大阪のテーマパークの前に立ち、恵は今日一日をどう過ごすつもりなのか宿儺に聞いた時の驚愕と呆れを思い出した。高校生という食欲にまみれた年齢だからといってそれはアリなのかと聞き返したが、宿儺は「アトラクションなんぞに並んでも意味がない。面白みもない。それよりパーク内のレストランを全て回る」と言い張った。
元々は映画好きの悠仁と順平が大阪まで足を伸ばして映画スタジオを模したユニバーサル・スタジオ・ジャパンに遊びに行く予定だったのだが、順平の体調が悪くなり、悠仁が恵にチケットを譲ってくれたのだ。
「二人分ってどうすんだよ」
「宿儺でも誘えばいいじゃん。伏黒の誘いなら一発で釣れるって」
かつて五条と行った遊園地ですら保護者の方がはしゃいでいたくらい、恵はこういった所に興味がない。大体人混みの中に態々飛び込む気がしれない。飲み物いっぱいですらデザイン料やら何やらで高くなっているのも気に食わない。五条の奢りなら何も気にしないが自分の財布から出ると思うと腹が立つ。そういった理由で、誘われない限りはテーマパークや遊園地に行こうと思わない恵が宿儺を誘ったところで意味がないだろう。というか、悠仁は態々双子の弟を誘うように恵に声をかけるのが間違っている。宿儺に譲ってやればいいだろうと言えば、「あいつが俺の話聞くわけねえじゃん」とあっさりと答えた。
仕方無しに宿儺に連絡すれば、「行く」と即答だった。そういう訳で、新幹線のチケットもUSJのチケットも全部譲ってもらうことになり、申し訳なくなりながらも大阪の地を踏みしめている。
途中の乗換駅のややこしさに惑わされたが、ユニバーサルシティ駅に朝七時半頃に到着してしまった時の何とも言えない「一日エンジョイする若者」感にむず痒くなりながら、入り口まで歩く。
まだ開店していなかったが、駅からUSJの入り口までの道程であるユニバーサル・シティウォークにもかなり飲食店がある。大阪くんだりまで来たのだから、お好み焼きやらたこ焼きくらいは食べてもいいかも知れないと思いつつ、入り口まで辿り着く。因みに宿儺はずっとスマホで飲食店のメニューを見ては何を食べるか考えているようだった。食べることしか頭にないのだ。
開場時間までは一時間近くあるので、宿儺とゲート付近で待つことになった。とりあえず、有名らしいロゴ入りの地球儀の写真は悠仁と順平の為に撮っておいたが、今日一日ずっと食事に費やするのでこれから撮る写真は全部食べ物になってしまうことだろう。
「まずは一番手前のビバリーヒルズ・ブランジェリーに行く。それからメルズ・ドライブインへ入る。スタジオ・スターズ・レストランは11時からだから後で回る。その後、ニューヨークエリアに行き、ミニオンパーク、サンフランシスコエリアと回っていく。ウォーターワールドには飯はないようだから寄らん。ニンテンドーワールド、ハリーポッターも漏れなく回る」
「お前、本気でミニオンパークに行くのか」
「バナナ味のポップコーンが気になる」
「容器が絶対邪魔だろ、あんな嵩張るのどうすんだ」
「捨てる」
宿儺がボリボリポップコーンを食べ終わった後、乱暴にゴミ箱へミニオンの容器が投げ捨てられるのは容易に想像がつく。せめて子供の目に入らないようにしてやろうとは思った。クッキーも食べてみたいらしい。絶対作品に興味がないどころか知りもしないだろうに、食べ尽くすことには余念がない。容器代でぼったくられているとしか言えない値段だが、宿儺は浪費という概念がないのか、食にはケチ臭くないのだ。
開演してすぐに走り出す人もいるが、宿儺と恵はアトラクションに目もくれず、ハリウッドエリアのビバリーヒルズ・ブランジェリーへ入る。店内の様子は上品で少々可愛らしい。ごつい男子高校生二人で入るような雰囲気とは思えなかったが、宿儺がそんな事を気にするはずもなくズンズンとショーケースの前まで歩いていく。まだ人が入っていないから目立つということはないのが助かる。ブランジェリー・ブレックファストなる三種のうちから一品好きなパンを選べるもので恵は朝食代わりにした。ユニバーサルシティ駅近くのスタバでもコーヒーは飲んだし、その隣のコンビニでも飲み物を買ったりしたが、まあ一応園内でも食事をしておこうという義理で食べただけだ。宿儺はクロワッサンサンドセットを注文してぺろりと平らげた。これからどういうペースで食べていくつもりなのか知らないが、この調子で行くなら凄い値段になるな、と恵は薄めで見てしまった。
