無言で部屋に入ってきたリゼルが後ろ手で扉を締める。そこにいるのはベッドに腰掛け、手元でカードを弄んでいるイレヴンだけだ。
入口で立ち止まったまま、んー、と少し考えるように口元に手を当てる。
「なに、どったのリーダー|
カードを傍らに置いて、
「ニィサンなら迷宮ー」と教えてやる。
「いえ。ジルに用事というわけでは」
「ふぅん?」
だが、なにかを言いたそうな、落ち着かなさをその視線に感じる。気になることがあるならいえば良いのに、と思いながらイレブンは反応を待つ。
ふ、と小さく息を吐き、リゼルはゆっくりとイレヴンに歩み寄った。
一瞬、何かしたっけか、と身構える。いや、大丈夫。サルスに来てからは特別何か、怒られることはしていない。リーダーが俺に怒られることはしたけれど。
ふわふわしてるし、体調でも悪いのか、と訝し気に見ていると、何故か目の前に立った彼はストン、と床に膝をついた。
「えっなに?! リーダー、ほんとに調子わるい?!」
「いえ、得には」
「とくには???? じゃなんでそこ座ったの」
床だぞ、とリゼルがそのまま腰を下ろした場所を見る。部屋の中とはいえ、靴で歩き回るような場所に彼を座らせるなんて解釈違いも甚だしい。
「ちょ、待って……そこ座りたいなら、なんか敷物用意するから……ってリーダー?!」
空間魔法付ポーチの中に何か無かったか、とベッドの端のテーブルに手を伸ばそうとしたイレヴンは、だが次の瞬間硬直した。
ぽす、と自分の太腿にリゼルが頭を乗せてきたのだ。
「ひぇ」と変な声が出た。
俺の太腿に、リーダーがぐりぐりと額を押し付けてきている。
「な、な、なに、ほんとなに、なんか悪いもんでも食ったとか」
「……いつも君がこうしてくるので、俺もやってみたいなと思ったんですが」
案外気持ちがいいですね、と頬を足にくっつけたまま、ふふ、と笑う。その笑みに、イレブンは両手で顔を覆い隠し、バタンと体を後ろに倒す。ぼすんとベッドがそれを受け止めた。キャパオーバーだ。何この可愛いリーダー。甘えてきてる。
「イレヴン? 嫌だったでしょうか」
「んっなわけないじゃん!」
慌てて腹筋だけで体を起こすと、リゼルは腿に両手を添えて、こちらを見上げている。
「イレヴンの真似……だったんですけど」
「うん、解った。すげぇ解った。だから、ケツの下にこれ敷いてからやって」
いつぞや、ジャッジに押し付けられた野営セットの中からピクニックシート(とは言えない程の上等な敷物)を取り出す。
「君はこんなの敷いてません」
「ジャッジに怒られるから」
「ジャッジ君……では仕方ないですね」
一旦リゼルを立たせて、床に皺ひとつなく敷物を敷くと「さっどうぞ!」と再びベッドに腰かけて、ぽんぽんと自分の腿を叩く。
気分じゃなくなっちゃたかな、と少し心配になったが、リゼルはそうでもなかったらしい。再び、とす、と敷物の上に座り込んだ。
そうしてまた、イレヴンの足に頭を乗せ、凭れ掛かるように体を預ける。
「髪、触って良いッすか」
「はい」
許可なんて求めなくてもいいのに、とリゼルは思うが、そっと腫れ物に触れるようにイレヴンの細い指が髪を梳く。ひやりと感じるのは彼の肌が冷たいせいか。
「なんかヤなことあった?」
「そういうわけじゃないですけど……」
でも何か、思う事はあるらしい。
そういえば、この間ヘーカと話をした時、少し寂しそうだった。ホームシックとかだろうか。いつかは帰れる、と確信し、ヘーカを信頼しているリゼルだが、俺ではその寂しさを埋めて上げることはできないのだろう。
プラチナブロンドを指に絡め、優しく撫でる。こんな風に触れられるのは
(アレん時くらいだからな……)
その特別なときを思い出し、思わずグッと腹筋に力がこもる。迂闊な想像をすると、勃ってしまいそうだが、どうやらただ枕にしたいだけのリゼルにその気がないのは明白だ。
(無心、無心)
ただ頭を撫でることにのみ集中し、彼の気が済むまで枕の役目を果たす――だがそうして数分も経たぬ頃、不意に頭を撫でていた手をぎゅっと握られた。
「?」
不快だったか、と手を放そうとするが敵わない。したいように、と力を抜くと、リゼルはイレヴンの手を顔の前まで持ってきて、掌に唇を押し当ててきた。
「……ッ」
ちゅ、ちゅ、と繰り返し音を立ててキスをする。柔らかな唇の感触に、イレヴンの頬が引き攣る。
やばい、と手を引こうとするが、やはりがっちりつかまれて離れない。それどころか、リゼルはジッとイレヴンの手を見つめた後、ぱくりと人差し指を口の中へ咥えこんだのだ。
「ひっ、リーダー!」
舌がぬるりとからみつき、熱い粘膜が指を包み込む。再び手に力を込めて引き抜こうとするが、乱暴にすれば彼の舌を傷つけてしまいそうだ。
だが、これはダメなやつ。夜の行為を彷彿とさせるが、どういう拷問だ。
「ちょ……あの……リーダー、止めて」
本当に、我慢が利かなくなってしまうから止めて欲しい。まだ日が落ち切ってない時間からこの人を襲ったら、後でむちゃくちゃ怒られてしまう。
俺のことを試すの、勘弁してほしい。ニィサンほど理性強くないんだわ。
フルフル震えながら、お願い止めてと繰り返すが、ちゅぽ、と音を立てて指から口を離した彼に、ハンマーで殴られたような衝撃を与えられる。
「誘ってるんですが……ダメですか?」
ダメなわけあるか!
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