帝国血液銀行を退職すると決めた時ほどすがすがしい気持ちになった日はなかった。
水木は前々から、体力を削って売血する人々の姿に疑問を持っていた。命を削るように血を売って日銭を稼ぐ人々のなんと不健康な様か? その血を使って商売をする事に、いつからか水木は疑問を持つようになっていた。
退職の日は帰りが早かった。街はまだ明るい。道の先を見ると、のっぞりと一人の男が水木を待っていた。
「おかえり」
家路の途中。雑多な家々が立ち並ぶ道の途中で青い着物の男が水木を待ち構えていた。
「ただいま、ゲゲ郎」
迎えてくれたゲゲ郎がうっすらと微笑む。その微笑みに応えるように、いつの間にか水木も微笑んでいた。
「帰ろう。鬼太郎が家で待っておる」
「あぁ」
二人並んで家路に向かう。平坦な細い道から歩道橋を渡って大通りを横切る。少しだけ空に近い歩道橋からは真っ赤に染まる空がよく見えた。
「無職になっちまったよ、俺」
「何を言う。ワシも無職じゃ」
「違いねぇ」
はは、と水木が笑い飛ばせば、ゲゲ郎がふふ、と小さく笑う。寄り添うように並んだ二人の陰が夕陽に当てられ長く歩道橋に延びた。
「小さい店でも始めてみるよ。お前、ウェイターでもやってみないか?」
「それはいいのう。就職先が決まった」
「幽霊のウェイターなんて評判になるぞ」
「そうかもな」
冗談を言い合いながら歩く二人の足音が静かに街に響いていた。
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向き
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憐さんへ
初公開日: 2024年02月20日
最終更新日: 2024年02月20日
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