外は、雨が降っていた。
結論から言うと、今日の部活は中止になった。
弓道は半屋内、半屋外競技だ。
完全室内ならまだしも、こうして雨が降ってしまえば、よほどのことがない限りは中止になるのがこのスポーツである。
そんな中、未だ名残惜しいと言わんばかりに、道場内に残る人物が一人。
「なんだ、まだ帰ってなかったのか。」
「マサさん。」
呼びかけられて、その人物は振り返る。
未だあどけない若葉のような風貌をしていながらも、どこか現世とは隔絶されたような、そうでもないような、そんな少年の顔。
いつも穏やかで快活な笑みを浮かべている青年の弟子であり、この弓道部所属の落であり、そして超弓大好きで常に弓を愛し弓に愛されるサンシャインボーイである彼は、常ならばこのような憂き目にあって正気でいられるような存在ではない。
ない、が、それはそれとして、今日は別の意図があってここに残っていたのだった。
「うん、一緒に帰ろうと思って。」
ぴた、と手が止まって、まるで氷の彫像のようになるのを見て、鳴宮湊は苦笑した。
鳴宮湊は自転車通学である。就学と修行の傍ら家事もこなす彼の相棒は常に自分の思いに応えてくれる頼もしい存在ではあるが、その効力は雨の日には半減すると言わざるを得ない。
細やかなものならば溢れる青春パワーと|肉体的なポテンシャルに無理を言わせて突っ切ることも考えられるが、今日の雨はあいにくそれに値しない土砂降りである。
シャッターを閉めるほどの大豪雨ではなかったことは不幸中の幸いだろうがそれ以外は不幸でしかない。
それでもしかし、こうして眺めることに無意味とは思わなかった。
だってこの人に会えたのだから。
「ほら、濡れるわけにはいかないし。風邪ひいたら大変だし…その、迷惑、だった?」
「いや、迷惑なわけあるか。ただ、その。」
らしくもなく、ただ口ごもる彼の姿からは、普段の明朗快活さはどこにも見えない。
それは、あの森の弓道場の夜のような。
あやふやで、穏やかで、揺れ動く、そんな等身大の青年らしい(というべきか?)まなざしに、思わず少しだけ口角がゆがむ。
この人の、こんな姿を知っているのは自分だけ。
そんなゆがんだ独占欲に恥ずかしさを覚えるが、まあ、それはさておき。
「…」
「…?マサさん、どうしたの?」