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以下メモ
直哉が右目を失明、右腕・右足が思うように動かない設定。
右目は黒い眼帯をしている。右腕・右足も書生服の下で黒いアームカバー、レッグカバーをしている。
各欠損は後天性。右目を失明したときは、遠近感を捉えるのにかなり苦労した。投射呪法と相性が悪く、一から鍛え直した。
右腕・右足も後天性のため、うまく動かなくなったその日から呪力の強化と投射呪法で動かしている。
右目が見えないことは見た目の通りみんなが知るところだが、右腕・右足が思うように動かないことを知る人は少ない。
右目失明→右腕・右足怪我となったため、投射呪法を2度鍛え直しているが、0からというわけにもいかないので研究に研究を重ね、効率を求めた。そのせいで術式研究思考になっている。
右目の失明、右腕・足の負傷も全て禪院家での出来事。相伝に嫉妬し目の上のたんこぶと思った兄さん方から、まだ成長段階の10代後半の時に、複数人に囲まれて右目を負傷。右目を負傷して自身で鍛え直している途中で、懲罰房に閉じ込められ、右腕と右足をやられた。
自身を鍛え直すのに必死だったので、真希真依を表立ってはいじめていない。別に手助けはしていないし、男尊女卑思想は植え付けられているし、自身を守るために性格はカスで、真希真依を罵ったりはしているので、真希真依からの印象は最悪である。
次期当主候補ではあるものの、「カタワ(差別語)でビッコ(差別語)でメクラ(差別語)なんだから人脈作りにくらい役に立て」みたいなことを言われ、いろんなところに恩を売るために外の仕事を多くしている。
ある時、狗巻と組んで仕事をすることになった。
五条にはめちゃくちゃに嫌がられたし、真希にもめちゃくちゃに嫌がられたが、どうやら大分素早い呪霊かつ数が多い案件らしい。
呪言のため音さえ聞こえれば文字通り音速の狗巻と、投射呪法の直哉で遠近バックアップし合いながら対処してほしい、というそれなりの理由を付けられて、グッと黙った五条と真希。
禪院家からは、御三家には及ばないものの由緒正しき狗巻家に恩を売っといて損はない、とのお達し。
高専生が高専の斡旋した仕事をして、それに帯同したくらいで恩を売れるかいな、と直哉は思うが反論するだけ無駄なので了承する。
おにぎりの具でしか会話しない狗巻に最初は面食らったものの、人の嫌がることをするために観察眼に長けていた直哉には意外と何を言っているのか分かったので、普通に会話をする。
狗巻も変に神経が図太く、このような話し方をする自分に、クローズドクエスチョンではなくべらべらと、しかも口悪い言葉で話す直哉を面白いと感じた。
真希にこの時の会話を見られていたら、「こんなもんを面白がるな!」と言われていたと思う。
いつも通り口が悪くポンポンと喋る直哉、おにぎりの具で返す狗巻。
狗巻がそんなことを言ってないことくらい分かっているのに、悪口を言われたーと嘘泣きする直哉、言ってないとポコポコ怒る(おにぎりの具で)狗巻。
軽口の応酬(片方はおにぎりだが)をしながら、現場へ向かうことになる。
特別一級と準一級で、直哉が帳を降ろせるので、多忙を極めていた補助監督が帯同しなかったこと。
帯同しなかったので合同での送迎場所と現場の行き来が徒歩だったこと。
一番遠い場所だったこと。
いつもは投射呪法で手足を動かすために、羽織に懐手をして描写を楽にしているが、会話の相性が良すぎて、身振り手振りを交えてずっと会話していたこと。
直哉が意外と繊細で、特別仲のいい(人などそもそもいないのだが)間柄じゃない空間で、黙っていることができなかったこと。
直「音、見えたらええのにな」
狗「じゃこ?」
直「そう、音。狗巻君の呪言が見えたら、投射呪法で加速させて、より速くより遠くへ、ってできるんかなあ、思うて」
狗「すじこ!」
直「いや、たらればの話な? やってみようやなくて。見えへんやないか、音」
狗「こんぶ!」
直「やって見なきゃ分からなくないんよ、俺が見えへんねんから」
狗「明太子! 五目! すじこ!」
直「あん? 狗巻君を抱えて? 投射呪法で走って敵前でぶん投げればいい? いや、中遠距離のメリット消滅してまうやないの」
狗「いくら……」
直「確かに、やあらへん。己の脳みそでもっと考えてから言え」(軽くはたく)
狗「ツナマヨ!」
直「えっ……そないなこと言うてええん? そんな、僕、狗巻君、そないな子やと思わなかったわ……」(泣き真似)
狗「おかか!」
直「言うてへんて? 分かってるわアホ」
直哉も狗巻も悪くない。
強いて言うなら思っていたより相性が良すぎたのである。
そういう積み重ねのせいで、いつもより呪力を消耗した直哉。
他を送り届けている途中で降ろされて、高専まで歩くことになる。
高専の門を潜り抜け中に入ると、誰しもが少し、ほんの少し気が緩む。
その気の緩みが決定打となり、呪力で強化し術式で動かしていた足に、力が入らなくなった。
右足を出した瞬間、身体を支え切ることができず、がくん、と前に倒れた。
直「あ……?」
とっさに左手をつき、地面にはぶつからなかった。が、右ひざを立てて座っている状態から、立ち上がることができなくなってしまった。右足にグッと力を入れようとするが、うまく入らず、わずかに震えるだけである。
右腕は右ひざの上で力無くだらりと横たわり、動かなかった。
狗「いくら?」
狗巻は、突如止まった足音に、不思議になって振り返った。蹲っている直哉が見える。
狗「明太子!」
慌てて直哉をのぞき込む狗巻。
直「大事あらへん、ただの呪力切れや」
狗「こんぶ?」
直「そう、呪力切れ」
呪力切れで歩けなくなる? 狗巻は目を瞬かせた。
(まあ、せやろなあ)
呪力が切れてできなくなるのは、術式の行使だ。己の体力があれば本来なら動けるはず。
パ「棘おかえりー、あれ?」
そこに現れたのはパンダだった。狗巻に隠れて直哉が見えなかったらしい。
蹲っている直哉を見て、指さした
パ「あ、『論外の男』」
直「真希ちゃんは俺をどないな紹介しとんねん」
狗「こんぶ! 明太子!」
パ「え、歩けないの? なんで」
狗「ツナマヨ!」
パ「運んで欲しいって?」
狗「しゃけ!」
パ「硝子のとこ行けばいいのか?」
直「あー、怪我はしてへんよ。呪力切れや」
パンダが直哉と目を合わせた。
パ「呪力切れ?」
狗「明太子……」
直「いや、狗巻君は関係あらへんよ。これは俺が完全にヘマっただけや。……ちゅうわけで今動けへんのやけど、こんなところにいるわけにも行かへんから、運んでってくれへん? その辺のベンチにでも転がしといてくれたらええから」
パンダが目を瞬かせた(多分)。のしのしと直哉の前までくる。
パ「俺、恵からお日様の匂いって言われたことあるんだ」
直「は? はあ」
いったい何の話、とパンダを見上げた直哉。
パ「干し立ての布団と同じ匂いだ」
直「ん?」
今度は直哉が目を瞬かせた。
パ「『論外の男』」
直「禪院直哉」
パ「そうか、直哉! お前は高専の中、散歩したことあるか?」
狗「すじこ!」
(わあ! やあらへん、何やこの流れ)
直「無い、けど」
直哉が高専敷地内をうろつくのは、いい顔されないだろう。五条しかり、真希しかり。他の面々だって警戒するはずだ。真っ直ぐ補助監督室に行って、真っ直ぐ玄関から帰るしかしたことがない。
パ「よし、決定!」
直「いや、何があっ!?」
直哉が問う前にパンダに抱えあげられた。右側をパンダの身体側にして横抱きにされてしまったため、自身の身体を支えられず、ぐらぐらする。
パ「移動式お布団で校内探検だ!」
狗「しゃけ!」
(おー! やない!)
