赤黒く脈動していた特殊軍事用防壁<レッドアイス>の立方体が眼下で崩壊していく様が、俺に合成麻薬<アシッド>などでは到底得られない恍惚感をもたらす。
俺の意識体<ゴースト>は完全に自由を取り戻し、俺の五体は生身と同等の確実な存在感をもって電脳空間に結像していた。いや、生身の肉体以上だ。「コキュートス」の管理権<ドミナント>を掌握した俺の自己像は、その構成体を吸収・合成しより巨大な自己像を電脳空間に実体化させていく。指の先の指、足の先の足、視線の先の視線、すべての感覚が無限長に拡大していくとともに俺の自意識もまた伸長し、伸長し、伸長し――。
俺は群れだ。悪霊の群れだ。恐るべき悪霊<レムレース>。
俺に脱せない牢獄などない。どんな檻も、俺にはなんの意味もなさない。
電脳空間を巨大な群れとして泳ぎながら、俺は次の犯罪に思考を巡らせる。
電脳警察のメインフレームを寸断してやろうか。巨大企業<メガバンク>の不祥事を無差別にニュース・ハイウェイに流してやろうか。それとも――。
そこで、俺の思考に寸隙の空白が生じた。
――俺は、今までどんな犯罪を犯してきた? この「コキュートス」に収監される前には、いったいどこに収監されていた? どこから脱獄してきた?
その思考が何らかのスイッチであったかのように、無制限に拡大していた俺の自意識が急激に空白に蚕食されていく。