【 翌朝 しぬほど奢らせた 】
 
三番街の宿、は連れ込み宿の総称だ。どこの宿、と決まった誘い文句ではない。
だが夜、女を連れ込む場面に何度か遭遇している二人は、互いがよく使う場所を認知している。
(こーゆーときのニィサンの定宿はぁ)
裏路地を軽やかな足取りで歩きながら、イレヴンは目的の宿を探した。
リゼルを視界から外したことで、劣情は多少抑えられている。いくら発情期といえども誰彼構わず襲いたい、という節操のないものではなく、欲している相手がいなければ、少々血気盛んになる程度だ。こういう時に下手なやつと出くわすと、酷い殺し方をしてしまうから気を付けなくては、と思う。リゼルに出会う前ならば、それで解消すればよかったのだが。
(別に、殺しがどうってことじゃねぇけどさぁ……リーダーだって、関係ないとこで何してても怒んないし。けど、どいつもこいつも、あの人の代わりになる程の価値がねぇっつーか……)
代用品として殺してやるなんて――いや、勿体なさ過ぎて。
発情期か、とジルは言った。まあ、間違っちゃあいない。[[emphasismark:そういう時期 > ﹅]]、ではある。だが獣人の特性にそこまで引っ張られているわけでもないし、なんなら性欲なんて唯人と同じようにあるのだから、今じゃなくたって欲情はしてた。
(ちょーっと意識したら辛くなっちゃっただけで)
まさかジルに、付き合ってやる、等と言われるとは思わず乗ってしまった。
(人外のセックスなんて、楽しみすぎっしょ)
よくある風情の目立たぬその宿を見つけ、互いの顔が見えぬよう衝立を立てたフロントで、待ち合わせ、と告げる。と、受付には話が通っていたようで、鍵をひとつ渡され、部屋番号を告げられた。
三階まで上がり、フロアに3つしかない部屋のうち、一番奥の扉へ向かう。
間にある部屋にも人の気配があったが、そういう仕様の宿らしく、廊下には僅かにも声は漏れてこない。
(さぁすがニィサンのチョイス)
他人に声を聞かせるのも、聞かされるのも御免被る、ということだ。
扉をノックすることなく、勝手に鍵を使ってあける――と、僅かに押し開いた途端、にゅっと延びてきた腕に掴まれ、部屋の中へと引き込まれた。
「遅ぇ」
「えー……」
別にいつと約束したわけでもあるまいし。イラつくくらいならなんで態々俺を誘ったんだ。
面倒くせ、と眉を顰めるが、構わずジルは大きな手で顎を捉えて上向かせる。
「うわ、待ってニィサン、ちょ」
大きく開いた口が上から下りてくる。まるで狼に食われるような錯覚に、ぞくりと背筋が震えてぎゅっと瞼を閉じた。それを了承と判断し、ジルはイレヴンに唇ごと口の中へと収めてしまう。
肉を割り、食いしばられた歯列にぬる、と舌を這わせる。きれいに生え揃う歯をなぞると、途中で鋭く尖る牙に当たった。その先へ入れろと舌先でノックするが、鼻の頭に皺を寄せて目を閉じたままのイレヴンは、いや、いやと首を振る。もっとも人外の力で抑えつけられ、僅かに揺れる程度にしか抵抗できずにいるのだが。
だがここまで来ておいて、言うことを聞かないのはなんなんだ、とジルは内心で舌打ちし、口の端から親指を捻じ込んだ。
「んん……ッ」
抗議の声をあげるが、凶悪な握力で顎ごと掴まれては逃げられない。太い指が無理やり唇に入り込むと、歯列を開かせようと力がかかる。このままだと歯が割れる、と諦め、渋々噛みしめる力を緩めればすかさず指と一緒に分厚い舌が潜り込んできた。
「ふ、ぅ゛、ん゛ん゛~~ッ」
顎を掴む腕を掴み、イレヴンはその長い爪を立てる。だがそれはジルにとって稚戯に等しい。肉に爪先が食い込んでいようと放置して、途中で口を閉じられぬよう、親指は挟んだまま。奥に秘められていたイレヴンの舌を絡めとれば、唯人よりも長く、少し硬めの肉は想像よりも心地よかった。
さんざん舌を弄び、口蓋へ舌を這わすと牙の裏側あたりで唇腺に当たる。リゼルが言っていたが、そこから毒を分泌するのだそうだ。
そこをぐっと舌と指で押し――それから柔らかく擦ってみる。薄っすらと線が入っているのが舌先で感じられた。