かくしておかしなパーティメンバーが結成されたのであった。
直「ちょお待って、反対にしてくれへん?」
パ「反対?」
直「俺の左手側が、パンダ君の身体側に来るように」
狗「明太子!」
狗巻がジェスチャーで教えてくれる。
パンダは逡巡して、空中で直哉の身体を回転させた。
直「おわっ!?」
パ「こういうこと?」
直「そ、そういうことや」
パ「でもこれじゃ、直哉が前見えないだろ」
一応パンダなりに考えてのことだったらしい。
直「見えんでええよ、別に。右やと身体支えられへんねん」
パ「ふーん?」
狗「すじこ……」
(まあ、怪しがるよなあ)
狗巻は直哉のことを心配しているようであるし、心配の内容も呪力が枯渇すると動かない身体であること、らしいが、直哉は気付かないふりをする。
パ「じゃ、改めて、出発進行!」
狗「こんぶー!」
直「廊下は走るな!」
振り落とされそうで怖いと思い、直哉は左腕で必死にパンダにしがみついた。
パ「何をそんな怖がってるんだよ、直哉の方がよっぽど速いだろ」
投射呪法を使っているところを見たことがあるらしい。
直「アホ、自分で動くのと他人に抱えられんのじゃ全然ちゃうわ」
結果的に高専をうろつくことになってしまった直哉。
(悟君あたりにどやされるなあ)
と思うものの、パンダや狗巻が一緒だから、まあ大丈夫、か? と己を納得させる
パ「直哉はどこ行きたい?」
狗「五目?」
直「いや、ベンチに放っといて、て言わなかった?」
パ「それ以外で!」
直「はあ、知らん。どこに何があるかとか、何も知らへんし」
パ「普通の学校にあるとこならあるぜ。食堂とか、中庭とか、家庭科室とか」
狗「明太子! じゃこ!」
直「その、『普通の学校』の構造を知らへんのよ」
狗巻とパンダは顔を見合わせた。
パ「じゃあ、俺たちのおすすめの場所を紹介してやる! 棘は?」
狗「明太子!」
直「いや2年の教室言うたら真希ちゃんおる……うわっ!?」
(2年の教室に着いて)
真「棘、パンダ。遅かった……は?」
遅かったな、と迎えようと椅子に座ったまま振り返って、真希は目を丸くした。パンダの腕に論外の男が収まっていたからである。
直「よお、真希ちゃん。久しぶりやなあ」
真「直哉、てめぇ何しに来た」
直「や、俺が聞きたいわ」
パ「棘がおすすめの場所だって言うから」
狗「しゃけ!」
直「そうやけどそうやなくてやな」
真「つうか、どういう了見でパンダをタクシー扱いしてんだよ」
甘えた坊ちゃんは自分で歩くことすら出来ないのか? と真希が煽るが、実際今は自分で歩くことが
出来ないのである。
棘「しゃけ!」
パ「よく分かんないけどそうらしいぜ。あと俺はタクシーじゃなくて、お布団な!」
真「いや分かんねえよ」
直「とりあえず……降ろしてくれへん?」
ああ、確かに、とパンダが納得する。
狗巻が椅子を引き、パンダが直哉をそこに座らせた。
直哉は座らせてもらったタイミングを見計らって、左手で右手を羽織の中に突っ込んだ。
直「おおきに」
真希は不快感や嫌悪と、意味がわからないイラつきを隠しもしない表情をした。
真「で?」
直「あ?」
真「自力で歩けねえってどういうことだよ。……棘は?」
狗巻と一緒に任務に行っていたことは知っている。たとえ反転術式で治してもらっていたとしても、怪我をしていないか、真希は狗巻を見た。
一応直哉の特別一級としての実力が嘘ではないことは分かっており、狗巻だって準一級であるため、階級違いの案件だったのか? など訝しんだのである。
狗「おかか」
真「嘘は……ついてなさそうだな」
狗巻は問題ない旨を返した。
狗巻はそのまま直哉を見つめた。
直「呪力切れ」
真「は?」
直「ただの呪力切れや。狗巻君も俺も怪我は無いし、硝子ちゃんのお世話にもなってへんで」
ああ、呪霊はパパッと祓ったで。真希ちゃんや無いんやし。と一言付け加えたせいで、真希の目尻はきりりと上がった。
真「あぁ?」
パ「で、俺(お布団)の登場ってわけ」
真「それが一番分かんねえんだよ」
直「言っとくけど、俺はその辺に転がしといてくれって言うたんやで?」
パ「なら俺という移動式お布団で、校内探検だ! って寸法よ」
狗「しゃけ!」
真「いや分かんねえよ!」
パンダの暴走と狗巻の悪ノリで毒気を抜かれたらしい真希は、直哉への殺気を納めた。
パ「よし、真希も仲間になったことだし」
真「なってねぇ」
パ「次はどこに行くか?」
真「聞けよ!」
パンダに翻弄される真希を眺めながら、このちょっとズレてて強引な感じはパンダの通常運転なんだな、と思う直哉。
狗「こんぶ! 明太子!」
パ「お、ナイスアイディーアだぜ棘! じゃあ出発進行!」
直「うわっ!?」
持ち上げますね、とかの声がけも何もなく持ち上げられてビビる直哉。
焦って左腕でパンダにしがみつく直哉を見て、なんか珍しく面白いものが見れそうだな、と思い溜飲が下がって立ち上がる真希。
直「ちょお待ち。真希ちゃん来るん?」
真「お前がパンダや棘に何もしないよう見張っとかないとな」
直「いや、どう考えてもええようにされてんの俺……やから速いって! 廊下は走るなって何遍言うたら分かんねん!」
狗「しゃけ!」
投射呪法と比べたら全然遅いスピードで走り出したパンダに速いと文句を言う直哉。本当に面白いものが見れそう、と追いかける真希。
パ「ここが中庭! たまに野良猫とかいる」
直「何でそんな嫌そうやねん」
パ「ここが屋上! 本当は入ったらダメらしい」
直「フェンスの方行かんでええからな。……フリや無いで」
狗「明太子!」
直「図書室であんま大きい声出さんとええんちゃう?」
狗「すじこ!」
直「……体育館なら大きい声出してええとかやないんよ?」
パ「真希は?」
真「あ?」
パ「直哉に見せたいところとかないのか?」
真「あるわけねえだろ」
うろつくな、と言う真希。
直「俺が好きでうろついてるわけやあらへん」
と少し疲れた様子で返す直哉。
真「あー、でも腹減ったな。食堂でも行くか?」
狗「しゃけしゃけ!」
パ「よし、じゃあ食堂へ出発進行!」
パンダ君って飯食うんや、と思う直哉。
直「昼時やないけど、食堂やってはるんやね」
カチャカチャとご飯の準備をする音、色々な食べ物の匂いに、この時間でも起きていることがわかる。
パ「任務によっては食事の時間が不規則になることもあるからな。割といつでも開けてくれてるぜ」
狗「明太子、こんぶ、いくら!」
直「ああ、なるほど。寮の食堂も兼任なんやね」
と、食堂に入ったところで会話し、ぐるっと食堂を見渡したところで、パーティメンバーと先に席に座っていた1年3人との目が合った。
真「の……」
真希が釘崎たちの名前を呼び、挨拶しようとした時に、そういえば異様なパーティメンバーなんだった、と思い出す。
一瞬の静寂。
釘「……え、どう言う状況?」
破ってくれた勇者は釘崎だった。
直哉の人数を増やすな、という小言も虚しく、1年のいる場所へ降ろされてしまう。
パンダと狗巻が直哉の両隣に座る。真希が対面に座り、真希の隣に釘崎、虎杖、伏黒が座った。
完全に包囲された形になり、直哉は、はあとため息を吐いた。
釘「で、あの、どういう状況なんですか?」
真「私に聞くな」
真希はパンダと狗巻と直哉に説明を投げた。
直哉は俺にも投げるな、と言う顔をしている。
