「そもそも何故、五大戦士の存在が必要になったのかを話さなきゃいけないわ。ミズキやリッキー君達は心を痛めると思うけど、我慢してちょうだい」
席を立ったリンカはこう言うと、ミズキとシャークズの表情は固くなった。その雰囲気に感化されてか、マルー達の表情が引き締まってゆく。
「カゲルは長い間、影の魔力を用いて国や人を滅ぼして回っていたの。影の魔力の概要が分かるまでどうしようもなかったから、ただ蹂躙される日々を過ごしていたわ……本当、長い間ね……」
静かになってゆくリンカは思考を巡らせているようだ。哀悼するような面持ちからしばらくして、彼女は自ら「けどね」と言って顔を上げた。
「カゲルを知る人物から協力を得て、影の魔力に対抗・封印する術を得たの。その実行者達が最初の五大戦士。私とミズキはその次で、今はあなた達に託されているというわけ」
「それが本当なら、あたし達はカゲルに対抗できる力を持ってることになりませんか?」
「私達ってまだまだなのに、本当にそんな力を持ってるのかな?」
リンカの話を聴いて生まれた疑問に対し横から、悲観的になる必要はない、と声が上がった。
「ミズキさん……」
「選ばれた者は皆、守護生物が素質を見出した上で証を託されている。君達もそのはずだ」
「確かに……私はフェニックスに、リンゴはキャニスに、ボールは青龍に見守られて、この証をもらったんでした」
マルーは左手首のブレスレットを見やる。
「それと、力を覆し、封印を成し遂げるには、戦士全員の力を合わせることが必要不可欠だ。個々に力があったところで、気持ちが一つでなくては対抗すら難しい」
「ええ、全くその通り――」
ミズキが話す内容に対し、リンカは苦笑を浮かべながら応えた。
「にしても、倒すまではいかないんだな」
「だから、七つの道具を集めなきゃなんだねー」
「その通り。君達はその過程で力をつければ良い。その為に私やラビュラが居るんだ」
「私も、ナチランの姫として、そして先代戦士として、あなた達の力になるわ。遠慮なく頼って頂戴」
ミズキとリンカの、マルー達に向ける眼差しは力強さがあるものの、彼女達にとっては、投げかけられた言葉のおかげで心地良さを感じていた。
「なあなあ! 俺達にも、力と勇気が湧いてきそうなありがたーいお言葉をいただけませんかね?」
「そんなものが無くても、君は君の力で何とか出来てしまうだろう?」
「本当よっ、少しは自重しなさいっ! 申し訳ございませんリンカ様。うちのリーダーが失礼を――」
「構いませんわ。あなた方がミズキの助けになっていることは知ってますし」
そう言いながら席に戻ってゆくリンカに向けて、ランシーは頭をへこへこさせて謝り通している。一方、彼女の横にいるリッキーは悪びれもせず、不思議そうに彼女を見るだけだ。
こんな有様に呆れ果てたのか、後方で一人の少女が丁寧に「あの」と呼びかけた。
「いい加減向かいませんか? この時間も、妖精は危険な目に遭っているかもしれません」
「それもそうだな。リンカ、サイクロンズへ話は充分に出来たか?」
「ええ、理解してくれたみたいだし――引き止めてしまって悪かったわね。森の事、妖精達の事、よろしくお願い致しますわ」
「ご安心下さい。必ず、いい報告をお持ち帰り致します」
リンカの頼みに対しこう言ったアスカは、深々とお辞儀をした後、一行に背を向けて謁見の間を出ていった。
「何よ、かっこつけちゃって。あたし達も行きましょ! 負けてられないわ!」
「リンカさん! 貴重なお話ありがとうございました! 私達も行ってきます!」
リンゴとマルーも、アスカを追うべくその場を後にする――呆気にとられた様子のボールとリュウを残して。
「二人共! アスカちゃんが出て行ったっすよ! 追いかけるっす!」
