「あー、これも値上がりしてるー……」
いつものよう家に寄る前に、ハルと一緒に買い物をしていると、ぼそっと彼女が溜め息を吐くのが聞こえた。
「なにが?」
「え? あー、これ」
そう言って指差したのは丸々とした白菜だ。
値札を見てみる。が、よくよく考えると私は生鮮食品とかを買うことなんて滅多にない。大体お金を使うのは美容品と本、それからECHOに行く時くらい。
それと、ハルにご飯を作ってもらう時の割り勘か。けど品目毎に細々と見ることもしないし、なんなら覚える気もない。
「そんなに違う?」
「全然違うよ。先月の倍以上」
「えっ」
改めて値札を見返す。一玉百五十円。疎い私はそんなもんかなと思ってたけど……。
「そんな急に上がるものなの」
「上がる時はね。ていうか沙弥香先輩の方が詳しそうだけど」
「知識としてはいくらか知ってたけど、実感を伴ったのは今が初めてよ」
ニュースや新聞で「あれこれが値上がり」というのは見はする。ただ私は――幸いにも――興味を持つほど家計が逼迫していたわけじゃないから、どこか他人事だったのだろう。
「あー」
そして案の定、ハルも納得の声を上げる。どうも最近、小糸さんと仲よくなっていらぬことを吹き込まれてるらしい。
しかし今回ばかりは否定できないものだから、私は話をすり替えることにした。
「にしてもハルがそういうの頭に入ってるのが意外だわ」
「そりゃあ一人暮らししたらそういうの気にしないと。ただでさえ使えるお金多くはないんだし」
そんなものなんだろうか。そう言えば「そろそろバイト始めよっかなぁ」なんてぼやいてたっけ。
「どっかいいバイト先知りません?」
なんて考えてたら早速その話を振ってきた。
けどちょっと待って欲しい。聞く相手間違えてない?
「なんで私に聞くの」
「いやぁだって沙弥香先輩だし」
全然説明になってないんだけど。
「私バイトしてないから知ってるわけないじゃない」
「そうかなぁ」
そうよ、と返そうとして、ふと思い出す。
「バイト募集中」の張り紙を張ってある、行き着けの喫茶店を。
なんなら確か小糸さんが「怜ちゃんが家を出たから手伝い増えて大変」なんて愚痴ってたような。あそこはバイト募集してるか知らないけど。
「……」
逡巡。
いやでもどちらも日常的に利用してる身からしたら、ハルがバイトなんて始めたら行きにくくなりそうだ。
働いてる姿を見たくないかと言えば見たいけども。
落ち着いた空間が好きなのに、ハルがいたら落ち着けなくなってしまう。なにより都さんもしくは小糸さんから、からかわれるのは目に見えていた。
……うん。やっぱりナシで。
「うわーこれも値上げ?」
すっかり興味が移って悲鳴を上げるハルに、私は苦笑しつつも彼女の隣に並んで覗き込むのだった。