伏「狗巻先輩と禪院さん、一緒の任務でしたよね?」
釘崎が「伏黒ナイス」といいねポーズを送っている。
狗「しゃけ! ……明太子」
直「メソメソうっさいな。狗巻君は関係あらへん言うとるやろ」
虎杖があれ、と明るい声を出す。
虎「直哉さん、狗巻先輩の言ってること分かるんだね」
確かに、と他のみんなが反応した。
直「あ? 分かるやろ」
馬鹿にしてんのか、と不満な態度も隠さずに言う直哉。
直「それよか、君ら俺のこと知っとるんやね」
一年3人が自分が誰なのか分かっていそうな態度を取るので、気になった直哉が聞く。
伏「ああ……五条先生が色々、言ってるので」
釘「本当に色々聞いてるわよ、『論外の男』」
馬鹿だろお前、と伏黒と虎杖が釘崎の発言を慌てて止めようとする。
直「ちょお待ち。それ出処悟君なん? 自己紹介か?」
人のこと言えへんやろ、悟君やって大概やで? と独り言のようにぶつくさ言う直哉に、ちょっと共感を抱いてしまうみんな。
釘「って、アイツの話はいい! 何がどうなってこうなってるのか、って聞いてんの!」
伏「任務でなんかあったんですか?」
伏黒が狗巻に聞く。自分のせいで、という発言があったからだ。
直「あー、無い無い! ……ちょい俺がやらかして動かれへんようになったさかい、運んでもろただけや」
虎「えっ!? 大丈夫なん!?」
直「問題あらへん。呪力が切れただけや」
パ「で、俺がお布団ってわけ」
伏「お布団?」
パンダに衝撃が走る。
パ「伏黒が、お日様の匂いって言ったのに……」
釘崎と真希が思い出す。
釘「あ、あれか。……いや、どういうこと?」
パ「お前、話をややこしくすんな!」
真希がパンダに殴りかかるふりをする。パンダが暴力反対! と訴えかけた。
直「……俺は、邪魔になるさかい、その辺のベンチにでも転がしといてって言うたんやけど、何や、パンダ君と狗巻君が、校内探検しよう、言うて」
狗「しゃけ! こんぶ、明太子、いくら!」
伏「それで、最初に2年の教室行って、真希さんと合流したんですね」
なるほど、の空気が流れた。
釘「いや、なんで!?」
伏「初手で真希さんのところは特攻過ぎるでしょう」
真「おいこらどういう意味だ恵」
虎「呪力って切れると動けなくなるんだ」
虎杖の言葉に、一瞬時が止まったように静かになった。
虎「あれ、俺変なこと言った?」
伏「言わんとすることはあってる。俺もそこ、少し引っかかったんですけど」
直哉が、まあそうなるよなあ、と思ったところで、ぐう、と腹の虫が鳴いた。
虎「ごめん、俺」
真「そうだった、腹ごなしに来たんだった」
釘「とりあえずなんか食べません?」
学生たちが食券の方に動こうとするのを、直哉が止めた。
直「ちょい待ち」
左腕だけで器用に懐手をして、財布を取り出す。
虎杖が戻って来たので虎杖に無言で差し出した。
虎「え……えっ!? いいの? えっ、全員分!?」
伏「そんなつもりじゃ」
狗「おかか!」
真「あ? 恩でも売ったつもりか?」
直「こんな端金で売れる恩なんかないやろ。……ないやんな?」
高専生ってそんな貰われへんの? と暗に心配するようなことを言われて、慌てて全員で否定した。
直「ならはよ行ってき」
左手でシッシッと追い払うように動かす。
戸惑う一年を見て、真希が虎杖から直哉の財布を奪った。
真「お前ら、一番高いやつ選べよ」
直「食いたいやつ選べアホ」
みんな各々ああだこうだ言いながら食券の前で選んでいるっぽいのを左腕で頬杖をついてぼーっと眺めている直哉。
するとそこに虎杖が戻って来た。
虎「直哉さんは?」
直「ん?」
虎「なんか食べんの?」
直「いらん。腹減ってへんし」
虎「えー。じゃあ、なんか飲み物とかは?」
直「気ぃ遣わんでええよ」
虎「コーヒーは飲めんの? お茶のが良い?」
直「耳聞こえて無いん? ……ああ、もう何でもええ」
虎「うん、分かった」
ニコッと笑ってまた学生たちの輪に戻っていく虎杖。
虎杖が狗巻に一言二言話しかけ、狗巻が「しゃけ!」と言いながら敬礼して駆けていった。
(あ? 食堂(ここの)や無いんか)
しばらくして、各々盆を片手に戻ってくる。
(学生、胃腸強……)
今の時間帯、昼時には遅く、夕飯よりは早い時間だ。おそらく、これは夕飯前の軽食のはずだ。
見渡す限り、ラーメン、うどん、蕎麦、チャーハン、サンドイッチ……。
デザートまで付いている。
狗巻も戻って来た。虎杖が片方の盆を狗巻に渡した。
狗巻が持ち帰りのコーヒーの容器を直哉に手渡す。
狗「こんぶ!」
直「おおきに。なんや、わざわざ買って来てくれたん?」
虎「補助監督室の方に、自販機があって。狗巻先輩足早いから持って来てもらった!」
ありがとう、先輩、と虎杖が狗巻に言う。狗巻は「おかか」と返した。
ちなみに財布は伏黒が返してくれた。
伏黒と狗巻と虎杖からは、改めてごちそうさまです、と言われた。
直哉はコーヒーを啜りながら、ワイワイしながらあっという間に消えていく食事を眺めていた。見ているだけで胃もたれがしそうである。
伏「で、話の続きなんですけど」
大体みんな食べ終わったタイミングで、伏黒が切り出す。
飲んでいたコーヒーを直哉はトンっと音を立てて置いた。
直「しつこいな。もうええやろ」
真「って、言うことは、言えない何かがあるってことか?」
直「その質問は、術式の開示を求めてるのと同等。これ以上言うことはあらへんで。君ら、失礼なことしてるって自覚あるん?」
もちろん、嘘では無いが正しくは無い。
なぜ呪力がないと動けない、に術式の開示が関わるか、というと、動かない身体を術式で動かしているから、にほかならないからである。
そう言われると黙るしかない学生たち。
直哉の懐で、スマホが震える音がした。先ほどからずっと鳴っているのである。
パ「出なくて良いのか?」
直「君らがいるから出られへんの。守秘義務があるさかい」
真「じゃあお前がどこか行けばいいだろ」
動けない理由を話せ、という話を蒸し返す真希に、直哉は盛大に舌打ちした。
無視して、左腕で懐手をして、スマホを取り出す。
番号からして禪院家の兄さんか叔父さんかということがわかったので、そのままブチ切る。
が、3秒も経たないうちに、再度かかって来た。
思わず大きなため息が出る。
(まあ、ええか。どうせ大した内容やあらへんし、聞かれても)
と思い、電話に出る直哉。
「はい」
『おい、いつまで油売ってんだ? お得意の術式とやらで早く帰って来いよ』
「それが用事なんやったら切るで」
『ああ? 舐めた口聞いてんじゃねえぞ。お前が職場放棄してる分、俺たちが迷惑してんだよ。どう落とし前つけてくれるんだ?』
「いつどこで僕が職場放棄したんやろ。兄さん方の自己紹介やったらよう知っとるさかい、いらへんで」
『何、上から目線で話してんだよ。勝手に当主面してアレコレ指示出しやがって。お前が行くとか言ってた案件、俺たちは行かねえからな』
「足手纏いになるさかい来んでええ」
『調子に乗んなよ。相伝っつったってハズレの癖によ。ああ、今東京だっけ? そっちに十種のガキいるよな? お前、そのガキより下だもんなあ、可哀想に。……もしかして、そいつのこと殺しに行ったのか?』
ピクリ、と動くが直哉は何も発しなかった。
効いてると思ったのか電話口の兄さんはさらに続ける。
