さて、どうする。
鳥かごは、ドフラミンゴのイトイトの実の能力による堅牢な檻だ。
張られたら最後、彼が能力を解くまで誰も出ることはできない。
入ることも。
ハートの海賊団と目的を同じくし、勇み足で波を越えてきたところでこれである。
ロシナンテは舌打ちをひとつして、自分の間の悪さを呪った。
雪なんて降っていないのに、体が芯から冷える心地になる。
「……最悪だ」
「たしかに。だけどそれはドフラミンゴも一緒だろ」
「そうとう追い詰められてるんだ。きっとローさんだよな!」
ロシナンテのボヤきに、シャチとべポが希望をはらむ声色で返す。
しかし彼ら二人は鳥かごの恐ろしさを知らない。
ロシナンテはタバコに伸びそうになる手をギュッと握って諫めながら、「だといいが……」と小さく呟き、頭に浮かぶ惨劇を打ち消した。
「問題はどうやって国に入るか、だ」
「全部囲われてるのか?」
「鳥かごって言うくらいだからな」
ハートのクルーたちがざわめく。
入れなければ助けにも行けない。
「いちおう、グルっと一周してみるか?」
「そんな時間あるかよ」
「でも他に方法がないだろ」
「狙撃で外から援護するとか」
「そんな腕あるー?」
助けに行けないなら、来た意味がない。
まったくの無駄足で、ただ戦いを外から眺めるだけだ。
無力なのか。自分は、また。
「中に連絡は?」
「繋がらねェ。念波が阻害されてるみたいだ」
なにも事を成せずに終わるのか。
「いや、それじゃあダメだ」
「コラさん?」
「おれはいったい、何のためにここに来た。なにか策はあるはずだ」
あいつだって〝人間〟。何か必ず、穴があるはずだ。穴は……あ。
全部の記憶を思い起こして、パッとひらめく、穴の存在。
「……地下交易港」
ロシナンテの声は力のないものだったが、不思議とクルーたちがピタリと黙る。
彼らの顔を、順繰り見やった。
「鳥かごの糸が、どれほど地中深くまで潜ってるかは知らねェが、ドフラミンゴだって無駄な労力は使いたくねェはずだ」
「地下交易港は国の中心部に繋がっているが、国ははるか崖の上。港は崖の下」
ロシナンテの目線が、ジャンバールのそれと合う。
ふたりは顔を合わせたまま、互いに確認し合うように続けた。
「交易港への出入り口になら」
「糸が届いていないかもしれない」
「それだ!!」
自然と声がかさなり、同時にクルーの方へ向く。
「地下交易港へ!」
「全速前進! 急げ!」
「ア、アイアイ!!」
地下交易港の出入り口は、海に面した大きな洞窟だ。
ポーラータング号はさほど大きな船ではないから、余裕をもって楽に侵入できる。
だが問題はここから。
前方に糸が張られていないか、甲板に数人のクルーが出て確認しながら慎重に進む。
いても立ってもいられないロシナンテも、その役割についた。
洞窟に入ってしばらくすると、船が止まる。
「糸だ……! 糸が張られている!」
細くて強固な糸が、上から下へ。
体なんてとてもねじ込めないくらいの幅で伸びていた。
何度見ても、何度悪態をついても、消えることなくそこにある。
「ああ、なんだよ。クソっ!」
ロシナンテが頭を抱えて悪態をつく。
ここすらダメなら、本当に国全体が隔離されてしまっている。
もはや打つ手はないのか。
一か八か、とりあえず正規の港から上陸してみようか。
憎たらしい糸をにらみつけて、諦めをチラつかせる頭を奮い立たせる。
『ぷるぷるぷるぷる』
そんな時だ。
とつぜん電伝虫が鳴った。
艦内伝達用の個体だ。
『みんな、ちょっと操舵室へ来てくれ』
それはハクガンの声で、彼の声色はなぜか落ち着いていた。
不思議に思いながら、甲板組のみんなでそろって操舵室に向かう。
普通であれば、潜水艦の操舵室は通常の船と違い、船の船底に近い区画にある。
常に潜航状態になるため、潜望鏡で周囲の確認をすればよいから、窓すらない。
ポーラータング号も例にもれず、操舵室は船底付近だ。
しかし帆船としても活躍するため、前方に丸い窓がある。
海上を航行する際は操舵室が海面付近になり、光であふれた海を割るように進む様子が見えるのは、粋な製作者の遊び心によるものだ。
ロシナンテたちが操舵室に入ると、ハクガンとべポは真っすぐ正面の丸窓を見つめていた。
「来たぞ。どうかしたのか」
「なあ、これ……どう思う?」