マリオ・カフェ&ストアに入って、内装の可愛さにまた驚いたが、宿儺はパンケーキ・サンドのマリオの帽子という、いちごのショートケーキを注文した。しかも恵にとルイージの帽子のぶどうのレアチーズケーキまで買ったらしい。仕方がないので食べたが結構美味しかった。ピーチ姫の桃クリームソーダを飲み終えて店外に出ると、口の中が甘すぎて塩っ気のあるものが食べたくなった。
同じハリウッドエリアにあるメルズ・ドライブインは店の外に車が並んでいて、確かにドライブインするレストランという風体だ。内装はアメリカの飲食店らしい派手さで少し目が痛い。ハンバーガーが主なメニューらしく、これ一つで暫く何も食べなくても良さそうである。宿儺はアメリカンテリヤキバーガーセットを注文した。恵は無難にクラシックバーガーセットを頼み、バスを模した外装の客席に座り、外を見ながら食べ始める。パーク内はまだ開園して間もないはずだが、既に多くの人がアトラクションを楽しもうとせっせと歩いている。
宿儺は待ち時間が耐えられないので、テーマパークとはかなり相性が悪い。こうやってさっさと入園して並ばない内にあちこち食べるのが正解なのかも知れない。せっせと全部制覇しようとするのも似合わないと思ったが、そういえばレストランを制覇するつもり満々だった。何ならカート販売すら食べるつもりらしい。
次にニューヨークエリアのフィネガンズ・バー&グリルに入り、宿儺はハーフヤード・グリーンカクテルというノンアルコールカクテルとハロウィーン・アイリッシュセットを頼んだ。先程から凄い量を食べているというのに、まだそんなに入るのかと驚かざるを得ない。
「そろそろ腹一杯にならないのか」
「ならんな。まだ余裕だ」
恵はハンバーガーを食べたので、ハーフヤード・グリーンカクテルだけで充分だった。見ている恵の方が腹一杯である。
次に入ったルイズ N.Y. ピザパーラーでは流石にホールではなくルイズ・ピッツァセットを頼んだが、それでも充分でかい。宿儺はクワトロチーズを、恵はペパロニを食べて、ついでにフラッフィシュークリームというやたらとファンシーなシュークリームを食べた。一体何のキャラクターか知らないが、絶対宿儺も恵も興味がないだろうことは分かる。
道中に会ったSAIDOは夜に食べることにし、次にミニオン・パークへ入る。ミニオン・パークの手前からしてもう宿儺に似合わなさすぎて笑うしかないが、恵だってここでは浮くタイプの人間だ。悠仁や野薔薇、五条なら浮かないかもしれないが、愛想のかけらもなく、はしゃいでもいない二人はさっさと、デリシャス・ミー! ザ・クッキー・キッチンでミニオン・クッキーサンドを購入して食べて、ポパ・ナーナへ移り、ミニオンのポップコーンバケツを購入した。塩キャラメルでバナナフレーバーというのは恵にとっては一口で充分だったが、宿儺はボリボリと食べている。美味いと思ったのだろうか。
次に入ったのはハピネス・カフェだ。ここでもまだミニオンが続く。宿儺はキーマカレープレートを注文してこれもまたぺろりと食べきった。恵はミニオンのエクレアを食べただけで充分であった。ワーフカフェに入り、漸く普通のホットドッグを見つけたので恵はそれを食べた。宿儺はティムのホットチョコレートドリンクを飲んでいる。メニューに掲載されているプレミアム・モルツに目が行ったのを我慢したのは偉い。(そもそも未成年であるが)
ザ・ドラゴンズ・パールでは宿儺は焼きビーフン・コンボを選んだので、恵はチャーハン・コンボを選んだ。甘いケーキやら飲み物の後だと唐揚げのジューシーさが更に増す。思っていたよりはボリュームが少ないので、先程から食べてばっかりの恵でも程々に楽しめた。
ロンバーズ・ランディングは事前予約が必要で、何かのコラボをしているようだったが、今回はパスになった。何せ時間通りに入れるかどうかわからないため、焦って食べたくないと宿儺が言ったのだ。いつか来れる機会があれば入ってみたいが、基本的に期間限定の店らしいので、入ることはないかも知れない。
ジュラシック・パークに入り、フォッシル・フュエルズで宿儺はターキーレッグを、恵はチリミートソースとチェダーチーズソースのフライドポテトを頼んだ。どうせアトラクションには乗らないのだから、腹一杯に詰めたところで問題はないだろうと開き直ったのだ。注文口の裏手にあるラグーンサイドの座席でのんびりと行き交う人々を見る。ジュラシック・パーク・ザ・ライドやザ・フライング・ダイナソーの乗客の悲鳴がよく聞こえて、宿儺は機嫌が良さそうだった。