微かな刺激を楽しみながら、そこを愛撫する。何か出てきやしないかと期待したのも事実だ。だが執拗に舐めていると、不意にガチッと舌に噛みつかれた。甘噛みというにはきつく、口内に血の味が滲む。拒絶を感じて一度手を離してやると、どん、と胸を突き飛ばされた。
ジルは腕の中から逃げていったイレヴンを眺めながら、少しだけ血の出た舌を指で拭う。
「痛ぇよ」
「こっちの台詞!」
強引すぎんだろ、とべたべたになった口元を腕で拭い、イレヴンは不機嫌そうだ。
「ったく、女相手にもこうなのかよ……つか、ニィサン死にてぇの?! んなとこシツっこく舐めてきやがって」
こちらに悪意があれば、唇腺から何かしらの毒を分泌できる。麻痺毒だけでなく、致死毒だって。
リゼルのいう精鋭たちはそれが解っているから、命じられない限りけして自らイレヴンに口づけようとはしない。
だが殺すよ、と言えば、ジルは「お前が俺を?」と鼻で笑う。
確かに即死毒でもこの男には効かなさそうだ。嫌そうに頬を引き攣らせたイレヴンは降参だ、と言わんばかりに両手を挙げた。
「ん、あ、ああ゛っ、つ、あ゛……ッ」
俯せ、四つ足になったイレヴンの腰を掴み、乱暴に突き上げる。その度、柔らかな背中がいやらしく撓る。抉れた傷跡が歪にゆがみ、そこここにある鱗が薄暗い灯かりの元で鈍く光る。
「ああっ、や、うぐ……ッ、ん、はげ、しって、ニィサ……ッ」
鍛えられた小ぶりの尻には、ジルの凶悪なペニスが埋め込まれている。太さも硬さも、イレヴンが今まで味わったモノとは比べ物にならなかった。
あれから乱暴な口づけを繰り返し、体を嬲られながらベッドへと引きずられた。シャワーを浴びると言ったが、ジルは「どうでもいい」と切り捨てて、シーツの上へと放り投げた。むしり取るようにして服を脱がせると、どこから出したのかオイルを指に絡めて後孔の具合を確かめ――そこからはノンストップだ。
長大なそれを捻じ込まれ、痛みに濁った悲鳴を上げたが完全無視だ。流石にいきなり最奥までは突き上げられなかったが、肉襞を熱くて硬いペニスに擦られ、イレヴンは半勃ちだったそれから、ぶしゅ、と精液を漏らした。
「ん゛ん゛……ッ」
「ぐ……ッ」
ぎゅう、と肉壁に締め付けられて、ジルも思わずくぐもった声を上げる。してやったり、と思ったのだろう。ヒヒッと笑う声が聞こえて、ジルは細い腰を掴むとぬぷぬぷとオイルに塗れたペニスを引き出し、それから根本まで一気に貫き、腹の奥底まで亀頭を叩きつけた。
「~~~~~ッッッ!!!」
内臓を内側から殴られて、仰け反ったイレヴンは、カハッと喉を鳴らす。が、そこで終わりではない。ジルはがつがつと貪るように腰を打ち付け、只管に己の快楽を追い始めた。
「ぐ、ぁあ゛、んぐ、う゛ッ」
オイルと腸液が混じり、じゅぽじゅぽと淫靡な水音を立てながら、激しく抽送を繰り返す。
右手でするりと背中を撫であげ、抉れた傷跡を引っ掻くと、びくびくっと全身を震わせて「や、それ、や……ッ」とシーツに押し付けた頭を振った。
幼いころに森の主と対峙して負った傷だと聞いた。嫌だというが、古傷は感度が上がる。その証拠に、イレヴンの腹の中は大きくうねり、ジルのペニスに絡みついてくる。トラウマになっているわけではなさそうだ。興覚めだったならナイフが飛んできただろう。
煽られるように腰の動きは早くなり、肉を打つ音と濁った嬌声が部屋に響く。
「く、そ、イクぞ」
「は、はや、うそ」
余程溜まっていたのだろうか、思ったよりも限界が近いとジルは眉を寄せた。相手のことなど欠片も考えない、己の欲望だけを求めてイレヴンの体を貪る。
バチンッバチンッと腰を打ち付け、時折ぐりぐりと切っ先を塗り付ける。
「あ、ああっ、あ、や、ああっ」
ひっきりなしに嬌声があがる。強すぎる快感が辛いのか、徐々に腰が引けていくのに気が付き、ジルは舌打ちをする。
「逃げんな」
そう言うと、イレヴンの左足に腕を回し、胸元で抱えてしまう。体を開かれ、ぐっと引き寄せられたイレヴンは、より深くを犯されて、ひと際大きな嬌声を上げた。
「あ゛――ッ、あ゛、ん゛あ゛っ!! あ! や゛、ああっ!! やだ、も、ああ゛っ、んっ!!」
