どうしてか、心が妙に淀んでいる。
ここ最近の精神的激動のせいか、それともあらゆる社会的騒動のせいか。
どれであれ、少々ユビキリヤの周囲で、ごたごたが続いたのは確かだ。
そしてもちろん、それらはユビキリヤの仕事にも大きな影響を与えている。
とどのつまり、何が言いたいのかというと。
「や…休みたい…!」
と、いうことだった。
■ユビキリヤリフレッシュ
「休めばいいじゃないですか、どうせもう仕事はほとんど終わっているんですから。」
「そ、それはそうなんですけど…。」
午睡も穏やかな午後三時、ユビキリヤは机に突っ伏しながら、物のの見事なうなりを見せていた。
傍らでは、自らの親友兼半身であるキリサメが、トントンと書類をまとめている。
ユビキリヤは大量の、もう終わらせた書類や仕事の山と悪友の顔を見比べるようにしながら、もにょもにょと口をもにょらせた。
「だって、ほら、なんかこういう時休んだら、のちのち困ったときにものすごいしっぺ返しとして戻ってきそうじゃないですか?
いわゆる有頂天というか、調子に乗ってるというかなんというかかんというか」
「杞憂」
「アッハイ…」
バッサリと両断された。
「まあ、調子に乗りやすいアンタには必要なものだとは思いますがね。いうて今まで突発的に休むことはちょこちょこあったでしょうに今更過ぎません?」
「いや、だってあれは上司命令だったから…それに留守番にユナさんや貴方だっていたわけですし…」
「…」
「な、なんですかその顔は!?」
「イエナニモ…」
気にくわない上司の気にくわない命令の、思いもしない思惑を見た気がしてキリサメは目をそらした。
ユビキリヤはぎゃんと喚いた。その目尻には心なしか涙が浮かんでいる。
上司の思惑がどうであれ、もしくはなくても、どうやら彼女には休息が必要である。
そう、いわば|初期化リセット&|再起動リブートだ。
今の彼女にはそれが足りない。当然つながっている(ようなもんな)のでキリサメにも足りない。
そして精神的ケアを怠れば、『ユビキリヤ』に待っているのは死のみだ。厳密にはもう一生使い物にならない明日が待っている。
そして『ここ』の仕事がそうなればどうなるのかは語りたくもない出来事だ。
つまり。
「よし、わかりました。」
「えっ何がですか?」
「休みましょう。」
「エッ、でも仕事が…」
「問題ありません。私にいい考えがあります」
「キリサメさんがそういう時ろくなことが起こった覚えがないんですけど…」
そういいながらも、どこか迷子の子供のようにこちらを見あげるユビキリヤを見て、キリサメは|基本的な《いつも通り》の笑みを浮かべて、こういった。
「|上司あの人に直談判してきます。」
結論から言うならば。
『 いいよ 。 』
「えッそんなあっさり!?」
全くの快諾であった。
こちらが保留にしたくなるレベルの快諾であった。
屍のような感覚と、どうしようもない本能の警鐘を感じる姿はそのままに、まるで燃え尽きた灰のようになっている上司を目の前に、思わずユビキリヤはうろたえた。
厳密には液晶越しなのだから、なんにも恐れることはないはずなのだが、それどころではない。
あと乗り越えるくらい平然とやるような人だし。
いわば死期を待つ老人になっているような上司はしかし、ユビキリヤのツッコミに一切の反応は返さない。
ただ、ぼんやりとした顔で、
『仕事はこちらでどうにかしよう。というわけでお前さんはこれから早急に休日を満喫するように。いいね?』
「えっと、あの、でも私が休んだら」
『 い い ね ? 』
「ハイゴメンナサイ!!!!!」
逆らったら殺すと言わんばかりの、目つきを少し鋭くする程度の所要時間一瞬で噴出した殺気から、意識が戻るころには、通信は「NO SIGNAL」の文字を表していた。
「…ど、どうしましょう、キリサメさん…」
「いや、休みなさいよ。せっかく休日をもらえたんだから」
「そ、それはそう…でも…。」
「…ひょっとして、休み方がわからないとか言わないでしょうね。」
「ぎく」
その通りである。
なんせこのユビキリヤ、今の今まで休んだことが無い。
というより、生活が仕事に直結しすぎているのと、休みたいと思う前に上司に連れまわされるせいで、「休む」というコマンド自体が消し飛んでいるのだ。
ユビキリヤの生活は、いわば自営業のようなものだ。
