同室申請@へしあた
君という愛の姿。
愛情を恐れることはない。審神者に促されるままに、安宅切は手を取る。
愛は人だけのものではない。審神者は老齢であり、多くの子どもたちがいるのだという、
愛は、思考するものたちの、夢である。
「お前は夢を見ているんだね」
それは、喜ばしいことだ、と。
長谷部が歩く。その後ろを、歩く。何となく、三歩後ろを歩けば、長谷部が嫌な顔をするので、もう少しだけ近くを歩く。
桜が咲いている。常春の本丸正面庭。ここでは昼寝をしたい刀が寝ているのだと、長谷部から教わった。
安宅切は冷暗所が苦手である。ただ、それを言うつもりはない。なのに、長谷部はその特性をふまえて、常春の区画に安宅切の部屋を置きたがった。
「ここなら主の執務室も近い」
どうだ、と案内された部屋は、ひとりにはいささか広い。便利そうですね、と答えると、そうだなと頷かれる。
「俺にもお前にも、便利な筈だ」
それはつまり。安宅切はすぐに思いつくものの、やんわりと口にした。
「同室になるおつもりですか?」
「何か不味いのか」
「いえ。ただ、御刀様は独り部屋を好んでいたようなので」
十年程、独り部屋だったのでしょう。そう指摘すると、なんだと軽やかに返ってくる。
「同じ部屋で寝起きしたいと思ったからな」
そんな風に、我儘かつ天真爛漫で、華やかな言葉。安宅切はクスクスと笑って見せた。
「どうやらお待たせしたようで」
「本当にな」
明るい声、柔らかな声。安宅切は、審神者の手のひらを思い出す。
愛は、御刀様の形をしている。
でも、愛を恐れることはない。
「お前なら、いいんだ」
貴方は、愛を語らない。ならば、安宅切は倣う迄だ。
「同室申請を提出しておきますね」
「俺が書く。引っ越しの段取りを組んでくれ」
「承知しました」
愛あれ、幸福あれ。柔らかな常春から、風がふうるりと巻き上がった。