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以下メモ
マモルに負け、再狂育が終わり、醒心で匿われることになって、人としての生活を取り戻していく轟イクサの話
マモル、ラグナ、マシロ、コウガ、マサムネと朝食をとることになる。
大世帯なので、マサムネの研究室でだ。
ビークロ研究の第一人者であるマサムネのラボは、住めそうなくらい(実際泊まり込むこともある)設備が充実していた。
私財を投入しているらしい、とコウガは以前マサムネから聞いたことがある。
マサムネがメインで作って、マモル、マシロ、ラグナが手伝った(コウガは戦力外通告でお皿とかを並べた)。
イクサを呼び、マシロの隣の席を指し示すと、睨み返された。怒っているのかと思ったが、困惑の表情のようだ。
「マシロ、マモル。俺が間違っていたら教えて欲しい」
あのイクサが教えをこうなど、と、マシロとマモルは目を丸くした。
「仕事でもないのに、誰かと一緒に食事をするのは、その、普通のことなのか?」
「何言って」
先生と一緒にご飯を食べたことだってある、とマシロは思い、言おうとした。
が、その場にスポンサーがいたことを思い出した。はしゃいだマシロは行儀が悪いとイクサに叱られたのであった。
「普通のことです。これは、先生。貴方のものです」
マモルが言うと、困惑した顔のまま、イクサは席についた。
「さあ、冷めてしまわぬうちにいただこう」
柏手を打ち、いただきます、と号令したマサムネに続き、みなバラバラといただきますをして、朝食を食べ始めた。
味噌汁、ごはん、焼き魚にいくつかの小鉢。和食だ。
皆が思い思いに食べ始めるのをイクサは眺めていた。
「どうした。食べないのか……スプーンの方が良かったか?」
マサムネが気遣わしそうに言う。言外に箸が使えないのか、と言っている。馬鹿にするな、と言わんばかりにマサムネを睨み、イクサは箸を手に取った。味噌汁を一口、口に含む。飲み込もうとして、イクサは目を見開き、口を押さえた。
「先生?」
隣のマシロがその様子に気付き、イクサの顔を覗き込む。
「熱かったか? まさか、アレルギーでも」
マサムネが立ち上がりかけて、イクサは片手で制した。首をふるふると横にふる。制するために出した手は震えていた。
「イクサ、立てるか?」
コウガが肩と背中を支える。コウガとマサムネが目を合わせ、互いに頷く。イクサも意図を組み、そろそろと立ち上がる。
「コーチ」
ラグナが不安げに見上げる。マシロもマモルもだ。大丈夫、とコウガが微笑んだ。
コウガはイクサを連れて近くのお手洗いまで来ていた。イクサが睨むので、コウガは外で待っている。
しばらくしてイクサが出て来た。少し顔が青白く感じる。
なんと声をかけたら、とコウガが思っているうちにイクサが口を開いた。
「手間かけさせたな」
「気にするなよ。……あー、嫌い?」
「何がだ?」
「味噌汁」
「? 特別好きでも嫌いでも……、ああ」
なんの問いかけだ、と訝しんでいたイクサは思い至った。こうなる前に口に含んだものは味噌汁だったか。
醜態を晒しておいて、なんでもない、は通らないだろう。
「後で話す。貴様と、獅童には」
わかった、とコウガは頷いた。
戻るとマサムネと初等部3人はすでに食べ終わっていた。
「先生、大丈夫?」
マシロが見上げてくる。
「案ずるな、心配はいらない」
マシロの頭を遠慮がちに撫でた。
俺たちは先に行く、とラグナは言った。気遣わしげなマシロとマモルを引きずって出て行った。多分、ラグナは3人に聞かれたくないということを分かっているのだ。なんだかんだいって気が回る子だ、とコウガは思った。
「コウガも遅刻するぞ」
「あー、1限は自習なので、ゆっくり食べていきます」
自習なんてもちろん嘘だ。マサムネにもバレているだろうが追求されなかった。
「イクサは……紅茶でも飲むか?」
「ああ」
マサムネは食事をすすめなかった。紅茶を断られなかったことにほっと息を吐く。
しばらくはカチャカチャと洗う音がする。
ごちそうさまでした、とコウガが言うのと同時に、紅茶が置かれた。コウガの分もだ。
