※BGM 『01』/女王蜂
口からほとばしり出たのは、叫びだった。
それに気が付くのに、なんと何拍もかかった。
叫ぶのなんて、いつぶりだろう。
何時だって、自分の中の水面は波打っていて、デモそれを、誰にも見せたことはなかった。
唯一の例外は、師匠やお母さん、その他もろもろに見せた幼子のころの表情で、でもそれを、誰にも教えたことはない。
その叫び方すら忘れていたのに。
ごく自然に、そうあることがナチュラルとでも言わんばかりに。
そうして、自分の口から叫びがほとばしり出た。
裏返るような、そんな情けないものではなく。
断末魔のようなものでもなく。
ただ、一つの芯の通った、おぞましい声。
「あ、ああ、ああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
それは、雄たけびと呼ぶべきもの。
助けてくれと懇願するでも、
鳴れてない喉で笑うでもない、
目の前の物を、殺すための雄たけび。
弦の音とは正反対。
鳴り響く鏑矢のように。
遠く遠くこだまする余地すら残らずに、
芯の通った言葉。
お前を殺すと、ただそれだけが確かな声。
貫いた刃は、安易にバリアのようなその透明な壁をブチ破り、
その最奥にいた本命を力任せに殴りつけた。
だけどその力は芯をとらえていて、
どうしようもなく正鵠で。
力がずれることもなければ、何かおぞましいことになるわけでもなく、ただ、ただ、ひたすらに。
射抜いた。
目視は不可。
その目標は、光より早く叩きのめされ、地に叩き潰され、一回、二回、バウンドした。
ヒエーーー…
その鼓動は湊と同期し、無限の可能性を「湊」という存在の向こう側から引っ張ってくる。
だから、わかる。理解できる。
今のこの■には、殺意しかない。
お前を殺す。
ただそれだけの感情だけで、今ここに、この■は経っている。
それがおぞましくて、恐ろしくて、体もないのにかたずをのんだ。
その在り方が、どうしても自分とは違うとわかるのに。
どうしてかその在り方の向こうに、自分の理想に近い何かを見たような気がして。
…■は首を振る。
それを錯覚だと、理解しているからこそ振り切るように。
だけどその脳裏に、赤い瞳の差すような|色彩いろはいまだ健在で。
ただただ、穏やかでしかないはずの波間におびえるように、そっと自分の体を抱いた。
「叫べ、■。」
それは、暖かな手のひらのような声だった。
「その言葉を、私が、一緒に叫んでやる。」
静かな声だった。
いままで向けてきた、どんな感情にも類しない声。
思い出す。
心臓のような鼓動のような電車の音の中。
何をするでもなく、ただ、ただ、自分たちのことを見つめていた少女の名前を思い出す。
それが、この人のずッと言いたかったことなのかなと。
心のどこかで|自分誰かが言った。
だから。
「湊」も、叫んだ。
「やってしまって、おれの、ーーーーーーーーーーーーーー!」
その言葉が、いったいどういう意味かは湊とその人物だけが知る。
とにもかくにも結論だけ申し上げるのであれば。
その■の手は宙を切り。
軌跡上には、砕かれたその男の頭蓋だけが残っていた。
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