水木は雨が嫌いでは無い。なぜかと言えば、あの、鬼太郎と出会った夜も雨だったからだ。
最初に鬼太郎を見たときはその奇妙さに恐怖した。だが、母の手伝いを借りながら育ててみた鬼太郎はふくふくとして実にかわいげのある子供だったのだ。水木の情が移るのも早かった。
鬼太郎は、よく食べ、よく寝た。たまに夜泣きをしたが、そういう時は決まって水木は鬼太郎を拾った墓場に向かった。そうすると鬼太郎の夜泣きがピタリとなくなるからである。
その夜も、鬼太郎が夜泣きをするものだから水木は鬼太郎を背負い、傘をさしていつもの墓場に来ていた。そこは、水木が鬼太郎の母を埋葬したまさにその場所であった。
「ふぇ、ぇ、ぇ・・・・・・・」
雨でも風でも雪でも、鬼太郎が夜泣きをすれば水木は墓場に赴いた。そう知れば必ずこの赤子の機嫌が直るからである。冷たい雨が降る中、鬼太郎を背負い、その上から厚ぼったい袢纏を着て水木は傘を肩に引っかけて歩いていた。
それは一体、何回目になる時だっただろうか? 水木は何度もその墓場に来て、そうして、水木が鬼太郎の母を埋めた場所に参っていた。世の中にはなにかの祈願でお百度参りというものがあるので、もしかしたらその時が100回目だったのかも知れない。
「お前も、両親に会いたかったよな」
泣き止んだ鬼太郎を揺すりながら、水木が崩れた手作りの墓に花を添える。折角、墓に来るのだからと毎回水木は野に咲く花をその墓に手向けていた。
鬼太郎の両親について水木は二つの記憶を持っている。一つは、哭倉村から帰った後、なにかに導かれて訪れた廃寺。そこに居たおぞましい姿の夫婦である。
しかしそれは、後に水木に記憶が戻ったとき。あの、哭倉村で出会った、そして、友情を確かに育んだゲゲ郎その人とその妻の変わり果てた姿のだったと理解したのだ。
理解してももう遅い。包帯を身体に巻き付けていた大男も、髪の長い顔の潰れた女性も、共に事切れたずっとずっと後だったのだから。ずっとずっと後であっても、水木はあの廃寺にもう一度戻り、包帯男の亡骸の何か一部でも残っていないかと探したものだったが、もう既にその時は跡形も無くその亡骸は土に返ってしまっていたようであった。
「お前の父さんをちゃんと埋葬してやれなくてごめんな」
泣き止んだ鬼太郎は、今度は泣き疲れたのか水木の背でうとうととし始めていた。そのままでは鬼太郎の身体が冷えてしまうと水木がきびすを返そうとしたとき。
「みず、き・・・・・・」
聞えたのは男の声。その声に水木は聞き覚えがあった。雨の音に紛れることも無いそのどこか涼しげな印象の声。
水木が振り向くと、そこには着流しの男が雨にずぶ濡れになって立っていた。
「ゲゲ郎・・・・・・」
奇跡なんて信じていなかったけれど、しかし、水木はこの時確かに奇跡を感じていた。