夢主名:細川 和泉
 私の幼馴染こと上城 渚の様子が最近は変だ。華の高校2年生。青春真っ盛りの中に、勉強、部活、バイトに交友関係を結んだ友人たちとの外出などとさまざまではあるが、それにしたってあまりにも、励み過ぎではないだろうかと思っている。そりゃお前、というか私は彼の何なんだと問われればただの幼馴染で嬉し恥ずかしながらも恋人で……だからどうしたと言われればそれまでなのですが。
 ……だとしても、恋人である私の事を少しは構ってくれたっていいのになあと思うわけで少しどころかかなり不貞腐れております。
「なぎちゃんのばーか。ばーか。いや、嘘。嘘です好きだから怒らない、で……あれえ?」
 放課後。素羽ちゃんに聞いたら「そういや渚の姿見てないな、見掛けたら教えるね」って言うし、加納くんに聞いても「渚? いや見てねえな」って言うし。……帰っちゃったのかな。久々に一緒に帰れると思ったのにな。
 そう思いながらも慣れた足はなぎちゃんの教室に向かっていたし、机を見下ろしていた。ら。
「ルフェルくん?」
 最初はただのルフェルくんが机の中でごそごそとしているだけだと思っていた。でも違った。
「ぶ」
「わ、わあー!! 可愛い! 君何処の子?!」
 掌に収まるぬいぐるみが喋った。動いた。そんな事あるだろうか。そんな事よりもなぎちゃんに似ているこの子が可愛くて頬ずりしてしまった。
「ぶ、ぶ」
「わわ、ごめんね! でも君なぎちゃんの机に居たって事はなぎちゃんのぬいぐるみなのかな……なぎちゃんは?」
「ぶ!」
 いかにも自分が上城渚だと言わんばかりに指をさしている。この子も渚、って言うのかな。あ、顔が似てるから同じ名前つけたのかな。などと一人で納得していた。
「よーし、じゃあ私と一緒になぎちゃんのお家に帰ろう! ってあれえ」
「ぶぶ」
 よく見たらなぎちゃんの机の横には鞄が置いてあった。中にルフェルくんはいないみたいだったけれども、忘れて行っちゃったのかな。
 スマホのチャット欄に「鞄忘れてるからお家に持っていくね」って送信し、手に抱える。自分の鞄にはなぎちゃんによく似た子を小さなポケットに入れて帰っていく。
 大人しくしてくれているから良い子だとは思うけど最近のぬいぐるみって凄いね! 喋って動いて意志がある! 最近のAI技術って凄いなあ。
 なぎちゃんの家のインターホンを押しても人の気配はせず。それどころか本人も出て来る感じもない。
「寝ちゃってる、とか?」
 そんなわけないよね、ってぬいぐるみに喋ったらなぎちゃんの鞄を指したのでこの中? と申し訳ない気持ちになりながらも鞄を開けるとぬいぐるみはその中に飛び込んだ。
「ぶ!」
 ぬいぐるみは鞄の中にあったであろうカギを取り出してくれた。これで開けてほしい、ってことなのかな。開けてあげよう……。でもなぎちゃん、此処で開けるってことは本当にどこ行ったんだろう。
「お、お邪魔しまーす……」
 当然ながら誰も居なかった。そりゃインターホンを押しても出てこないわけだ。慣れた足で2階へあがり、ローテーブルの上にぬいぐるみを置いた。
 私も少し疲れたな。鞄二つ持ってきたから、とソファーに腰掛けさせてもらった。
「なぎちゃんどこいったんだろうね」
「ぶ」
「あは、その紙どこから持って来たの~?」
 鞄の中に入っていたぬいぐるみは大量の紙を引っ張り出して、辺りに散らばらせる。文字通り山積み。或いは散らしている。その紙に色んな文字? 絵? よく分からないけどいっぱい書いて、いっぱい描いてるけども何も起きる気配はない。
「ぶ! ぶ!」
 暫くそれを眺めていたらぬいぐるみは何かを書いて私に差し出していた。
「これ、くれるの?」
「ぶ!」
 ううん、と首を横に振っていた。自分のペンで此処に、書いてほしい、というような仕草をしていた。
「なーに? なんて書けばいいのかな」
「ぶ! ぶ!」
 私を指さしている。
「あは。それだと婚姻届けみたいだね。でも駄目だよ、私の名前を書くのはある人の隣って決めてるから」
「ぶ……」
「だから書けないや。ごめんね」
 しょんぼりとした顔のぬいぐるみを励ますように頬のあたりにキスをする。
「これだけはあげられるから、これで我慢してね」
 じゃあね、とぬいぐるみに手を振って、その場を去る。その後の事は何も知らない。
「…………好きだなあ」
ベルベッドルーム。何時もの様に契約書にサインをしていた時の事。こ、来ない。
「時に貴方様は彼女を基にした怪ドルが欲しいと見受けられる」
「欲しい。欲しいけど正直俺の横にいてほしい。いてほしいけど傷ついて欲しくないし傷つけたくないし誰にも見せたくない」
「強欲。まさに強い欲望で素晴らしい」
「ジレンマが過ぎる」
 メロペ曰く。新しい怪ドルを見つけたのはいいし、実際それにつられてホイホイと来た自分もどうかと思う。いや蓄えは潤沢だけども。……。
「やっぱり俺帰る! 和泉ちゃんは和泉ちゃんのままでいい! 名前書くなら和泉ちゃんの横がいい!」
「欲望が駄々洩れである、と申し上げておく」
「欲望だらけだよ! 俺は男子高校生! あんなことやこんなこといっぱいしたいの!」
 でも和泉ちゃんは俺、というか僕に気を遣って何でも良いよって言ってくれるから自分がしたいことをしてほしいというか、させてあげたい。僕の男気が足りない? 勇気が足りない? 魅惑が足りない? 器用さ……はともかく、知識が足りない?
 いやそんな事無い筈なんだけれども。
「では貴方様の欲望を叶えて差し上げるべく、此方にサインを」
 一枚の紙を差し出したメロペに対して目を丸くする。ぬいぐるみ……?
「貴方様がぬいぐるみになる契約書である」
「これにサインすると?」
「もれなく貴方様はぬいぐるみになる」
「喋れる? 動ける?」
「擬音のようには喋れる。話せはしない。無論理解はできる。動きもできる」
「……それで、和泉ちゃんの気持ち、知れる、かな」
「契約が解ける方法はただ一つ」
「?」
「相手のキスをもらうこと。なんとロマンチック」
「お伽話みたいだ。美夕が喜びそう」
「さあさそれではサインを」
 羽ペンをインク壺に入れて数滴落とす。……それで君の心が、拓けたなら。拓けるなら。
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向き
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ぶくなぎが婚姻届け差し出してくる話
初公開日: 2026年05月20日
最終更新日: 2026年05月20日
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