ざっとあらすじ
伊東と三人でゆうぎり宅で会食した夜。
伊東が喜一を置いて帰ったせいでひとつ屋根のした、二人きりになってしまったゆうぎりと喜一
夫婦になればいい、と伊東にからかわれたのもあって妙に意識してしまう喜一だけど、最終的にはゆうぎりが自分の夢を応援してくれた純粋な気持ちを汚すような真似したくない、他の男と違って自分だけは絶対ゆうぎりをそんな目で見ないぞ、と決意して「俺はゆうぎりさんとは一生いい友人でいたいです!!」と宣言をする、という話
姐さんは旦那亡くしたばかりでもあるし、喜一は手のかかる弟とまではいわないけどかつて世話してきた禿たちに近しいものを感じており、面倒を見るのが嫌ではない、くらいの感情(真面目に頑張ってる近所の子を可愛がって応援してる感覚)
ただ、喜一が自分に懸想してるのが分からないほど鈍くもない(※そこの機微を理解できず郭でやっていけるはずはないので……)から、もし求められても良い仲になるのは断るだろうし、そういう雰囲気ならないようなんとなく気を付けてはいた。
が、断るまでもなく喜一の方から一線を引いてきたことで、安堵すると同時に鳥籠にまた閉じ込められたような気持ちにもなる。
友人という鳥籠に入れられ"一生そこから出るな"といわれているような。
出たいわけではない場所も、出るなと言われるとどことなく不自由な感じがするから不思議。
俺は新しい佐賀ば作りたか、と熱く語り、遠くを見ていた背中を思い出す。
きっと喜一はよそ見なんてしないし、させられない。誰にも。たとえゆうぎりでさえ。
郭では、格子の向こうから流し目と微笑みひとつで客を引き寄せ誘うことが、人と繋がる術だったけれど、外の世界では通用しない。
走る人には追い付けない。振り返らない。簡単に置いていかれる。手を伸ばさねば、届かなくなる。
どうしても帰る、といって聞かないので、喜一には水を飲ませ、足元に気を付けるようにと言い含め、提灯をしっかり持たせて帰らせた。
卓を片付け寝る支度をしながらふと櫛を手に取る。
あの様子では、意味なんて分かっていないまま贈られたであろうこの櫛に、相応の気持ちを乗せられることはない。
そう思えば、もっと気軽に使ってもいいのだ。
気の良い友人からの贈り物。一生の、友。
十年たっても、二十年たっても。
ゆうぎりが女寡婦になったという噂はどこかしらから漏れ、後見を名乗り出る手紙も届いているが、そのどれもに応える気にはならない。
このまま一人、大恩のある旦那を偲んで余生を過ごすと決めている。
喜一に出会う前に了見していた生活が、今後も続くだけだ。違うのは、そこに夢を追う実直な青年の姿があることくらいで。
――誰もが自由に思うまま生きられる世界、と言ったのに。
――自分のことは、閉じ込めようとするのだな。
なぜか、そんなことを思っていた。
※なんかのゲームとのコラボの姐さんのキャラ説明文にたしか"友人のために命をかけた"的な文言があったので、公式は表向きには二人を友人として扱うのだな……と思った記憶がある
たとえ惹かれ合っていたとしても、意思の力で友人にあえて留まってる関係なんて(当事者はしんどかろうが)端から見る分には何度すすっても永遠にいい出汁が出る素材じゃないですか ウメェ……ウメェ……(鳴き声)
反動で全てをかなぐり捨てていちゃつかせる時もあるけど 心の温冷浴 健康にいい
閑話休題
酒を一気にあおった上にテンパってのぼせ倒れたことを謝る喜一
あいつ、いつもああして俺ばからかって面白がるとですよ、本気にせんでください
自分の事は棚上げして、俺にだけさっさと身を固めろ身を固めろて、がばいせからしゅうしてかい……最近特にしつこかとです
腕を組んで喜一は本気で煩わしそうにため息をつく
な、何が、に、にに、似合いかて、話、ですよ、ね、迷惑な。あいつの目、節穴やなかとか?
