「今週末のツーリング先、お前が決めろよ。臣」
いつものアジトの、いつものソファに座っていた那智のいきなりの言葉に、隣に座っていた臣は「は?」と思わず眉を寄せた。
「んだよいきなり。お前、いつも『アレが食いたい、コレが見てえ』って、めちゃくちゃ言うじゃねえか。俺が色々忠告しても聞きやしねえし」
思わず愚痴る臣に、しかし那智は腕を大きく組んで、
「だから、今度はお前が決めろっつって譲ってんだろうが」
と言い切る。
「ヴォルフの奴らも、スゲー楽しみにしてるからな」
「はあ……つっても、俺は特に行きたい場所なんかねえけどよ」
そう言って臣は顎に手を当てて少し考える。が、やはり特に何も浮かばない。
「そもそも、お前ら全然好みとか違うだろ。そいつらみんなの要望聞いて出かけるってなると……」
悩みだす臣を、しかし那智は一刀両断した。
「その必要はねえ。今回は、誰の都合も考えるな。お前の行きたい場所だけ考えろ」
「は? そういう訳にもいかねえだろ。あいつらにも都合ってもんが……」
臣がそう反論すると、那智は太陽のような瞳をきゅっと細め、遮って告げた。
「そんなこと考えるから、お前はどこにも行けなくなっちまうんだよ」
「!」
何故だか、鼓動が一段と高く跳ねた。まるで隠し事をズバリ言い当てられた時のような、妙な居心地の悪さで胸が痛い。
那智は固まってしまった臣に、容赦なく言葉を重ねる。
「お前の行先は、お前が決めろ。俺たちはそれについていく。総長ってのは、そういうもんだろ」
「それは……お前だって総長じゃねえか」
「だから、俺はいつも決めてるだろ。お前は、俺を優先してばっかで、本当にお前の行きたい場所に行けてねえだろ」
「俺は……別にいいんだよ。特に行きたい場所もないし」
「だから、それが駄目だっつってんだよ、バカ臣」
「はあ?!」
思わず喧嘩腰になった臣は、しかし那智の揺らがぬ瞳にまたむっとして黙り込む。
そんな臣に、那智は珍しく諭すように声をかけた。
「お前はさ……もっとお前の中にある衝動に素直に従う練習した方がいいぜ」
「なんだよそれ」
なんだかいつもと立場が逆転しているような気がして、臣はそれが据わりが悪いような、くすぐったいような、奇妙な気持ちになり思わず身じろぎをする。
那智は、真っすぐな瞳で話を続ける。
「俺は知ってる。お前の中には、マグマみたいな熱く煮えたぎる重てぇ感情がある。けど、お前はそれを他人への愛情にしか変換してこなかった。家族への愛情、仲間への愛情――それもすげーことだけど、お前はもっと、ずっと遠くまで行けるんだぜ?」
二ッと力強く笑った那智に、臣はつられて「遠くまで?」とオウム返しに尋ねてしまう。那智は我が意を得たりとばかりに、臣を見て、それから両手を広げて勢いよく立ち上がって言った。
「そーさ! お前は俺と同じくらい速く走れる。俺と同じくらい遠くまで行ける。いつまでも俺の背中追っかけるだけじゃつまんねえだろ!」
「それは――……」
そんなことない、那智の背中を見ながら走るのは意外と好きなんだ、という気持ちと、確かに、那智の横に並び、抜き去っていく快感は何物にも代えがたいという矛盾した気持ちに支配され、何も言えなくなる臣。
そんな臣に、那智は振り返ってニカっと笑った。
「お前が俺たちを大事にしてくれるみてえに、俺たちもお前の意志を大事にしてえんだ。だから、たまには誰のことも考えず、ただ自分の為にそのマグマを使えよ」
「マグマなんて……」
そんなものない、と言おうとして、那智がドンと臣の心臓を拳で殴った。
「あんだよ、ここに」
「……!」
那智に叩かれた部分は熱く脈打ち、臣はその言葉を素直に信じられた。
「お前はそれを、もっと自分の為に使えよ。家族やヴォルフの連中も、それを待ってんだからな」
「みんな、待ってる……」
那智の言葉は少々抽象的過ぎるが、つまりはもっと自分の感情のままに己の願望を口にしろ、ということなのかもしれない。
臣の表情が少し変化し、那智はニット嬉しそうに笑った。
「少しは分かったか? バカ臣」
「抽象的過ぎて分からねえよ、バカ那智」
そう言い返して、臣も立ち上がり、一度大きく伸びをした。そして、ぼそりと素直な気持ちを口にする。
「――なんか、そば食いてえ」
「そば?! いいな! じゃあツーリング先でどっちがわんこそば多く食えるか勝負しようぜ!」
「どこまで行く気だよ、バカ那智」
自分の気持ちを肯定して盛り上がってくれる那智に、臣も自然と笑顔になる。
やっぱり我儘を言うのは慣れないが、那智が隣にいてくれるなら、それもいつか自然に出来るようになるのかもしれない。
そう、思えた晩夏の昼下がりだった。【終】
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【臣と那智】風の行く先
初公開日: 2024年08月23日
最終更新日: 2024年08月24日
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かつての臣と那智の何でもない日の会話その2。