『あっはは! 惨めだなハズレ術師殿は。今までずっと当主面してたのに、10は歳下のどこぞと知れんガキに当主の座を掻っ攫われるんだもんな? お前はハズレなんだ。普通の仕事くらいこなしてくれよ? それとも何だ? またあん時みたいに、どっか潰れねえと分かんねえか?』
直「はあ、兄さん方も可哀想に」
『あ?』
直「俺が『アタリ』やったら良かったのになあ」
『はあ? それはお前だろ』
直「俺が『アタリ』の術式やったら、今頃兄さんが次期当主候補の筆頭やったかもしれへんもんねぇ。残念やったなあ、俺が『ハズレ』のばっかりに」
右目と右腕・右足を潰されたことを暗に言っている。
十種であれば、右腕を潰された時点で、ほとんどの印が結べなくなるからだ。
『あれは事故だ』
直「そうやった、そうやった。『事故』やったね。……ええか? 兄さん方はその『ハズレ』に負けたんや。それも一度やない、"三度"やで。……身の程を弁えや」
兄の話を聞く意味はない、と今度こそぶち切った。スマホを机の上へ放り投げ、左手で額を抑えて、小さくため息をついた。
直「……アホくさ」
思わず独り言を言った後、ふと顔を上げると、1年も2年もそろってこちらの顔を見ていることに気づいた。
疲れからか、途中で周りに人がいることをすっかり忘れていた。
直「何や、見せもんちゃうで」
左手でシッシッと目線を追い払う。が、そんなので追い払えるわけなく、直哉は顔を顰めた。
虎「ねえ、直哉さんは右目、見えてないん?」
直「あん? まあ見ての通りや。見えてへん」
パ「右じゃ身体支えられねえ、って言ってたよな?」
狗「しゃけ」
最初、抱き上げた時、とパンダが言う
直「……」
真「動けねえ、とか言ってんのは、足もってことか?」
直「あんなあ、君らに関係ある?」
五「それ、僕も知りたいなあ」
バッとみんな振り返ると、五条が入り口に立っていた。
釘「何でここに」
五「それは僕の台詞。1年も2年も自習って言ったのに、教室に誰もいないんだもん」
学生たちはみんなして目を逸らした。
虎「ごめん、先生」
五「みんなして楽しそうじゃん? 仲間外れにしないでよ。……で?」
五条がヘラヘラしながらみんなの机まで移動した。
無理やり押し込むように、真希と釘崎の間、直哉の目の前に座り、そして、その笑みが消え、直哉を見た。
五「なんでその中心がお前なの」
直「さあ、知らん。悟君の人望が無いんやない?」
五「話を逸らすなよ」
直「逸らしてへんよ。生徒取られた嫉妬やったら、取ってへんし、熨斗付けて全員返したるわ」
みんな教室戻りー、と軽く言う直哉。
五「お前がどっか行けば? 部外者何だし」
パンダや狗巻が弁明しようとしたが、真希が止めた。五条がいつになく突っかかっているように見え、流れ弾がこちらに来かねないからだ。
直「ここって立ち入り禁止やったん? 知らんかったわ。ごめんちゃい」
五「直哉」
五条が意図的に呪力を直哉に向け、プレッシャーをかけている。
直「は」
直哉は蛇に睨まれたカエルのように、息が詰まった。
周りの学生もそのプレッシャーに動けなくなった。直哉の背中を冷や汗が伝った。
それでも目を逸らさず、五条のことを睨みあげる。
さらに五条はプレッシャーを上げようとした。その時。
伏/虎「「五条先生!!」」
伏黒と虎杖が、五条を呼ぶ。それ以上はダメだ、と言うように。
パッと呪力によるプレッシャーが止む。
直哉はハッと息をつくと、支えきれなくなった身体がぐらっと揺れた。
咄嗟に両隣のパンダと狗巻が倒れないように支える。
真「……やりすぎだろ」
五「ごめんごめん⭐︎ こいつ強情だからさあ」
てへぺろ、とかわいこぶる五条。
五条に押し出された伏黒は、対面の狗巻の隣に座っている。
伏「禪院さんは今、呪力切れを起こしてるんですよ。防御もできない状態でそれは、余りにも毒だ」
五「そうそれそれそれ!」
注意されたのに、明るく声を上げる五条。
五「お前今どうなってんの? つか、いつから?」
直「……なんで、悟君に教えなあかんの」
五「もっかいやろっか?」
直「……」
五条から見て対面の、パンダと狗巻と伏黒が、直哉を庇うようなそぶりを見せた。
五「は? なにそれ」
虎「ごめん、先生。今は俺もあっち」
と伏黒たちを指さしながら、嗜めるように笑う虎杖。
五「ちょっと待って!? 直哉だよ!? 僕の方がグットルッキングガイで人望もあるでしょ!?」
野薔薇と真希は僕の味方だよね? と言う五条。
真「…………アイツが禪院直哉じゃなければお前に
味方する理由もない」
釘「真希さんがアイツに敵対してなければ、以下同文」
五「ちょっと!?!? 泣くよ!? 28歳泣き喚くよ!?」
ひとしきり泣き真似をした後。
五「で、落ち着いた?」
直「誰のせいでこうなったと思っとんねん」
五「メンゴメンゴ⭐︎」
直「何やったっけ」
五「ああ、いつから?」
直「その、いつから、って言うのが分からへんのやけど。何を指して言っとんの」
五「うーん……いつから……そんなに、弱くなったの、お前」
直哉が黙って左目を細めて、軽蔑の目で五条を見た。
学生たちが席を立ち、パンダが直哉を抱え上げようとした。
五「違う違う! ちょっと待ってってば! これでも言葉選んだんだよ、僕!?」
釘「にしてもデリカシーってもんが無さすぎるでしょ」
五「つーか、それもこれももったいぶってるコイツが悪いでしょ!? 最初から最後までパパッと話せよ」
真「……撤収ー」
はーい、とみんないい返事で立とうとする。
ちょっと、と五条が止める中、当の本人である直哉がぼそっとつぶやいた。
直「……そもそも、悟君もみんなも、何でそないに気になるか、が分からへん」
別に俺が動かれへんようでも、ほっといたらええやん、
煽りではなく、本気で困惑してるっぽい直哉の言葉と表情に、みんな座り直す。
直「いや、なんでやって聞いとんのやけど」
釘「え、だって、そんな迷子みたいな顔されたら」
直「してへんよ。10は上の男捕まえて何言うとんのや君は」
虎「やー、正直ちょっと、電話の内容聞こえちゃったから……」
申し訳なさそうに人差し指で頬をかく虎杖。
直「真希ちゃんからよう聞いとるやろ。禪院家はアットホームで楽しく笑い声が絶えない家やって」
真「どこがだよ」
真希が苦虫を噛み潰したような顔をする。
五「直哉」
今度の言い方は、まるでワガママを咎めるような少し柔らかい言い方だった。
直「……言われへんよ。五条家当主が、禪院家次期当主、候補に聞いてんのやったら、言われへん」
今度は五条が押し黙った。
直「さっきの、何遍でもやったらええわ。……真希ちゃんやって、今やったら俺、殺せるで? 好きにしたらええわ」
真希がびくりと身体を震わせた。直哉は目を瞑る。しばらくして、誰も何も発さず動かないことを確認して、目を開けた。
直「なんや、やらへんの」
真「……こいつら全員敵に回してか?」やらねえよ、と吐き捨てた。やるなら正々堂々表から道場破りしてやる、と。
五条はゲッ、という顔を隠さなかった。
五「お前のことだから圧かけたところでマジで死ぬまで言わねえし、何なら棘に呪言で命令させようものなら、自分で声帯ブチ切るでしょ」
狗「こんぶ!?」
直「よお分かっとるやないの。さすが幼馴染やわ」
五「誰が誰の」