毎日うっすらとやることがある。開けようと思えば無理矢理開けることだって可能だが、普段はしない。
ささやかながらも大事な仕事を複数こなしたら、あとは自由時間。そんな、学生のような、社会人のような、よくわからないがゆるい労働環境の中で生活している。
そしてその労働の日常の中では時にとてつもない大事件が起きたり、そうでなくても連れまわされるわけだ。
いままで「リセット&リブート」なんて考えなくても、常に|そんな状況極悪流動臨機応変と表裏一体だったものだから、「わざわざ一日開けて休む」だなんて発想自体が無かった。そうしようとも思わなかったのだ。
ただ今回は話が違う。
休まなかったらまず間違いなく殺される。
ユビキリヤは不死だが、なんてことはない。この世には死ぬより恐ろしいことはそこそこあるのだ。
そうでなくても痛いのも怖いのも嫌なのに、あの状態の上司の|命令違反逆鱗に触れたら何が起こるか分かったものではない。
何が何でも休まなければならない。
それが休息とはおよそかけ離れた思考であるのはさておき。
「んでどうすんです?どこに行くにしても準備ってもんがありますし何かしたいなら早めにしないとですよ?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね、うーんとうーんと…」
脳をフル回転させながら、とりあえず心当たりを片っ端から総ざらいする。
とりあえず、あまり遠くへはいけない。帰るときのコストが脳裏にちらついて全く楽しめないのが目に見えている。
だからと言って、あまりに近くてもよろしくない。仕事が脳裏にちらつくのが目に見えている。
さらにいうなら、上司の|も気になる。
だがまったく見知らぬものを見るのは逆効果だ。現代社会の情報の渦に叩き込まれてキャパシティーオーバーするのが手に取るようにわかる。
だからと言って見慣れたものを見るとか意味がないにもほどがある。
こういう時はネットサーフィン等もありだろうが、上司がそれを「休み」と認めなかったときのことが怖い。
何よりネットの渦でもまれることは本当に休むにカテゴライズしていいのか否か…。
「…アンタ本当に休むのに向いてない性格ですね…。」
「うむむう…。」
そんなことは自分が一番よく分かっている。
が、まあ、それはおいておいて。
さて、どうしたものかどうしたものかどうしたものかと思考を巡らせる。
いままで上司に連れまわされたところなんてそれこそ二郎系ラーメンとか遠いどこかまでサイクリングとかあと―――
「あ。」
その時、脳裏にひらめきが走った。
ここまでが前置きである。
そして今に至る。
結論から言おう。
ユビキリヤは、現在。
「よくよく考えたら、距離のみを考えるんだったらここでもいいんですよね。」
「ある意味一番遠いですけどね、ここ。」
銭湯の前にいた。
いまとなっては展示物のような、しかし現役バリバリのノスタルジーあふれるコインランドリー。
建物それ自体は落ち着いた木製ではあるものの、現代風の建築様式を呈している。
古くからある銭湯をリノベーションしたというその建物は、かつてユビキリヤが上司に連れられた銭湯のうちの一つだ。
厳密には首根っこひっつかまれて引きずられてきた銭湯である。
「やっぱお休みと言ったらお風呂なところありますからね!せっかくですし楽しんでやりましょうヒャッホウ!!!」
「頭おかしくなってる…」
考えすぎによるオーバーヒートと上司からのプレッシャーはこの世に現存するストレスの最上位である。死の危険など当然言うまでもない。
ましてそれが情緒不安定と|公式運命から太鼓判を押されるほど情緒不安定なユビキリヤにのしかかったらその先などわかりきっている事だった。
それはそれとしてキリサメは静かにドン引きした。
すげーー引いた。
閑話休題。
ユビキリヤは、「失礼しまーす」と
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ユビキリヤちゃんの話。
初公開日: 2024年01月16日
最終更新日: 2024年09月18日
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コメント
普通の二次創作です(?)
ユビキリヤちゃんの話。