その日の晩、ジュリオとアンナの二人はいつも通り夕食を済ませた。ジュリオが作ったハンバーグを咀嚼しながら、アンナは今日も己のアプローチの一人反省会を行う。
今日は、抱き着いたのが2回。好きと言ったのが5回。いい加減好きと言えが1回。それから、不意打ちのチュー1回。最後のそれで逃げられてしまって、帰りを待っていたらもう夕食を準備する時間になっていた。ので、それ以外は何も出来ていない。
明日こそはぎゃふんと言わせてやる。そう思うのがもう何十回目くらいなのか、アンナ自身でも解らない。それでも、諦めてやれる気はこれっぽっちもしなかった。だって、自分達は両想いなのだ。ジュリオの劣等感や負い目を取り去って、もう逃げられないと知らしめてやるまでは、諦める訳にはいかない。
そうして一人燃える彼女の内心を、テーブルの向こうで同じくハンバーグを突くジュリオは知らない。彼は今、自分がこの後の為に仕込んでおいたことが成功するか否か、それを考えるのだけで精一杯だ。お陰で相当拘って作ったそれの味は全く感じない。幸いアンナが幸せそうに食べてくれているから、美味しくは出来たのだろう。それで良しとすることにした。
「・・・なあ、アンナ」
味のしないガムのような肉の塊を飲み込んで、ジュリオが意を決したように言葉を発する。ジュリオ同様に彼の内心を知る由もないアンナは、ことんと首を傾げて応じた。その口はまだハンバーグを咀嚼している。それを待っているだけの余裕もないジュリオは、一先ずその挙動を返答とする事にして言葉を続けた。
「渡したい物があるんだ。ちょっと待っててくれ」
今度は動きでの返答すら待たず、ジュリオは席を立ち、キッチンの方へと消えていった。それだけで何か作ったのだろう、と概ね察しのついたアンナは気にすることなく、またハンバーグを切って口に放り込んだ。柔らかく肉厚なそれは屋敷にいた頃より低品質な肉で作った筈だが、当時のシェフから教わっていたというジュリオの腕は確かで、遜色ない程に美味しい。
そうしてアンナが呑気に待つ事数分。ジュリオはグラスを二つ持って戻って来た。片方はオールド・ファッションド・グラスに淡いピンクの液体が、もう片方にはカクテル・グラスに透明の液体が入っている。
「ジュリオ、それは?」
「・・・一応、自作のカクテル。アンナはこっちな」
言いながら、ジュリオはアンナの眼前にオールド・ファッションド・グラスを置いた。グレープフルーツが差してあるそれをアンナはじっと見つめ、それから両手で丁寧に持ち傾けた。グレープフルーツの酸味と甘みのお陰で大分飲みやすい。
「美味しい!これなぁに?」
「ブルドック。ソルティドッグの塩なし、って奴」
「ジュリオのそれは?」
「・・・これは、只の失敗作だよ。度数高いから飲むな」
明らかに言い淀まれて、アンナは不服そうに頬を膨らませた。その事にジュリオが少々罪悪感を抱いたその瞬間、アンナがテーブルの向こうから手を伸ばし、グラスを引っさらった。
「あっこら!」
慌てたジュリオが止める暇もなく、アンナはグラスを傾けて中身を少し飲む。確かにきつい。多分ブルドックの倍はある。ほんの少しだったからあまり影響はないが、慣れていない人間には無理な度数だ。まあ、これで間接キスも達成という事で、結果オーライだ。
「で、これなぁに?」
「・・・XYZだよ。もういいだろ、返してくれ」
教えて貰った事に満足したのか、それともこれ以上飲んだらやられると認識したのか、アンナは大人しくグラスをジュリオに返した。ジュリオはすぐに口をつけようとして、間接キスである事に気付き一瞬制止する。だがもう今更と、諦めてグラスを傾けた。前の教訓を無駄にしないよう、少しずつ。
「それにしても珍しいわね。晩御飯のお供にお酒なんて。ジュリオ、全然私に飲ませようとしないのに」
「・・・今日は、酒でも何でもいいから背中を押して貰いたくてな」
そう言うと、ジュリオはもうあまり残っていなかったグラスの中身を一気に飲み干した。前の泥酔ぶりを見ていたアンナは少し心配になるが、ジュリオも流石に学んだようで、酒は本来グラスに入れる量の3分の2程度しか入っていなかった。ジュリオはアンナと比べると酒慣れしているし、本来は耐性もそれなりにある。この程度ではまず殆ど酔わない。
グラスを机に置き、ジュリオが1つ大きく息をついた。そして姿勢を正し、アンナの方へ向き直る。突然畏まった態度を取り出した彼を見て、アンナは再度首を傾げた。そんなアンナに何か言葉をかける余裕のないジュリオは、もう一度深呼吸をして漸く口を開いた。