と嫌悪感をあらわにしようとした瞬間、五条は止まった。そうか、幼馴染。
五「分かった」
直「ん?」
五「……幼馴染、として聞いてる」
直「は?」
五「5だか6だかからの、直哉の幼馴染の悟として、聞いてるって言ってんの!」
直「初対面やったらもうちょい前やし、そんな歯噛みして言うもんちゃうで」
釘「五条先生……」
こいつ、役に立てよ、という態度を隠さない釘崎。
真「じゃあ私も、従姉妹の真希として聞いてやる」
直「従姉妹の真希ちゃんやったら、余計言われへんの!」
真「……つーことは、やっぱ家が関係してんだな。高専生の真希として聞くわ」
つ、と直哉が目線を逸らすと、伏黒と目があった。
伏「俺も、高専生の伏黒恵として聞きます。というか、お家騒動に巻き込まないでもらえますか?」
直「それは俺やなくて、パパに言うてな」
伏「言っといてくださいよ」
直「俺が謁見して物申すより、恵君が直接言う方が早いって言うてんのよ」
まず会うてもらえるかどうか、からやし。と直哉が言うと、めんどくさい家だ、という顔を伏黒がした。
五「は? 直琵人、お前を目に入れても痛くない、くらいに可愛がってたじゃん」
直「そのせいで末の息子の目が潰されたんやー、って反省したんとちゃう? ……まあ、今は、別のモンにお熱やし」
と伏黒を見る。伏黒はますます嫌そうな顔をした。
五条は意味がわからんという顔をしている。
五「直哉、やっぱ意味わかんねえって。最初っから話せよ。高専にも来なかったし、その辺の話から、全部」
直「今来てんで」
五「学生として入学してこなかっただろ! って言ってんの!」
直「御三家の人間は普通、高専通わんの。悟君が特殊なんよ」
虎「へー、じゃあ加茂先輩も珍しいんだ」
パ「まあ、悟や加茂みたいな存在の方が珍しくはある」
五「僕、仕事投げ出して来てるんだよね」
直「ほお、そうなん。職務怠慢やで、先生。職員室戻り」
五「多分、そのうち伊地知が探しにくるし、七海もくるかも。お前が動けないって言って、硝子も呼んでこようかな」
直「増やすな、人を」
五「そう。増えるの。今が最小人数だけど、どうする?」
はあ、とデカいため息をつく直哉。
もう言わないと解放されないな、と思う。
まあ遅かれ早かれ気付かれる問題だとは思っていたし(むしろよく今まで誰にも気付かれなかったな、と思う)禪院家の評判も今更だ。
自身の現在の強さにも、言った言わないで支障はないだろう。
直「……別に、楽しい話ちゃうよ?」
五「うん」
みんな静かに頷いた。
直「でもどこから、というか、何を話せばええんやろうか」
五「直哉が今、何でそうなったか、の始めから?」
釘「言葉が足らな過ぎる」
真「そういえば思い出したんだけど、昔は見えてたよな? 右目」
五「ああ、そうそう。15と16とか、そんくらいだよな? それ」
直「せやね」じゃあ、そっからにしよか、と直哉が話始める。
直「まあ結論から言うと、兄さん方にやられたんやけど」
五「お前、弱えけど、あんな奴らにやられるほど弱くはねえだろ」
直「それ褒めてるん? 残念やけど、弱かったんやで。今より弱いし、全員で寄ってたかって来るから、まあ押し切られてしもうたわ。多分兄さん方は、両目潰す気やったんやないかな? 目見えへんかったら俺の術式は能無しやから」
釘「それ、何もなく急になわけ?」
きっかけとかあるのか、と釘崎が聞く。
直「俺が高専に行くって言うたから」
五「えっ」
直「悟君が高専行って、お前も来たらって言うてくれて。別に東京でも京都でも良かったんやけど、言うてみたんよね。当主(パパ)に。了承されたんやけど」
虎「それでなんで、目潰されなきゃなんないんだよ?」
直「俺が馬鹿正直に叔父さんも兄さん方もおる前で宣言したからやね」
虎杖が頭の上に「?」を浮かべる。
直「そっから先、何も聞いてへんけど、まあ、粗方『当主から二つ返事でワガママが許されてんのがムカつく』とか、『俺らの拳が届く範囲にいないのがムカつく』とか。『俺が家でやってた仕事が全部兄さん方に回ってくるのがムカつく』とか。『五条家に取り入ろうとしている』とか。そんなもんやない?」
虎杖がそんなことで、と独り言のように発した。彼もまたかなりの境遇である(そもそも成り行きとは言え『宿儺の器』であるし)と聞いているが、そんなこと、と思えるのだな、と直哉は思った。
直「まあそんなこんなで、訓練中の事故ってことで右目潰されて、経緯が経緯やから反転術師も医者も呼ばれず、手遅れ(こう)ってわけや」
直哉は左手で右目を指さした。
直「さっきも話したけど、俺の術式、投射呪法は目が見えるって言うのが重要やさかい。片目潰されて遠近感狂ったら、なんもできんようになって、ほんま参ったわ。兄さん方の狙いは大成功、ちゅうわけやな、多分、目潰れてすぐの俺、今の真希ちゃんより弱いで」
けらけらと真希を煽るように笑ったが、真希は眉間の皺をわずかに深くしただけだった。
真「で、他はどうなんだよ。目だけじゃねえんだろ」
右腕を指さして真希が言う。まあ、右腕は分かるよな、と直哉は思った。
直「こん時は目だけやで」
真「あ? こん時?」
直「そ。右目使いモンにならへんようになって、術式使えへんようになって、必死こいて、まあどうにか準二級くらいまで戻した時、くらいやったかな。多分、成人はしてへんかったと思う。こん時は理由、なんやったっけなあ。まあどうせくだらん理由やと思うけど。閉じ込められたんよね、懲罰房に」
真「なっ」真希が驚きに目を見開く。
パ「懲罰房?」
真「……懲罰やら訓練やらに使う、二級一級レベルの呪霊がうじゃうじゃいる場所だよ」
周りも息を呑んだ。
直「兄さん叔父さんに、まあなんかの罰や言うて閉じ込められて。今やったら大したことあらへんのやろうけど、まだ本域やなかったさかい。全部倒したころには、右腕と右足がよう動かされへんようになってた」
真「それってクソ親父……扇も関与してんのか?」
直「まあ、せやね。ちゅうか、扇の叔父さんが一番俺のこと嫌っとるんちゃう?」
狗「明太子、こんぶ、いくら」
直「ああ。右腕と右足、普段は呪力で強化した上で術式で動かしとるんよ。だから、呪力が切れると動かれへんってこと」
長々話してもうたけど、皆はここが聞きたかったんやんな? と軽い口調で言う。
釘「え? どういうこと? 最後の最後で置いていかれたわ」
虎「えっと、動かない、んだよな?」
直「全くやないけど、そやね。自力じゃ力もほとんど入らん。痛覚やら触覚やらは鈍いけどあるし、頑張れば指先くらいは動くやろか」
パ「目で見えてれば、手足動くってことか?」
直「あー……うーん、まあええか。投射呪法は、簡単に言うと、俺の視界の範囲で、俺が考えた動作を術式の発動と共にトレースする、ってやつなんや」
ここまでは分かるか? と直哉が聞くと、学生たちは頷いた。
直「もちろん、魔法やあらへんから何でもかんでもはできひん。物理法則に則る必要があるし、俺の身体で理論上再現できることやないと動かれへん。手から翼が生えて飛ぶーとか、無下限呪術を再現するー、とかは無理、っちゅうことやな」
直哉が無言で学生たちと目を合わせると、学生たちはうん、と頷いた。
直「単純な話、それを右腕と右足でやってんねん。立つ、歩く、手に取る……全部」
