「多分、妖精さんが困ってるんだ」
 そう呟くリュウは、森の中でまたも一人きり。辺りを見回しては先へ進み、また辺りを見回して先へを繰り返していると。
「助けて下さいー! 誰かー!」
「? さっきよりもはっきり聞こえてくるけどー……あ」
 声がすると思われた方に目を凝らしたリュウは、枝葉の隙間から僅かな煌めきを見る。見上げた位置にあるその正体は、木を登らないと判明しそうにない。どうやって助けようか考えあぐねていた時だった。
「あの、旅の方! もし私の声がきこえてましたら、ちょっと、この木をゆらしてもらえますか!」
 リュウの頭上で聞こえたのは幼い少女の声だ。その行方を探すべく見回してみるも、それらしい姿は無い。
「……この木を揺らせば良いのかなー」
 言われた内容に従うことにした彼は、注視していた木へ近寄ると、おもむろに両手で幹を掴み、前後に揺らした。
「あ、そっちではなくて! ちがう方向が良いです!」
「違う方向? じゃあ……」
 とリュウは木を軸にして時計回り。四分の一回転した後にもう一度幹を揺らせば、枝葉が大きく上下に動く。
「その調子で、ゆらしてもらえば、つっかえたおしりが、ぬけ――」
 一段と大きく枝葉が騒ぐと煌めきが正体を現した。くるりと後転したそれは小さな羽を広げて体勢を整えている。クリーム色の髪上部を両側に一つずつ束ねている姿は、花周辺で出会った妖精とは違うことが分かる。
「大丈夫ー? ケガはなかったー?」
「はい! とくにケガなく――!?」
 振り返った妖精はリュウを見るや否や、黄に近い緑色の瞳をかっと開いては口を両手で覆う。その場に浮いたまま動かない妖精を、じっと動かず眺める彼。揺らした枝葉が静まった頃には、妖精の羽音と、それによって舞う鱗粉の音が、琴線を撫でるようにその場を包んでいた。
「ラト姉だめーーーーーー!」
「えっ、レト!?」
 とうっ! という掛け声と共にリュウの後頭部がまたも“かつん”と鳴り響く。
「ど、どうしてかかと落としなんてこと――」
「ラト姉だいじょうぶっ!? ヘンなことされてない!?」
「ううー……」
 リュウは、別の妖精に攻撃された時と全く同じ箇所を擦りながら頭を上げる。見上げた先には妖精が二人。髪を一つに高くまとめている“レト”と呼ばれた者が、つい先ほど助けた“ラト姉”の身体をあちこち見回している。
「私はあの人に変なことなんてされてません! あの人は私を助けてくれたの。なのにどうして、かかと落としなんてしたの?」
「だってラト姉! こいつはわたし達の住みかを観察してたんだよ!? それに今だって! ラト姉の危険をかぎつけて真っ先にやって来たじゃない! それに……」
 と、まくし立てていたレトの勢いが、動きと共に治まってゆく。
「みんな、誰かに助けられたって言ってから、どっかに行っちゃってるんだよ?」
「でも、このリュウさんはちがうわ。 言葉にウソはないし、闇がない。本当の救世主よ」
「きゅうせいしゅーぅ?」
「救世主なんてそんな、大したことしてな――」
「わたしはそんなの信じない! 救世主だったら、こんなことになる前にみんな助かってるもん!」
「こらレト! どこ行くの!」
 ラトの呼び掛けもむなしく、レトはあっという間に行方を眩ませた。飛んで行った先を見つめるラトは肩を落としたまま滞空している。
「追いかけなくていいのー?」
「湖を見ながらふてくされるんでしょう。こういうときは、そっとしておくのが一番なんです」
 そっか、とリュウが返答した刹那。
「 ラ ト 姉 助 け て ぇ え ! 」
「レト?! 今行く――!!」
 突如響いたレトの叫びに、ラトは弾丸の如く直進! この場にはリュウだけが残された。
「」
 リュウと妖精(ラト)が駆けつけた時の妖精(レト)の状況は最悪であった。
 真っ赤な眼光をもった黒いオオカミが、木の上でおびえるレトを捕まえようと前足をしきりに伸ばしていた。その前足はレトの体寸前をかすめ、今にも届きそうだ。
「こらー! 何してるー!」
 リュウの存在に気がついたオオカミは、すぐに彼の方へ威嚇する。それにひるみつつも、彼はひとつ前に踏み出して敵の方へ駆けた。
「やぁーあっ!」
 まずは彼の一閃。しかし敵の動きは速く、彼の一閃を跳躍だけで避けては着地間もなくひとっ飛び!
