間違ってハッカ飴を口にしてしまった。
お茶請けから適当に手に取り、確認もせず放り込んだのがいけなかった。
独特の、すぅっとした清涼感が口の中に瞬く間に広がって、ようやく自分のやらかしを自覚したのである。
反射的に顔をしかめそうになり、そこで初めて、意外とその風味に抵抗感がないことに気付いた。
……あれだけ苦手だったのに。
きっかけは幼少の頃、病院でもらったか、お婆ちゃんにもらったんだったか。飴と聞いて喜び勇んで口にしたのを覚えている。小学校にも入っていない子供にとって、その風味はとかく刺激が強過ぎた。
以来ずっと苦手意識を持っていたものだから、当然積極的に手を伸ばすことはない。
それが積み重なって十年ほど。いつの間にか、それほど苦手ではなくなっていたらしい。
「どうしました?」
ふとした拍子からそんな思い出に浸っていたら、横から侑が顔を覗き込んでくる。
文化祭が終わったというのもあって、生徒会でやることは一段落し落ち着いている。沙弥香はお花、他の一年役員もきっとのんびりこっちに向かってるんだろう。実際私たちも特にすることなくお茶をしていた。
「ううん、間違ってハッカ飴口にしちゃって」
「苦手なんです?」
「そうだったんだけど、久し振りに食べたら意外とイケるんだなって」
むしろこの清涼感はちょっとクセになりそう。頭まですぅっと冷やしてくれるみたい。ひょっとしたらカフェインばかりに頼らずに済むようになる、かも?
「えー」
私の感想を聞いた侑は、しかし不満そうな声を上げる。
おや、ひょっとして?
「侑、苦手なの?」
ちょっとばかり悪戯心が擽られてからかってみると、すぐに気付いたのか侑はむっと唇を尖らせた。
「別に、苦手ってほどじゃ……」
「それじゃあ、はい」
言質を取ったのでお茶請けの中からハッカ飴を探して渡す。
侑は渋々受け取ったあと、躊躇いを見せながらやがて口の中に入れた。
――途端にしかめっ面になる侑。
「七海先輩……」
「あはは」
別に騙してなんかないのに、「騙したな」とでも言うような目をされて思わず笑いが零れる。
屈託のない笑顔。あれこれ考えたり、あとで思い悩むことのない笑顔。
それがどれだけ久し振りだろう。
全部、侑のおかげだ。
「ほーら、侑」
「いらないですよ、もう」
私がもう一個ハッカ飴を差し向けると、侑はすっかり拗ねてしまった。そんな彼女の変わらない距離感に、私は「えー」とまた笑った。