これまで聞いてきたどんな言葉とも違う、不思議な声。
やがて、暗くて細長い通路の向こうに「それ」は見えてきた。
ここに入ってきてから……ううん、エレベーターの中にいるときから聞こえていた歌声は、床や天井を這う血管みたいなコードやケーブルに繋がれた「それ」から聞こえてきていると、ぼくは直感的に思った。
「これが、我々マルクト教団の擁する、実在の神――創造維持神だ」
「それ」の姿かたちは、何枚もの透明なガラスの箱に閉じ込められていてぼんやりとしか見えない。どくん、どくんと脈打つ「それ」を見ているうちに、ぼくの両手は自然とお祈りの形に組み合わさっていた。
「1号さま、さっきから聞こえる声……」
「誰にでも聞こえるわけではない。お前は、マルクトの天使たちの中でも特別に強い力を持っているのだ。神の声を聞くための」
「神さまの、声……」
1号さまも、ぼくの乗ったストレッチャーの後ろから「それ」……創造維持神に視線を向けている。
「1号さまにも、この声が聞こえるのですか?」
「お前ほどではないがね。だが、我々は未だ、この神の言葉を解明するに至ってはいない。神と言葉を交わすことはできていないのだ」
「……」
神と言葉を交わす。
それができれば、弟を返してと願うこともできるんだろうか。