冗談にしてもたちが悪い、と喜一は必死で言い繕う。「過剰な反応を見せてしまったが、自分はこれっぽっちも本気になんてしてませんから」という精一杯の意思表示だ。
だが、ゆうぎりは変わらず泰然と微笑むばかりで、どう思っているのか全く読めない。
この場をおさめるなら、たった一言でいいのに、と喜一はその綺麗な顔を伺いみる。
自分は身請けしてもらった旦那のことを、今も心から慕っている、と。
その一言で角を立てずにやんわりと、誰も傷つけずに断ることができる。
鈍い喜一ですら思い付くのだ。この手の駆け引き勝負は百戦錬磨のはずのこの人が、思い至らないはずがない。
しかし、ゆうぎりは、人をもてなすのは好きだから、喜一さえよければ気にせず遊びに来てくれて構わない、とだけ返した。
伊東に限らず、他の人間からもああいう勘繰りをされるかもしれないのに。
喜一となら勘違いされても構わない、ということだろうか――明確な拒絶の言葉が出てこないことに、都合のいい考えが浮かんできてはざわざわと喜一の胸を波打たせる。
これからも会うのは構わない、と言ってくれた。
喜一が会いに来てもいい、と。
喜一と、会いたい、と――そこまでは誰も言ってないだろうが、と喜一が己で己の頬を突然バチ、と叩くので、対面のゆうぎりはなにごとか、と目を見張った。
これ以上はダメだ勘違いしそうになる、と喜一は頭を振っていきなり立ち上がって帰ろうとする
こんな暗い中でまだ酔いも残ってるのに帰すわけにはいかない、と引き留められるのを振りほどこうとすると足元が覚束なくて転んでしまう
それをゆうぎりが支えようとして二人で床に倒れ、近い!!!!となる
ふらついた喜一が後頭部をまたぶつけないように、と咄嗟に手で庇ってくれたから、自然と密着したまま向き合う形になっている
喜一がテンパって立ち上がろうとするが、まずは落ち着け、と言われる
この細腕のどこにこんな力が、というような強さで押さえつけられ逃げられない
落ち着けと言われましても、な状況だが、自由にしたとたん走ってでも逃げ出すのを見越してるらしくどこうとしないゆうぎり
無言なのも気まずいので、女の一人暮しの家に押し掛けるような真似、本当はしてはいけなかった、と謝る
伊東のやつ、まさかこうなることを見越して飯屋に集まる形じゃなく、家に招かれるよう仕組んだんじゃないか、と喜一は内心で思い至る(伊東の真の目的はゆうぎりをみきわめること。もし喜一を利用したり逆賊と関係してた場合は始末するのも辞さないので、人目につかない自宅に入り込めた方がよかっただけ。喜一を置いて帰るころには、多少進展すればいいとは思ったが、そこまでの意図はない。)
今ならあのときの言葉の意味が分かります、俺に関わるとゆうぎりさんのためになりません、今後は気を付けるので、と距離を取ろうとする喜一
下心を自覚してしまえば、これまでのように軽率に接することはできない
漢方薬を持参されたときも、本来なら遠慮すべきだったのだ
厚意に甘えてはいけなかった
良くしてくれるのは嬉しいけど、自分はこんな調子で考えが足りなくて今後もきっと迷惑をかけてしまうから、応援してくれるその気持ちだけで十分、と
もう家に上がり込んだり、自分の家に上げたりしない、という意思表示
喜一なりの誠意を示したつもりだったが、ゆうぎりは出過ぎた真似をしただろうか、とこぼした
座敷のなかでこそ、客を楽しませるのに心を砕いていたが、自分は人から喚ばれるのを待つばかりで、自分の足で誰かのもとを訪れ、何かを施すといった経験には乏しいから
思うがままに振る舞ってしまった
余計な世話と取られても仕方ないかもしれない、と
その声音はどこか頼りなげに思えて、そんなことはないと喜一は強く否定する
自分の方こそ、わざわざ家を訪ねてきてくれる人なんてほとんどいないから、ゆうぎりさんが来てくれると本当に嬉しいし、帰った後はなんだか物寂しい気持ちになる、と
じいちゃんも、薬飲めだのちゃんとした飯を食えだの小言言っても聞かないのに、ゆうぎりさんのいうことは聞く
事実、きてくれた日は機嫌よかとですよ、と精一杯伝える
男所帯のあの家も、ゆうぎりさんが来てくれるとパッと花が咲いたみたいに明るくなって……と喜一が言うと、ゆうぎりの顔がふわ、と本当の花のようにほころぶ
その時ばかりは、振り仰ぐほどの優美で可憐な高嶺の花が、ごく素朴な野の花のように思えた
まるで町で行き合う普通の少女のようで、喜一がおもわず、やーらしか……と呟く
ゆうぎりが首をかしげる