伏「……つまり、日常生活を送る上で、常に動作を考え、術式を組み立て、発動している、ってことですか?」
直「さっきからそう言っとるやろ」
真「そんなこと可能なのか?」
釘「”理論上”可能、ってことなんですかね」
五「僕を化け物扱いするけど、お前がやってることも相当化け物染みてるよ」
直哉は不思議そうに首を傾げた。
直「悟君みたいに自然回復する呪力で自動的に、とはいかへんで。六眼があったらできるんやろうか。……うーん、いや、無理そうやな。呪力量の調整はできるけど、術式と相性が悪い。どうしてもその場の判断と想像が必要やから、自動化は難しいか」
動く左手を顎に当て、思案のフェーズに入ってしまった。
直「……無意識下の思考による発動、とかならできるんやろか」
釘「哲学?」
虎「……電話の内容って聞いてもいい? 『アタリ』とか『ハズレ』とか」
伏「虎杖」
直「これも単純な話、そっち(恵)が『アタリ』、こっち(直哉)が『ハズレ』」
伏黒が気まずそうに目を逸らす。
虎「それがまず分かんないんだよね。直哉さん、強くない?」
五「投射呪法が強く見えるのは、当世の遣い手である直毘人と直哉が、稀代の遣い手だから、だね」遣い手のセンスにかなり左右されるし、かなりシビアだし、使い勝手の悪い術式だよ、と五条。
直哉は信じられないものを見る目で五条を見た。
五「何、その反応」
直「いや……悟君が、褒めはるから」悪いものでも食うた? と直哉が続ける。
五「歴代の投射呪法の遣い手と比較したら、お前ら2人の練度が高いのは事実だろ」
直「や、まあ、そう……かも、しれへんけど」
五「伝統、希少性、単純な術式比較での強さ。禪院家の相伝で、十種がアタリで投射呪法がハズレとされるのは、まあ、そういうことだね」
直「悟君に言われんのはなんや癪やけど……ま、異論は無いな。『表の話』は」
真「表?」
直「なんや、真希ちゃん知らんの。……投射呪法は、元々どちらかというと補助の呪法やったんよね」
釘「補助……逃走とか?」
直「まあそんなところや。これをアタッカーとして拡張した人がおる。俺やパパの前に」
虎「へえ、誰?」
無邪気な聞き方に、白けた目を向ける直哉。
直「……投射呪法って、犯罪に向いとるんよね」
五「自分で言うんだ」
直「しゃあないやろ、事実やし。窃盗、侵入、逃走はもちろんやけど、何より殺人に向き過ぎてる」パッと忍び寄って、心臓にひと突きしてまえば、終いやからな、と直哉が言う。
非術師相手の殺人に、あまりに向いているのだ。
直「御三家の相伝に新たに組み込む、っていうのは、そういう抑止力もあんねん。禪院にはすでに十種という伝統的で希少で強大な相伝があった。犯罪に使われ呪詛師を産まんよう、投射呪法を引き受けたんや。今でこそ、真希ちゃんが知らんように、相伝術式の1つでしか無いけど、そういうところを気にする輩は、上には多いんやで」
五「上層部との会合で、ジジイから『呪詛師』って呼ばれてたことなかった?」
直「あったあった! ホンマ最高速度で殴ったろうかと思ったわ」
五「本当に呪詛師になっちゃうからやめてね」
とんでもない話でキャッキャとはしゃぎ出す大人たちにドン引きする子どもたち。
直「お上からの印象も悪い、ハズレの癖に補助の癖にと難癖付けられて誰も着いて来ん。そういう術式なんよ、投射呪法は。せやからせいぜい縁繋いで来い、言われるけど、せやったら目ぇ潰さんと高専入れてくれたら良かった話やねん。ほんまアホくさいわ」そしたらもっと悟君と仲良うかったかもしれへんのにね?、と言うと、五条はあからさまに嫌そうな顔をした。
真「直毘人、現当主だって投射呪法だろ」
直「そうやで? やからこうなっとるやんか」
直哉が右目や右腕、右足を指し示した。
釘「何それ、報復ってこと?」
直「報復っちゅうか、パパには勝たれへんから、寵愛を受けてる末息子をいびったろ、くらいの感じやない?」
虎「いびるって……」
いびる、のレベルを超えていると思う虎杖。
直「まあ、パパは、そういうところはちょっと疎いからなあ。自分が当主で、投射呪法の相伝を持っているという影響力を、良くも悪くも考えとらんというか、ドライというか……。せやから俺も、その”前”も、あんなことがあったんに、同じ相伝の息子に、当主まがいの越権行為されとっても、自分の仕事やってくれて楽やわ、くらいにしか思うとらんのやろ」
俺にとっては面倒やなくて、いいけどな、と直哉は言う。
真「確かにお前は当主でもねえのに威張ってたよな」
直「威張ってるんやあらへん、仕切っとんのや。……ちゅうか、真希ちゃん。と、真依ちゃん。他人事ちゃうで?」
真「はあ?」
直「高専。入れてもらえたやろ。卒業までにその笑けるぐらい弱いん、なんとかならんのやったら、帰ってきたらあかんで。禪院の名前も捨て」
真「何でお前に指図されなきゃなんねえんだよ」
直「吠たえなや。投射呪法の相伝を持つ現当主に高専入りを許された。連中に餌与えんのに十分すぎるほど十分や。その結果がこれ(俺)やからな? もし、俺が当主になっとったって同じやで。俺が中途半端な力しか持たんときに、気まぐれで撫でた野良猫が、面倒で粗相を見逃した女中が、どうなったかなんて知らへんやろ。自分の身一つ自分で立てられん奴は禪院には要らん。雑魚は死んだらええ。誰かが手助けせなアカン奴なんて、遅かれ早かれ死ぬんや。気まぐれで手差し伸べたって何の足しにもならん」
ギリ、と真希の歯が鳴った。意味深に直哉が目を逸らす。
直「まあ、でも、真希ちゃんが心入れ替えて、女としての務めを果たす、言うんやったら考えたってもええよ? 幸い、兄妹やなくて従妹やし。そやなあ、指南受けたいんやったら、真依ちゃんにでも聞いてみよか」
真「てめぇ!」
真希が机に乗り上げて、直哉の胸倉を掴んだ。釘崎も直哉を睨んでいる。
パンダと狗巻が立ち上がり、とっさに控えめに真希の手を掴んだ。
直「で、殺すん? さっきから言うとるけど、俺はええで、別に。禪院家にとっても、ハズレの相伝と呪力も持たんガキが死ぬんやったら、本望やろ」
五「はい、ストップー。そこまで」
場にそぐわないほど明るい声で五条が言った。緊張感のかけらもないが、そんなもの呪力が切れている直哉と、呪力のほとんどない真希を止めるのであれば、いらないと暗に言っているのだ。真希はしぶしぶ胸倉を話した。よろけながら、直哉も席に座り直す。
真「お前が止めんのかよ」
同じようなことやってただろ、と真希。
五「まあまあ、それはそれ、これはこれ。何死に急いでんの? 直哉」
直「急いでへんわ」
五「あっそう。死にたいのかと思った」
直「別に、死にたいも生きたいもあらへんやろ。この世は強いか弱いかや。俺より強い奴がおるんやったら、俺の生死は俺の手中にあらへん」
自分自身への諦めと、それでも諦め切れない気持ちと、五条を強者と憧れる直哉の瞳が五条を見た。五条が口をひくつかせる。
五「……お前の、その酔狂は一体何なんだよ、昔から。気持ち悪い」
直「何が」
直哉本人は「?」を浮かべている。
五「まあ、それは置いといて。今の直哉だったら真希に殺せる、と僕も思うよ。でも、今殺されちゃ困るんだよね」
伏「今じゃなくても困ってくださいよ」
直「時期とか関係あるん?」
五「端的に言うと、『禪院の男』としての直哉は、認めてるんだよ、僕」
直「あ?」
