●五伊地すごろく
「18の8女体化パロ どちらか一方? どちらも転換する?」
解答:伊地知さんのみ女体化の五伊地♀
「よくお似合いですね」
伊地知よりも余程似合っている先輩を見下ろす。常ならば首を真上に見上げなければならない五条は車椅子に乗っており、随分と視線が低くなり近付いた分端整な顔がよく見える。いつものふわふわの白髪が今はからすの濡羽色の鎖骨あたりまでのストレートになっている。サングラスに違和感があるが、黙っているとまるで人形のようだ。
そして、恐らく特注であろうセーラー服を身に纏っていることを脳が理解した瞬間に伊地知は思考を停止させた。何故、なんて考えてはいけない。どうせ伊地知の理解が及ぶような答えは返ってこないのだから。それでも五条に女装の、しかも今年二十歳になるというのに女子生徒の制服を着る趣味はないだろう。突然目覚めたという可能性がゼロパーセントではなかったが、一応は質問をしておく。
「私の任務に五条先輩が付いて来てくれるですか?」
「お前が弱っちいから仕方なくついてってやるよ」
「女子高ですけど……」
「『よくお似合い』なんだろ、バレねぇよ」
立って喋りさえしなければ五条の言う通りバレはしないだろう。ただ目立ち過ぎるのではないか。
伊地知が命じられたのは歴史ある女子高内で呪霊が大量に発生しているための内部調査だ。女であること、高校生と偽れる年齢であることだけの人選だったと思っている。調査して報告すれば呪術師が派遣されるという流れのはずで、特級術師がわざわざ時間をかけてまで潜入して祓除することはないはずだが。訝しむ伊地知を放って既に五条が共に潜入することは決定事項らしく、女子高の制服を渡されて翌日から任務に行くことが決まった。
声を出してしまうとバレてしまうということで喉の病気で五条は話せないという設定でいくことになった。年齢も二十歳だが童顔なので疑われることなく伊地知と高校三年生として女子高に潜入することになったのだった。
伊地知の予想通り五条は大変目立った。喋らないということは余計なことを言わないということで、つまりは五条の破綻した性格が表面上はわからないということだ。見目だけならば百人が百人振り返るだろう、まだ人生経験も少ない高校生が騙されるのも仕方ない。
転入して三日もしないうちに五条人気は留まることを知らずファンクラブが結成され、伊地知は目の敵にされるようになった。彼女たち曰く、伊地知は「相応しくない」らしい。五条悟子――あまりにも安直な偽名に吹き出してしまったが、「悟子お姉さまに凡庸な貴女は相応しくない」ということだった。
五条の表面の一割も知らないくせによくわかっているではないかと初めて言われた時は感心して返事が遅れたことが、更にファンクラブメンバーを苛立たせてしまった。
相応しくないなんて言われなくとも伊地知が一番わかっている。誰よりも強くて、独善的で、性格破綻しているくせに身内には甘くて、不敵に笑うあの人に釣り合う人間なんてほんの一握りしかいない。伊地知は偶々同じ場所に同じ時間に居合わせたに過ぎない。
「わかっていますよ」と答えたのも悪手だったと気付いた時にはファンクラブメンバーは顔を怒りに真っ赤にして歩き去ってしまった。もっとヒドイ罵詈雑言を吐かれるか、殴る蹴るかの暴行を加えられるかと思っていたのでお嬢様学校とはこういうことかと驚いてしまった。
「伊地知遅い、僕をほっぽってどこ言ってたんだよ」
身長を誤魔化すために車椅子生活を余儀なくされている五条の移動はほとんど伊地知が補助している。可能なら「悟子お姉さま」に目が眩んでいる誰かに車椅子を押してもらった方が伊地知も自由に動けるし五条も情報収集できるのではないかと思うのだがお気に召さないらしい。五条の傍から十分間離れただけで携帯には不在着信が溜まり始める。
「五条さんのファンに絡まれてました。絡まれ方がお上品で戸惑いました」
正直に話せば五条が神妙な顔で伊地知を見上げる。
「伊地知って時々治安悪いよな」
「ヤンキーマンガに出てくるような地域出身なので。知ってます? 本当に小銭がないかジャンプさせるんですよ」
「奪うなら小銭じゃなくて札を奪えよ」
「そうですよね」
そんな会話をしながら五条の車椅子を押して辿り着いたのは使われていない旧校舎だ。老朽化が進み現在は使われていないが、生徒が隠れて出入りをしてる。
「3年3組の教室でこっくりさんをしたら本物が現れるって、学校じゃよくある話なのになんでここだけ本当になってんの?」
「学校に置かれている呪物も特に封印が解けかけているということもありませんでした。こっくりさんで使っている用紙をもらったんですがちょっと変わってました」
「どんなの?」
校舎内に入るまでは車椅子を押していたが中には誰もいないということで五条は立って歩いている。足の長さが違うので伊地知は少し小走りになりながらポケットに入れていた紙を広げて五条に手渡す。
「呪詛師絡みかよ」
一目見ただけて五条は吐き捨てて紙を伊地知に投げる。
「厭魅の術ですよねやっぱり」
変わった図形のように少しデフォルメされているが書かれている図形と文字は厭魅の術として使われるものだ。一般人が呪力も込めずに使ったところで何も起きないのだが、中には自覚がなくとも呪力を込めてしまった可能性もある。
