五伊地すごろく「21の8相手がピンチの時に駆け付けた後の第一声は?」
 五条悟が誘拐されたという情報は東京都立呪術高専の一部に激震をもたらした。当然、特級術師が誘拐されたという情報は公にすることはできないので、秘密裏に夜蛾のもとにまで届けられた。
 まず、五条悟を誘拐したから身代金十億を用意しろという連絡を受けたのは伊地知だった。迎えに来いと五条に指定された公園に姿が見えず何事かと思いはしても、伊地知の心中には全く心配の「し」の字も頭には浮かばず、寧ろ今後のスケジュールの方が不安であった。公園の近くの道に路駐するから来てくれなかと電話口でお願いはしたのだが、五条は全く聞く耳を持ってくれず車を近くのパーキングに停めて歩いて向かいに来いとまでのたまったので伊地知はわざわざやって来たのだ。
 あの大きな図体は目立つのですぐに見つかるだろうと思って詳細を聞いていなかったのも不味かった。先ほどから五条に電話しているのに繋がらないのも伊地知を焦らせる。
「おじさんが、イジチキヨタカさん?」
「はい?」
 警戒もせずに返事をしたのは、名を呼んだのが小学校低学年くらいの子どもだったからだ。
「大きな白い髪のお兄ちゃんがこれおじさんにって」
 男の子は伊地知にスマホを差し出す。スマホケースは見覚えがあるので五条のスマホに間違いないだろう。また五条の悪戯が始まったのかとため息を飲み込んでから、しゃがみこんで男の子に目線を合わせて受け取る。五条が頼んだ手前、伊地知も強く言えはしないが知らない人に何か頼まれても簡単に聞いてはいけませんとやんわりと伝えておく 教育者でありながらあの人はいったい何をしているのか。
「ママもお兄ちゃんのおねがいごとは聞いてあげなさいって」
「懐柔済みでしたか……」
 キッチンカーがいくつか並び最近五条が食べているクレープ屋があったので突発的なものではなく、計画されたものであるらしい。
「ありがとうございます、私が伊地知潔高なので受け取っておきますね」
 五条用に準備しているお菓子を渡したいところだが、勝手はできない。キッチンカーまで行って先にお金を渡しておくので、母親と戻って来たらクレープを食べるようにとスタッフにお願いしてその場を離れた。
 何故か五条のスマホの解除キーを教えられているのでなんなくロックを解除することができた。車へと戻りながらさて今回の五条の企みはいったい何かとスマホを確認する。
 画面にはテキストメモが既に起動されておりメッセージが表示されていた。
伊地知へ
これを見てるってことは僕は誘拐されたということです。身代金の要求とかはこのケータイにかけるようにするから絶対に電話とってね。
誘拐されちゃってメンゴ♡
 メッセージを読んでから目を閉じて、大きく深呼吸をしてから本日の日付はエイプリルフールではないかと確認したが残念なことに四月ですらない。このふざけたメッセージは疲れた伊地知の幻覚の可能性だってある。一縷の望みをかけてもう一度スマホの画面を確認したが、残念なことにメッセージは消えてはくれなかった。悪戯であってくれと思ったが、その瞬間に五条のスマホが受電を知らせる。心底とりたくはなかったが「絶対とってね」というメッセージの圧に負けて通話を開始する。
『イジチキヨタカか?』
 男の声が聞こえてきて大人しく「そうです」と返答する。
『五条悟は預かった。無傷で返して欲しければ午後6時までに身代金十億を用意しろ』
 電話の男が誰で、何が目的なんてどうでもいい。「無傷で返す」なんて言葉を使う所を鑑みるに呪術界の人間ではないのだろう。
「そんな私には大金用意できません! それに五条さんは無事なんですか!」
 どこまでが五条の悪戯なのかわからないので一応心配する素振りを見せておく。伊地知が心配なのは五条の身の安全よりも、本当に誘拐されて身柄が拘束されているのであればその周辺地域のことだ。しかも、男にも伝えた通りに伊地知に大金を動かせるような資産も後ろ盾もない。自分にではなく五条家に直接交渉してくれと言いたかったが我慢しておく。電話から少し雑音が流れて男の「話せ」という声の後に聞き知った五条の声が響く。
『伊地知~~、怖いおじさんたちに捕まっちゃった。このままだとコロされちゃうかもしれないから十億円用意して僕を助けて』
「五条さん!」
 哀れな声を出しているが絶対に内心では楽しんでますよね、というのがわかる声だった。
「…………わかりました、なんとかしてみます。どこに持って行けばいいんですか」
『指示を出す』
「わかりました」