「えっ、もうあの子行っちゃったの!?」
一方、アスカに置いていかれた残り三人も、ブラスの声掛けによって出発しようとしていた。
「おっと、アスカが行ったなら俺達も――」
「リーダー? まずはリンカ様に非礼を詫びなさいっ!」
「え、俺何か悪い事した?」
「してるわよっ! 大変申し訳ありませんリンカ様! うちのリーダーが非礼を――」
「はいはい分かりましたから。どうぞ行ってきて、私のお願いを叶えて頂戴」
「ありがとうございますっ! さあ二人共! ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと解決よーっ!」
と、ランシーは挨拶もままならぬうちに二人を従えて飛び出してしまった。
「こんな急に慌ただしくなることあるか?」
「……森や妖精の為には、そろそろ慌てたほうが良いと思うー」
「リュウの言う通りだ。君達は彼らを追って、森の前で私の到着を待つように伝えてくれ。まだリンカと話をしたいからな」
「分かりましたー。行こう、ボール」
「ああ。では、俺達もこれで失礼します」
そうしてボールとリュウもこの場を去ってゆく。
彼らが出ていってしばらく経つと、大きな溜息が謁見の間を満たした。その人は玉座に深く腰掛けては大きく股を開き、肘掛けに片肘をついている。
「だらしないぞ、リンカ」
「そんなの分かってるわよ。こういう気を緩める時間が無いと、一国の姫は務まらないの! それに、選ばれた子達がこの世界自体初めてだって聞いたから、誇示というのを魅せなきゃいけなかったし」
でね? と姿勢そのままに顔をミズキに向けたリンカは、戦士の役割を諭す前と同様のしかめ面で話を続けてゆく。
「あの子達が世間知らずなのは仕方ないけど、もう片方の人達? シャイニングシャークズって名乗って、さもはじめましてのように振る舞ってたけど――相っ変わらずあのリーダーは好かないわ! 悪目立ちが過ぎるのよ!」
「それは、私からも謝らせてくれ。良くも悪くも斜に構えがちなんだ」
「あの態度で良く作用する事象があるの? 理解に苦しむわ」
ぷい、とミズキから顔をそむけるリンカ。だが、やがて始めに言われた指摘が気になったのか、彼女は脚を閉じ、ついていた片肘を両肘に変えて、眠る仕草をとった。
「話をして良いか?」
「駄目。まず先に、何故あのリーダーが率いるチームを寄越したのか説明してからよ」
「彼らの実力と振る舞いが、サイクロンズに良い影響を与えると考えたからだ」
「あんな身勝手さを真似したら、あの子達の苦労が耐えなくなるわ?」
「それを矯正する為に私が付いている。君が懸念する結末には決してさせない」
「ふーん」
そう呟いたリンカは、肘掛けの上に腕を組んでは顔を乗せ、ミズキを見つめた。
「相当入れ込んでるのね、シャイニングシャークズに」
「長い付き合いだからな。私にとっては信頼に値するんだ」
「信頼かぁ……なんだか妬けちゃうわ」
「まあ、君は昔から私を頼りがちだ。妬けるのも無理ないだろうな」
「えっ?」
と顔を上げたリンカは面食らった表情だ。そんな反応を見てか、ミズキはふっと笑った。
「さて、本題だが一つだけ質問に答えてくれ」
「何よ今の! いつそんな、美男子みたいな台詞を覚えたの!」
「君が寄贈してくれた武器は、君の手に無くても“あの効力”を持っているのだろうか?」
「私が寄贈した武器!? は、この国近辺の素材だし、直属の職人に作ってもらってるから、誰が持っても効力があるはず――」
「ならいい。では私も失礼する」
「わ! ミズキ待ちなさい! そんな去り方で私をときめかせてどうするつもり!?」
まるで見当違いな見解をリンカに叫ばれながらも、ようやくミズキが謁見の間を退出した。こうして一行全員の行く先が、やっと妖精の森に統一されたのだった。