「なぜ……」
「良く似合ってるね。カミロ」
翌日分隊長から命じられて、俺とグラシアはブルーノ殿下の護衛騎士になった。
それで、俺に与えられた制服は……メイド服だった。
戸惑ってる俺をひん剥いて着替えを済ませたのは、殿下付きのメイドたち。
「信じれない。元は男の子なんでしょう?」
「どうして、そんな胸がおっきいの?おかしくない?」
色々話しかけられながら、俺はメイド服に着替えさせられた。
しかも俺の特注らしく、裾が短い。
すーすーして気持ち悪い。
足をこんな風に出すのは初めて、なんていうか内股になってしまった。
「照れなくてもいいからさ。グラシアも似合ってるよ」
対するグラシアは護衛騎士の普通の制服だ。
めちゃくちゃ似合ってる。
俺もあれが着たかった。
今の俺には似合わないけど。
「殿下。どうしてカミロにそんな服を着せるのですか?」
声は淡々としていたが、眉間に皺がよっていて、どうみてもグラシアは不機嫌だ。
「メイドの恰好した護衛騎士だ。いい考えでしょう?今のカミロはどう見ても騎士の制服は似合わないよ」
確かにそうだけど、地味に気が付く。
「さあ、今日は行くところがあるんだ。ついてきて」
内股の俺、だけど一応護衛騎士であるから、殿下の側につきそう。
「どこに行かれるのですか?城の地図は把握しております」
「お、優秀だね。魔術師エレナのところだよ」
「魔術師の塔ですね」
「そう」
グラシアは殿下の前に行き、先導する形になる。
「カルノ。君に相談があるんだよ。呪いのことで。昨日話した呪いにかかって性別が逆転した子たちだよ」
塔に到着し、階段を上がって最初の部屋の扉を殿下は叩く。
そしてそんなことを言う。
え?俺たちのため?
魔術師エレナさんは、最年少で宮廷魔術師になった方だ。
呪いを専門にしているらしく、俺たちの話を聞いてずっと興味を持たれていたらしい。
魔獣と遭遇しなくなっていたから、もしかして呪いを解く方法を知っているかもしれないと、俺は期待した。
しかし、エレナさんでも方法を見つけられなかった。
だけど、俺たちは殿下と一緒に塔に通った。
そしてその内、俺は気が付いた。
殿下の護衛騎士になりメイド服を身に着けるようになって三か月が過ぎた。
鈍い俺でも、殿下が俺たちをダシにエレナさんに会いにきているのがかわった。
だけど、普通のメイドより露出度が高い俺とグラシアが側にいることで、殿下がエレナさんに惚れているなどと噂が出ることはなかった。それもあって、俺のメイド服はちょっと違うのかなと思ったり。裾が短いので、風とか吹いたら本当に嫌な制服ですが。
俺と殿下の変な噂は広がるようになってしまった。
いや、ないから、本当。
嫌がらせを受けそうになるとグラシアが助けてくれた。
半年が過ぎて、紫色の魔獣の出現情報もなく、途方にくれいていたら、ぽつりとエレナさんが言った。
「言わなかったけど、解く方法があるわ。それは真実の愛のキスよ」
「へ?あ?」
「君たちは二人とも呪いにかかっている。しかも相思相愛なんだよね?だったら、キスしちゃえば、呪いは解けると思うよ」
エレナさんの言葉の続きを紡いだのは殿下だった。
「だめです」
俺は思わずそう答えていた。
男になったグラシアのすぐそばにいて分かったことがある。
それは彼女が元に戻りたくないということだ。
多分、彼女はずっと男になりたかったんだ。
それなのに、俺の願いのために彼女が犠牲になることはない。
「カミロ」
「……魔獣をさがします。その内見つかるはずですから。お二人こそ、相思相愛ですので、お幸せに。俺がメイドの恰好しなくても、もう大丈夫ですよね?」
「カミロ、気づいていたのか」
殿下は驚いた顔をしていた。
そうだよね。
俺、鈍そうだもん。
だけど、殿下がエレナさんを見る表情から、恋をしていることがわかったし、エレナさんもまんざらじゃなさそうだった。
多分、俺を出しに、カモフラージュしたかったのかな?