ハクガンが、集まったクルーたちをチラリとも見ずに外を指さす。
窓の外には、いつもと変わらぬ海がある。
遮るものは何もない。
糸も、ない。
「鳥かごは海面までってことか?」
「本当に無いよなあ? 見えないだけじゃなくて」
「おそらく」
超人系悪魔の実の能力は、ものによっては海の中でも発動される。
体の性質を変える能力なんてものがそうだ。
例えばゴムゴムの実のゴム人間であれば、力が入らないだけで海中でも変わらずゴム人間のままである。
ドフラミンゴのイトイトの能力はそれには該当しないから、もしかしたら海の力でキャンセルされたのかもしれない。
能力者は海に触れることがほとんどないからドフラミンゴでさえも意識が海中にまで及ばず、糸を伸ばし忘れたということも考えられる。
理由はいくつか思いつくが、いまここで大切な事実は、海中には糸がないということだ。
つまり、
「もしかして、ここから入れる?」
一瞬シンとした操舵室に、イッカクのポツリとした呟きが響く。
洞窟の中に入っているとはいえ、港まで泳いで行くにはだいぶ距離がある。
が、幸いこの船は潜水艦だ。
「軍艦も入れる港だが……潜れるか?」
「たぶん深さはギリギリ。行ける確証は、正直ないよ」
「もしも障害物があったら、衝突の可能性もある」
「そうなったら……」
誰かの喉が、ゴクリと鳴った。
ほんの数秒。
静寂ののち発言したのは、ジャンバールだった。
「行こう」
20対の目線が、彼に向かう。
「うだうだしている暇はない。さあ、持ち場へ! みんなでキャプテンを助けよう!」
「……! アイアイ!」
「よしきた!」
「いそげ!」
クルーたちが一斉に駆け出した。
シャチは機関室へ手伝いに、べポはハクガンの横に付く。
ロシナンテも何かやれることを探そうとしたが、ジャンバールに涙ながらに止められた。
多少不本意ではあるが、自分の体質はよく分かる。
今回はおとなしく言うことを聞いた。
五分もしないうちに潜水を開始し、やがて海底ギリギリに迫る。
交易港の出入り口は国土にぽっかり開いた横穴のようなもので、さほど深くない。
船の腹をこするほど潜ってもまだ不安が残る。
また、海底に障害物が転がっていてもアウト。
ぶつかって最悪の事態も起こりうる。
ハクガンが慎重に舵をとる。
彼の白いツナギの膝部分には、あご先から滴った汗がまだら模様を描いていた。
船の速度は限りなくゆっくり。
それがひどくもどかしい。
いよいよ鳥かごを超える。
ゆっくりでいい、大丈夫、行け、そのまま。
心の中でそれだけを何度もくり返し。
船に衝撃。
全体が揺れる。
ギザギザした金属音が、鼓膜を殴る。
「なんだ!」
「大丈夫か!?」
「船底! 擦ってる!」
ロシナンテが小柄な操舵手を見た。
彼とべポは、不気味に不安を駆り立てる音の中でなお、まっすぐに前を見続けている。
「ハクガン!」
ロシナンテは、たまらずハクガンに叫んだ。
異常が起こっているのは、誰の目にも明らかだ。
「大丈夫、問題ないよ!」
「にしたってよォ、この音と衝撃は……!」
ロシナンテの問いに答えたのはべポだ。
彼は予定通りと言い張るが、そんなのとても信じられない。
衝撃はなおも連続して続いており、同時に首の後ろがゾワゾワするような不快な轟音がずっと響いている。
「ここまでやらないと『背びれ』が出ちゃうんだ。下に擦ってるのは魚雷管。最悪それは壊すかもだけど……」
「本体は絶対に傷つけない!」
ベポに代わってハクガンが力強く言った。
ロシナンテは前方の窓を鋭く睨んだ。
彼らの判断を信じて、覚悟を決めて。
丸い窓が海水をゆっくり掻き分けて進むのを、じっと待つ。
おそらくほんの数分だ。
船が後ろに傾き、衝撃と音が消え、浮上。
我慢ができなくて、ロシナンテが甲板に走る。
扉を開けるとうす暗闇の洞窟だった。
後ろには鳥かご。
越えた。
鳥かごを通過した。
あとから甲板になだれ込んだクルーたちの歓声が、岩の壁に反響する。
ハイタッチして、抱き合って、それぞれの素晴らしい仕事に感謝した。
ロシナンテは甲板の柵から身を乗り出し、操舵室に向かって声を張り上げた。
「やったぞ、お前ら! やった! ドレスローザに入ったんだ!」
彼らには聞こえるはずもないが、やらずにはいられなかった。
そしてお決まりのようにずり落ちそうになって、間一髪、船員たちに助けられる。