素直に喜べないような内容に聞こえ、目を細める直哉。
五「褒めてるのに! ……じゃじゃん! ここで問題です! 呪術界で組織だった団体のうち、呪霊討伐数及び総合討伐順位が1位の組織は、いったいどこでしょう! はい、回答者悠二!」
虎「えっ俺!? えー、えーっと……高専?」
五「東京? 京都?」
虎「えっと、はい! 質問!」
五「許そう」
虎「ナナミンとか猪野さんは東京高専扱いになんの?」
五「そうだね。学生でも教師でも無いけど、所属は東京高専預かりだよ」
虎「教師ってことは先生も?」
五「鋭い! そうだね、僕の討伐数は東京高専でカウントされているはず」
虎「じゃあ東京高専(うち)で!」
五「ファイナルアンサー?」
虎「ファイナルアンサー!」
五「ダカダカダカダカジャン! 残念、不正解! 正解は」
五条が直哉を見る。
五「禪院家、でした!」
えっ、と学生みんなが驚く。
直「……真希ちゃんは驚いたらアカンやろ」なんで知らないん? と呆れたように言う直哉。
真「いやだって、そんな印象無くて」
五「そう。本当にここ数年前までは、悠二の言う通り、東京高専だったんだよね。だって僕いるし、学生の頃からずっと。それが数年前、ガッと勢いを伸ばした禪院家に抜かれた。数年前、直哉が炳の筆頭になって、現場の陣頭指揮を執るようになってから」
皆で直哉を見る。直哉ははあ、とため息をついた。
直「そんな大層なもんやあらへん。雑魚は雑魚らしく雑魚狩りに勤しんでるだけや」
五「そう! 特級討伐数はさすがに東京高専、というか僕が一番だけど」流石僕! と笑う五条。
直哉がいらんことを言う五条を睨んだ。
五「四級が三級、三級が二級、と育つ前に討伐される数が圧倒的に増えたんだよね。万年人手不足の呪術界では、雑魚のうちに狩るというのが中々できなくて、いつも後手後手に回っていた。それが少しでも解消されるのなら、こんなにありがたいことは無いよ」
虎杖がへえ、直哉さんすげえ、と感嘆の声を漏らした。
五「多分、直哉が今いなくなったら、その組織力もガタガタになるだろうね。あぶれた案件は東京か京都の高専に回ってくる。五条家は僕以外正直役に立たないし、加茂家も相伝は京都高専にいるし。……結論! 僕に迷惑が掛かるから、もうちょっとやって欲しい!」
直「買い被り過ぎや。俺がおらんようになっても、甚壱君辺りがどないにかするやろ」
俺より人望あるようやし、と少し拗ねたように言った。
五「人望と統率力は、禪院家(あそこ)の場合比例しないと思うんだよね」
釘「でも、それでいいわけ? そのクソみてえな家にこの男はずっと居ろってこと?」
釘崎が直哉を指さす。気遣っているのかそうじゃないのか分からない言い方だ。
直哉が不思議そうに首を傾げた。
直「え、俺、禪院家(うち)が嫌なんて言うてへんよ?」
釘「はあ? どう考えてもヤバいでしょ。右目と腕と足潰されて?」
直「そうやけど……???」
「???」と直哉の頭の上にはてなが飛んでいたが、やがて、「ああ」と納得した。
直「なんや、前提がちゃうんかな。……あんな、釘崎ちゃん、やっけ? 俺の人生は、『禪院家当主になる』か、『死ぬ』かやで」
左手の指を1本ずつ立てて言った。
釘「そんなこと」
直「あるんよ。……まず、『当主になる』な。これは文字通りや。で、『当主争いに敗れる』。次期当主になる奴の采配次第やけど……今の候補ん中やったとしたら、まあ、殺されるやろうな。後は『家を出る』か。……こん場合は結局、悟君次第やろか?」実際、そこに生きとる奴がおるし、と虎杖を指した。
虎「え、死刑になんの」
直「実際は上層部次第やろうけど、まあ、そうなるやろな。人殺すんにうってつけの術式が、生家に反旗を翻した。投射呪法やあらへんけど、禪院家には”前例”もおる。俺が誰かを殺す前に殺せ、ってことになるやろな」俺が上層部やったらそうする、と直哉は付け加える。
五「僕に委ねんな」
直「やって、趣味やん、悟君。秘匿死刑飼うの」
五「趣味じゃねえよ」
直「冗談はさておき、まあ俺の場合は『秘匿』やなくて、人殺しをでっち上げての公開死刑になるやろね。見つけ次第殺せー言うやつ。禪院家統率や無くなった俺に価値はあらへんし、悟君が生かしておく理由もあらへん」
そんなことない、と言い切れない五条は押し黙った。
直「まあ、でも。悟君優しいし、なんやかんや理由付けて匿われへんように、既成事実作った方がええやろうか。……正真正銘の呪詛師やで。本気で来ぃや、な?」
本気で戦えるかもしれないことに、いつもの煽りではなく、にっこりと嬉しそうに笑う姿に、五条だけでなく学生たちもみんな、ぞっとした。
真「お前イカれてるよ」
五「お前の場合、本当にやりそうだから嫌なんだよ」
直「なんやの、つれへんなあ」
と、直哉がふと時計を見て、「あ」と声を上げた。さっきの空気が一変する。
直「今何時!?」
伏「えっと、17時半、ですね」
直「ああー……」
どないしよ……と項垂れる直哉に、一同目を白黒させた。まったくもって感情の忙しい奴である。
五「どうしたんだよ、急に」
直「次の案件、18時、京都」
真「はあ!?」
無理だろ、もう、諦めろよと言う真希。
直「術式使えたら全然間に合うんやけど」
と、右腕を動かそうとする直哉。呪力が多少回復したようで、動きはしたが、懐から手を取り出し、手のひらをグーパーしたところで固まってしまった。どうやら痛みがあるらしく、顔を顰めている。
直「悟君。……送ってくれたり、せん、よね?」
真「お前、パンダの次は特級呪術師をタクシー替わりにする気か」
五「その神経が鈍った手で痛むんなら相当だろ。億が一僕が連れてったとしても、死にに行くようなもんだ」
つか、何級? と五条が聞く。うなだれたまま直哉が「一」と答えた。
五「……お前さ、僕に頼むとかいう頭は無いわけ?」
直哉が頭をがバッと上げる。
直「え、行ってくれんの?」
五「忌庫」
また直哉は項垂れた。
直「アカン、開ける権限あらへん」
はあ、大人しく日程組み直すか、と、机に身体を預けながらスマホを操作する。
顔だけ挙げて、左耳にスマホを宛がう。
直「俺。今日行かへんから。別日で。以上」
電話口から何やら聞こえてきたが、そのままブチっと切る。
釘「え、リスケ頼む側の態度じゃなくない?」
直「うっさいなあ」
虎「他の人に頼め……なさそう」
直「おん、よく分かっとるやないの。……甚壱君と蘭太君は別件対応中。長寿郎の爺さんは任務明け、扇叔父さんは浮いてるけど頼んだら何要求されるか分からへん。当主にはまずこんなことで謁見できひん。他、行ったら犬死、以上」
直哉がゆっくりと身体を起こす。懐手で扇子を取り出す。根付が付いている。それを机に置き、根付を左手で持ち、ぐっと押した。指の色は変わるが、根付はうんともすんとも言わない。
直「やっぱダメか……」
パ「? これ壊せばいいのか?」
直「そうなんやけど……ちょお真希ちゃん」
真「あ?」ノータイムで根付をグーで叩き割る。
直「なっ!? ちょい待ち!? 人の話は最後まで聞け!」
それが何物か六眼で分かっていて、大爆笑する五条。
真「なんだよ、壊したかったんだろ」
直「そうやで、そうなんやけど、呪具借して欲しい、って言お思て」
真「いいだろ、壊れたんだから」
直「良くないから言うてんねん」
