私のすべてを受け入れてくれる人がすき。
 そんな人いないけど。
 
 そんな愛され方されたいのか?
 だったら叶えてやろう。
 彼は私に囁いた。
 私は頷く。
 だって、私は本当に愛されたかった。
 全ての私を受け入れてくれる愛し方。
 条件は、私の死。
 私の死によって、私の家の財産がすべて彼の元へ流れる。
 私は受け入れた。
 その代わり、彼は私を愛してくれる。
 私たちは婚約期間も置かず、結婚した。
 
 どこでも視線が気になった。
 誰かが私の悪口を言っているのではないかって怖かった。
 だけど、彼が私の壁になってくれて、私はどこにでも行けた。
 苦手だった社交の場にも出て、ダンスも踊った。
 下手くそだったけど、彼は私の下手なダンスをうまく導いてくれて、ちゃんと踊れたと思う。
 足は踏んでしまったけど。
 一緒に食事をして、散歩して。
 寝ることも聞かれたけど、それは丁重にお断りした。
 幸せは一年はあっという間にすぎた。
「いよいよ、明日ね」
「ああ」
 寂しい気持ちももちろんあった。
 怖い気持ちも。
 だけど、この1年、私は少しずつ覚悟を決めた。
 だって、こんな馬鹿みたいな愛され方する人なんて、彼しかいない。
 演技かもしれない。
 演技に決まってる。
 だけど、それを感じないくらいだった。
「痛くない死に方がいいな」
「毒は苦しいか、なら首を落そうか。一瞬だ」
 彼の提案は酷く恐ろしかった。
 だけど、私は頷いた。
 彼は最後まできっと馬鹿な愛し方を続けてくれる。
 だから、痛くない。
「眠れないのか?」
 最後の夜、眠りたくなくて、読みかけだった本を読んでいた。
 明かりが漏れていたらしく、扉の外から声がした。
 こんな遅い時間なのに起きていたのね。
「うん。あと、この本を死ぬ前に読み終わりたくて」
「最後に一緒に寝るか?」
「ううん。いい」
 体を重ねてしまったら、きっと私は酷く生に執着してしまうかもしれない。
 だから断った。
「そうか。じゃあな」
 彼はあっさりそう言って、いなくなる。
 寂しいという気持ちが込み上げてきたけど、堪える。
 明日が最後。 
 明日、首を落される前に抱きしめてもらおう。 
 彼と付き合ってわかったのだけど、抱きしめてもらうとものすごい安心して、幸せな気持ちになる。
 だって今まで誰も私を抱きしめてくれたことはなかったから。
 私は、黒髪で黒い瞳を持って生まれてきたから、両親からも疎まれて生きてきた。
 でも親としても義務はこなしてくれた。
 じゃないと悪魔に呪われるとでも思ったのかしら。
 そこに愛はなかった。
 黒髪に黒い瞳の子は、悪魔の眷属と思われ、呪われた子と呼ばれる。
 殺されることはないし、虐げられることはない。
 だけど、愛されることはない。
「最後に何か言い残すことはあるか?」
「最後に抱きしめてもらったも?」
「いいぞ」
 彼は私をぎゅっと抱きしめてくれた。
 体の大きな彼は私の全身を包んでくれる。
 嬉しい。
 ありがとう。
 涙が出そうだったから、必死に堪えた。
「ありがとう。もういいわ。ここに座ればいいの?」
 庭に一脚椅子があって、私はここが最後の場所だとわかった。
 彼が頷き、私は椅子に座る。
 首を切りやすいように、髪を纏める。
 そして頭を垂れた。
「さらばだ、マリーダ」
 シュッと音がした。
 本当に痛みがしなかった。
 けれども、彼が聞き取れない言葉を何かつぶやいた瞬間、激痛が走った。
「痛い。苦しい」
 恐らく毒を盛られたのかな。
 そういえば何か苦いものを痛み止めとかで飲まされた。
 あれが毒だったんだ。
 悶えている私を彼がきつく抱きしめる。
「嘘つき」
 思わずそうつぶやいてしまったけど、意識がなくなる前に「すまない」と言いう言葉が聞こえた。
 目を覚まして最初に視界に入ったのか、彼だった。
「……どうして」
「お前を私の眷属に加えることにした。人であるお前は今日死んだ」
「……眷属?」
「お前はもう人ではない。私と同じ悪魔だ」
「悪魔?あなたが?」
「そうだ。暇だから時折人間の振りをするんだ。二十年くらいで飽きるがな。財産なんていらない。お前の魂をもらう予定だった。だけど馬鹿な愛し方はとても面白かった。お前の魂をもらうよりも続ける方が楽しいと思ってな」
 彼は軽快な笑い声を立てる。
 その姿はこの一年私と共に過ごしていた姿とは大きく異なっていた。
 黒い瞳に黒い髪。
 額には角が生え、黒い翼が背中から生えている。
 
「お前にも角が生え始めるだろう。翼も。空を飛ぶのは楽しいぞ」
 すまないと彼が謝ったのは、私を勝手に眷属にしたことからだろうか。
「ありがとう。嬉しい」
「そうか。よかった。あの毒は苦しかっただろう。すまなかったな」
「苦しかったけど、大丈夫」
 すまないは、毒を私に盛ったことか。
 そんなの謝る必要ないのに。
 
 髪色、瞳の色のせいで、悪魔の眷属として疎まれていた私は、彼に愛される悪魔になった。
 
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