ディスカバリー・レストランではコラボメニューが美味しそうだったが、子供向けだったので諦め、ロストワールド・レストランへ向かった。このレストランは開いていないことの方が多いそうだが、今回はたまたま入れたのでラッキーだった。宿儺はバーベキュービーフサンド・プレートを頼み、これもすぐに食べ終わった。
「お前の胃袋どうなってるんだ?」
「さあてな」
ケヒッと笑いながら宿儺はドリンクを飲んでいる。どう考えても一日で食べ切れる量ではないのに、宿儺はまだまだ余裕そうだ。恵はこの店ではアイスコーヒーのみであるというのに、宿儺は追加でヴォルケーノ・ケーキまで食べた。
次に入ったのは最近できたばかりのニンテンドーワールドである。ゲームという物自体にあまり馴染みがない恵でも凄いと思う再現性だったが、宿儺は全く興味がないらしく、さっさとキノピオ・カフェに入ってしまったが、この店内もまたすごかった。勿論、テーマパークである以上、何かしらのテーマに沿って再現されたものであるというのは分かっていたが、ここまで再現するとは、と他のエリアとは違う気持ちになってしまう。恵はパックンフラワー・カプレーゼを食べながら、今度はピーチ姫のケーキやらハテナブロック・ティラミスを食べている宿儺を見やる。ロストワールド・レストランなどの様子は宿儺に似合うが、どうしたってニンテンドー世界に馴染まないのは、顔か、雰囲気か、性格か。多分、同じ顔をしているはずの悠仁なら馴染む。
残りのピットストップ・ポップコーンはもういいだろうと恵が引き離し、ヨッシー・スナック・アイランドでこうらのカルツォーネを食べながらニンテンドーワールドを後にする。一応、悠仁のために写真は撮っておいたから許してもらいたいところである。
すぐ隣りにあるはずのハリーポッターエリアには直通ではないため道を戻り、アミティ・ビレッジに入る。
アミティ・ランディング・レストランではベストコンビ・サンドセットというサメ肉&ミートソースが挟まっているらしいメニューを頼んでいたが、宿儺と鮫は恐ろしい風貌という意味で似通っているので、なんとなく面白かった。恵はJAWSの形をしたクリームソーダ・ロールケーキを食べただけだが、これ何かを食べられる気がしない。サメ肉は物珍しいので少し分けてもらったが、何ともいい難く、恵の顔に宿儺が笑って終わりだった。
ボードウォーク・スナックでJAWSフラッペを分け合いながら、アズーラ・ディ・カプリへ入る。またもやピザだが、石窯で焼いているのはパーク内ではここだけらしいので、恵も食べたくなってきた。トレ ガンベレッティの三種のエビに惹かれて注文して宿儺と分けるが、恵は四分の一で充分だった。
次に入ったのはミニオン・パークと同じくらい宿儺と恵に似合わないユニバーサル・ワンダーランドのスヌーピー・バックロット・カフェである。時間帯的に、かなりの親子連れが入っている中、男子高校生二人で入っていくのは気恥ずかしかったが、宿儺は臆面もなくテリヤキビーフバーガーセットを頼んでいた。恵はカスタードの入ったスヌーピーまんとアイスコーヒーで充分だった。先程のサメ肉とは違い、スヌーピーの横顔の形をしたバンズに齧り付くのが全く似合っていない。店内の様子も含めて、あまりにも可愛いものが似合わない男である。因みに同じユニバーサル・ワンダーランドのハローキティのコーナーカフェは恵が全力で拒否したのでパスしてもらえた。
その後にハリーポッターエリアに入るが、ニンテンドーワールドとは違った、手の込みように驚きを隠せない。あれ程チカチカするようなユニバーサル・ワンダーランドとうってかわって、針葉樹の森を通り抜けると別世界感があった。建物も全体的に歪んでいて、普通じゃないという世界観を感じさせる。
三本の箒に入り、宿儺はグレート・フィーストという4人前のメニューをじっと睨んでいたが、恵は絶対にやめておけと何度か注意した。
「流石に無理だろ。既にどれだけ食べてると思ってんだ」
「む……いや、しかし」
「やめてくれ、頼むから」
そういうことで、黒ビール煮込みのビーフシチューに変更してくれた。恵はえんどう豆とハムのスープを飲みながら、テラス席でホグワーツ城を眺める。キャッスルウォークなら待ち時間がなさそうなので、腹ごなしに歩きたいと言えば、了承してもらえた。