はあ、真依ちゃんにどない説明しよ、と左手で頭を抱える直哉。
真「は? 何でそこで真依が出てくんだよ」
五条が笑いながら会話に横入りした。
五「それ、直哉の部屋の結界呪具?」
直「せやで。呪力を込めれば、壊れるようにできとる」
五「随分簡素だね。誰の呪力でもいいんだ?」
直「逆やねん。特定の誰か、を弾くようになっとる。俺が動けん時に開けられるようにしたくて。はあ、それが裏目に出るとは……」
五「で、何で真依なの、真希じゃなく」
直「さっきの話、あながち嘘でも無いんよ。従兄弟の中では俺が一番歳が近いさかい」
五「ええ、意外。お前そういう趣味だったんだ」
直「キショいこと言うな。手は出してへん。……やって、キショいやんか、俺でさえ10は上やねんで? 俺の兄さん方、幾つやと思うとんの?」
五「結局守ってんじゃん」
直「守ってへん。同じ家でキショい奴らがキショいことして欲しくないだけや」
五「お前の父親と母親にも刺さってない? それ」
直「これに関してはキッショいやろ」
五条と直哉の会話で、感の良いものから次々と気づいていく。
釘崎は嫌そうに、げぇ、という顔をし、虎杖は「はは」と乾いた笑みを浮かべた。
伏黒はいたたまれなさそうだし、パンダも狗巻も嫌そうな顔だ。
真希は、拳を握っている。
直「ちょお待ってや! みなまで聞いたか?」
真「ああ、お前が真依に無体を敷く不逞の輩ってことが良く分かったよ」
直「聞いてへんやんけ!」
直哉は真依に手を出していない、なんなら真依に確認してもいい、と真希に言う。
直「これを呪力で叩き割るってことは、俺の部屋の前にも呪力が漂う、っちゅうことや。わざわざ結界張ってる部屋の開け方を知っとる、ってことになるねんで? 意味分かるやろ、子どもやないんやから」
真「だから、それで何で真依なんだよ」
直「ええ……何、真希ちゃん。真希ちゃんが入ったってことにしてええん?」
真「いいわけないだろ」
直「このことについて聞かれても、なあんも言わず、目を伏せ、曖昧にほほ笑む、みたいな芸当、真希ちゃんにできるん?」
真「やるわけないだろ」
直「やろ? 真希ちゃんと真依ちゃんは同じ呪力やさかい、家の人は真依ちゃんや、思うやろな」
五「でもそれ、いつまで続ける気? 何もない、もそのうちぼろが出るんじゃないの?」
直「そやなあ、あの家は石女がいっちゃん価値ないさかい。高専卒業までは、ってことにしとるけど。あと2年?」
五「4年で卒業だから、2年とちょっと?」
直「……で、なんか策考えんと」
と、言いながら、直哉は伏黒を見て、目を合わせた。
一瞬遅れて、伏黒がぶわわと嫌悪感を露わにした。
伏「やめてください。本当にやめてください!」
直「嘘嘘、冗談冗談」
伏「目が笑ってないんですが!」
虎杖と釘崎に威嚇された。
直「ほんまに冗談やって、堪忍」
真「……なあ、真依のこと、」
直「待ち。何言おうとしとんの、真希ちゃん」
真「何って、守ってくれてるんだろ。だから」
直「礼を?」にやり、と嫌な笑い方をする直哉。
直「ふうん。なんや、真希ちゃん。立派な『禪院の女』やね」
真「は」
直「大事な大事な妹が、次期当主様のお手付きにならはったーって喜んでお礼言えるんやもんね? いやあ、立派やなあ」
真「そんなこと言ってねえ!」
直「言ってんのと同じやで。俺がやってることに、『真依ちゃん守ってくれてありがとう』って言うんやったら。実態がなくとも同じや」
真「……」
直「突っぱねるんやったら突っぱね。迎合するんやったら迎合し。真希ちゃんには一貫性が無いわ。そんなんで禪院家の敷居跨いだら、あっちゅう間に足元掬われんで?」今のは聞かなかったことにしたるわ、と直哉は言った。
パ「直哉、結界、壊す意味あったのか? 部屋に入られちゃうだろ」
狗「こんぶ」
直「ああ、ええねん。多分蘭太君辺りが気付いて、計画表ばら撒いてくれるやろ。兄さん方にはまあ、荒らされるやろうけど、元より取られたら困るようなもん置いとらんし」
これで向こうは暫く機能するとして、問題は自分の案件だった。
直「悟君、あとどん位で動けるようになると思う?」
五「あ? 知るかよ。っつーかここ数年、お前の呪力が満ちてるとこ、見たことねえっつの」
無茶苦茶な呪力運用しやがって、と別の意味で無茶苦茶な呪力運用をしている五条が言う。
直「んー……」
明日は2件、明後日は3件、その後は……それをずらすとこっちが、と頭の中で組み立てる直哉。
五条が大きなため息をつくのが聞こえて、直哉は顔を上げた。どうやらぶつぶつと声が出ていたらしい。
五「お前ね、働きすぎ!」
そりゃあ呪力切れも起こすわけだ、と呆れられる。
直「へ?」
五「その件数、基本的に1級以上でしょ? 帳は?」
直「そんなん、自分で」
五「移動は?」
直「術式で」
釘「馬鹿?」
直「馬鹿とは何や、ご挨拶やな」
虎「なあ、それ。俺たちで行くわけにはいかんの? 明日とかは場所によっては間に合わないかもしれないけど」
直「は?」
五「うーん、高専は高専で任務があるし、全部が全部受けるってわけにはいかないんじゃないかな」
虎「そっかー……」
五「その辺どう? 伊地知」
廊下でガタガタッと音がする。数秒して、伊地知が顔を覗かせた。ズレた眼鏡を直している。
伊「……気付いてらっしゃったんですね」
五「当たり前だろ、僕を誰だと思ってんの」
伊地知を見て目を丸くする直哉は、更に目を丸くした。
直「待って、七海君と猪野君もおるねんな?」
七海と猪野もドアの影からひょこりと顔を出した。
猪「……スンマセン、ども」
七「すみません、盗み聞きするつもりはなかったのですが」
直「え、いつから?」
七「……五条さんの『多分、そのうち伊地知が探しにくるし、七海もくるかも』辺りから」
直「さいっしょのほうやんけ!」
五「だから言ったじゃん」
直「何がそのうちや、白々しい」
七「しかし、本当なんですね。呪力切れ。私たちに気付かないとは」
直「何やねん笑いたきゃ笑えや」
伊「直哉さん。先程の話、調整いたしますので、詳しく教えていただけますか?」
直「いやや」
伊「ええ……」
五「ワガママ言うなよ、27歳児ー」
直「誰が27歳児や」
七「何が嫌なんです?」
猪「事情が事情なんで、俺らも手伝いますよ」
不貞腐れて(歳下も含めて)大人に囲まれる直哉は、あっという間に子どものようになった。さっきまでの迫力のあるやり取りは、一体なんだったのか。
直「俺のワガママなんやなくて、君らに手伝ってもろうたら意味ないねん」
五「あー、恩を売るだのなんだのの話? いいじゃん無視しちゃえば」
直「『禪院の男』を評価してくれはったんやないん? 五条家のご当主様は」
忌庫は開けられへんよ、と直哉。
五「僕は行かないし。別にいいよ見返りとか」
七「何勝手にサボタージュ宣言してるんですか」
釘「働けニート」
真「じゃあ返すわ」
直「は?」
真「飯、さっきさんざ奢って貰っただろ」
虎「ああ! 直哉さん、俺たち恩があるんで、返すよ」
直「いや、あんな端金で」
伏「俺たち高校生なんで。飯一食分浮いたのはデカいですよ」
狗「しゃけ!」
直「さっきと言うとることちゃうやんけ」
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