まわすように3つのカップにティーポットから紅茶が注がれる。わざわざイクサの目の前で。イクサは気を遣われているとわかった。
「そこまでしなくともわかっている」
「何がだ?」
「貴様が、貴様らが毒など盛らないことを、だ」
コウガがびっくりしたように目を丸くした。マサムネは眉を下げた。
「俺は人より鼻が効く。毒が入ってると分かったら、まず口にはしていない」
そう言って紅茶を口に含み飲み込んだ。緊張した面持ちで、ほっと息を逃す。手は僅かに震えていた。
「無理は」
「していない」
マサムネの言葉を遮るようにイクサは続ける。
イクサがやって目を上げると、心配している2人の顔が目に入った。
「だからその、まずいとか口に合わぬとか、そう言った類のものではない。こいつも、あいつらも美味しそうに食べていたのが何よりの証拠だ」
こいつ、でコウガを指差す。
「それから、飯が無駄になってしまったことは謝罪させてもらおう。明日から、俺の分は用意しなくていい」
イクサは頭を下げた。マサムネとコウガが慌てて頭を上げさせる。
「なんか、意外と律儀だな、イクサって」
コウガがぽろっとこぼすと、イクサが睨み上げた。
「もう少し、詳細に聞かせてもらってもいいか?」
マサムネが言う。もちろん、無理にとは言わないと。
イクサが話す。
こうやって食事をともにしたことがないこと。
そう言う時は仕事で会食の場に参加するときだけであること。
家族の食事の席につかせてはもらえないこと。
毒は匂いでわかるが、毒以外の嫌がらせ、あまりに不味すぎる食事や食べ物でないものの混入などがあったこと
会食相手の手前、食べるしかなく今は味を感じないこと
フラッシュバックして、人前で食事をとることが困難であること
あまりにも淡々と告げられるそれらに、マサムネとコウガは絶句していた。
「事情を知らなかったとはいえ、すまなかった」
「貴様が謝る必要はない。俺も、ここまでとは思わなかった」
どこか人ごとのように言うイクサ。
マシロとマモルに、師弟関係の解消を告げるイクサ。
まあ、マモルはすでに解消していると思っているが、と。
マシロもマモルもびっくりする。
マシロはなんで、いやだよ、と追いすがる。
「ここには、焔がいる。あやつに教わる方がいいだろう」
「いやだ、いやだよ」
「焔がいやなら獅童でもいい。焔の指導者だから、腕は確かだ」
「そうじゃなくて、先生がいいの」
「俺は、負けたんだ。焔に指導を受けた、マモルに」
「僕も、先生から受けた指導は無駄だとは思っていません」
イクサはあいまいに微笑んだ。マモルはそんな顔もするんだ、と思った。
「……俺はもう、コーチではない」
押し切られるような形で、マシロもコウガから指導を受けることになる。
「せっかくだし、タッグバトルしようよ!」
放課後、マサムネの研究室に初等部3人が集まっていた。
中等部、高等部はまだ授業の時間だ。授業を受けているコウガも、授業を行っているマサムネもまだいなかった。
「タッグバトルをするには1人足らないでしょう」
マモルが言う。
「いるでしょ?」
窓際で1人、読書をしていたイクサを指差す。
「轟イクサぁ?」
ええ、と難色を示すラグナ。ラグナの中では、冷徹なイクサの印象が強いままだ。
「いいもん!マシロが先生と組むから!」
先生!とマシロが声をかける。イクサが本を置き、皆が集まる机まで来た。
「俺はもう先生ではない」
「いいじゃん、先生は先生だもん!ね、先生、マシロとタッグ組んで!」
マシロを睨むイクサ。いいじゃん、ねえ、と甘えるマシロ。
この状態のイクサに甘えられるのすごいな、と思うマモルとラグナ。
根負けしてため息をつくイクサ。
「……分かった。一度だけだぞ」
わぁい! と喜ぶマシロ。
正直、マシロとイクサのデッキの相性は悪く、タッグバトルに向かないが、そこは師弟だけありイクサが上手くフォローをする。
やるな、と思うラグナ。
なんかイクサの表情が固いし厳しい? と思うマモル。
マシロのテンションの高さでノリに乗っていてちょっと押されているが、イクサは少し精彩を欠くと感じるマモル。
白熱して来たとき、マシロの攻撃をマモルがトラップカードで返した。
