基本的に妖怪は風邪など引かない。そもそも身体の構造自体が現実の生き物と比べられないし中には気体のような身体を持つ者もいる。
だが、身体の構造が人間に近い者は体調を崩す事がある。
「ゴホッ…!ゴホ…」
「38.6℃。風邪か?」
今朝鬼太郎が起きた時点で、鬼太郎は顔を真っ赤にさせてフラフラしているのに気付いた水木は鬼太郎を引っ張り無理やり布団に寝かせ体温を計った結果、予想通り鬼太郎は熱を出していた。まだ寝ていた目玉親父を起こし鬼太郎を診てもらい教えてくれたのは、どうやら幽霊族など身体の構造が人間に近い妖怪は、人間みたいに風邪などは引かないのだが内側の妖力に変化が生じると、風邪に近い症状が出るそうだ。鬼太郎は今まで妖力が安定していたのだが、ここ数日の間に大きな妖力の変化が見られたせいで症状が出たそうだ。
「う〜む。しかし今まで何とも無かったのじゃが、一体どうして突然妖力に変化が生じたのじゃ?」
「さ、さぁ…?」
「高校に入って日が経っておるから気が緩んだのかの?」
「そ、そうかもな」
「さっきからお主動揺しておるようじゃが、どうした?」
「な!なんでもねえよ!」
「そうか?ならば儂はちょいと薬を貰ってくるから鬼太郎を見てやっておくれ」
「それなら俺が」
「妖怪に効く薬を貰ってくるからお主はここにおれ」
そう言って目玉親父は一人で外に行ってしまい、鬼太郎の妖力の変化に心当たりのある水木は頭を抱えた。
数日前、水木は鬼太郎に告白されたのだ。
子どもの時からずっと好きで、高校生になって水木からしたらまだ子どもに見えるかもしれないが、どうか僕を一人の男として見てほしい。
このように告白されて、水木は鬼太郎から付き合おうとか直接的な言葉を言われてないのを都合よく捉え今まで返事をしなかった。しかし鬼太郎としてはある意味生殺し状態だったのだろう。明らかに物欲しそうな、辛そうな、時には眩しそうに水木をずっと見ていて気持ちいつもより近い距離で過ごしていた。それが鬼太郎の内側の妖力に変化があった原因だと察した水木は、甲斐甲斐しく熱を出して唸る鬼太郎を世話してあげた。
「うぅ…」
「大丈夫か?」
「みず…さん…。お義父さ…ん」
「ちょっと熱で魘されてるのか?氷枕もだいぶ溶けてるし、新しいのを用意…」
立ち上がろうとする水木の手を鬼太郎は掴んだ。ハッとした事から無意識に掴んだのだろうが、鬼太郎は手を離そうとせず、チラチラと水木を見て、水木は苦笑すると座り直した。
「少しでも辛かったら言えよ。寝るまでここにいるから」
「…はい!」
ニッコリ笑う鬼太郎だが、やはり熱は辛いのかすぐに唸り声を上げて、いっそ人間用の解熱剤を飲ませてみようかと悩むと目玉親父が袋を抱えて帰ってきた。
「待たせたの!これを飲ませるのじゃ!」
「助かる!」
目玉親父は薬袋を机に置くと、「今度は栄養のある物を取ってくる」と行ってまた出ていった。
水木は白湯を用意して鬼太郎の上半身を起こしてやると口の前に粉末状の薬を差し出した。
「ほら飲め」
「…」
しかし鬼太郎はチラリと薬を見るだけで飲もうとしない。もっと口の前に薬を差し出すと鬼太郎はフイと顔を横に背けた。
「おい。飲めってば。飲めば楽になるぞ」
「…1日寝てたら治ります」
「…」
水木は枕元にある体温計を持ち鬼太郎の体温を計ると【39.1℃】と出て、薬を床に起き、表示された数字を鬼太郎の顔に突き出した。
「半日経ったけど下がるどころか上がってるぞ。それに39℃なんて人間でもそうそう出る数字じゃない。これ以上上がると危険だからホントに飲め」
「…」
もう一度水木は薬を鬼太郎の口の前に持ってくるが鬼太郎はまた顔を背けた。背けた方に薬を持ってくるとまた反対の方に顔を背け…を数回繰り返した。
「ほら、飲め」
「嫌です…」
「嫌でも何でも飲めよ」
「嫌ったら嫌です」
「鬼太郎…」
こうなればゲンコツでも落とそうかと半分本気で考えるが
「水木さんが飲ませてくれたら飲みますよ」
「…はぁ?」
「水木さんが手伝ってくれたら飲むのになぁ」
「…仕方ねえな」
この時鬼太郎は、水木は自分の口をこじ開けて無理やり飲ませるだろうと思っていて、無理やり開けられるくらいならと少し口を開けると
「え」
水木の顔が目の前にある。近過ぎて睫毛が当たるのではと現実逃避してしまった間にも口の中に水と吐き出したくなるくらい苦い薬が流れてきた。
「んー!?」
水木が唇で蓋をしてくれているお陰で吐き出すこと無く薬は全て鬼太郎の胃の中に流れていった。
薬を飲む込むと水木は唇を離すが物凄く苦そうな顔をしていた。
「良薬は口に苦しって言うが、苦すぎるな…。こりゃ鬼太郎が嫌がるのも分かる…」
口を濯ぐ為に水木は立ち上がるが、今度は鬼太郎は腕を掴まなかった。心ここに在らずな状態で宙を見ていて、聞いてないだろうが「今度こそ寝ろよ」と言って部屋を出ていった。
「………僕の、初めてのキス…」
一方口を濯ぐ水木の元に目玉親父がやってきた。
「お主も隅に置けんのぉ」
「…いつから?」
「お主が鬼太郎に口移しで薬を飲ますところからじゃ」
「そこからかよ…」
「まさか口移しするとは。儂でも想像出来なんだ」
「…言っとくが、誰にでも口移ししねえからな」
「ほう!ほうほう…」
濯ぎ終わって口元を拭く水木の顔が赤いのに気付いた目玉親父はニッコリ笑った。