喜一くんに割とよさげな縁談がきたら姐さんはどうするだろう、という思い付きから派生
姐さん、たぶん結構好戦的で負けず嫌いなとこありますからね
喜一くんのこと好ましく思ってるけど、恋い焦がれる感じではないと思う
花魁の矜持、誘って絡めとってこその花
自分から動くのではなく呼び寄せて虜にする、みたいな
男女は追いかけたら逃げる(そして姐さんは圧倒的に逃げてかわす側)だからこそ、自分から行動するということはない
でも、いざ自分にはないものを持った女がいて、自分を差し置いてそちらにいくとなれば我慢はならない、みたいな
廓で心変わりされるのは屈辱だろうしねぇ……
という感じのメモ
オチは思い付かない
まぁ喜一くんは縁談なんてきても、露程も受ける気ないんだけど、もし社会に抑圧されてる相手だとしたら同情はするかなって
(なんとなく、すごい賢くて海外に留学して外交官とかの奥さんとかになりたいのに田舎で結婚させられそうな女の子が上京の準備を整えるためのカモフラージュとしていっときだけ交際してる風を装う、みたいな展開は浮かんだ)
この世界線はゆう喜なので、伊東は喜一の縁談に乗り気です
喜伊の世界線だとジリジリするのが伊東になるけど多分ジリジリするだけで笑って祝福しちゃうんだよなぁ……立場上……
「百崎くん!!」
「ひっ……、あ、あの時の……!」
「「?」」
身なりの良い老人に背後から話しかけられ、明らかに狼狽する喜一に、顔を見合わせる伊東とゆうぎり。
「どうかね。孫の件、考えてみてくれたかね」
「いや、やけんがそれは、お断りばさしてもろうて……」
「おや、こちらが例のご友人……と」
なるほどこれは似合いの美男美女、と老爺は呵呵と大きく笑う。
「しかし、うちの孫もそちらの別嬪に負けず劣らずの器量よしでな。小町娘と近所でも評判の――」
「あ、あの!!すみませんが、俺たち、これから用事のあるけんが。な、伊東、早くいかんと――」
「俺らは構わないぜ」
伊東がニコリ、とわざとらしいくらい爽やかな笑みで老爺に軽く会釈をする。
「こいつ、こんな調子だから俺もほとほと手を焼いてて。いい人がいるってんなら是非紹介してやってください。悪いやつじゃないんで」
「おお、そうじゃろそうじゃろ」
「い、伊東!!」
「お前もそろそろ身を固めていい頃合いだろ。せっかくのご厚意を無下にするもんじゃない。なぁ?」
"お前"もそう思うだろ、と伊東はゆうぎりの方を振り返るが、綺麗な唇をわずかに上げて、小首を傾げるのみ。
それが肯定か否定かは、喜一にはよく分からなかった。
「上手くやれよ?」
ひそ、と声を落とした伊東が、今の会話だけでおおよその事態を把握したことを喜一は悟る。
あえてゆうぎりと自分がいい仲なのだと誤認させるような振る舞いしたのは、そういうことか。
伊東はさらに畳み掛けるように言う。
「いい出会いってのは、そうそうあるもんじゃない。さ、行こうぜ」
伊東は親しげに肘で軽くゆうぎりの腕を押すと、連れ立ってその場を後にする。
「伊東……ゆうぎり、さん……」
残された喜一は、その背中を黙って見つめるしかなかった。
予定していた飯屋に入る伊東とゆうぎり
いつから自分は伊東の妻君になったのか、という問いに、悪く思うなよ、喜一のためだ、と居直る伊東
ありゃ見たとこ最近海外貿易にも手を広げてる、東京でも有名な豪商のご隠居だ。
そこの孫婿なんて、滅多にない玉の輿だぞ。
相変わらずの事情通、という皮肉めいた言葉に伊東はニヤリと口の端をあげる。
通ついでに、あそこの孫娘といえばなかなか変わっててな。
なんでも珍しく女学校の出で、語学にも堪能だとか。父親の反対押しきって飛び出して、きっちり卒業して帰ってきたってんだからなかなかのツワモノだ。
卒業後は大人しく嫁にいく、って約束だったらしいが、箔がつきすぎちまったみたいでな。
こんな片田舎じゃ、かえって貰い手がいないんだとよ。
「勉学に男も女も関係ない――いかにもあいつが言いそうだ。ほら、良縁に違いないだろ?」
なるほど、とゆうぎりは頷く。
確かに喜一なら、女に学問は不要、大人しく家にこもっていろなどと抑圧するような夫にはなるまい。
おそらく、おそらくだが。
一度顔を会わせて会話をしてしまえば、その孫娘はきっと気付いてしまうだろう。
喜一の、魅力に。
ゆうぎりが、そうだったように。
生まれや育ちに偏見をもたない喜一は、素直に娘を賞賛するのだ。
志を貫き通すのは、並大抵の努力ではない。
そして、あなたが思うがまま生きていいと思う、と。
自分は誰もが自由に生きられる、そんな世にしたい、と。
まっすぐなあの目で。淀みない言葉で。
その孫娘の心を、射貫いてしまうのだ。
ゆうぎりに、そうしたように。
櫛を失くす夢
使おうとしたら、いつもの所にない。
キョロキョロとあたりを見渡す。自然と足が早まり、気がつけば小走りになっていた。
辺りはいつのまにか、いつもの街道の景色。そしてそこにはいつものように、喜一が立っていた。
その手元に、探していた赤い櫛が握られているのをみとめて、ゆうぎりはホッと息をつく。