おそらくイクサの場にはそれをさらに返せるカードが伏せられていたのに、返すことはしなかった。
もう、先生! とマシロがイクサを見る。
マモルもおかしいと思ってイクサを見る。
イクサは苦しそうに胸を抑えていた。
「先生!」
イクサは、流石に倒れるわけにはいかないと思い、ずるずるとしゃがみ込んだ。
「あ、おい!」
ラグナが反射神経でイクサに駆け寄る。
マシロもマモルもそばによる。
「大丈夫、ですか!?」
「……案ずるな、じきに、……おさまる」
ぜいぜいと肩で息をしながら、どうにか声を出すイクサ。
「俺、コーチかコーチのコーチ呼んでくるっ!」
バッと駆け出すラグナ。イクサは止めようとしたがラグナの方が早かった。
マモルは一生懸命背中をさする。マシロは片方の手を握った。
ちょっと早めに授業が終わり、廊下を歩いているマサムネをたまたま見つけたラグナ。
「マサムネコーチ!」
いるはずのない中等部で声がしてびっくりするマサムネ。
「ラグナ! 廊下は」
走らないと言おうとしたが、必死の形相に目線を合わせるにとどめた。
「どうした?」
ぜーはー息を整えるラグナ。
「イクサが、轟イクサが倒れた! なんか、なんか、急に苦しそうで……!」
必死に説明するラグナ。ラグナを抱えて走り出すマサムネ。
「大丈夫か!?」
マサムネがバンっとドアを開ける。
少し落ち着いたイクサがドアの方を見上げる。泣きそうなマシロとぎゅっと口を結んだマモルも同時にマサムネを見上げた。
「……大袈裟、だ」
まだ息の整わぬ、冷や汗だらけの顔でつぶやくイクサ。
「大袈裟じゃないよ! 先生、死んじゃうかと思った」
堪えきれずマシロの目から涙が流れる。
4人のデッキが散らばっている机を見るマサムネ。原因はこれか、と合点する。
イクサの前に座る。
「イクサ、過呼吸になっている。俺の合図に合わせて呼吸できるか?」
こくりと頷くイクサ。吸って吐いて、と深呼吸するマサムネ。
苦しい感じも落ち着き、手足の感覚も戻って来た。
散らばったカード、心配そうに見つめる顔。惨状を目の当たりにしてため息をつくイクサ。
「もう、大丈夫だ」
マシロとマモルの頭を順番に撫でる。ラグナと目を合わせ、助かった、と口にしたらラグナが変な顔をした。記憶の中のイクサと合わないからだ。(あのイクサがお礼を!?)
マモルは、イクサがコーチを固辞していたことを思い出す。
マサムネ「ビークロか?」
イクサ「……ああ」
後からきたコウガにも伝えられる。
イクサ「哀れみの目で見るな」
コウガ「そう、だよな。ごめん」
しばらくして。
みんながビークロをやっているのをすっかり定位置になった窓際で読書をしながら見るでも聞くでもなくしていたイクサ。
俺ならこうする。ああ、やはり返されたな。
「よし、この辺で休憩にしよう!」
マサムネが焼いてみたんだ、とシフォンケーキを出す。
みんなが(初等部に混じってコウガも)、わーい!と喜んで席に着く。
「イクサ」
マサムネに呼ばれ、空いている席についた。紅茶が注がれる。
本当に気まぐれだった。甘い香りが鼻をくすぐり、つい口に出た。
「マシロ」
「んう?」
「美味しいか?」
ぱあ、と顔を輝かせるマシロ。
「うん! とっても美味しい!」
先生も食べる? と一口フォークで差し出す。ビクッと身体を揺らすイクサ。あ、といつかの朝食を思い出すマシロ。
「ごめんなさい、先生」
なんとなく、食べられそうというか食べたいと思ったイクサ。
「もらってもいいだろうか」
え、と顔を上げるマシロ。
「先生、無理しないで」
「無理はしていない」
おずおずと差し出されるフォーク。口にするイクサ。咀嚼して、飲み込んだ。
正直、味はわからなかったが、飲み込めたことに詰めていた息をほっと吐き出すイクサ。
「どう?」
「まあ、美味しいんじゃないか」
行儀が悪いぞ、とマシロに注意するイクサ。
先生が欲しいって言ったんじゃん!と言いつつ、嬉しそうなマシロ。
1テンポ遅れて、嬉しそうに破顔するマサムネ。
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