「ポーランド暗黒SF特集」でだいぶゲンナリさせてくれた第七下術劇場、今度は「チェコ映画特選」だ!
 今回も日替わりで計4作を上映中。ちなみにポスターのキャッチコピーは「さあ、絶望に元気を出そう」です。なんだよそのキャッチコピーは……。
 今回見てきたのはヤン・ニェメツ監督が卒業制作で作った短編映画「一口のパン」、そして同監督の長編作品「夜のダイヤモンド」の2本立て。
 それぞれ感想を書いていきましょう。
 「一口のパン」、わずか11分の短編作品の中に緊迫感と哀愁が入り混じった一作でした。
 舞台は強制収容所へと向かう列車場。3人の囚人が、見張りの隙をついて一斤のパンを盗み出そうとします。
 「登場人物に個性を持たせるには、まずなにかに飢えさせろ」とはよく言われる創作技法ですが、本作はわずか11分のあいだの「食べ物を盗み出す」という行為だけでドラマが成立するんだ……と改めて感じさせられました。
 たった一人の見張りの目をかいくぐるためにタイミングを見極める緊迫感、囚人たちの絶望し憔悴しきった様子、パンを入れたコンテナにたどり着くもなかなかパンに手が届かない焦燥感。変に要素をたくさん詰め込んだり尺を伸ばしたりすると作品の味が濁るものですが、これだけの要素と尺でしっかりと作品を構成してるのがすごい、と感じるとともに、作品を成立させるための「屋台骨」の部分は決して多くはないんだな、とも感じました。
 満足に食料が行き渡っていないことがはっきりわかる背景描写、パン一斤を手に入れたところで状況が好転するはずもないという絶望感、それでも飢えには逆らえないという生存本能、わずかな時間制限、目的地にたどり着くもトラブルが起こりうまく行かないハラハラ感、映画に求められる要素を極限までコンパクトにまとめた一作と言えるでしょう。
 続く「夜のダイヤモンド」もまた強制収容所からの脱走を描いた作品。長編とはいえ67分という決して長くはない上映時間の中に、ふたりの逃走劇と現実と内面描写が入り交じるリフレイン描写が印象的な一作でした。
 本作も「一口のパン」と同じくモノクロ作品なんですが、だからこそというべきか光の描写が際立って印象的でした。強制収容所への列車から抜け出し逃走する二人が迷い込んだ森のシーンでの、あの木々の間から漏れ出る太陽の光の眩しさよ。これまでいろんな映画、映像を見てきましたが、いちばん眩しさを感じた光だったかもしれません。
 また、脱走した二人がたどり着いた街の光景も、それまでの鬱蒼とした森の薄暗さが反転したかのような、ほとんど白飛びしている眩しさがありました。
 で、今書いてて思ったんですが、本作におけるこの光、特に「太陽の光」って幻覚、幻想の象徴なんじゃないですかね。本作を最後まで見るとわかるんですが、逃走した二人は森の中で自警団らしき老人集団に捕まって逮捕されます。中盤辺りから時系列もなんだかランダムになっていることから、どうもこの逃走した二人は早々に捕まってしまっており、劇中の逃走劇の大半は内面描写、幻想・妄想だったことが示唆されています。
 こうした逃走劇作品において「太陽の光」が見えるというのは脱出に成功した、自由になれたというような意味合いを持つものですが、本作ではそれが逆説的に「そう見えて実は……」というパターンな気がします。
 本作ではしばしば同じようなシーンがリフレインされます。特に顕著なのが逃走中に忍び込んだ家屋で出くわした夫人を殺害するシーン、パンを恵んでもらうシーンがリフレインされるところ。これは明らかに出くわした夫人に対してどのような行動を取るかというIF、葛藤の表現であり内面描写です。また同じくリフレインされるシーンとしては、走行中のトラックを追いかけようとするものの足の悪いひとりが転倒したことで失敗するシーンもありました。
 この通り、本作では時系列もまぜこぜでさまざまなシーンが繰り返されます。これって結局、二人は逃走すらしておらず、護送列車の中で逃走する空想をしてただけなんじゃなかろうかとすら思います。
 そもそもこの「夜のダイヤモンド」ってタイトル自体がそれを示唆してる気がしますね。光のない夜の闇の中では、ダイヤモンドの輝きもないのと同じ、という。
 「チェコ映画特選」はあと「火葬人」「第五の騎士は恐怖」の2本があるのでこちらも見に行きたいですね。
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第七藝術劇場「チェコ映画傑作選『一口のパン』『夜のダイヤモンド』」見てきました!
初公開日: 2026年05月19日
最終更新日: 2026年05月20日
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