私がそのSNSサービスを利用し始めたのは高校一年生のときだった。クラスの子から教えてもらい、彼女たちに言われるがままアカウントを作った。後日「アカウント教えてよ」と言われたが、とっさに「まだなんだ」と嘘をついた。
調べているうちに気づいたのだ。〝ここ〟ではみんな自由だ。自分の才能を発揮する人、それを見ているだけの人、人前では憚られるようなことを言う人——まさに何でもありの世界だ。そんな自由な世界で縛られるのなんて馬鹿馬鹿しい。何度かクラスの子と「アカウントは?」「まだ」というやり取りをして、ある日を境についに彼女から追及されることはなくなった。
私の投稿は半ば日記のようなものだった。取り止めのない考えや、腹が立ったこと、悲しかったこと。それらを投稿すると心がすかっとした。まだ新しい環境に馴染めず、元々友人の少なかった私にとっていいガス抜きだった。
あるとき、私が昨日読み終わった本の感想を投稿しようとアプリを開くと、そこは一面大火事だった。まとめサイトのリンクを踏むと、あるオンライン作家が盗作したことが書いてあった。その作家はほとんど無名ではあったが、盗作した作品が来年映画化もされる超ヒット作だったこともあり、すぐに発覚したのだという。
「これ……私が昨日読んだ本だ」
それまでどこか他人事だったが、自分が夢中で読んだ本が盗作されていると知って一気に腹が立った。どうして人の作品を盗むようなことができるんだろう。そんな思いでその日はスマートフォンを握りしめたまま眠りについた。
次の日、通知音で目が覚めた。ひっきりなしに鳴っているので無視もできず、とにかく設定をいじろうとスマートフォンを見た。
「何これ……」
画面を見た瞬間、寝ぼけていた頭が一瞬にして冴え渡った。それまで誰とも繋がっていなかったはずのインターネットの孤島とも言うべき自分のアカウントに一晩で何百、何千もの反応があった。
どうして私のアカウントが? 私が投稿しているのなんてただのつまらない独り言なのに。その答えはすぐにわかった。
「私が盗作……? 裏アカ?」
昨日、インターネット上を騒がせていた盗作作家の裏アカウントが私のアカウントだと指摘した人がいたらしい。どういった手品なのか、とにかくまことしやかにその噂は広がり、私一人ではとても収集がつかなくなっていた。
「とにかくアカウントは非公開にして、しばらく見ないようにしよう……どうせ皆すぐ飽きるよね」
言い聞かせるように言って、私はそれまで一日たりとも欠かさず見ていたSNSを見ないようにした。
だが、その誓いは三日も経たずに破られた。学校で授業を受けていても、家に帰ってベッドに横になっているときも、ずっとそのことが頭から離れなかった。やはりすっきりするためには「なぜ自分が盗作作家だと間違われているのか」をしっかり検証する必要がある。
震える手でスマートフォンを持ちながら、ログイン画面を見つめた。ずっとログインしているので、この画面を見るのはアカウントを登録した日ぶりだ。アカウント名をタップすると、端末に記録された情報が表示された。私のアカウントと——その下に見慣れないアカウントがあることに気づく。
「え? これ、私のアカウントじゃないよね? バグ?」
自分で言っていてそれはない気がした。とにかく、ここで立ち止まってはいられない。今日で全てすっきりさせて、また自由に投稿するんだ。そう自分を奮い立たせて、もう一つのアカウントでログインした。
「え…………?」
パスワードが認証され、トップページが開いた瞬間、私は目を疑った。そのアカウントは数日前に嫌というほど見た盗作作家のアカウントだった。最終投稿日は三日前になっていて、文字数制限ぎりぎりの長文で「実はこの作品は友人と二人で作っていて、アイデアを出したのは全部友人です」といったことが書いてあった。当然、その言い分を素直に聞いてくれる人はいなかった。返信欄には怒りのコメントで溢れている。私もこんな状況でなければ作家に対して怒ってやりたいくらいだ。
手がかりを探すために他の投稿を遡って読むことにした。投稿自体はそこまで多いわけではなく、大体が自分が書いている小説に関することだったが、
《あの子が起きてると執筆できない。早く寝てよ》
といったわからない投稿がちらほらと見られた。〝あの子〟とは誰なんだろう。誰かと一緒に住んでいるんだろうか。とにかく〝あの子〟は相当疎まれているらしい。こういった恨み節の投稿は日を追うごとに増していっている。
ひとまず投稿を追うのをやめて、自分のアカウントでログインし直すことにした。私と彼女は違うのだと、自分の投稿を見て安心したかった。
見慣れたトップページ。そこには新しい投稿がされていた。
《後のことはよろしくね、私》