ふと落とした視線の先に月が浮かんでいたのに気付いて、思わず眉根をひそめてしまった。
「……」
 ……なにも今じゃなくてもいいのに。
 勉強に集中できなかったから気分転換にと散歩してたのに、こうも再び直面させられるなんて。
 私の心境を知ってか知らずか、水面の月は揺らぎ、形を定めることがない。
 折角の中秋の名月だというのに、そこに映るのはひどく歪んでいた。
 まるで揶揄われてるかのようだ。そうじゃないと分かっていても、つい気に障ってしまう。
 それはきっと、あの。
『澪と七海さんは、あんまり似てないな』
『何も持ってない私が何者かになるには、誰かに成り代わるしかないと思ったの。でもそれは違ったんだね』
 ……思い出すだけでも、かっと感情が腹の底から湧き上がる。
 怒りにも似たそれは苛立ちだと思うけれど、それ以上考えたくなかった。なんなのかなんて知りたくないから。
 ――まるで私が間違ってると、月にまで言われてるみたいだった。
 ようやっとここまで来たのに。ここに来てどうしてそんなこと言うんだろう。市ヶ谷さんも侑も。
 侑。侑。
 今日も一緒に帰らなかった。帰りたくなかった。我ながら子供みたいな意地っ張りだという自覚はある。だけど。
 私のこれまでをそんな風に言われて、呑み下せるほど、安易な気持ちでやって来たんじゃない。
 それを侑は知ってるはずなのに。知ってて手伝ってくれるって言ったくせに。
 なんで。どうして。
 疑問は浮かべどその先には至らない。ただ無性に気に障る言葉ばかりが、頭の中に浮かんでは弾けていく。
 どうしたらいいの、なんて考えない。だってもうすぐやり遂げられるんだから。
 けれど。
「……侑」
 分からない。分からなくて、苦しい。
 私は間違ってるの?
 それなら私はなにになればいいの?
 ……込み上がる疑問と感情に、ぎゅっと奥歯を噛み締める。
 水鏡は変わらず、天上の月を映し続けていた。
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