「アンナ。今からちょっと・・・正直かなりアンナを苛つかせる事を言うと思う。でも、それも含めて俺の本心だから。だから、どうか聞いて欲しい」
ジュリオの口から出て来たあまりにも意外なお願いに、アンナは数秒呆けた。苛つかせるとわかっていて、それを宣言してまで伝えたい、ジュリオの本心。それだけどうにか噛み砕いて、飲み下すように小さく頷く。
「俺はな、アンナ。知っての通り孤児で、どこから出て来たのか誰から生まれたのかもわからない。教養なんて無いようなもんだし、執事としての生き方以外知らない。おまけに傷物で、アンナより年上だ。本当なら、アンナは俺の事なんて忘れて、別のもっと相応しい誰かと幸せになるべきだって、今でもずっと思ってる」
アンナの返答を受けたジュリオの言葉は、本人の宣言通り大層アンナを苛つかせるものだった。私の好きな人を、愛してやまない人を、そんなに酷く言わなくたっていいじゃない。そう怒鳴りつけてしまいそうになるのを、アンナは寸での所でぐっと堪えた。
こうなるとわかってて言ったのなら。アンナが自分を貶める事を怒ってくれるとわかった上で、敢えて言ったのなら。きっとそれには意味があるんだ。そう信じて。
「でも、俺はやっぱりアンナを嫌いになれないし、アンナ無しで生きていくことなんて出来ない。他の誰かの隣で笑っているアンナを見たくない。——アンナの事は、俺がこの手で幸せにしたいんだ」
「ジュリオ・・・それって」
「今までずっと逃げ続けてごめん。もう絶対に逃げない。アンナの気持ちからも、自分の本心からも。だから――」
ジュリオが席を立ち、アンナの傍へと歩み寄る。そして、椅子に腰かけたままのアンナの足元に跪き、彼女の手を取ってそこに口付けた。
「だからどうか、俺に貴女を守らせて下さい。貴女の隣で、貴女の為に生き、貴女を笑顔にする事を――お許し下さい」
ジュリオの双眸が、真っ直ぐにアンナの蒼を見つめる。言葉通りに乞うような、それでいて誓うような迷いのない視線。それに射抜かれて、アンナの両目からはぽろぽろと涙が零れ落ちた。
今まで沢山、大好きな人に振り向いて貰う為だけに、がむしゃらに頑張って来た。傷つけられもした。沢山泣きもした。それでも好きで好きでたまらなくて、今まで虚勢を張ってでも頑張って来た。
――でもこの涙は、悲しみや痛みから流れたのではない。だって、あの舞踏会から今まで頑張ってきた沢山は、全然苦しくなんてなかった。落ち込んでしまう時もあったけど、また頑張ろうって何度でも思えた。空元気だとしても辛くなんてなかった。——だって、いつかはこうして、初恋の魔法が叶うって信じられたから。
「——っもう!やっと負けを認めたわね!私、おばあちゃんになっちゃうかもって思ったんだから!」
「ああ。遅くなって――沢山待たせてごめん。最初からずっと負けてたのに、言えなくて――認められなくて、ごめん」
「ちょっと、そんなに謝らないでよ!私今、すっごく幸せなんだから!」
双碧から変わらず涙は零れたままだったけれど、アンナは幸せそうに笑っていた。その笑顔にジュリオも微笑みを返し、義手の指先で涙を優しく拭う。アンナはくすぐったそうにして、お返しとばかりにジュリオに飛びついた。甘じょっぱい、ソルティドッグの味がした。
以上、配信終わり!です!
こいつをサビ前(とくっつけて、Twitterに上げちゃいます!
そいや文章画像ってAI学習されるんかな?
まあ当方は特段困らないので、精々ほかの作家様の為に学習のノイズになれればいいなと思います。
ならないかなー、流石に。
と言う訳でお疲れサンシター!
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ジュリアン仮面舞踏会のその後
初公開日: 2024年11月15日
最終更新日: 2024年11月15日
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コメント
完成まで書きまぁす!
アンジュリDom/Subバース③
結局全然出来てないアフター第二弾!開始がだいぶ遅くなったので、日付変わる手前までは出来たらいいな。
ゆっくりゆきねこ
アンジュリDom/Subバース②
女攻めオンリーアフター第一弾!本日は予告通りアンジュリDom/Subユニバースを書きます!
ゆっくりゆきねこ