「ええっと…つまり、あなたが今世界、『水面』の管理人である…という認識でよろしいんですね。」
「はいですにゃ。厳密には管理人というより、その補佐をしていますにゃ。よろしくお願いいたしにゃす。」
そういいながら、液晶向こうの少女はふかぶかと頭を下げた。
白く豊かな髪を一束にまとめた、スポーツウェアの快活さと街角ピンショットのようなおしゃれさを併せ持つ動きやすそうな服装とそのビジュアルからは、その礼儀正しさと純真無垢さは少々アンバランスに思える。
だが、それ以上に不可思議なのは、その頭頂部に生えた一対の耳だった。
「耳?」
「耳…」
「耳だね」
「耳だよね」
「耳だねえ。」
各々が振り向き、一人の少女(厳密にはその少女の頭上)を見つめると、少女…狐子は、非常にいづらそうに肩をすくめた。
「…言っておくけど、あの子のミミは私のとは別物だと思うナー…。」
そういいながらも恥じらいの色を隠せずぴこぴこと動く耳を見ながら、確かに違うのかもしれない。と可不はそっと液晶の中に視線を戻した。
その豊かな白い髪と猫耳を生やした少女は、当たり前というべきかこちらが(厳密には約壱名以外は)見えていないようで、いきなり応対がやんだこちらに首をかしげている。
同期するように、その頭上の耳もこれまたぴこぴこと動いた。
恐らく収音を試みているのだろう。
「ユ、ゆかりさん、ゆかりさん。」
「ああ、そうでした。」
にこり、とにこやかな笑顔を改めて浮かべて、ゆかりと呼ばれたAIは液晶に顔をもどす。
いままで小声でしかなかった声を元通り…努めて元通りに直しながら、ゆかりは目の前の液晶に受け答えを通す。
「では、あなたは『■■』陛下と連絡が取れていると?そういうことで、よろしいのかしら。」
怒気さえ交じったその丁寧口調に、命知らずなのかそれとも本当に気が付いていないのか。
『うう~ん…それはちょっとちがいますにゃ。』
と、少女は丁寧に受け答えを返す。
周囲の静かで冷たい殺意による緊張のボルテージが心なしか高まっていく中、少女は続けてこうも言った。
『確かにライカは『■■』様直属?にゃすが、あの人はわたしをここに送り出した瞬間連絡を途絶させてしまわれましたにゃ。
たぶんにゃすけど、ライカを買って、この世界を作って、それをライカに預ける一連のスムーブで、もうだいぶ心を擦り減らしちゃったのかと思いにゃす。』
だからもう、ライカからも『■■』様にご連絡はとれないんですにゃあ、と、間の抜けた中間管理職のような声色を鳴らす少女――来果から見えない、液晶の死角で。
ぱきん、と、プラスチックの割れる音がした。
可不がそこに目線をやれば、ゆかりの持っていたボールペンが粉となっていた。
破片ではない。「粉」である。
ヒュ、とかろうじて飛び出しそうな悲鳴を飲み込み、隣の妹分に抱き着いた。
抱き着かれた妹分はというと、可不の様子に同じように目線を動かし同じように悲鳴を飲み込んでいた。
「―――そう、ですか。」
『はいですにゃ。ごめんなさい、あまり有益なことをいえなくて…』
「いえいえ。来果さんも来られたばかりで重役を負い、お疲れでしょう。
あまり疲れを甘く見ず、きちんとお休みになられてくださいね。」
『あ、ありがとうございますにゃ。』
無論そんなことを全く知らない目の前の猫耳少女はというと、天真爛漫という言葉がまさに具現化したような笑顔であった。
しかし、その端々には人間というものに対してあまり詳しくない可不達でもわかるほど、疲れと心労がにじみ出ていた。
ゆかりもそれは重々承知であるのだろう。隠しきれない苛立ちが半ば以上八つ当たりと言われるべきものであるのもわかっているはずだ。
だがわかっているだけでどうにかなったなら感情というものが人間史においで頻繁にここまでセンセーショナルに騒ぎ立てられることはないのである。
カット
Latest / 26:34
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
『水面』
初公開日: 2024年01月20日
最終更新日: 2024年09月18日
ブックマーク
スキ!
コメント
音声合成ソフトの二次創作です。
あらゆる子たちがいっぱい出てきますが、まあノリと勢いでご覧ください。