため息をつく。小さく、でも低く這うような声で呟いた。
直「……アホンダラが」
半分以上の紙束をかっさらう直哉。
直「こっちは俺がやる。金も要らんし、依頼料分は払ったる。そんかし、依頼自体無かったことにしてくれ」
じゃ、と去っていこうとする直哉を慌てて止める歌姫。
歌「ちょっと! 何考えてんの?」
直「歌姫ちゃんに関係ある?」
歌「あるに決まってんでしょうが! ここの部外者はアンタよ」
直「特別一級術師がボランティアどころか買い取ってやる、言うてんねんで? 危険な任務もしなくていい。可愛い可愛い教え子を助けたってんねん、こっちは」
歌「危険な任務っていうなら、こっちの1級とそっちの3級、トレードして。そういう基準じゃないんでしょ?」
直「どの立場で物言うてはんねやろ。そんくらい、訓練や思うて君らで祓い」
歌「1人で捌く量じゃない。許可できないわ」
直「ああ? 舐めとんちゃうぞ? 歌姫ちゃんみたく雑魚やないねん、こっちは。自分らの身の心配したらどないなん? それ、1級やで」まあ、気張り、と直哉。
歌「……アンタ、真依のフィアンセなんでしょ。真依を悲しませたら、ただじゃ置かないから」
直「……は?」
キレる、というより、本当にぽかんとした顔で固まる直哉。
歌「え、違うの?」
直「違、ないけど……その反応やと、何? ホンマにホンマもんやと思うとる?」
歌「は? 何が」
直「億が一、にもあらへんけど、もしこの任務で俺が死んだら、真依ちゃんが悲しむ、思うとんの?」
歌「死ぬとは思ってないけど、大怪我したりしたらそりゃあ」
直「ありえへんってキショいこと言いなや!」
真依ちゃんの前で言わんほうがええ、ぶん殴られんで、と直哉。
直「あんなあ、何で御三家やのに、真依ちゃん真希ちゃんがわざわざ高専通ってる思うとんのや」
歌「そんなの、禪院家が男尊女卑クズカス野郎のごみ溜めで、そっから逃げてきたからでしょ?」
直「おおそうやで。禪院家がアットホームで楽しいお家やからや! そこまで分かっとってなんでさっきの結論になるんや」
歌「だって、フィアンセだし、従兄でしょ、アンタ」
直「やから、そのフィアンセやし従兄の、『禪院の女として役目を果たせ』言うて、『次期当主のお手付きなんて名誉やろ』言うて、アットホームな楽しいお家に縛り付ける、10も歳上の禪院の男が大怪我して死んで、誰が悲しむんって聞いとんの!」
歌「お手、付き……?」
歌姫が怒りをあらわにして、直哉に殴りかかった。直哉は避ける。
歌「アンタ最低! クズ! カス!」
直「ちょお待ち! 歌姫ちゃんが言うたんやん、フィアンセやって!」
歌「高専卒業、いや、成人まで待つでしょう、普通!」
直「純粋培養過ぎる! 待ってって、聞け! してへん!」
直哉に歌姫の拳が当たることは無いが、歌姫が怪我するかもしれないし、補助監督室が大荒れになるかもしれないし、慌てて止める。
歌「は?」
直「やから、手出してへんって言ってんの! なんや悟君と揃いも揃ってキショい妄想してからに」おままごとやったらよそでやってくれ、と直哉。
歌「誰が誰とお揃いですって?」
直「もうええて、ええ加減にしてくれ。付き合うてられんて」
直哉に呆れたようにあしらわれ、深呼吸して落ち着く歌姫。
歌「で、ほんとなの? 可愛い教え子に手出してたら承知しないから」
直「してへん。キショいなホンマ。俺、歌姫ちゃんとの方が歳近いねんで?」あるわけないやろ、と直哉。
歌「……でも、愛があれば歳の差なんて」
苦い顔して、鳥肌が立つのを押さえるように、腕をさする直哉。
直「歌姫ちゃん、ホンマ一回真依ちゃんにしばかれろや。可愛い教え子でキッショいこと考えてるキッショい教師が」
歌「じゃあ、なんでそんなことするの? 守るだの助けるだのの心がアンタにあるわけないし」
直「よう分かっとるやん。宛がわれるであろう男ん中で、俺がいっちゃん歳近いだけやで。キッショい連中に家ん中でキッショいことされんの嫌やんか。話は終い。ほな、さいなら」
歌「待ちなさい、許可できないと言っているでしょう」
直「あんなあ、歌姫ちゃん。歌姫ちゃんの許可が欲しい、なんて、俺言うてへんで? これは決定や」
歌「アンタにそんな権限はないわ」
