「お酒、一緒に飲まない?」
ぴんぽーん、と気軽なチャイムにドアノブを回せば、地元からおなじみの青年の顔が目に入った。
夏かと思えば秋になって冬になって秋になり、そうしてようやく季節柄らしい穏やかな気候になった。
ジェットコースターのような気候に目をまわし、電話越しや教室での友人たちと励まし合い、時に体調不良者を病院に運び、時にカレンダー上では季節外れのはずの熱中症者に水を浴びせ、時に不摂生にふけっている恋人にげんこつをくらわせる。
そんなあわただしい日々を乗り越えて、ようやくクローゼットの中身を徐々に置き換えられるようになったころ。
家と認識できるようになったアパートの一室。
未だ微妙に積み上がっている段ボールの底から長袖の肌着を引きずり出さんとしているとき、そのチャイムは休日の部屋に鳴り響いた。
「酒って…」
「お酒は買ってきたよ、ほら。」
そう言いながら手元のビニール袋をがさりと鳴らす。
浮かべられた柔和な笑みはどこかうきうきとしていて、それなのになぜだろう、張り付いたという感想がぬぐえない。
ビニール袋には、外から見てもざっと三本は包装紙が見え隠れしており、そのどれもが近所のスーパーでは到底買えないだろうことを察せられるような質感をしていた。
ジトリと相手をねめつける。
しかし医学部生の意地といったところか、もしくは今務めている場所がよほどの人外魔境なのか、彼はそんなジト目はへでもないという風に笑いながら言った。
「とりあえず、上げてくれない?」
そう言いながら少しだけこちらを見あげる。
その鼻が少しだけ赤くなっているのをみて、心の中で白旗を上げるように、そっとため息をついた。
「夕方からお酒って、いいのかな。」
「いいんじゃない?あ、もしかして今日休みじゃないとか?」
「ん、いや、休みだよ。何なら明日も休み。」
「そうなの?珍しいね。」
「そんなに珍しいかな…。」
そう言いながらほほをかく。
否定しきれないのは、心当たりがあるからだ。
湊は基本的に、開いている日にはバイトを突っ込んでいる。
十二分に稼ぎはあるとはいえども、大学生活。しかも上京となると、お金はいくらあっても困るものではない。
というのは建前で、本当はこっそりやりたいことがあるからなのだが、それは今は蛇足となるだろうので明言はやめておく。
ともかく、こと、こと、と机に皿を並べながら、何やらごそごそと取り出している幼馴染兼…の顔をみた。
「、♪~~~…♪」
どことなく聞き覚えのあるメロディを口ずさみながら取り出すのは、想像した通り高級そうな瓶と、それからからころと安っぽい音を出す缶。
そして、底から取り出したのは―――
「…クッキー?」
「うん、ちょっと試してみたくなって。」
「え、何を…?」
ひょっとして実験用のカエルにでもさせられるのかしら、と思わず自分を抱きしめた。
「うん、学部の先輩に聞いたんだけど、結構合うらしいんだよね。せっかくだし、ちょっと試してみたいなあって。」
そう言いながら、静弥はフルボディの瓶をこん、と机に置く。
どう見ても相当に高い。
記憶の隅をあさって見ても、スーパーにこんなものが並べられたところを見たことがない。
心なしか”圧”さえ感じるその風格の隣には、スーパーで見慣れたある種チープな、もしくは安心感のあるパッケージと、記憶の中のそれより少しだけ小さく、そしてどこか高級志向なパッケージがされた箱がとん、とんと並べられた。
机の中心にあるガラス皿には、いつの間にかころんころんと一口サイズのかわいらしいチョコレートが盛られている。
いつも使っているはずの食器がどこかみなれないものに見えて、どうしようもなくちょっと居心地が悪い。
見知らぬ酒、見知った全て。
そして笑顔を浮かべている、張り付けている幼馴染。
何かが変だな、企んでいるんだろうなあ、と思いながらも、とりあえず考えるのは、この酒100均のコップに注いでいいのかしらということだけだった。
この幼馴染が本気で隠そうとしたなら突破は難しい、正攻法では。
そういうわけで、休日の夕暮れからは少し早い時間帯。
ここで、突如酒盛りが開催されたのだった。
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湊静 酒 ほのぼの
初公開日: 2023年10月24日
最終更新日: 2023年10月24日
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コメント
秋、ほのぼの。年齢操作(大学一年生程度)があります。
ちょっとだけスケベがありますがまあ何とかなるやろのテンションでお送りします。
今このキャプションを書いているときはどれくらいのスケベになるかわからないので憶測でしかものを言えません、ご了承ください。