「では、始めましょうか。お二人共、準備は良いですか?」
「もちろん!」
「はーい」
アスカに戦闘に関する分析をしてもらうべく、マルーはリュウと場所を移動した。武器を手にし、等間隔に並んだ二人はアスカと向き合っている。
「私達の事、どうやって分析してくれるの? 手合わせとか? 手合わせとか!?」
「落ち着いてーマルー。分析なら、戦い以外でも出来るはずだよー」
「リュウさんの言う通りです。私が普段やっている稽古を通じてお二人を分析します」
そう言ったアスカは姿勢を正し、丈夫な木の棒を両手剣に見立てて正中に構えると、おもむろに棒を振り上げ、それを真っ直ぐ振り下ろした。ぶん。ぶん。と振り上げた棒を下ろす音が規則正しく響き渡る。
「あの、アスカ?」
「何でしょうマルーさん」
「えっと……やる事って、その素振り?」
「はい。剣を抜かずに出来ますから、どうぞ鞘付きのままやってみて下さい」
「うん……」
言われたマルーは渋々ながら、アスカと同じように姿勢を整える。そしておもむろに剣を振り上げ、それを真っ直ぐ振り下ろした時。
「とめて」
「え?」
「その姿勢のまま、止まっててください」
アスカが、剣を振り下ろしたままのマルーに近付く。マルーの姿勢は中腰で、膝も中途半端に曲がっている。その状態を保っているマルーの顔は瞬く間に疲れをにじませた。
「しばらく止まっててくださいね?」
マルーの至近に来たアスカが、マルーの剣を取り上げる。それから隣に立ったアスカは、木の棒の時と同様に構えては素振りを一つ。
「リュウさん。私とマルーさんの違いが分かりますか?」
問いかけるアスカは、うなじから上空へ、糸で真っ直ぐ引っ張られている様に姿勢正しく止まっていた。
「姿勢が全然違うや」
「そうでしょう。では何故私とマルーさんでは姿勢が違うと思いますか?」
「やっぱり、意識の差かなー」
「具体的にどこを意識していると思いますか?」
「それは――」
「リュウ、早く答えてぇ……」
「マルーさんはまだそのままですからね」
アスカに手をかざされているマルーは、腕や膝をがくがくさせており今にも倒れそうだ。唇を噛んでどうにか堪えている隣のリュウは、質問に答えようと思考中――潤んだ目の彼女に一切見向きしない。そんな彼の代わりにか、妖精二人がマルーの行方を見守っていた。
「正しくない姿勢のまま動けないのは、十分おつらいですよね? あともう少しでリュウさんが答えをみちびきますから、しんぼうですよ!」
「ラト姉ったら、きこえない人にはなしかけてたのしいのかな? ――リュウ! あの人つらそうだから、早く答えてあげなよ!」
「あ、あれだー」
レトの言葉を聞いてか否か、リュウが手を打つ。
「吹奏楽でもそうだけど、姿勢の良さが、疲れにくさとパフォーマンス向上を担ってるんだよー。その姿勢の決め手が確か、背骨の周りの筋肉だったはずー」
「ぱふぉーまんす、というのが何か分かりませんが、どこを意識しているかという答えに関しては、正解です」
「おー」
「腰周りの――特に内側の筋肉が、姿勢の良さをどのくらい保てるかに関係します。この姿勢ひとつが、リュウさんが言っていた通り疲労具合に差が出ますから、持久戦になればなお勝敗に響きますよね? 分かりましたか、マルーさん?」
「うん……よく分かりました」
「では楽にして――」
「うがあああぁ! 筋肉ぷるぷるしたあぁ!」
アスカの言葉を掻き消すほどの大声を上げて尻餅をつくマルー。両脚を投げ出し、息を整えるのに必死だ。
「運動出来るマルーが、ちょっと体勢をそのままにしてただけで、こんなに疲れてるなんてー」
「確かに、マルーさんにはその気質があるようですが、手足の筋肉に任せきりの結果がこの状態なのでしょう。さて、次はリュウさんの番です」
淡々と分析を終えたアスカは、マルーから借りていた鞘付きの剣をリュウに差し出した。
「剣で良いのー? 槍じゃなくてー?」
「槍は専門外なので、剣でお願いします」
「ああー、じゃあそれでやるよー。マルー借りるねー」
と断りを入れたリュウがマルーの剣を受け取り、両手で柄を握っては正中に構える。
「せー、のーっ。せー、のーっ。こんな感じー?」
「はい。続けてどうぞ」
ほーい、と返事をしたリュウは剣を振り上げ、構えの位置まで勢いよく振り下ろす。ひゅん。ひゅん。と、振り上げた剣を下ろす音が規則正しく響く。アスカが棒を振った時に近い動きが、彼女達の目の前で繰り広げられていた。
「質問の答えを導き出しただけはあるようですね」
「うん、どっしりしてて良いね。リュウの内面が表れてる気がする」
気付けば立ち上がっていたマルーの言葉に、どういうことですか? と尋ねたアスカ。マルーは彼の素振りを見つめてそのまま口を開いた。
「普段の話し方とか見た目とかでね? リュウはおっとりしてるって言われがちなんだけど、ちゃんと自分の考えを持ってるし、その考えを私達に分かるように言葉に出来る人なんだ。私達の中で一番しっかりしてると思う」
「そうですか」
マルーから話を聞いたアスカは、再びリュウに目を向けた。会話をしている間も彼は素振りを続けていたようだ――切っ先を見据えては剣を上げ、一点を見つめたまま真っ直ぐ振り下ろす姿は、目先の相手を切り伏せようと士気を高める戦士の如し。
「ねえーリュウー? リュウってばー!」
「この集中力は、マルーさんがおっしゃっていたことを十二分体現してますね」
「まわりが見えてない人のまちがいじゃなくて?」
「うう……まさかこの世界で、筋肉を鍛えることになるなんて……」
「良かったら、僕の部活でやってるトレーニング一式、一緒にやるー?」
「やる! お願い!」
リュウの言葉で飛び起きたマルーが目を輝かせる。
とトレーニングに入ろうとした時、