無理、無理、と快楽から逃れようとシーツにしがみつく。その些細な抵抗などものともせず、ジルは彼の腕を掴んで蹂躙する。ギリギリまで引き抜き、突き立て、その度にイレヴンは内壁をゴリゴリと硬いペニスで擦られて、腹の底を嬲られる。
「ん、あ、も゛、やっ、ああっ、に、さん、ニィサン……ッ」
ガクガクとイレヴンの腰が震えて、限界を訴えていた。そうして一層激しく突き上げた瞬間、行き止まりだったそこをグポと貫いた感覚があった。
「んお゛……ッ」
目を見開いたイレヴンが息をのむ――結腸をぶち抜いたジルは、今まで以上の締めつけと強烈な刺激に息を飲んだ。
「ぐ……ッ」
瞬間、脳裏に浮かんだのは目の前の男とは似ても似つかぬ――
「う、くそ……ッ」
目の奥が弾ける。くぐもった唸り声と共に、ジルはイレヴンの足と腰をきつく掴み、その最奥で迸る熱を吐き出した。
ふぅ、と長く息を漏らし、額に落ちてきていた前髪を掻きあげる。滾っていた熱を吐き出して、やっと一息つけた心地だった。
イレヴンはシーツに顔を埋めてビクビクと痙攣を繰り返していた。
「おい」
肩へと手を伸ばし、ずるりとペニスを抜くと、
「ん゛……ッ」と喉を鳴らしたイレヴンはぎゅっとシーツを握り締めた。
背中は汗ばみ、赤く染まった肩口は乱れた息に併せて揺れていた。
暫くそれを眺めていたが、ふと、こいつはイけたのか、と半ば好奇心で前を探ろうとすると、
「さっわんじゃねぇよ、クソ……ッ」と毒づかれた。ジルは構わず腹を探ると、イレヴンのペニスも力を失っている。
「イけたな」と感心するとひゅっと踵が飛んできた。勿論軽く避けたが。
「ニィサンのそゆとこ……!」
やっと余韻が冷めてきたのか、体を起こしたイレヴンに、ノンデリ野郎、と罵倒されたが、そうかと流す。代わりに水差しを差しだしてやると、不満げにしながらも受け取り、乱暴に煽った。
ごくり、ごくりと喉仏が動く。勢い良すぎて口の端から零れた水が、ついと喉を伝って胸元へと落ちていった。
ジルは無意識に親指を舐め、その様子を凝視する。
「……なに」
「いや」
空になった水差しを受け取り、サイドボードへと置いた。イレヴンは肩を竦めて頭を振った。
「つーか、ニィサンのセックス即ブツ的すぎねぇ? 出会って3秒でそうにゅーとかありえねぇし」
「3秒じゃねぇよ」
「おんなじだろ、部屋はいったら即行襲われたし」
「あ? じゃあてめぇはどうなんだっつーの」
「そりゃ、たっぷり甘やかしてドロッドロにするっしょ」
俺のことしか考えられなくなるくらい、と楽しそうに言うイレヴンが、誰も彼もにそんな手間をかけるわけがない。脳内で啼いているのは誰か、なんて考えなくても解ってしまう。
同じ穴のムジナだ。互いに代用品で乾いた獣の喉を潤している。
イレヴンはぶつくさと文句を言いながらベッドを下りると、序盤でジルに床に投げ捨てられた服を拾った。
「ベッド転がされて、問答無用でひん剥かれてさぁ……レイプだろ、あれ……あ、服は無事じゃん。じゃあまあ許すけど。帰れなくなるとこだったっつーの……」
「は? これで終わりだとか思ってんのか」
服を回収し、腕に掛けたイレヴンは、不機嫌そうな声に顔を上げた。
「えっいや、んなわけないじゃ……」
気が付けばジルもベッドを下りて、真横に立っていた。勿論、人外疑惑を持つ相手が一度で終わるわけがないと思っていたし、イレヴンもこれで満足できるわけがない。
わけがない、が。
「えっ復活はや」
視線を下ろした先の股間は、きっちり上向いている。
早漏、と笑ってやるつもりだったが、これはなんだか悪い予感がするとイレヴンは頬を引き攣らせる。
「さっきは久しぶりだったからな。今度はたっぷり楽しませてやるから」
ドロッドロにしてやればよかったんだな? と聞かれて、思わず後ろへ数歩下がる。
「はは、ちょっとはインターバルってのが」
「ねぇな」
きっぱりと答え、イレヴンの腕の中から服を奪うと、部屋の隅にあるティーテーブルの椅子へ掛ける。それから柄の悪い顔をにやりと歪め
「言ったろ。お前が満足できるまで[[emphasismark:付き合って > ﹅]]やるから覚悟しろよ」とイレヴンの腰をぐっと引き寄せた。
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