『楽誕生日』『グレー(灰)』『手料理』
キラキラと薄暗い部屋の中で、輝くグレースピネルの光。それは彼の銀糸と同じく、光の加減で色を変えていく。
縁取る長い睫が何度も揺らめき、再び上下に存在を主張すれば、その視線に射抜かれた。
「なんだよ。そんなにいい男か?」
こくり。
ゆるりと微笑み優しい声音で尋ねる彼は、きっと冗談で口にした言葉。けれど、私はそれを事実だと思っているから素直に肯定する。
可笑しそうに笑う彼は、わしわしと私の頭を乱暴に撫でた。
「お前は、俺に対して甘いな」
その美しい顔をくしゃりとゆがめ、心底愉しそうに笑うガクの笑顔が好きだった。
普段の彼の美しい相貌や、その凛とした姿は凄艶。歴史ある吸血鬼の一族である畏怖を感じさせる。
そんな高潔で優雅な姿が、私に対して愛おしいと親しみを感じるような雰囲気に変わる瞬間が一等好きだった。
「そんなことは無い。単なる事実だ」
「テンなら、盛大に顔を顰めて鼻で笑いそうだが」
淡々と答える私をカラカラと笑い、その手がそっと乱れた髪を整える。
「テンも、ガクの美しさは認めている」
ガクとテンの仲を思えば、そんなやり取りをしたことがあるのかも知れない。でも、テンもガクの姿について否定したことは無かったはずだ。
「……口を開かなければ威厳と美貌は崩れないのに。とは、よく言っていたが」
少し考えてテンの口調を思い出せば、ほらな。と鼻先を弾かれる。
むっとすれば、その大きな手にむにと両頬を挟まれた。
「うちのお姫様は……いや、この場合は王子様か?ま、どっちでもいいか。うちのリュウは俺の外見をやけに褒めてくれるよな」
うりうりとそのまま頬を撫でまわされながら、私はやはり淡々と事実を告げる。
「好きだからな」
すると、がばりと手を広げたガクにひょいと抱きかかえられた。
視線が合い、美しいグレースピネルの瞳が間近に迫る。
「ああ、リュウ。あいしてるぜ」
ぱちり
「お、魔王サマ。お目覚めか?」
暗転、目の前には白雪のような肌を晒した愛しの吸血鬼がいた。
夢と現の境があいまいになり、私は何度も瞬く。
「怖い……夢だったのか?」
瞬きと共にはらはらと零れ落ちた雫を掬い、心配そうに頬に触れた手がひやりと心地いい。
「いや……。とても、優しくてあたたかな夢だった」
その手に己のそれを重ね、頬ずりするように押し付ける。
ボーンボーン
古城の尖塔にある鐘が、日付の変更を告げる。
鳴り終わる頃には、私の愛惜の涙はいつの間にか途切れていた。
夢の中の彼を輪廻へと返した日。それは目の前の彼と出会った日でもあった。
「HappyBirthday。生まれてきてくれて、私と出会ってくれてありがとう」