4月6日は、「ま(0)しゅ(4)ま(0)ろ(6)」の語呂合わせで、マシュマロの日らしい。
うたた寝している時に誉がそんな話をしているのを聞いた密は、瞬間目を見開き、驚く誉を捕まえてスーパーへと足を向けた。
スーパーでばったり会った買い出し中の臣には「すごい量だな……」と驚かれたが、密にはまだまだ足りないように見えた。
(これじゃ、三日分ももたない……)
夜、誉が部屋で執筆に没頭しているのを確認し、昼間買ったマシュマロを食べてながら不満に思っていると、またしても臣に見つかった。
「密さん。それ、6日用じゃ……」
「6日までにまた買えばいいし……」
アリスにはナイショね、と言うと、臣は困ったように笑っていた。けれど、優しい彼が誉に告げ口をしないことも、このマシュマロとは別にマシュマロ料理を作ってくれることも、密はしっかりと理解していた。
「……でも、やっぱりこれだけじゃ足りない」
そう思い、密は寮中に「4月6日はマシュマロの日」ということを喧伝して回った。
「咲也、4月6日はマシュマロの日」
「そうなんですか! じゃあ、その日はマシュマロをみんなで食べなきゃですね」
「天馬、4月6日はマシュマロの日」
「へえ、そんなものもあるのか……ギモーヴは、マシュマロじゃないよな?」
「万里、4月6日はマシュマロの日」
「ふはっ! そんな密さんの為みたいな日あんのかよ!」
「紬、4月6日はマシュマロの日」
「ふふ、それじゃあ、みんなでマシュマロでお祝いしないとだね」
各リーダーズを始め色んな団員に言いふらして回り、ストリートACTでもJourneyでもうんちく代わりに客に語って聞かせた。
「これで、準備万端」
密は、5日の夜に満足げに微笑んで布団に入る。きっと、明日の朝には山のようなマシュマロが手に入るはずだ。
〇 〇 〇 〇
「……んん、マシュマロ……」
「全く。寝言でもマシュマロなのかね。そんなに食べたければ早く起きるといい。今朝は特別なマシュマロを用意したからね」
「!」
そう言われ、密は即座に目を覚ます。その反応の速さに苦笑しながら、誉は用意していたマシュマロを箱から取り出し、密に手ずから与えた。
「! 中に餡が入ってる。美味しい……」
「和菓子屋さんが作ったマシュマロなのだよ。気に入って貰えたなら何よりだ」
最初スーパーに行って大量にマシュマロを買った時には「やれやれ、今回は特別だよ」と呆れ顔だったのに、結局特別なマシュマロまで準備してくれる誉の甘さに、密はにんまりと笑って言った。
「アリスも、マシュマロの日、楽しみにしてた」
「別に楽しみではないが……まあ、たまにはこういうのも悪くはない。それに、特別なマシュマロを食べる時の密くんは、なかなか詩興のわく顔をしているからね」
パチリと誉がウィンクを贈ると、密は無言で不愉快そうな顔をした。
「なんでだね?!」
「なんとなく」
〇 〇 〇 〇
「あ、密さん! おはようございます! 今日は早いですね」
「おはよう、咲也。今日はマシュマロの日だから」
談話室で挨拶してくれた咲也に密がそう返事すると、咲也は「あ、そうでした! ちょっと待っててください」と慌てて部屋に戻っていき、可愛い袋を持ってきて密に渡した。
「これ、密さんにプレゼントです!」
「これ……桜の形した、マシュマロ」
「はい! この前密さんに教えてもらってマシュマロ買いに行ったら、これを見つけたんです。すごく春組らしいと思って、密さんの分と春組みんなの分、買っちゃいました」
「咲也らしいマシュマロ……ありがとう」
「喜んでもらえてよかったです」
微笑む密に、咲也も嬉しそうに笑う。そんな2人の前に、臣が「じゃあ、俺からも密さんに」と密用にマシュマロチョコトーストを置いた。咲也にも一口分渡す。
「甘い匂い……美味しそう」
「マシュマロの日の朝なので、特別に作ってみました」
にこにこと笑う臣に「ありがとう」と返し、密は口元を緩めたまま甘いトーストにかじりついた。
「あれ? 密さんがこの時間に朝ごはん食べてるの、珍しいね!」
「おはようございます、密さん。そのマシュマロチョコトースト、すごく美味しそうです」
もぐもぐ食べていると、九門と椋がやってきて密を見て笑った。今は春休み中だが、早起きが習慣になっている二人はいつもと同じ時間に朝食を食べる。
先程の咲也への返事と同様に「今日はマシュマロの日だから」と返すと、2人ともそうだった!と思い出して、密にマシュマロをプレゼントした。
「はい、オレからはコラーゲンゼリー入りのマシュマロあげる!」
「ボクはチョコ入りの肉球マシュマロ、あげます」
「ありがとう、九門、椋。大事にいっぱい食べる」
もらったマシュマロの袋を抱き締めて微笑む密。そこからは怒涛だった。
「密さん、これ東さんから密さんの眠気防止に効いたって聞いて買ったんですけど、俺には合わなくて……ミント入りマシュマロ、あげます」
