別にケンカを売りたかったわけじゃない。
だけどつい、余計なひと言が口からこぼれ落ちた。
「お前、こんな図面を書けたんだな」
「あァ!? 文句あんのかコラ!」
「いやあ、ははは……」
フランキーがサングラスを上げてメンチを切ってくる。
アイスバーグは少しバツが悪くて、トムさんがいたあの頃にはやらなかったような愛想笑いをした。
手に持った図面を、何度もめくる。
よく読み込んで想像を膨らませ、イメージする。
いい仕事をするためには、初めにこうやって頭に叩き込むのが一番だ。
アイスバーグは船大工としての経験が豊富なので、図面を見ればどんな船になるのかすぐにイメージできる。
どんな海を、どうやって超えるのか。
どんな奴らが、どうやって過ごすのか。
この船が、どんな空間を、どこまで運ぶのか。
フランキーの設計したこの図面は、数多の船を手掛けてきたアイスバーグから見ても、じつに見事だった。
拍手を送りたいほどだ。
アイスバーグは興奮気味の呼吸をおさえ、頬を緩めて弟弟子に図面を返した。
「お前は昔から戦艦ばかり造っていた。このウォーターセブンに戻ってからは解体屋。まともな船を設計できるのか少々疑っていたんだが」
「やっぱりケンカ売ってるだろ」
「いい船だ」
「……! バカヤロウ」
船首は明るく朗らかな太陽。
芝生の甲板は昼寝に気持ちが良さそうだ。
ブランコで遊ぶのもいい。
思い出たっぷりのみかんの木。
しっとりとした夜を思わせるアクアリウムは生け簀も兼ねて。
大浴場は惜しみなく豪華に、旅の疲れを癒してくれる。
冷蔵庫スペースは笑ってしまうくらい大きくて。
乗り手の気持ちや生活をしっかりと考えた、素晴らしい船だ。
きっと彼らのいい家になるだろう。
どんなに強い船だって、巨大な大砲や銛ばかりじゃ味気ない。
かつて戦艦にこだわっていたフランキーが、旅を楽しむための船を設計したことが、アイスバーグはたまらなく嬉しかった。
どこかにトムさんの意思が宿っている気さえした。
きっとここから始まるのだ。
〝船大工〟フランキーの人生は。
だがそれにはこの島じゃ、小さすぎるようにも思えて。
「ンマー、お前、この船に乗るのか。夢の船なんだろう」
「なに言ってやがる。無駄口たたくヒマがあんなら、手ェ動かせ。あいつらをいつまでも足止めさせるわけにはいかねェ」
フランキーがそっけなく答えたが、アイスバーグは見逃さなかった。
彼のかんながけしている手が、ほんの一瞬止まったのを。
アイスバーグは呆れてものも言えず、笑いを隠すように鼻をこすった。
まったく相変わらず素直じゃない。
だけど、たまにはひと肌脱いでやろう。
バカンキーのためか、それとも自分のためなのか。
新しい時代の海賊王と夢の船に、少し興味が湧いてきたのだ。
今なお尊敬するトムさんが、そうだったように。