「——ゲホッ、ゲホッ!はぁっ・・・」
アンナが出かけてから数十分後、ジュリオは自分の咳き込む音と、身体の抵抗から成すすべもなくせり上がってくる空気とに叩き起こされた。再発した発作のせいで吸おうとした酸素がすぐさま全部出て行ってしまい、息が苦しい。ひとしきり咳き込んでやっと少し収まった頃には、喉からはガビガビの声しか出なくなっていた。
それでも落ち着いた事には変わりない。酸素不足と喉の痛みとで溢れた涙をぽろりと零して、ジュリオは目を開けた。熱も上がっていて、まるで頭全体に靄が掛かったかのように、周りの全てがぼんやりしている。
「あん、な・・・?」
それでも、最愛の少女が近くにいないという事だけは認識できた。さっき背中をさすってくれた手があったのに、それが無い事に違和感を感じていた。ぐらぐらと世界が歪む。——ここは、どこだ?
そこはまごう事なきジュリオとアンナの住まいであったが、世界全体が歪んでいて、しかも真面な思考能力も損なわれていたジュリオにはそう認識できなかった。正確には、ジュリオ自身は自分の家である事を分かってはいたのだが、その確証を持てなくなってしまっていた。
熱でぐらつく頭。知らない天井。周りの風景。ベッド。痛む身体。無くなった手足。——そこにいない、最愛の人。
まさか、という不安と違う、という確信とがほぼ同時に湧いた。ここは自分達の家で、自分達は日本のヒーローに救われて、お互い心を伝えあって平穏に暮らしている。そうわかっているのに、ここが病院のベッドで、まだ彼女が奴らに捕らえられてて、今までのは全て夢で――という不安が拭えない。
「アンナ・・・ッ」
ふらつきながら、アンナが出かける前に仕舞っていった棚から義肢を取り出す。この時点でまず病院でない事も事件直後じゃない事も明白なのだが、冷静になれる訳のないジュリオは気付かない。重くなっていくばかりの身体へ更に加瀬の如き重い義肢をつけ、ふらついたまま部屋を出る。
「・・・っ」
だが、廊下に出て数歩と歩かない内に頭が大きく揺れて、そのまま座り込んでしまった。不調のまま突然激しく動いた頭は鈍痛を訴え、熱に軋む関節が悲鳴を上げている。行かなければと思うのに、手足があるのに、身体が動かない。
「アンナ・・・」
彼女の名前を呟くと、大人しくなっていた発作が再び牙を剥いた。碌に呼吸もできなくなり殊更動けなくなっていく身体を、熱のせいでより辛い寒さが容赦なく刺していく。堪らず壁に身体を預けるも、咳が止まる気配はない。
早く、帰って来てくれ。あの最良の出会いと、そのおかげで掴めた彼女との幸せが夢じゃないと言うなら、早く。そう切実に願うジュリオは、生理的な物ではない涙を一粒、左目から零した。
ーーーーーーーーーー
この辺に別で書いといた奴が入ります。ので、一旦飛ばしますねー。完成をお楽しみに!
ーーーーーーーーーー
ジュリオの返答に、アンナは「嬉しい!」という字が書いてあるかのような満面の笑みを浮かべた。嬉しさの余り、声で答えられないジュリオに「何して欲しい?」「今欲しいもの何?」「私にできる事なら何でも言って!」と矢継ぎ早に質問する。返答のタイミングを逃がし困ったジュリオに『落ち着け、俺答えらんねーよ』と書かれてしまい、アンナは慌てて口を手で塞ぐ。その様が可笑しかったのか、ジュリオはくすりと笑ってから、質問への答えを書き記した。
『飯食いてえ』
『あんま重たくない奴』
『そんな難しいもんじゃなくていいからな』
アンナは口を塞いだまま、こくこくと何度も頷く。その様子にまたジュリオは吹き出し、『もういいって』と書いた。アンナははっとなって手を外す。
「ご、ご飯ね!わかったわ、頑張って作るから!」
言いながら、ガタンと勢いよく席を立ち、エコバッグをひったくって部屋の扉を開く。だが出て行こうとする直前、はたとある事を思って動きを止め、ジュリオの方を振り返った。その理由を察して、ジュリオが今度は口パクで答える。
『もう勝手にベッド出ねえって』
その返答を聞いたアンナは安堵の溜息をついて、今度こそ部屋を出た。エコバッグの中身を思い出しながら、調べた胃に優しい食事を幾つか思い浮べる。何を作ってやろうかと胸を躍らせて、アンナはキッチンへと駆けて行った。
短いですけど今日はこれで終わります!
明後日の夜と明明後日のどっかにも配信出来たらいいな・・・。
まあそん時はジュリアンジュリじゃないかもですけど・・・。
一先ず失礼します!