「いつから流行ってるって?」
「三年前に一人の生徒が仲間内でやっていたのが始まりだそうで、用紙の真ん中には代表者の氏名を記載するそうです。使用した後も燃やして浄化はせずに旧校舎の中庭に埋めなくてはならないとか」
「だいたい燃やすのがセオリーだろうが、なんで残して埋めるんだよ。ちゃんと土に戻る紙使ってんのか」
「それは私も知らないですけど」
環境に優しくないと不機嫌になりながら五条の進む先は迷いがなく一直線で伊地知の案内を必要としていない。
「……もしかして、はじめからここが怪しいってわかってました?」
「なんかあんなーーとは思ってた。女子高って中々入ることないから満喫しちゃった」
五条が伊地知を傍に置きたがるのでどうにか時間を見つけて細々と調べていたが、そんなもの六眼の前には無意味だったらしい。これが同行が伊地知ではなかったならば五条ははじめから旧校舎の中庭が怪しいと情報を共有してくれていたのだろうか。伊地知が正解に辿り着くか見極めていたのかもしれない。
術式を持たぬ伊地知は術師ではなく補助監督としての勉強を始めたのだが、これでは道を変えた意味がない。
黙り込んだ伊地知に五条が振り返り焦った声でフォローする。
「僕は『今』をどうにかできるけど、原因の根絶はしっかりしないと同じ事繰り返すし伊地知の調査は無駄じゃなかったんじゃねぇの」
「無駄だとは私も思っていませんが、五条さんの能力の全容を私がしっかりと理解できていませんでした。お時間が掛かってしまって申し訳ありません」
「いや、うん、伊地知はなんも悪くないけど……」
珍しく歯切れの悪い五条を不思議に思いながら辿り着いたのは中庭だ。
「空気悪いな、燃やすか」
「もう少し穏便にできないですか。旧校舎の中庭でボヤ騒ぎがあった後に姿を消したら折角のファンも不信感を……、持たないかもしれないですが夢は見させてあげましょう」
盲目的なファンたちがボヤ騒ぎと五条を結びつけることは無いかもしれないが、間違いなく伊地知は疑われるだろう。巡り巡って常に傍にいた五条にも悪評がついてしまうかもしれない。そんなことは耐えられない。伊地知の必死の言葉に五条も一考の余地ありと思ってくれたらしい。
「紙だけ掘り返して燃やして、あとはこっくりさんを禁止するでもする?」
「紙は簡単ですが、後者が流行っているのを学校が『やめろ』と言うにはそれなりの理由がいりますよ」
それに実際にやめるかどうかはわからない。事実、旧校舎への立ち入りは禁止されているのに結果がこれだ。
「伊地知って演技力に自信ある方?」
「自信全くない方ですね」
「任務だから無い演技力集めて『狐憑き』として振舞えば一瞬でヤル奴いなくなると思うんだけど」
昭和のこっくりさんブームはパニック障害を引き起こし、全国の学校側が禁止令を出したことで終息を迎えた。確かに有効な手ではあるが、真に迫った演技ができるかどうか全く自信がない。
「僕は皆の夢壊せないから」
「ソウデスネ」
先程の伊地知の発言がブーメランとなって返ってくる。旧校舎を破壊したところでまた別の所で同じことが起きたら厄介だということは伊地知も重々に承知している。
「うまくできなかったらフォローしてくれます?」
「するする、狐憑き伊地知の激変に驚いて失神してみせるくらいは」
それって結局なにもフォローしてくれてないですよね、という言葉を飲み込んで伊地知は策を巡らした。そもそも伊地知がこっくりさんをしたところを誰かに目撃してもらわなければはじまらない。
有難いことに「悟子お姉さま」に相応しくない凡庸な伊地知は、五条とはまた別の意味で注目も的である。五条ファンたちに目の敵にされているのでタイミングさえ合えば、伊地知がこっくりさんをしているところを「目撃」してくれるだろう。五条には伝えていないがこのこっくりさんには厭魅の術の紙を使う以外にもルールがあり、それは最低二人以上でしなければならないとうことだった。代表一名の名前を書くことで、その人間を厭魅するのだから当然だろう。自分を呪い殺す術というのは難しい。
全校生徒から嫌われいる伊地知だが、なぜか特別に目を掛けてくれる先生がいるのでその先生にこっくりさんをしたいと頼み込むのが得策だろう。紙を伊地知に渡してくれたのも、その女性教員だ。彼女なら頼み込めば付き合ってくれる、あとは伊地知の「狐憑き」の演技にかかっている。
「明後日には終わらして高専に帰りましょう」
「任務予定は一週間だからぴったりだな」
そうして、無事に「狐憑き」騒動からこっくりさんは禁止され学校は呪霊が多発することもなくなったのだった。
「伊地知が演技に自信ないとか嘘だった、こわかった……」
「悟が本気で脅えてるんだけど、伊地知なにをしたんだい……?」
「いえ、私は皆を恐怖に陥れるために必死で過去の同級生のラリッていた様子を思い出してですね」
「いじち……」
「家入さんまでそんな目で! たしかに窓から地上に飛び降りたのはやり過ぎだったかとは思いますが、同級生も最後は飛ぼうとしていたので、混乱した教室にずっといるよりかはいいかと思いまして」
「…………」
「せめて何か言ってください!」
先輩たちからの引いた目で見られて伊地知は涙目で叫ぶのだった。
了