直「ピーピーピーピーうっさいなあ。そうや、歌姫ちゃんはここで転んで、その辺で頭打って、京都(ここ)には愛しの硝子ちゃんもおらんさかい、そのまま……っちゅうんはどうやろ。悟君やって泣いてくれるかもしれんで?」
歌「そしたらアンタは呪詛師として、指名手配よ」
直「あっははっ、まあ確かに、悟君に見られたら残穢で追われて終いか。ええんとちゃう? 呪詛師なんて呼ばれなれてるさかい、実が伴うだけ。いまさらや」
歌姫が直哉の後ろをちらりと見た。
(しまった)
刹那、手を叩く音がして、廊下へ瞬間移動する直哉。
京都高専の面々に囲まれ、冷たく鋭い目線を受ける。
さっきまでいた補助監督室の中で、筋肉だるまが転んだ音と、歌姫の「東堂!?」の声を聞いて、直哉は大きなため息をついた。
直「アカン、最近俺こんなんばっかや……」疲れてるんかな、と目元を覆い、独り言を言った。
ガラリ、と目の前の補助監督室の扉が開く。
歌「あら、逃げなかったのね」
直「今から帰るんやで。お見送りどうも」
と言う直哉。
歌「全く。こんだけ生徒がいて、気付けないような体調で、その数の案件を1人でってのは少し無理があるでしょ。何を焦っているの」らしくない、とまるで生徒を窘めるように言う歌姫。
直哉は真依、西宮、加茂、東堂を見た。西宮と加茂は真依を守るように立っており、東堂は歌姫と並んでいる。
直「俺は歌姫先生の生徒や無いで? どうだってええやろ」
歩いて行こうとし、加茂の隣を通り過ぎた瞬間、拍手が鳴った。途端、直哉の身体ががくんと崩れ落ちる。とっさに左手で加茂の肩を掴んだ。加茂はびっくりしたものの、転ばずに堪えた。
直「あー、すまん加茂君」すぐにパッと手を放す直哉。
加「いや、構わないが……」
(東堂の術式にそんなものあったか?)
東「禪院直哉。今のはただの拍手だ」
直「……そうみたいやね」
振り返り、東堂を睨みつける直哉。東堂は意に介さず、顎に手を当ててふむ、と一人納得した。
東「やはりさっきのはお前の術式か」
直「さあ、何の話やろ。ほな俺はこれでお暇しますさかい」
東堂が手のひらを内側にし、両手を前に出す。直哉は嫌そうに睨みつけた。
東「どうした? 帰ればいいだろう。俺は両手を前に出しているだけだ」それとも、何か問題が? と言うと、直哉は益々嫌な顔をした。
直「けったくそ悪いな。分かってんねやろ」
東「さあ? お前が教えてくれないから、何のことか分からないな」
両者睨みあう。他の者はみな頭に「?」を浮かべていた。
加「お前たちはさっきから何を言っているんだ? 東堂の術式も、禪院家相伝の術式も、そんな効果は無かったはずだが?」
歌「さっきの、っていうのは、東堂が転んだやつのことかしら?」
真依「! もしかして、これが?」
東「そういえばお前は禪院だったな、何か知ってるのか」
禪院と呼ばれめちゃくちゃ嫌そうな顔をする真依。
直「あ? ……ああ、真希ちゃんか」何をどこまで聞いたんか知らんけど。と直哉。
真依「右目と、右腕、右足の話と、さっきの、術式エラーの話」
直「ほぼ全部やんけ」まったく真希ちゃんは……と呆れる直哉。
歌「何? どういうこと?」
はあ、とため息をつく直哉。
直「……俺の右目が見えへんこと。右腕・右足も動かされへんこと。手足は無理やり術式で動かしてること。俺の術式、投射呪法はかなり精密さが要求されるさかい、他所から邪魔が入ると立ってることすらできひんこと。他、詳細知りたかったら真依ちゃんに聞いてや」
西「えっ……」
歌「硝子に」
反転術式を、と言おうとする歌姫を制する。
直「無駄。もう何年も前の怪我やさかい、反転でも治らん」
東「俺の術式で入れ替わったあと、転ばされたということは、空間への干渉? それとも力学的な何かか?」
直「どっちかっちゅうと後者やね。正確な言い方やないけど……、点を置いてって、線で繋ぐように動く。東堂君の術式は、そこに勝手に点を置いていくから、動かれへんようになる」
東「お前は転んで無かったようだが?」
直「あれは、堪忍。東堂君を転ばすつもりもなかったんよ。さっきのは順転で術式を回した時の話。反転は点を戻っていく。戻る動きで順転をキャンセルして、エラーを起こさんようにしたんやけど、タイミングがずれたな」もうちょい早かったら東堂君も転ばんかったはず、と直哉。
