審神者の朝は誰よりも早い。
夏の日が昇り切る前よりも前に起床し、着替えも済ませて本丸の中心にある大きな広庭に出る。
そこには色とりどりの朝顔が朝日を待ちわびるかのように咲き誇っていた。
「今日も綺麗に咲いててよかった」
朝早くとはいえ半袖に薄いズボンでも真夏の外はじめっと暑く、冷房の効いた部屋に戻りたいぐらい。
それでも大好きなお花たちの世話をするために今日も暑い中、ホースを伸ばし水やりの準備をするのだ。
遠い端の方から順々に水をやっていくが、なんで100振り以上の刀達が住む本丸。その庭も広いものだから真ん中まで来る頃には朝日も顔を覗かせていた。
「ふぅ、ホースも重いな」
ひとり言を言いつつも水をやる手は止めない。
ホースから出る水が朝日に反射してキラキラ輝いているのを眺めていると突然、後ろから「主?」と声がした。
「ひゃっ!」
いつもこの時間に、誰かから声をかけられることはなく驚いてホースを持つ手が弱まってしまう。
「わっ!」
ホースからでる水はその声の方へ向かう。
慌てて握り直して下に向けるも、声の主、水心子がびしょ濡れになっていた。
「ごめんなさい! すぐ水止めてくるから!」
少し離れたところの水道の蛇口を捻ってから、汗拭き用にする予定だった今日おろしたてのタオルを持って水心子の元へ走る。
「すまない、驚かせてしまった」
「こっちこそごめんなさい! よければタオル使って、新品だから」
「大丈夫だ。日も昇っているしすぐに乾くだろう」
頭から足先まで内番服が濡れている彼にタオルを差し出すが、断られてしまう。
だが、その、なんだ。ものすごく目のやり場に……困ってしまう。
普段、内番服では顔を半分隠しているけれど、絞るためか脱ぎはじめるし、髪の毛も濡れていて可愛いなと思っていた髪の毛の跳ねも落ち着いていて、心なしかいつもよりも大人っぽく見える。
水心子のひとり言や、たまに出てしまう素の表情を知っているので可愛いなと思ってたからギャップがすごい。水も滴るとはこういうことか。
「乾くかもしれないけど風邪ひいたりしたら困るし、ちゃんと拭いて!」
邪念はあったものの、水をかけてしまった罪悪感と心配から、タオルを拒否する彼の頭にそれを被せる。
それでも拭こうとしないので、代わりに髪の毛を拭く。
手を添えた時に驚いてしまったが、なんだこのふわふわ。私の髪の毛よりもふわふわだ。実家にいたポメラニアンのポチと同じくらいかもしれない。
あの毛先の跳ねはこのふわふわからきていたのか。
懐かしさと感触から無心になって拭いていたが、タオルの中から「もう大丈夫だから!」と声が聞こえて正気に戻って手を止める。
「本当?」
そう言ってタオルを持ち上げる。
目の前には少し頬が赤くなっている水心子。
多分離れていたら頬の赤は気が付かないだろう。でもそれに気が付いてしまうほど近かった。
「ご、ごめん!」
何に謝っているか分からないが、思わずそう叫んで一歩下がる。
「こ、こちらこそすまない」
「腕とかも拭いて」
「分かった」
今度は素直にタオルを受け取る水心子にホッとするも、先ほどの顔の近さを思い出してしまい私の顔も熱くなる。
普段の可愛いと思っていた彼の水の滴った大人っぽいのと、頬を赤らめたのとで頭がいっぱいになる。
「すまない、これは洗って返そう」
「っ! いいよ! まだ他のタオル使うし、一緒に洗濯当番に渡しちゃうから」
頭の中が渋滞を起こしていたが、声をかけられてハッとする。
だが……と渋る彼にじゃあ、といってタオルを預ける。
「それにしてもここの花たちが綺麗に咲いていると思っていたが、主が世話をしていたのか」
「そうなの! 昔から花の世話とか好きで、綺麗って言ってくれて嬉しい」
「そうだな、綺麗だ」
朝顔を見つめるエメラルドの目はとても愛おしそうだ。
その目に私が釘付けになってしまう。
「朝顔と水心子、なんだか似てるね」
「そうか?」
「色とか、誰かが愛でようとする時間には顔を隠しちゃう所とか」
と、クスクスしたものの、何だか恥ずかしいことを言った気がして「や、やっぱり色合いかな!?」と誤魔化す。
しかし、彼はそれを見逃してくれなかった。
「誰かが私を愛でてくれるのか?」
なぜか一歩近付く水心子。
後ろに下がる私。
そうすると近付く水心子。
「だ、だれだろうねー」
逃げられないと悟り、頑張って会話で避けようとするもののそれすら逃がしてくれる訳もなく。
「我が主に愛でられるならいつでも顔を出すが」
「へ?」
「そうだな……愛でてもらうには手伝いでもしよう」
「ちょ、ちょっとどういう意味!?」
水道の方へ向かう水心子を追いかける私の顔は多分、真っ赤に染まっていたと思う。
その日から毎日、朝顔に水をやる仲良さげな二人がいたとか。