「彼女」はゆっくりとその身を起こす。
 ニンゲンたちと別れてから、かなりの……いや、とても長い時間が経っていた。その時間で「彼女」は、大きな成長、変質を遂げていた。火星の地表だけでなくその地中にまでしっかりと根を張り、その体積はかつてのものとは比べ物にならないほど巨大化している。
 火星の赤い砂が続く荒野が、真っ二つに割れた。そこからゆっくりと――実際には急激なスピードで姿を表したのは、高く長く伸びた「彼女」だった。
 火星の地表に屹立した、巨大な樹とも塔とも見える、最終齢にまで成長した「彼女」は、全身の感覚毛でこちらに近づきつつあるニンゲンたちの乗った船を探知した。極限にまで研ぎ澄まされた超感覚で船の構造材越しに驚きの表情を浮かべるニンゲンたちを感じ取り、「彼女」は笑った。
 ――そして同時に、ニンゲンたちの乗った船の燃料タンクに、デブリが突き刺さるのを感じ取った。
 「彼女」は声を上げたが、もちろんその声はニンゲンたちに届かない。接触したデブリによってタンクが引き裂かれ、船が回転しながら大きく軌道を外れていく。
 「彼女」はすでに行動を始めていた。自らを構成する硬質組織の一部をほどき再構成する。長い棒と糸。そう、「彼女」がずっとやってきた「釣り」だ。
 ニンゲンの残した外部記憶装置にはさまざまなデータが残されていた。その中には、宇宙を旅するための構造体を「船」、そして宇宙を「海」と表現する一文があった。
 ならこれは、火星の海での魚釣りだ。
 静かに凪いでいるように見える宇宙という海の中で、重力と慣性でもみくちゃにされているニンゲンたちの船に向かって、彼女は長く固く再構成した構造体の先端から、細くしなやかな繊維状の構造体を飛ばした。釣り糸だ。
 「彼女」の全身の体組織がそうであるように、釣り糸もまた「彼女」の体の一部だ。釣り糸自体が秒単位でそのベクトルを修正し、コントロールを失って回転しているニンゲンたちの船に向かって飛んでいく。
 火星の主に二酸化炭素で構成されている薄い大気を釣り糸が突き破る。釣り糸の先端は、そのままムチのようにしなり、細かいデブリを跳ね返しながらニンゲンの船に向かって伸びていく。
 その一端がニンゲンの船に触れた瞬間、「彼女」は全身の組織を総動員した。火星の地中に伸ばしていた根の部分が
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後輩へのお誕生日SSを書いていきます。
初公開日: 2026年04月07日
最終更新日: 2026年04月07日
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