その時に窓からチラリと見えたハクガンは、気が抜けたようにべポにもたれかかっていた。
安堵の表情を浮かべているのが仮面ごしでもちゃんとわかる。
すごいチームだ。
そしてその頭が、他でもないローである。
ロシナンテはなんだかとても誇らしい気持ちになり、最高にうまい煙を吸った。
「な、んだ……これは」
地下交易港から地上に出たロシナンテは、自分の目と頭を疑った。
ドレスローザの街並みは見る影もない。
かろうじて建物だったと分かるようなガレキの山がそこにあった。
地形すら大きく変わっていた。
ロシナンテたちは地下交易港からコロシアムを経て、王の台地の足元に出たはずだった。
ところがそこには台地しか残っておらず、王宮は遠く段になったひまわり畑の上に移動している。
破壊すべきスマイル工場すら剥き出しだ。
そこかしこで爆音があがり、頬に触れた空気がビリビリ震える。
ガレキのつぶてが雨のように降り注ぐ。
粉塵と煙が青い空を覆って、日の光なんてかすかに射すばかりだ。
ハートのクルーたちもその光景に息を飲む。
拳を握りしめる者もいた。
この国への思い入れは、ロシナンテよりも彼らの方が強い。
戦いは新しい王の台地付近が激しいらしい。
絶えぬ雄叫びと破裂音がその証拠だ。
しかしその中心から外れたコロシアム付近でも、武器を持って走り回っている者が多数いる。
一般市民のような人々まで混じって。
彼らは口々に「受刑者が」「早くしないと」と言い、血眼で何かを探し回っている様子だった。
戦えない者は、戦場から離れようとしている。
皆がそれぞれ街の外れへと急ぐために、大きな通りはパニック。
泣いてる子ども。震えている老人。血を流し倒れている者。
路地裏にあふれているのは、動けない者たちだ。
国民たちの様子は気にはなるが、目的は打倒ドフラミンゴである。
いまどんな状況であろうと、それを成さねば地獄が終わることはない。
ロシナンテが頭を左右に振って、王宮をにらむ。
「足を止めるな、行くぞ!」
威勢よく叫んで走り出したものの、その声に従ったのはシャチとべポだけだった。
ジャンバールをはじめとしたハートのクルーたちは足を止めたまま、互いに目くばせをして頷き合う。
「何やってるんだよ! 早く行かないと、ローさんが!」
ハートのクルーたちが、せっつくシャチに穏やかに言った。
「お前たちだけで先に行け」
「おれたちはここに残るよ」
「怪我人が多い。手当しないと」
その間にも、何人かのクルーが救急セットを取りに船に戻る。
「怪我人は確かに気になるけど、お前らもローさんを助けにここまで来たんだろ!?」
「まあそうだけど……ちょっと違うぜ、べポ」
「違う?」
戸惑うべポに、ハートの髪型をしたクルーが言う。
「おれたちは、キャプテンの大切なものを守りに来たんだ。あの人がまっすぐ前見て、存分に戦えるように」
ヘルメットのクルーがそれに加わった。
「そうさ、おれたちの役目はキャプテンの背中を守ることだ」
天然パーマのクルーも。
「だから隣で戦うのはあんたたちに任せた! あ、今回だけだからな、今回だけ!」
他のクルーもウンウンとそれに頷き。
「……いいんだな」
「ああ、任せた。コラさん、シャチ、べポ」
ロシナンテの最後の問いに、ジャンバールも深く頷く。
ハート全員の総意である。
それ以上はお互い何も言わず、ロシナンテとジャンバールが正反対に踵を返したのはほとんど同時だ。
ロシナンテの背後で、ジャンバールが支持を飛ばす声と元気な返事が聞こえる。
隣に並んで走る二人の顔を盗み見ると、どちらもわずかに口元が緩んでいた。
鏡がないからわからないが、恐らく自分も同じような表情をしているのだろう。
ジャンバールが思っていたよりもずっと状況は悪い。
闘いの余波は鳥かご全域に及ぶし、ドフラミンゴに操られて泣きながら人を傷つけて回る国民もいる。
人手も物資も全然足りない。
だが泣き言など言ってるヒマもない。
とにもかくにも避難が先決だ。
動けない者には手を貸して、一刻も早く安全な場所――そんな場所が今のこの国にあるとは思えないが――に連れていかなければ。
ジャンバールが血を流して倒れている男に手を差し伸べる。
「ひッ、あ、こ、コラソン軍だ!」
「ファミリーのやつが、なぜここに!?」