「う!」
 避けきれなかったリュウの頬に敵の爪攻撃が走る。それに負けじと、槍先に纏わせた風を“エア・ブレード”として発射。大きく振りかぶって放ったそれだったが、オオカミはまたも跳躍ひとつで避けてしまう。
「それなら、これだーっ!」
 リュウは纏わせた風をそのままに、斬り込むが如く槍を振り回していくつも風の刃を放つ。形振り構わず飛んでゆくそれらは敵のいる空間に跡を残し、ある刃は敵に命中。ぎゃん! と鳴いて跳ばされたオオカミはそのまま停止。すかさずリュウはその敵に槍を投げつけ、首根を貫かせる。
 ぴくりとも動かなくなったオオカミを見据えつつ、呼吸を整えるリュウ。やがて槍が刺した場所に向かって歩を進める。
 が。
「あ」
 と一言。
「さっきの技の名前、“ランダム・ウィンド”に決定しよーっと」
 つま先を上げたまま、敵の動きを止めた技名を宣言した後、ようやく倒した敵の方へ歩き始めた。
 彼はかがんで、息がないことを確認してから、両手で武器を抜き取る。すると敵は黒い塵となって目の前で消えたのであった。
「消えちゃったー」
「ラト姉ーーーっ! 怖かったよぉーーーっ!」
「よしよし。リュウさんが倒してくれたから、もう大丈夫よ」
 敵に追い詰められていたレトは、いつの間にかラトの元へ飛び込んでいた。リュウも二人の妖精の元へ、武器を持って戻る。
「ケガはなかったー?」
「はい。大丈夫です」
「わたしたちの心配はいらないの! きみのそのキズの方が心配なんだから」
「こんなの、大したことないよー」
「わたしたちにとってそのキズが命取りなの! だから、なおしてあげる!」
 レトがリュウの頬のケガに向かって人差し指を向け、手首をもう片方の手で押さえると。
「ぱんっ!」
「っ!?」
「はいおしまい!」
 それを聞いたリュウがケガをした頬に触れてみると、全く違和感を感じなかった。どうやらきれいさっぱり回復したようだ。
「レトちゃんありがとー」
「妖精としての使命を果たしてるだけだもん。それに、しばらくは、きみにわたしとラト姉を守ってもらうんだから!」
「え?」
「つまり、きみはわたしたちを守るんだから、いつも元気じゃなきゃいけないの! だからなおしたんだもん。普段だったらぜーったいやらないんだから」
「そうなのー?」
「そ う な の ー っ!」
 リュウに向かってこう叫んだレトはそっぽを向く。この光景に、ラトが慌てて彼に近付き、囁いた。
「レトは元から素直じゃないんです。こんな子ですけど、どうかよろしくお願いします」
「大丈夫、気にしてないよ。こちらこそよろしくねー」
 リュウの返事を聞いてほっと胸をなでおろしたラトは、もう一度深々とおじぎをして、レトの方へ戻っていった時だった。
「おーい! リュウー!」
「居たら返事するんだぞー!」
「だ、だれ!?」
「この声は?」
「ボールとリッキーさんだー。僕はここに居ますー!」
 声に向かって手を振るリュウ。その背後にラトとレトが身を隠すと、しばらくして茂みからボールとリッキーが現れた。
「よかったぜ無事で。結構探したぞ」
「ごめんねー。妖精さんを助けなきゃだったからー」
「妖精を助けた?」
「やるじゃねーかリュウ! その妖精はどこに居るんだ?」
「僕の後ろに隠れてますー」
 そう言ったリュウの背後を、ボールとリッキーは覗き見た。
「本当に居るのか?」
「何もねーじゃん」
「えー?」
 リュウは首を回して自身の背後を確認する。目に映ったのは、ボールとリッキーの視線に身震いしているラトとレト。そんな様子を見ているはずの彼らは顔をしかめてばかりだ。
「見えてないのー?」
「さっぱり」
「きっとリュウが何とかしたから安心して帰ったんだろ! それよりリュウ、ケガはないか?」
「……大丈夫ですー」
「なら安心だ! 探索続けるぞ!」
 と踵を返してその場から離れていくリッキー。それに何事も無いような顔つきで付いて行くボールを見て、仕方なくリュウも二人の後を続いた。
「なぁ、リュウ。妖精ってどんな感じだったんだ?」
「え? っとー、うーん……この位のちっちゃい女の子でー。透明の、ちょうちょの羽みたいなのが背中に生えててー。それをぱたぱたさせてるんだー。… …今でも」
 何もされなかった事に安心したのか、二人の妖精はリュウの周りでくるくると追いかけっこをしている。にも関わらず、話し相手のボールには気にも留められていない様子であった。
「ねー。本当に見えてないのー? 今でもこの辺りをくるくるしてるんだよー?」
「そう言われても……悪いが、さっぱり見えねえんだ」
「そんなー――」
「あの方の言っていることは、ウソではありませんよ」
「そうそう! あんなふうにわたしたちが見えないって言うのがフツウなんだから! それに比べたらきみはとっても幸せもの!」
 追いかけっこを止めたラトとレトが、リュウの頭上から語りかけてくる。
「ボールとリッキーさんにも見える方法って、無いのー?」
「残念ですが、わたしたちにはどうすることも……」
「あの人たちがどうにかするしかないんじゃない? それに元々、わたしたちのすがたはこのあたりのちすじをもってる人にしか見えないんだから」
「僕はここに住んでないよー? もっと違う世界から来たんだー」
「だから言ってるんだもん。きみはしあわせものだ! って」
「むー……」
 唇を尖らせるリュウの頭上で再び追いかけっこが始まった。
「(どうして僕にしか見えないんだろう? 僕はこの世界の人じゃないし、ボールみたいに何かに選ばれてるわけじゃないし、リッキーさんみたいにすごい人でもないし――)」
「リュウー? ちゃんと付いて来いよー?」
「あっ」
 考えにふけっていたリュウは、ボールに声を掛けられたことで我に返る。気が付けば、ボールとリッキーが森に紛れてしまうほどに距離を離されていた。
「ごめんー待ってー」
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イセカイサイクロン『073話 妖精擁護』'22.3.3~3.10
初公開日: 2023年03月07日
最終更新日: 2023年03月10日
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“イチから成長する異世界転移ファンタジー”をモットーに綴っています『イセカイサイクロン ~Earth's Wind's Souldiers~』の超最新話執筆ライブです! 超最新話の為ネタバレ必須⚠ ですが、70話以上あるので一周回って新鮮に感じるかも?笑
最近は、ごく少数ですが執筆模様を閲覧してる方が居て励みになってます! 気に入っていただけましたら「カクヨム」または「小説家になろう」で001話から読みに来て下さーい!
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小説家になろう版▶https://ncode.syosetu.com/n4486hv/
※ここで執筆しているものはカクヨム版の最新話です。なろう版はこれの40話程更新を遅らせてます。