なんだ、喜一が持っていたのか、と。
ゆうぎりが、喜一から贈られたもの。
迷惑をかけてしまったから、という詫びの品。それ以上、深い意味などない。意味があっては、いささか困ったことになる。ゆうぎりは夫を亡くしたばかりの寡婦なのだから。
しかし――喜一に声をかけようとして、ゆうぎりの息が止まる。
喜一の対面に、人影がある。
長く美しい黒髪を垂らした少女。
それが、百崎さま、と頬を染め、喜一の顔を見上げていた。
ダメ、と咄嗟に口からこぼれかけた。駆け寄ろうとしても、泥濘にはまったように足が重い。踏み出しているはずなのに、一向に距離が縮まらない。
そうしてる間に、喜一は照れくさそうに微笑むと、何事かを口にした。
「あの、これ。たいしたもんやなかけど、良かったら――」
いつか、ゆうぎりが言われた言葉をそっくりそのまま繰り返して、喜一は手元の櫛を娘へと差し出す。
ダメ、と今度は確かに音になった気がした。
白魚のように白く華奢な手が、そこに重ねられる寸前。
目が、覚めた。
見慣れた天井が、月明かりにぼんやりと浮かんで見える。
ゆうぎりは半身を起こし、額を押さえる。
なんと、分かりやすい。
己の思考の単純さに、ゆうぎりはいっそ感動を覚えていた。
夢解きなど、するまでもない。
喜一が見合いをするかもしれないと聞いて以来、ジリジリとゆるく火に炙られるようなこの心地が、そのまま夢に現れているとしか、思えなかった。
とはいえ、喜一は縁談がきたとしても断るに違いない。
伊東にも、今はそれどころではない、といつも言っているし、それが事実なのだと思う。
病気の養父を抱えている。
佐賀を取り戻すことでその養父の気力も戻るかもしれない、という余人にはあまり理解されない動機で、喜一は奔走している。
誰であろうとも、簡単にその志を曲げることはできないだろう。
仮にゆうぎりが止めたとしても、喜一は諦めないだろう。
誰も喜一の歩みを阻むことはできない。
たとえ唯一無二の親友だとしても。
かつて都一番と賞賛された女だとしても。
喜一に余所見をさせることなど、できはしないのだ。
その、はずだった。
「分かりました」
聞こえてしまった会話。
雑踏のなかに偶然喜一を見つけ、声をかけようかとしたとき。
ゆうぎりは再び呼吸を忘れた。
夢で見たのと同じ構図で、喜一の向かいに見知らぬ少女が立っている。
この世のいかなる欲や汚れも知らぬというような、あどけない顔立ち。
その中に、確かに宿る品と教養と、意思の強そうな瞳。
なるほど、これは並の男なら、怖じ気づいてしまうかもしれない。
「俺でよければ、その、努力してみます」
「百崎さまでなくては駄目なのです、どうか……」
ピィン、と周囲の音が遠くなった。
喜一が娘になにかを請われ、承諾の意を示していたことだけが、伝わってきた。
前後の話が聞き取れなかった以上、考えても意味はない。
けれど、一体なにを。
まさか。
娘に櫛を差し出していた姿が、脳裏に浮かんだ。
それはダメ、と、心がいう。
それは、自分のものだ、と。
渡さない、渡したくない、と。
理性では押さえきれない感情が、明確に目の前の出来事を拒絶している。
ゆうぎりには、喜一の澄んだ瞳が好ましかったのだ。
自分が女として見られていることが分からぬほど、ゆうぎりは鈍くはない。
けれど喜一は、ゆうぎりばかりを見つめて惚けたりはしなかった。
むしろ、ゆうぎりを通し、新しい世を見据えている。
ゆうぎりは、自分を見ていないからこそ、喜一と交流するのに居心地のよさを感じていた。
喜一のそばにいるのは、悪くない。
そばにいてもいい、いたいと思った。
自分の上を通りすぎていく視線の先を、そのたどり着いた先の景色を、共に見つめてみたいと思ったのだ。
なのに。
今になって、他の誰かを。
そこらにいる普通の男女のように。
たった一人を特別な相手に選んで。
都一番の花魁として名を馳せた、極上の花が視界にありながら、余所見なんて――。
ハッと、ゆうぎりはそこで己の傲りに気付く。
無意識に、喜一は他の女には見向きもしないだろう、と思っていたことに。
例の少女が家事は苦手と聞けば、必要以上に家を整え、誰に振る舞うでもない豪華な膳をしつらえて。
四書五経に通じていると聞けば、書き付けの裏に、かつて諳じた詩文の数々を張り合うように散じて。
語学に堪能と聞けば、使い道もないのに書店で通詞の辞書など手に取ってみたり。
思い返せばどれもこれも、まるで自分にも同等の価値がある、と確認するかのような振る舞い。
喜一が自分を差し置いて、他の女に目を向けるなど、考えたくない、と。
ましてや、他の誰かに櫛を渡して、二世の契りを交わす姿など。
想像したくなかった。
東京から長崎へ向かう途中に佐賀へ寄った豪商のお爺ちゃんを喜一くんが意図せず助けて気に入られた、「見所のある若者じゃ!!うちの孫娘をやる!!」と言われもちろんその場で断るんだけど、伊東とゆうぎりと三人で歩いてるときに捕まって……
みたいな導入