「ありがとう、綴。これ、よく寝れる……」
「じゃあダメじゃん!」(綴)
「おはー密。この前のアメジストたんのお礼と、今度のアメジストたんへの依頼料ってことで。フランス産のギモーブ5種ね」
「ありがとう、至。了解」
「あ、至さんに先越された。オレからもギモーヴだ。ギモーヴはフランスのマシュマロらしいから、間違ってない、よな?」
「ありがとう、天馬。大丈夫。甘くてふわふわしてたらそれはマシュマロ」
「あ、ひそかー。見てみてー、さんかくのマシュマロ見つけたよー半分あげる―」
「ありがとう、三角。あとでもう一個買いに行こ?」
「密さん、はよっす。これやる。メガマシュマロ」
「ありがとう、十座。おっきいマシュマロは正義、って至が言ってた」
「ワロ。言ってない」(至)
「あ、密さん早起きッス! そんな密さんにー、じゃーん! 赤ぽよくんマシュマロ―」
「ありがとう、太一。大事に頭から食べる」
「はよ。密さんがこの時間起きてるの、珍しいな。じゃあ、特別にこれやる。コラーゲン入りマシュマロ」
「ありがとう、莇。九門とお揃い。いっぱい食べれる」
「マジか」(莇)
「やったー! 莇とお揃い!」(九門)
あっという間に密の周囲にマシュマロが溢れる。それを見て誉が「やれやれ、あれだけ買ったのに、まだ足りなかったのかい」と言いながら嬉しそうに微笑み、丞が「どれだけ食べる気だ……というか、よくそんなにマシュマロの種類があったな……」と心底呆れた顔をしていた。
密はそんな冬組の2人を見て、自慢するように笑った。
「これはみんなから貰った分だから、ちゃんと食べないといけないよね?」
〇 〇 〇 〇
みんなから貰った分を食べつくす前に、密は街へも繰り出した。商店街でストリートACTをすると、喧伝の成果か、おひねりは半分以上がマシュマロだった。これでまた密のマシュマロが増える。
それらをつまみながら街中や秘密の昼寝場所をふらっとし、寮に帰ると第二陣が控えていた。
「密。それ、カントクへのプレゼント探す時見つけた。やる」
「ありがとう、真澄。ペンギンのマシュマロ、ペンペンみたいで可愛い」
「あ、密。オレからもこれあげる。ハート型のマシュマロ。可愛いでしょ」
「ありがとう、幸。可愛いハート、大事に食べる」
「おつーひそひそ! ねね、これ見て? マシュマロにめっちゃデコっちった」
「ありがとう、一成。猫、可愛い」
「密さーん! これ、今日見かけたキッチンカーで売ってたマシュマロ。星の形だけど、めっちゃでかくね? 食べ応えありそうっしょ」
「ありがとう、万里。十座と同じくらいおっきいマシュマロ。嬉しい」
「おい、真似すんなキツネ野郎」(十座)
「誰も真似なんかしてねーアホ大根」(万里)
誰かが密を見かける度、自分が見つけてきたとっておきのマシュマロをプレゼントしてくれる。それが嬉しくて、密はお礼にたくさん買い込んだマシュマロをみんなに分けて配った。
談話室を中心に、寮内がなんとなくずっと甘い匂いに満たされている。
そこへ、紬が何やら皿を持ってきた。
「密くん。これ、作ってみたんだけど……」
「? 白い花のクッキー?」
密の感想に、紬は悪戯っ子のように目を細めて首を振る。
「ううん、これ、マシュマロなんだ」
「! すごい、クッキーみたいにさくさく」
「普通のマシュマロはみんなからいっぱい貰うと思って……ちょっと趣向を変えてみたんだ」
マシュマロをカットし花びらのように並べてデコレーションし、オーブンで少し焼くと食感の全く違うマシュマロクッキーが出来上がる。紬は臣にアドバイスをもらいながら、慣れないお菓子作りを頑張ってみた。
「ありがとう、紬。でも、マシュマロはふわふわな方がいい」
正直な密の感想に、紬は気を悪くした風もなく可笑しそうに笑う。
「あはは、やっぱり密くんはふわふわマシュマロ派なんだね」
「でも嬉しい。ありがとう」
密の心からの礼に、紬も「どういたしまして。俺も楽しかったから」と微笑んだ。
そこへ、今晩の料理当番である臣が、熱々の夕食を持ってきた。
「密さん。今日は、夕食にもマシュマロ入れてみたんですよ」
「マシュマロがご飯?」
「はい」と臣が披露したのは、ピーマンの肉詰めならぬマシュマロとカレー詰めであったり、かぼちゃとマシュマロのグラタンだったり、串に刺さった揚げマシュマロだったり……――。
「美味しそう!」と顔を輝かせる甘党の面々と、「これ、おかずになるの?」と半信半疑の面々の中、密はキラキラと目を輝かせた。
「夕食でもマシュマロが堂々と食べられるなんて……すごい、幸せ。マシュマロの日に感謝」
「あはは、喜んでもらえたようで良かったです。さ、みんなも食べてみてくれ」