だって、殿下もてそうだし。
そうして、俺はメイド服から解放され、お役目御免になり、騎士団に戻った。
もちろんグラシアも一緒だ。
「足手まといになるかもしれないけど、明日からもよろしくな。俺もグラシアみたいに強くなるから」
グラシアは女性の体でずっと頑張ってきた。
俺だって、頑張れば、きっと強くなれる。
せめて足手纏いにならないように強くなりたい。
俺は毎日鍛錬して、アリシオ先輩に気を付けつけながら、騎士団で過ごした。
あの魔獣はやっぱり見つからなかった。
「グラシア、大丈夫か?」
騎士団に戻ってきてから、グラシアの調子がおかしかった。
「大丈夫」
そう答えるけど、グラシアは元気なさそうだった。
だから、二人きりになったときに聞いてみた。
すると
「カミロ。ごめん。私の我儘で、元に戻れなくて」
「我儘?」
何を言って……。
もしかして呪いを解くキスのこと?
「謝る必要はないよ。だって呪いもグラシアが俺を庇ってかかっちゃっただろ?それにキスをしたから呪いが解けるとも限らないし」
俺はグラシアのことが好きだ。
だけど、グラシアの気持ちがわからない。
好かれているのはわかるけど、俺の気持ちと違うかもしれない。
「呪いは解けるよ。カミロが私の事を今も好きでいてくれるなら」
「好きだよ!」
思ったより大きな声で答えてしまって、俺は周りを見渡してしまった。
目の前のグラシアの頬は少し赤く染まっている。
「私は、女に戻りたくない。今の自分が好きなんだ。だけど、カミロは、」
「俺は男に戻りたいよ。だって、この体不便すぎるんだもん。今までグラシアはよく頑張ってきたよな」
女になってわかった。
その面倒なところが。
あと弱いところも。
「だから、俺は魔獣を探し続けるよ。で、強くなるように頑張る」
結局、十年あの魔獣を探し続けたけど、俺は見つけられなかった。
十年も女をやっていれば、色々わかってくる。
女を生かした潜入捜査などもするようになり、なんだか無理に男に戻ろうという気持ちも薄れてきた。
そんな時、グラシアからプロポーズを受ける。
俺はすでに二十六歳、グラシアも同じ歳だ。
俺から言いたかった。
っていうか、膝をついて騎士のプロポーズしたかった!
だけど、そんな気持ちもすぐになくなり、俺はそのプロポーズをうける。
そうして、俺たちは結婚式当日、過ちを犯す。
真実のキスが呪いを解くという話をうっかり忘れていて、俺たちは結婚式にキスを交わし、元の性にもどってしまった。
「ごめん、グラシア!」
「いいよ。カミロ」
最初に謝った相手はグラシアだ。
だって、女に戻りたくないって言っていたから。
「もういいんだ。カミロ」
女性に戻ったグラシアと男に戻った俺は急所衣装を取り換えて、結婚式を行うことになる。
俺が着ていたドレスの胸に詰め物をしながら、グラシアは少し遠い目をしていたらしい。
胸は邪魔なだけだから。グラシア。
それから、俺たちは何度かキスを交わしたけど、性別が変わることはなかった。
妃となったエレナさんには呪いは一度解けたから、もう発動しないと言われた。
そうして、俺たちは元の性別で騎士団で再び仕事をすることになる。
アリシオ先輩が残念そうに俺をみるのは、本当に勘弁してほしかった。
うん、気持ち悪い。
そうして、俺たちはあの魔獣とも再び見合うこともなく、末永く幸せに暮らした。
(おしまい)