東「そんな芸当が可能なら、やればいいだろう」どうした? と言いながらまた両手を構える。
直哉は腕を組んで、はあ、と溜息を吐いた。
直「まぐれやまぐれ。歌姫ちゃんが分かりやすーく目線くれたのと、真剣や無かった東堂君と真剣やった俺の読み合いで、俺が勝っただけ。それでも思うてたタイミングとはずれるし、すぐのブラフにまんまと引っ掛かってるし、分が無いわ」
真依が「えっ」と言う顔をした。
直「なんや」
真依「いや……なんでも」
西「言ってやりなさいよ」
なんでもない、と真依が直哉に怯えるのを見て、西宮がはっぱをかける。ここには私もいるし、何かよくわからないけど東堂君には勝てないっぽいし! と
真依「……分が無い、って、認めるんだって、思って」
西宮と加茂に隠れて真依が言う。
直「あ? ……まあ、事実やからな。しゃあない。術式同士の、というよりかは、お互い術式自体には攻撃能力は無いさかい、東堂君の遣い方と俺の遣い方の相性がものすごう悪いわ。戦う場合は俺だけやけど、共闘ってなった場合は共倒れになる可能性すらあるなあ」
と、顎に手を当てて思案するように言う直哉。
あれ、と目を瞬かせる真依。真依が怖がる『禪院』らしき反応ではなかったことに対し、西宮と加茂も目を合わせた。
西宮は思い出したように言う。
西「あれ? アンタたち一緒の任務やってるときなかった?」
直「ああ、あれ。東堂君が帳を降ろす間もなく戦い始めたから、もう勝手にしい、思うて。帳降ろして外にいたわ」
加「お前、特別一級術師を補助監督代わりに……!?」
加茂が東堂を見るが、何が悪いんだ、という顔でどこ吹く風の東堂。
歌「アンタも何で外にいるのよ」
直「いやもう、東堂君なら大丈夫やろ思うて」実際大丈夫やったし、と悪びれもしない直哉。
で、もういい? と直哉は帰ろうとする。
歌「そんなわけないでしょ」
東堂もすっと手を前に出した。
直哉はため息をつく。
直「わかった。とりあえず立ち話もなんやし、中入ろうや」
皆で適当な椅子に座って丸くなる。
歌「で、最近うちへの案件が多いの、偶然じゃない、ってアンタは思うわけね」
直「おん。歌姫ちゃんには言うたけど、禪院家も東京高専も、いつも通りやねん。まあ、京都高専(ここ)やって、ちょっと多いなー、くらいやけど」
バサバサと手に持った案件の束を揺らしながら言う直哉。
西「その束は?」
直「これは京都高専(ここ)から俺が買い取ったる奴」
歌「だから勝手に決めんな!」
加「買い取る、というのは禪院家が、ということか?」
直「うーん……多分、俺のポケットマネーやな」
払いきれるかな、後払いとか効くんやろか、と言いながらペラペラと捲った。
真依「直哉さんなら、家(うち)のお金くらい、動かせると思うけど」
直「悟君も真希ちゃんもそないなこと言うけど、俺、言うほどあの家で権限ないで?」
お金だけで言うたら、扇の叔父さんの方がよっぽど自由に動かせるんちゃうかな、と続ける。
真依「え、そうなの?」
直「あとこれに関しては家のお金動かすと、ちょお大事(おおごと)になりそうで、嫌やな」
東「して、どういう選別なんだ、それは。とっとと話せ」
すっと手を前に出す東堂。
直「脅すな。……禪院家の尻拭いを次期当主がやる言うてるだけや」
西「どういうこと?」
直「禪院家には、懲罰部屋っちゅう訓練や懲罰用の呪霊を飼うてる部屋があるんよ」
真依「まさか」
直「そのまさかや」
直哉は持っていた紙束を更に2つに分けた。
直「こっちは確実。こっちは……確証はできひんけど、まあ恐らく。……懲罰部屋に飼うてる呪霊と一致してる」
歌「は? じゃあ、禪院家の誰かが逃がしたってこと? なんで」
直「なんで、ってそりゃあ……」
なんてことのないように言おうとして、少し口ごもる。「俺、やろな」
歌「どういうこと?」
直「俺に嫌がらせしたい家(うち)の誰かが、こないなことしたんやろ。禪院家の失態として処理されれば、俺の責任になる思うとるんやない? 俺、当主ちゃうのにな」懲罰部屋やって閉じ込められて以来行ってないっちゅうねん、と束をペラペラと捲りながら悪態をつく。
