「―――まあ、正直それも考えたんだけどね。どっかの赤じゃないが、それこそ君みたいなのをあと11人ほど集めて世界を滅ぼす――もしくは人口を半分に減らす?―――のもいいけど、まあ「いいかな」って。
世界が全くよくなる可能性が亡くなるのならそれもいいかなって思ったんだけど。でも、人間って生きている限りはどうあがいたって可能性の塊だから。」
「―――つまり、あなたが世界を滅ぼす可能性は0と?」
「そういうことになるね。まあ、虐殺程度なら考えなくもないけど、君にとっては対岸の火事どまりだと思うよ。それに正直、人を殺して晴らせるうっ憤はないんだ。」
「はぁ。」
「人を殺さない程度に殴って晴らせるうっ憤なら、たくさんあるんだけどね。」
「…」
そう言いながら、少女は紅茶を手に取った。
もうすでに冷え切っている時間帯なのに、カップからは依然湯気が出ている。
隣で白兎があくびをした。
すする音。
「まあ、なんだ。とにかく健康そうでよかったよ。だってこれで君が臥せってたら責任を感じてたからね。」
「そうだったんですか。あなたに責任を感じる機能があっただなんて思ってもみませんでした。」
「失礼すぎない?まあいいけど。正直、もしそうなってたら君の頭を一回ぶっ壊さなきゃなあって思ってたんだ。ホラ、記憶をぶっ飛ばさないといけないだろ?」
「…」
正直に言うと、今こうして目の前にあなたが座っているだけで恐怖でしかないので帰ってください。
そう言いたかったが、それを口に出せば頭で済む確証がないので、彼は自然とベッド上で押し黙っていた。
彼にとって、少女は災害と同じものだ。息をつめて対策をして安全な場所で黙っていれば、とりあえず今は無事な物。
|違うところ《幸いなこと》としては、彼女が通り過ぎたとしても|復興の心配はしなくていいということだけだ。
「それじゃあ、私はこれで。今日はここらへんで帰るけど、当然、何かあったらいつでも呼び出してくれていいからね。」
「いや、呼び出すことなんてないですから。それでは、また。ほら早く扉くぐって、閉められないじゃないですか。」
「失礼すぎない?まあいいか。じゃあ、またね。」
そう言いながら少女は、足元に置いてあった自分のカバンを持ち、彼に背中を向ける。
そのまま扉をくぐろうとして、「あ、そうだ」と言いながら振り向いた。
「いらない心配だとは思うけど、アイツのこと見ていてくれない?一応最低限の、それこそ駄賃程度でしかないとはいえ、アイツお前が傷負ったって時点で病みそうだからさ。」
「うん、わかりました。」
「…本当かなぁ、わかってる?病むっていうのは目には見えないし、見えてもわかりにくいし、わかっても対処しにくいものなんだよ?」
「わかってます、わかってます。大丈夫です、おれだって懲りました。おれだってあの人のことが大事なんです、もう目を離したりなんてしません。」
「ええ…本当かなぁ…正直君の言葉を信じるより、そこら辺の犬にわかった?って聞いてわん!って言われる方がよっぽど信憑性があるんだけど。」
「わんこ以下…???」
少女は、深く深く地獄の底からのような音で息をついた。
「まぁ、良いか。とにかく、そいつ関連でも何か困ったことがあったら呼んで頂戴。手遅れになってから呼ばれるよりずっといいから、ホントなんか些細な違和感あったら読んでね、マジで。マジで。マジで。」
「三回も念押しを…?」
「|人命救助に困るのはね、いろいろと注文を付けられることよりも迷惑かもしれないって症状を黙られることなんだよ。だから、いいっこなし、言わないはもっとなし。いいね?」
「はい…。」
妙に圧のかかった最後の三文字を目線をそらしながら応え終わると、「じゃあ、最後まで責任とって、アイツのことを見ていてくれよね。」と言って、少女は部屋を後にした。
「あ、言っておくけど、俺をこの後の話し合いから省くのはナシだからね。」という言葉を置き土産にして。
後に残るのは、がらんとしたほのかに薄暗い病室。
見たことのない材質と色合いの、少しうすぐらい部屋の中で、■■■は目を凝らす。
落としたのは、自身の右手。
薄く包帯の巻かれたそれをしかめっ面で見ながら、彼は先ほどの地獄の底よりは少し浅く、それでも深々とため息をついた。
「…これ、どうやって切り出そう…。」
サイドテーブルには何もなく。折り畳み椅子は、ただ折りたたまれた形のままで。
その言葉には、ナースステーション(?)からかすかに漏れる、暖かな光が答えるのみだった。
なお、知ってたというか様式美というか予定調和というか、切り出し方を|盛大に間違っ《寄りにもよってな言い方をし》てなおひどいことになったのは、言うまでもないことである。