『交換ノート』『グリーン(緑)』『「かわいい」』
目のまえに置かれたのは決済の書類ではない類の紙の束。
珍しいものが入ったと持ってきたのは、朗らかに微笑んだベスティアの王だった。
その日彼はバースト・ロアーのリーダーとして、商談をしにラーマを訪れたのだ。
星々の珍しい特産品を抱え、定期巡回をする。
星間の交流が復活し、治安維持と情報交換の為に一役買っているのが彼、ファングだった。
そんな彼が私へ紹介したのは『ノート』という新作の商品。
一見本のようだが、表紙に飾り気も無く中身は真っ白。知識や物語名を綴ったものではない。
彼曰く、自らそれらを綴るための記録用紙だと思ってくれていいよ。だそうだ。
それと共に提示されたのは、使用感を確かめて欲しいという依頼。そうして、ちょっとした彼の遊びに付き合って欲しいという提案。
何だ?と聞く姿勢をみせれば、ファングは嬉しそうに微笑んだ。
たったこれだけの事で喜んでもらえるのは少し気恥ずかしい。普段世話になっているから、これぐらいは応えてやりたいと思うのだ。
「それで、私は何をすればいいんだ?」
「話が早い。俺と交換ノートをして欲しいんだ」
「交換ノート……?」
この『ノート』という物はベスティアから開発され、既に国内では流通しているらしい。
商売人が多く識字率の高いベスティアでは、主に子供たちが勉学に使用しているそうだ。
その中で、少女たちが今日あった出来事を綴り友人間でノートを回していく遊びが『交換ノート』と言うらしい。
「女児の真似事を……貴殿と……?」
「ははは。俺と書簡のような公的なものではなく、私的な……手紙のやり取りのようなものをして欲しいんだ」
柔らかく笑うファングに、私はちらとノートに視線を向ける。
「ならば手紙でいいのではないか?」
「俺が、オライオン王に会いたいんだ」
ぱらぱらと紙の束をめくっていた手が止まった。
「このページがいっぱいになった時、オライオン王の元を訪れるよ」
とん。と紙を指先で叩く彼の瞳は穏やかで、私の鼓動だけが早鐘を打つ。
(……何を考えているのか……)
私を好ましいと思ってくれている。そう感じてはいる。
それが自惚れではないとも。
それでも、友愛であるのか、それ以上なのか。商人らしい人好きのする笑みを浮かべたファングからは読み取れない。
「貴殿が、そう……望むのであれば」
「ああ、ありがとう。楽しみだな」
普段以上に上機嫌な姿に、私も少しだけ気分が高揚する。
ああ、本当に。まるで少女のような心持になってしまった。
染まりそうになる頬を隠すように、顔を手で覆いこれ見よがしにため息を吐く。
「迷惑だったかな?」
「そんなことは言っていない」
わざとらしかっただろうか。こんな気持ちになるのは初めてで、自分を律することができない。
それすらも見通すように、むしろそんな私の事は歯牙にもかけず、良かった。とほほ笑むファングはいつも通りだった。
「また、会いに来るよ。」
今度は今まで以上に。
そんな言葉一つに心が揺れる。
「ああ、私も楽しみにしている」
少しぶっきらぼうになってしまったが、かろうじてそう答えれば満面の笑みが返された。