臣に促され、団員たちは食卓に着く。そのタイミングで帰ってきた左京と千景は、寮内の空気を嗅ぐなり顔を顰め、マシュマロおかずの並ぶ食卓を見て同時に「御影/密を甘やかしすぎだ」と苦言を呈した。そんな二人の怖い視線などどこ吹く風で、密は心からマシュマロの食卓を堪能した。
〇 〇 〇 〇
その後、遅れてJourneyへバイトに行った密。ガイから「折角のマシュマロの日なのだから、ゆっくり堪能してからでいい」との言葉に甘えていると、また千景に怒られた。
Journeyでも密が広めたマシュマロの日の話と、ガイが当日限定で焼きマシュマロショットを用意したものだから、やはりJourneyでもマシュマロの甘い匂いが優しく満ちていた。その日初めて来た客からは「ここはスイーツ専門のバーですか?」と聞かれたほどだ。
途中、一日出掛けていた東がふらりと立ち寄り、「遅くなったけど、これ」と言って抹茶のギモーヴをくれた。お酒は少し舐めただけで帰ったから、本当に密の為だけにお店に寄ってくれたのだろう。
幸せな気持ちで仕事を終えると、ガイから「まだやることがあるので、御影は先に帰っていていい」と言われ、密は素直に家路に着いた。
寮内は既に電気も消え、みんなの見る夢の気配で満ちていた。けれど、まだマシュマロの甘い匂いは消えてなくて、密はなんとなく、今日みんなが見る夢はマシュマロの夢になるんじゃないかな、と思った。
密は音も立てず、静かに中庭のベンチに座り、夜空を見上げる。
消え入りそうに細い三日月は、しかしどこか優しい光を放っていた。
(……オーガストっていうよりは、千景に似てるけど)
そう思いながら、密は今日貰ったたくさんのマシュマロを大きく夜空に放り投げ、口でキャッチしてもぐもぐ食べる。
それを何度繰り返した頃だろうか、背後によく知った気配が現れる。
「何をしている?」
「まだ寝てなかったの?」
「中庭で怪しい動きをしている奴がいるのに、寝れる訳ないだろ」
怒っているような呆れているような、そんな声に密は無表情で振り返る。そこには、仁王立ちでこちらを見下ろしている千景がいた。それを視線だけで誘うと、千景は黙って密の隣に座る。
「……マシュマロ。オーガストにあげてた」
「……全部、お前の口に吸い込まれてたぞ」
「うん。オーガストなら、きっとあげたマシュマロも全部オレに返してくれると思うから」
「いや、あいつ甘い物好きだし、意外と強欲だから返さないかもしれないぞ」
「大丈夫。オーガスト、オレには甘かったから」
密がきっぱりと言うと、千景は一瞬固まって「はっ」と可笑しそうに吹き出した。
「確かに。お前には妙に甘かったよな。俺にはいつも無茶振りする癖に」
「それは千景がオーガストに甘いから」
「……そうかもな」
そう言ったきり、2人は黙って夜空の細い三日月を見つめていた。こんな風に冗談交じりにオーガストのことを話せる日が来るなんて、きっと1年前の自分に言っても絶対に信じないだろう。
(それだけあいつの死が遠くなったのか、それとも俺があの哀しみを忘れていってる証拠なのか……)
千景はそう思って静かに沈む。オーガストのことを思い出しても、もうあの頃のような激しく苦しい悲しみや喪失感は感じなかった。少しツンと鼻に来る鈍い痛みだけだ。それは、彼を忘れかけている証拠なのか――。
そんなことを考えてると、不意に密にマシュマロを突っ込まれる。
「むぐっ?! おい、いきなり甘い物を口に突っ込むな!」
「それ、東がくれた抹茶のギモーヴ。一番甘くないやつだから、感謝して食べて」
「……感謝すべきなのは、お前じゃなくて東さんにだろ」
そう言って千景は仕方なく口の中のものを噛む。しっとりとした感触と上品でほのかな苦みは確かにそれほど甘くなく、千景でもなんとか食べられた。不服そうな顔をしながら口を動かす千景に、密は静かに告げた。
「……オレたちは、オーガストを忘れたわけじゃない。やっと、悲しみを乗り越えて、いつものあいうを思い出せただけ。それはきっと、いいこと。あいつもそうやって思い出してもらった方が喜ぶ」
「……そうだな」
甘い匂いが満ちるこの場所で、悲しい気持ちではなく穏やかな気持ちで、大切な家族を思出せるのは、きっと『いいこと』だ。
密は最後にとっておきのマシュマロを夜空に大きく放った。月がマシュマロに重なり、細い三日月が誰かのように笑っているように見えた。【終】
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【愛され密と月下】マシュマロの日をあなたと共に【4/6はマシュマロの日】 ★
初公開日: 2024年04月04日
最終更新日: 2024年04月06日
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MANKAIマンガ宣言344話より発想、「マシュマロの日の密とみんな」