真依「え、閉じ込め……?」
真依の反応を見て、顔を上げる直哉。
直「あ? なんや、そこは真希ちゃんに聞いてへんの。これ、潰されたん、懲罰部屋やで」
これ、と言いながら右腕と右足を指す。
加「……貴方は禪院家の相伝術式を継ぐ、直系の次期当主ではないのか?」
直「『ハズレ』やし、『候補』やけどな。っちゅうか、直系相伝やったとして、そんなに待遇って良いもんやなくない?」と加茂に返す直哉。
加茂は、まあ、そうだが……と濁す。
東「それが禪院家の失態だったとして、何で京都高専(うち)にばかり依頼が集中しているんだ?」
直「それは……それも、俺、やろな」
と言いながら真依を横目で見る直哉。
真「え、私?」
直「表向き、俺らは”婚約者であることを公にせず隠している”ことになっとるやん?」
西「ややこしいわね」嫌そうに直哉を睨みつける。
直「ほな、ついでに俺の婚約者である真依ちゃん怖がらせたろー、ってことやと思うわ。1級、2級がの案件が直接振られることはなくとも、そっちに東堂君や加茂君が行ってまうなら、真依ちゃんやっていつもより危険な、例えば4級や3級に1人で行くとか、はあり得るかもしれへんやん? 元々真依ちゃんはあんま家に立てついてへんし、ちょっと泣かせたろかなくらいやと思う、けど」
また、真依を見て、目を逸らして、ため息をついた。口元を隠すように、顎に手を当てて言う。
直「……あの家で1個武器になるかな、思うたけど、余計なことやったかもしれんね」
独り言のように小さな声で直哉は言う。
西宮は困惑して真依を見た。真依もまた、動揺しているようであった。
周囲の困惑をよそに、口元に手を当てて、思案モードに入る直哉。
直「まあ、この関係は解消した、ってことにすればええか。元々火のないところに無理やり煙立たせてただけやし。折檻は俺が甘んじて受ければ問題な……いや、それやと真依ちゃんが俺の弱みってことになってまう、か?」
歌「ちょっと待って!」
思わずがしっと直哉の手を取ってしまう歌姫。びっくりして顔を上げる直哉。
直「何?」
歌「いやもう、聞きたいことは山ほどあるけど! 折檻、って何!?」
直「……折檻は、折檻やけど」殴られたり蹴られたり、と何を聞かれているのか分からない顔をする直哉。
真依「それって、私を庇うからってこと?」
自身を庇って殴る蹴るをされる真希を思い出し、反論する真依。
直「はあ? 何、真依ちゃん殴られたいん?」
真依「それは……」
嫌だ、と思い言いよどむ真依。西宮が直哉を睨みつけた。
直「やろ? 真依ちゃん痛いん嫌いやもんな。で? さっきの言葉は何の意味があるん? 代わりに受けたるって気概があるわけやあらへん、言うだけ言うて痛いの嫌やーって、いい子ぶりたいだけの行動に他人を利用すんなや」
西「ちょっと、元はと言えばアンタが」
直「そうやで? 兄さんや叔父さんが痛め付けたいんは、俺や。俺が強なって傷一つ付けられんようになったさかい、俺がちょっとでも関わろうもんなら難癖付けて周りに当たり散らしてるだけ。せやから俺が受けたる、言うてんねん。どうせ痛ないし、怪我しても反転で治せるし」愛しの硝子ちゃんの手間は取らせんで、安心し、と歌姫に言う。
歌「そんなこと言ってないわよ!」
直「これも、懲罰部屋の3分の1かそこらや。俺は1回懲罰部屋空にしたことあるし、俺1人で問題あらへん。なんならこの後また空にすることになるんやない? 一緒や一緒」
話は今度こそ終わり、と言わんばかりに立ち上がろうとする直哉。
加「貴方は、私が誰なのか忘れているのではないか? ……禪院家次期当主、禪院直哉」
直「あ?」
加「私は加茂家次期当主、加茂憲紀だ。その件、貴方が1人で処理しようとするのなら、黙っていない」
直「……加茂憲紀はん。もしかして、脅してはります? 嫌やわあ、よう知ってはりますやろ。……保守派のジジイ共が、俺のこと、何て呼んでんのか」
加「さあ」
直「『呪詛師』。君の首でお上の言う通りにしたってもええんよ? 得意そうやね、って良く言われますさかい」
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