冬の東北の朝日が昇るのは遅い。
というより、牛島若利の朝が早いのだ。まだ明けやらぬ空の下、ジャージを着込み、男子寮を後にする。午前5時。夏ならば日が出て暑くなる前の時間帯であるが、冬場は真っ暗である。しかし、それを時々、天童は追いかけるのだ。
「若利くん。今日は俺も行く」
「……月曜日だな」
「うん。だから」
月曜日は天童の大好きなジャンプの発売日だ。近くのコンビニを通る牛島のロード。それについて行くついでに、天童はコンビニでジャンプとちょっとしたお菓子を買う。それが毎週月曜日の彼らのルーティーンだった。
は、は、と軽く息を弾ませれば、その息が煙か幻のように白く現れては消える。最初は肩を並べて走っていた二人も、後半になってくるとその体力の差が垣間見えて天童が遅れ気味になる。白鳥沢学園、の文字がハッキリと書かれたジャージの背中越しに、白い息が立ち上る。その息の長さが徐々に短くなった頃。天童の目的地であるコンビニに辿り着くのだ。
牛島は何も言わない。寄り道が良くないとか、買い食いするならもっと主食を食べろとか、そういうことを初めのうちは言われていた記憶があったけれど、もう慣れ親しんだ彼は、そんな小言も言わずにゆるりと走るペースを落として、天童と肩を並べる。そうして、そのペースが早歩き程度に落ちたとき、丁度、コンビニの入り口に辿り着くのだ。
ピロピロと妙に明るい音を立てて二人はコンビニの自動ドアを通っていく。天童は雑誌コーナーに。牛島は奥の方を通って、店内をぐるっと一周歩き回る。いつもお決まりの雑誌と日によって変わるお菓子を手に取った天童は牛島が店内をぐるぐると歩いている間にサッサとレジをすませていた。そうして、牛島に目配せする。すぐにそれに気付いた牛島がコンビニを出たのは、天童のひょろ長い背中がまた自動ドアを開けて明るい音楽に見送られている時であった。
「わ、朝日、マブシー!」
丁度、東向きな出口からは建物の合間を縫って差し込む朝日がよく見えた。その眩しさに目をすがめる天童の背中を超えて、牛島は彼の隣に立っていた。
「朝だな」
「ダネ。おはよ」
「おはよう」
「今日の朝練、何するカナ?」
「ディグの強化をそろそろやるはずだ」
「ディグ~? 地味で嫌い~」
「そういう奴が多いからやるんだろう?」
「たしかに~」
コンビニの袋をガサつかせながら、少しずつその走るペースを上げていく。話しながら走る彼らの白い息は、暗かった時よりも朝日にさらされてよく見えなくなり始めていた。
そうして元通りのペースで走り出した頃、彼らの間から言葉は消える。ほどよく身体が温まった頃には、もう、寮の入り口にある門が見え始めていた。
「強く、なるぞ」
「あったり前~」
にやりと笑った天童の笑顔も、当然とばかりに表情を崩さなかった牛島も。そんなささやかな日々が後数ヶ月で幻のように消えていくことを、きっと、頭の片隅では解っていたのかもしれない。
二人の背中に書かれた「白鳥沢学園」の真っ黒な文字が、快晴を思わす冬の朝日にキラリと煌めいていた。