私の名は、串良(くしら)唯奈(ゆいな)
 前世の記憶がある女子高校生だ。
 前世の私は関名藩の大名のお姫様だった。
 家臣が好きだったのに、無理やり結婚を進められ、家臣と駆け落ち。
 だけど上手くいかなくて、逃げる道中で崖から落ちて死んでしまった。
 小さい時から記憶があるけど、前世があるなんて誰も信じてくれないと思って、話した事はない。
 高校に入学して、私は駆け落ちした家臣そっくりの人と同じクラスになった。
 彼の名前は橘(たちばな)千治(せんじ)。
 とても優しい感じの人で、私を見た時一瞬驚いた顔をした。
 橘(たちばな)君も記憶があるのかもしれない、そう思ってもやもやして過ごしていたけど、何もできず一学期がすぎた。
 夏休みが開けて、転校生がやってきた。
 その子は、お姫様そっくりの顔をしていた。
 名前は、野木山(のぎやま)玲子(れいこ)。
 おもわず橘(たちばな)くんを見たら呆然として、野木山(のぎやま)さんの顔に釘付けになっていた。
(私がお姫様よ。彼女は顔がそっくりの別人なのに)
 そんな私の想いは届かなくて、二人は急接近した。
 お姫様は私なのに、どうして。
 悔しくて、私は二人の邪魔をしようとした。
 だって、橘君が好きになるのは、私のはずだもの。
 二人が待ち合わせしているのに、野木山(のぎやま)さんと呼び止めて、時間を遅らせたり。
 小さいことだから、誰にも気が疲れないと思ったのに、気が付いた奴がいた。
「唯奈(ゆいな)。お前さあ、なんで橘と野木山の邪魔ばっかしてんの?」
 それは幼馴染の時東(ときとう)隆司(たかし)。
 
「別に邪魔なんかしてないわよ」
 なんでこいつが気が付くんだろう。
 っていうか、隆司(たかし)とは本当腐え縁で何かとよく合う。
 幼馴染で家も近いのに、本当、偶然が多すぎる。
 もしかして、ちょっと自惚れそうになるけど、いつも思考にストップをかける。
「……お前さあ、前世って信じる?」
「は?」
 何を突然。
「二人は前世から運命で結ばれてるんの。邪魔してもしかたないだろ」
「運命?なによ。それ。それを言うなら私でしょ?」
「は?え?お前も、記憶あるんの?」
「も?っていうか隆司もあんの?」
「あるよ。俺のことおぼえてないの?」
 隆司は急に真顔になって、私を見つめる。
 ちょっと、ちょっと距離が近い!
 っていうか、隆司によく似た人……あ、
 なにかちらりと過った。
「ひでぇなあ。前世でも幼馴染だったのに。でもお前、何覚えているの?二人の邪魔するって意味わかんねぇんだけど」
「邪魔するに決まってるでしょ?橘くん、暁様の相手はお姫様だった私に決まってるんだから」
 私がそう宣言すると、隆司は目を見開いた後、笑い出した。
「お前、何言ってんだよ!お姫様は、野木山さんだろ?顔もそっくりなのに。本当に記憶あるのか?」
「あるに決まってるでしょ。小さい時から夢にも見ていて……」
 そういえば、私はいつもお姫様の顔を見れていた。
 もし私がお姫様なら、鏡を見ない限り、顔がわからない。
 ってことは……。
「隆司。私ずっと思い違いしていたかもしれない。前世の私って誰なの?」
「……侍女だよ。名前は鈴乃」
「侍女……」
 一気に脱力してしまい、隆司に支えてもらった。
 そうして、彼の顔をよく見て、私は思い出す。
「幸助?」
「思い出したか?そう、俺の前世は幸助だ」
 隆司は嬉しそうに笑った。
 ああ、そうだった。
 この笑顔、なんで、私はずっと自分をお姫様だと思い込んでいたんだろう。
 私はお姫様の最後を直接は見ていない。
 二人が崖から落ちたと知って、激高したお館様に殺されたんだ。
 命尽きる前に、泣きそうな顔の幸助の顔を見たのに。
 私はなんで、こんな大事なことを忘れていたんだろう。
「……お前が、暁のことを好きだったのは知っていたよ。だけど、まさか、自分がお姫様と勘違いするまで好きだったとは」
 ショックから立ち直って、私はしっかり二本足で立っていた。
 だけど隆司は私を支えたままだ。
「まだ暁……、橘のこと好き?二人の邪魔をしたい?それなら、俺もお前の邪魔するのをやめるよ。むかつくけどな」
 わからない。 
 記憶を思い出した今、私の暁様、橘君への想いは曖昧だ。
 だけど、お姫様、野木山さんへの想いは募る。
 私はお姫様が大事だった。
 だから、彼女が逃げるのを手伝った。
 私はどちらにしても裏切り者として殺されるってわかっていたけど。
 