やぁらしい、言うんは……たしか佐賀では品のない振る舞い、ではなく。稚児や童子に言うような……
あ、はい、その、そんな感じです……
可愛らしい、と
初めて言われた、と目をしばたかせるゆうぎり
その仕草もまた可愛らしく思える
惚れてる相手なんてなんでも可愛く見えるだろう、といわれてしまえばそれまでだけど、この人に限っては美しいが形容詞として真っ先に出てくるはずなのに
知れば知るほど、好ましく、愛おしく、尊く――腰から下がズブズブと、泥濘に沈んでいくような心地がする
これ以上はまればもう、抜け出せなくなる
胸の中心が、誰かにぎゅっと絞られているような妙な感覚がする
というか、自分の胸にゆうぎりの胸が乗っているのを意識したらとんでもないことになりそうなので考えないようにしていたが
そもそもこんな体勢のままする話ではないのだ
いつまでこんな格好でいるつもりだ
今すぐゆうぎりの肩を押し返し、離れよう、と思うのに、できない
喜一は、嘘をつくのが苦手だ
許されるなら一生このままでいたい、とすら思ってしまうくらいなのに
どうしても見てしまう、目が離せない
見つめ合うと心拍数がどんどん上がっていく
また目眩がしてきた
喜一はとにかくのぼせやすい体質なのだ
変調を感じ取ったのか、ゆうぎりが喜一はん?と声をかけてくる
すみ、ません、ちょっと、心臓、痛くて……
離れてくれ、の意味で言ったのだが、ゆうぎりはそれはいけない、という顔をして、ペタリ、と喜一の胸に頬を押し付けてきたのだから今度こそ本当に内側から破裂するかと思った
正確には心音を確かめようとしているのだろうが
とんでもない速さで脈打ってるのは間違いないから、心配そうな顔をされる
――世帯でももってみたらどうだ
――お似合いだぜ?
伊東の声がこだましている
――普通、見ず知らずの男が押し掛けてきたら迷惑でしかないだろ
――それをまさか、後日向こうから訪ねてくるなんて
――食事だって、嫌なら断る
――よほど信用してなきゃ、家に上げたりしない
――誰が好き好んで、赤の他人の爺さんの世話なんて引き受けるんだよ
伊東の声は喜一に都合がいいことばかりを囁いている
――郭に身を置いていて、男という生き物が分からないはずないだろ。
夜中、二人きり。
抱かれてもいいと思ってる相手じゃなきゃ、ここまでしない。
ダメだ。
喜一はぎゅっと目を閉じて、煩悩を振り払う。これは酒のせいだ。伊東があんなこというから、都合のいい妄想ばかりが浮かんでくる。
きっと、出会ってから二度も三度も目の前で倒れている自分を心配するあまり、少々引き留めるのが強引になっているだけなのだ。
確かに、今外に飛び出しても、溝なり段差なりににつまずいて転ぶ未来しか見えない。
それでも、一刻も早く、帰らねば。
一人暮らしの女の家から朝帰りなどできるわけがない。
誰かに見られでもしたら、妙な噂が立つのは目に見えてる。
自分があれこれ言われるのは構わないが、外聞が悪すぎる。
「俺は……ゆうぎりさんとは一生、よか友達でおるて決めた!!」
「あい?」
何かを決意したように、喜一はぐっと上体を起こすと、ゆうぎりの手を取った。
「帰ります」
「しかし」
大丈夫です、と何か言いたげなゆうぎりの言葉を遮る。
「しっかり休ませてもらったお陰で、頭はハッキリしてます。目が覚めました」
喜一はゆうぎりの手を握りしめる。
「ゆうぎりさんは、初めて俺の夢ば素敵て言うてくれた大事な人やけん。周りにつまらん勘繰りや下世話な噂なんてされとうない」
だから今後は自分からあなたに指一本触れないよう気を付ける、ときちんと正座した膝の上に、喜一は両手をついて宣言する。
「俺は、人と人が付き合っていくとに、生まれとか立場とか、男とか女とか、そがんと関係なかて思うとるし、そう思っていたかとです」
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ゆう喜 過たずに過ぎゆく
初公開日: 2025年10月30日
最終更新日: 2026年01月13日
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コメント
伊東を紹介する名目で開かれた会食の夜。酔って眠りこけた喜一がようやく目を覚ますと、対面にいたはずの伊東はすでにおらず、喜一の傍らには見守るように座して船を漕ぐゆうぎりがいて――
一夜の過ちが起きそうで起きない話。
起こさせませんとも(なぜならそっちの方がかえってアレだから)