男がジャンバールの手を振り払った。
周りにいた国民たちも白いツナギの存在に気がつき、一斉にどよめく。
「待ってくれ、おれたちはそんなつもりじゃ」
「助けに来たんだよ!」
「ここにいちゃ危ない、一緒にここから離れよう」
ハートのクルーたちが弁解するも、国民たちのどよめきは波紋のように広がっていく。
ジャンバールどころか、クルー全員がすっかり失念していた。
国外では『ハートの海賊団』として活動していたが、この国では『コラソン軍』としての顔の方が強い。
ドフラミンゴが手のひらを返した今、敵だと思われるのは当然だ。
だがそんなことを気にしている場合ではない。
一刻も早く逃げなければ、助かる者も助からない。
こうなったら、力ずくで――。
焦る気持ちはみんなにあった。
クルーのひとりが、足元に座りこんだ怪我人の腕を強引に掴む。
「うわぁあ、殺される! 助けてくれ!」
「動けない者に何するつもりだ!」
「違うって、早く手当を……イテっ!」
クルーの頭に、石が当たった。
国民のひとりが投げたのだ。
それを皮切りに、次々と拳ほどの石が宙を舞う。
「いッ……なんだよ! 助けようとしてるのに!」
「よーし、殴ってでも連れていく!」
「やめろって! 刺激するだけだ!」
「じゃあどうしろってんだ!」
信じてもらえない焦りと悲しみが、ジャンバールの心の奥にさざ波を立てる。
クルーたちも国民も、どちらも悪くないはずなのだ。
ただ、疑心暗鬼にさせられてるだけ。
「ジャンバール、指示を……ジャンバール?」
悪いのは、全部ドフラミンゴだ。
「コラソン軍、おれたちはあんたたちを信じていたのに!」
「コラソン様……コラソンもドフラミンゴの手下。所詮は海賊なんだ!」
ローをはじめハートの海賊団は、ドレスローザに危害を加えようとしていないのに。
国民を助けようとしているのに。
彼らは逆に牙をむいてくる。
こちらを見て泣き叫び、ひどく怯える。
大きめの石が頭に当たった。
こめかみのあたりが熱くなり、鉄の匂いが濃くなる。
「もう無理だ、いったん下がろう!」
「おい、ジャンバール! はやく……おい!」
クルーたちが袖を引っ張る。
ジャンバールはそれを振り払った。
そう、無理だ。
この場に彼らを置いて背中を向けることなんて。
ジャンバールにはとうていできない。
ローの大切なものを守ると決めたじゃないか。
このドレスローザはローにとって、コラさんに劣らないほど見過ごせない『大切なもの』だ。
ジャンバールはかつて、年若いローにヒューマンショップで買われた。
ハートの海賊団の最古参クルーである。
十年近く彼と船に乗っていると、いくつか気づくことがある。
みんなが集まる食堂によく居座り、隠れた不調を確認しているとか。
医者のくせに、夕飯の後に濃いめのコーヒーを飲みがちだとか。
そして。
『帰るぞ、ドレスローザに』
『アイアイ、キャプテン!』
いつの日からか、ドレスローザに『戻る』ではなく『帰る』と言うようになった、とか。
ドレスローザに着くと少しだけ眉間の皺が薄くなるようになったのも、たしかその頃からだ。
ドレスローザはもうすでに、ローにとっての『帰る場所』になっている。
ジャンバールはもうこれ以上、彼に何も失ってほしくないのだ。
彼はいままで何度も何度も帰る場所を失ってきたのだから。
きっとローが、ドフラミンゴを倒してくれるだろう。
命を削ってでも、そうするはずだ。
ならば、ジャンバールがすべきことは、たったひとつ。
「おれたちは、コラソン軍じゃない!」
「ジャンバール…! なにを」
「おれたちは『ハートの海賊団』! キャプテンは医者だ! だからおれたちに守らせてくれ、あんたたちの命を!」
ジャンバールは住民たちの前に立ち、めいいっぱい腕を広げた。
敵意がないサインだ。
路地裏ぜんぶに聞こえるように、腹の底から声を張り上げる。
そうやって誠意を伝える。
思いを伝える。
信じてもらう。
「トラファルガー・ローは、患者を決して――」
ローはコラソン軍だが、それ以前にひとりの医者としてこの国に住むひとりひとりと向き合ってきた。
嘘や打算できるようなことじゃない。
この国を、人々を、愛していなければ。
「見捨てない!!」
みんな混乱しているだけだ。
ローだけはこの国を裏切っていない。
それさえわかってもらえれば、きっと――。
