上級天使の言葉に促されるように、偽装天使たちの視線がストレッチャーのヘッドボードにかけられた偽翼に注がれる。
この教団にあって、天使の羽根を模した偽翼は重要な意味を持つ。教団内での位階が高いほど背負う偽翼は大きなものとなる。教団の最高位にある上級天使の背負う偽翼は教団内でもっとも大きく、その補佐を務める教団内第二位の位階にある天導天使の偽翼は教団内でも唯一の白黒(こくびゃく)のもの。
では、この幼い双子の背負う偽翼には、いかなる意味があるのか。
「我らはみな、天使の羽根を背負っている。この罪にまみれた世界から脱し、神のおわす天上の世界を目指すためである。しかし、人の身である我らにとって、天上へ向かう階(きざはし)を登るのは容易なことではない。では、彼らならどうだ。我らと同じ人の身でありながら、二身一体という神の如き容貌を持つ彼らなら?」
壇上に視線が集中する。刃物の切っ先を突きつけられたかのように、右側の少年が身をすくめ、無意識にか左側で眠っている兄の手を握った。
「私は確信し、また断言する。この身を持って生まれた彼らこそ、我ら人の身でありながら実在する神を擁し、罪の穢れなき天上を目指すものたる我らマルクト教団の希望たり得る存在となると!」
大広間(ロッジ)を揺るがす歓声を背に、上級天使は壇上から去る。その後を、ストレッチャーを押して天導天使が続いた。
白いシーツの上に横たわった少年の耳を、熱狂が焼く。
「双子はどうしている」
「疲れたようですね。今はふたりとも病室で眠っています」
「そうか」
上級天使の執務室。
一般の偽装天使はもちろんのこと、高位階の偽装天使たちでさえ立ち入らない――立ち入りたがらない――この場所に唯一日常的に足を踏み入れることができる偽装天使である天導天使が、データパッドを片手に上級天使に答える。
「不満そうだな」
「……」
データバッドの向こうに隠していたはずの視線と態度を読まれ、天導天使は動揺した。その動揺を吐息とともに吐き出し、天導天使は答える。
「私は……賛成しかねます」
「理由は?」
「幼すぎます。精神的負担が大きすぎる。ただでさえあのような状態なのに……」
「だからこそ、だ」