 最後に伊地知が言い終わるより前に電話はきれていた。
「とりあえず、報告ですかね……」
 ホウレンソウは社会人の基本である。それにこんな面倒なことを伊地知一人で抱え込みたくはなかった。
 車を発進させて高専に向かいながら、この後の本来の五条が担当するはずだった任務についての割り振りを頭の中で組み替えておく。昼過ぎに会合はあったが、誘拐されてしまっている以上不参加でいいだろう。五条でなくてはならないことはそれくらいで、祓除任務もどうにか調整は可能だ。それを見越してのこの「誘拐騒ぎ」なのだと思うと、伊地知の胃がキリキリと痛んだ。
 高専に到着すると至急、夜蛾学長に報告をして伊地知は指示を仰いだ。報告を受けた夜蛾が「ガッテム!」と叫んだ。
「悟の悪ふざけではないのか」
「一応、本当に誘拐はされたようです。少し公園の管理者にお願いして監視カメラ映像を確認させてもらいましたが、公園で休憩している五条さんに野球帽とマスクの男がナイフのような物を持って近寄り少し話した後、五条さんはスマホを少年に渡して男と共に車へ。そこからは監視カメラでは追えませんでした」
「悪ふざけだろう」
 そうですね、とは言えずに苦笑いする。ナイフごときで五条悟がどうにかできるはずがないのだ。
「そもそもなぜ公園なんかにいたんだ」
「最近は公園に来ているクレープ屋さんが気に入ったとかで、合間によく立ち寄られておられました」
 それも少年とのやり取りを考えれば下準備だったのだろうと夜蛾に伝えておく。
「五条家には」
「すべてぶん投げてしまいたい気持ちはやまやまなんですが、五条さんが私に連絡を寄越したということは家には連絡せずに収めろということかと思いまして何も伝えてはいません」
「伊地知は悟に甘過ぎる、もっと厳しく手綱を締めておけ」
「五条さんを私にはどうこうなんてできませんよ、五条家にはこのまま何も言わずに私の方で処理してしまってもよろしいですか」
「かまわん、事が済んだら私の所に悟を連れて来なさい」
「必ず」
 夜蛾には報告して、伊地知が動いていいという許可ももらったのでこれで怖いことは何も無くなった。伊地知は十億円をかき集めるための金策に走るつもりは全くない。ちらりとこのまま何もせず、金の用意もできずにもし約束の午後6時に間に合わなくなったらどうなるのかと考えないでもなかったが、それを知った五条からの報復の方が恐ろしいと頭を切り替える。
 まずは五条が捕らえられているだろう場所を特定から始めなくてはならない。有難いことに痕跡は至る所に残っている、公園から連れ去られた時間と、電話からも防災行政無線の声が聞こえてきたので特定は容易い。簡単すぎてこれは誘拐犯も含めて五条の用意したサクラなのではないかと疑ってしまう。
 学長室を辞して、同僚に急用でこれからいなくなることを伝え簡単な指示も出しておく。これまでも何度も所謂「五条案件」で伊地知が急遽職場を離れることはあったので皆慣れたものだった。
 空き教室を使わせてもらうことにしてパソコンとタブレットを開きながら関係各所に連絡を取っていく。
「お世話になっております、伊地知です。お忙しいところ申し訳ありません、緊急で少しお願いと相談したいことがありまして……」
 何度か電話をして、何人かとのやり取りを終わらせる。誘拐犯からの連絡はまだ来ないが、四時間もしないうちに伊地知の方はアジトに乗り込むための準備が終わってしまった。指定された午後6時までは時間がある。無茶ぶりをしてくる人が今は誘拐されて大人しくしているこの機会にギリギリまで仕事をしようかと考えたが、後から知られれば文句を言われることは目に見えている。伊地知は諦めて五条のことを助けに行くことにした。
 場所は繁華街の雑居ビルの一室だった。伊地知が調べた所によると、良くない噂の連中が集まっており詐欺など犯罪グループの温床になっているらしい。裏社会ほど何かと呪術界と関りがあるので、五条悟がどいういった存在であるのか知っているはずだが怖いもの知らずの新規のグループなのだろう。そこを誘拐された五条本人に利用されたのだと思うと「馬鹿だな」と思うが同情はしない。