「邪魔はしないよ。今度こそ、二人は幸せになるはずだから」
「本当か?前世は前世だろ。まあ、俺が最初邪魔したんだけど」
「ううん。私はお姫様に今度こそ幸せになってほしい」
「……そっか。それならいいけど。じゃあ、さ。暁いや、橘への想いを断ち切ったと見込んで、俺と付き合わない?ずっと、ずっとお前のこと好きだったんだ。前世から。俺は記憶が小さい時から鮮明だったから、お前のことがすぐわかった」
 隆司は何時もおちゃらけた感じなのに、真面目な顔で私をまっすぐ見ている。
 
「返事は直ぐとは言わない。ただ俺のことを考えてほしい」
「う、ん」
 ずっと勘違いしていた。
 隆司のこともわからなかった。
 いつも傍にいる、よく会うと思っていたけど、偶然じゃなかったんだ。
 前世も今も幼馴染の隆司。
 だけど
「んじゃ、とりあえず。帰る?」
 気が付けば、空の色が変わっていた。
 どれだけ私たち話してたんだろう。
 
「うん」
 隆司と一緒に学校から家に帰る。
 何度も繰り返してきたことだけど、今日は特別だった。
「橘くんに前世のこと聞いたことある?」
「聞くわけないだろ。顔見てびっくりされたことがあるけど」
 帰り道、気まずくなって聞いてみる。
 橘くんはきっと記憶があるんだ。
 前世の暁様と、隆司の前世の幸助はよき上司と部下って感じだった。
 隆司の顔は幸助と一緒だから、きっと驚いたんだろうな。
 ってことは、私の顔を見て驚いたのもそれか。
 前世できっと私は鏡を見たことがないのか、前世でどんな顔をしていたか、わからない。
 でもきっと同じ顔なんだろうな。
「お前は、野木山さんに話するつもりか?」
「しないよ。多分、記憶もないだろうから。それで橘くんと上手く言っていたらいいと思う」
 記憶がないのに再び恋に落ちるなんて本当に運命だ。
 お姫様のこと、好きだったから、野木山さんと色々話したいこともあるけど、思い出せることはないと思う。
「……幸助はさあ。結婚を申し込むつもりだったんだよ」
「そうなの?!」
 本当の記憶を取り戻したばかりで、曖昧だけど、隆司の前世の幸助からそんな想いをぶつけられたことはなかった気がする。
「時代が時代だし。俺は後悔したくないから、今日告った。考えてくれよな」
「う、うん」
「顔赤いぞ」
「違うよ。これ夕日のせいだよ」
「なんか、それどっかで聞いたセリフだよ」
「あ、本当だ」
 勘違いしていた私の前世。
 お姫様ではなかったけど、波乱万丈な人生だったみたい。
 今世は、静かに幸せを掴みたいなあ。
 その隣に、隆司がいるかはわからないけど。
 まだ高校生活は始まったばっかり。
 まだまだ人生は先が長い。
(おしまい)
 
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