「あ、待ちなさい!」
爆音を遠くにいっときの静けさが流れ、それを割ったのは10歳ほどの少年だった。
小さな女の子を背負っていて、だらりと垂れ下がる腕から血が滴るのが見えた。
「……妹が、ケガを」
彼は大人の住民たちに止められながらも、覚悟を決めた様子で群衆の前に進み出た。
半分泣きべそをかいていて、それでも足取りはしっかりとしている。
イッカクが少年に駆け寄った。
膝を折って目線を合わせると、少年は震える声で小さく言った。
「助けてくれるの」
「……もちろん! よく、頑張ったね、お兄ちゃん」
イッカクがどこか堪える様子で、変な場所で息継ぎをしながら少年を抱きしめる。
瞬間、少年の目から大粒の涙が堰を切ったようにあふれ出した。
ほかの住民たちも同じだった。
持っていた石や武器を次々と地面に捨てる。
嗚咽をもらしてうずくまる。
みんな限界だったのだ。
楽しかったはずの一日なのに、突然国の地形を変えるほどの戦闘に巻き込まれ、明日の命をも
約束されない事態になったのだから。
手のひらで踊らされ、張りつめて、いっぱいいっぱいで、土ぼこりの地面を這うしかできなかった。
壁は壊した。
だけど彼らは心身ボロボロだ。
ジャンバールは掲げた腕をそっと下ろした。
これ以上刺激しないよう、注意して事を運ぶ必要がある。
「バカヤロー! お前ら!」
と、背中側から怒声が聞こえた。
後ろに控えていたクルーたちである。
ジャンバールがギョッとして振り向くと、大小さまざまな担架を抱えた彼らが、飛ぶ勢いで走ってきた。
「救助は一分一秒を争うんだ!」
「泣いてるヒマがあったら乗れ、走れ!」
「おれたち、誰も見捨てないから!」
怪我人を無理やりかついで、担架に乗せて、自分で逃げられる者はケツを蹴ってでも走らせる。
救助活動にしては荒々しく、しかしそれは一人でも多くの命を救うためだと見て取れる。
ジャンバールがその光景を開いた口がふさがらない気持ちでぽかんと眺めていると、クリオネが横に来てしたり顔で言った。
「さすがだよ、船長代理。国民に伝わったんだ。お前のおかげで助けられる」
誰を、とは言わなかった。
その代わり担架を指さす。
どこか知ってる布のように見えた。
「……あれは?」
「あの担架? 即席にしては使えるだろ、予備のつなぎで作ったんだ」
「そうか、よかった。一度に大勢を運べる」
二人で少しだけ笑った。
そしてすぐに救助活動に加わった。
少しでもローの背中が軽くなると信じて。
願いを込めて空を見上げる。
王宮の方に向かって、破裂しながらまっすぐ何かが飛んで行くのが見えた。
「頼んだぞ、キャプテン……コラさん!」
あとは、ドフラミンゴに勝つだけだ。
王宮では苛烈な戦いが繰り広げられていた。
ルフィと二人で最上階に乗り込んだものの、断絶され、ローはたった一人でドフラミンゴと向かい合う。
そばにはムカつく笑いを絶やさないトレーボルもいる。
正直、厳しい状況だ。
しかしハナから狙いはドフラミンゴただ一人。
こいつさえ倒せば、すべてが報われるのだ。
揺らぐな。
目をそらすな。
刺し違えたとしても、こいつだけは絶対に倒してやる。
息を弾ませながらも心だけは折られまいとするローの片腕が、飛んだ。
「うわああああああ!!」
「フフフ! もう一人の〝D〟に感化されてか……お前が直接おれに挑んできたのも起きちまった現実! ――だからおれは許す!」
ドフラミンゴが、痛みに叫ぶローにゆっくりと近づく。
「実の父を許したように……〝死〟をもってな!」
よく手入れしてある銃を一丁握り。
「くっそォ……!」
「処刑はやはり〝鉛玉〟に限る……!」
まっすぐ。
銃口をローに向けた。
カット
Latest / 387:23
カットモードOFF
76:29
お芋さん太郎
今日はここで終わります!ありがとうございました!
98:59
お芋さん太郎
終わります
99:00
お芋さん太郎
終わります!
チャットコメント
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
ロシナンテ生存IF⑫
初公開日: 2025年06月25日
最終更新日: 2025年11月29日
ブックマーク
スキ!
コメント
ロシナンテ生存IF⑫
ゆっくり書いていきます