 基本的に補助監督は戦闘を禁止されている。これは任務の際に呪霊に立ち向かうのではなく、より多くの情報を持ち帰り「次」の機会を作ることが役目とされているからだ。しかし、それも「対呪霊」に対してであって任務中でもなければ仕事と関係のない、特級術師の遊びに付き合わされて内心でくさくさして誰かに八つ当たりでもしないとやってられない伊地知には関係のないことだ。ビルに辿り着いた伊地知は常のスーツから動きやすい服装と、念の為顔がわからないようにサングラスと帽子を目深に被りビルへと侵入をする。なんにんか柄の悪い男たちが立っていたが、叫ばれる前に沈めていく。まさかこんなまともに戦闘もできない連中が五条を本気で誘拐したのかと思うと、平和な世の中になったものだとしみじみと感慨にふけってしまう。地に沈めた人数が片手を超え始めた頃に、五条がいるのだろう場所に辿り着いた。他に人のいる気配はないので、この部屋で最後のはずだ。
 こんな杜撰なグループならこれ以上はこそこそする必要もあるまいと、堂々と扉を開ける。
 見知らぬ存在の侵入に室内にいた男三人が「誰だ」と声を荒げているが、答える義理もないので近付いて急所を攻撃する。ガードも何もすることなく汚い声を上げて倒れる。それを後二回繰り返して、部屋の中には伊地知と床で縄で縛られた五条だけとなった。
「私、ただの補助監督なんですけどッ!」
 伊地知の心からの叫びに、五条は大きな声で笑いながら拘束を引きちぎると「よっこらせ」と立ち上がった。パンパンと衣服を手ではらっているが汚れ一つないキレイなままだ。
「いやあ、まさか公園でクレープ食べてたら誘拐されるなんてねぇ。物騒なよ゙な中になったもんだ」
 五条の言葉があまりにも白々し過ぎたので半眼で睨む。
「そんなに怒んなよ、僕のピンチに駆け付けてくれる伊地知カッコイイ~~」
 ぴゅーと口笛を吹く姿に怒る気も失せてしまう。 
「私が来なくても五条さんお一人でどうとでもできましたよね、夜蛾学長から連れて来いって言われたので絶対にお説教ですよ」
「絶対三時間コースじゃん、バックレよ」
「私が絶対に連れて行きますから」
「甘んじてそれは受けるから、身代金受け渡しの時間まではデートしよ?」
「は?」
 伊地知が上げた一音の中には呆れと怒りと疲れが入り混じる。誘拐されて、デートしようとはいったいどういう神経なのか。
「だってさぁ、これくらい無理に時間作んないと僕の誕生日なのにデートもできない。伊地知も珍しく私服だし、6時まで付き合ってくれったらそれ以降は文句言わずに年末年始も働くからさ」
 お願い、と見つめられても伊地知にその権限はない。
「学長もわかって伊地知に全部任せたと思うんだよね」
「そうかもしれないですが」
 夜蛾は伊地知に「甘すぎる」と言ったが、夜蛾も元教え子に表面上は厳しく接していても甘いところを伊地知も知っていた。
「6時までで満足したた大人しく夜蛾学長からの説教を受けて、会合もサボらないでくれます?」
「するする! なんだったら報告書も期限までに提出しちゃう!」
 これからの数時間で五条が真面目に年末年始を過ごしてくれるというのは伊地知にとって魅力的だった。
「絶対、約束ですからね」
 指切りでもするかと小指を立てる五条に怖いからやめておくと告げて、二人でビルを後にする。
 翌日のニュースでは警察が追っていた犯罪グループの一つが検挙されたことが報道された。
チャットで応援いただいたの嬉しかったです。ありがとうございました!了なので配信終了いたします
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野崎抹茶ラテ
こんにちは
05:31
計時
こんにちは~。テキストライブ初心者でチャット機能の存在を初めて知りました……!書き書きしているので何かありましたらお声かけ下さい!
19:31
野崎抹茶ラテ
うわぁ~!面白いですね!!
22:01
計時
ありがとうございます🥰
61:20
野崎抹茶ラテ
ふぁいと、ふぁいと
64:16
計時
着地点決めていない殴り書きなので試行錯誤してます!頑張ります
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20241227
初公開日: 2024年12月27日
最終更新日: 2024年12月27日
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五伊地すごろく「21-8相手がピンチの時に駆け付けた後の第一声は?」
ゆう喜現パロネタメモ
壁打ちしてたら割とまとまってきたゆうぎり喜一の現パロいちゃいちゃ世界線のメモ
篠畑
兄妹で結婚式する話、35、36話目を書く【解け落ちた氷のその行く末】
タイトル通り。兄妹カップルに結婚式をプレゼントする話です。 結婚式をプレゼントする話→https:/…
ひさぎ