※大幅に変更する可能性があります。
ヘレと喧嘩してからどれくらい経っただろう。
何十回目かの”夜”が過ぎて、ヘレとは会えないまま時間が過ぎていく。
会いに行こうとしたけど、カプリコルヌス様はなんでか連れてってくれないし。ヘレからも時間が欲しいって言われてしまって、ヘレについては八方ふさがりだった。
だから、修行を進めるしかなかった。
もう身体を動かすのは日課になっていて、起きれば走り込み、朝食、マルフィクとの組手、昼食、休憩、走り込み、夜食、寝る。を繰り返していた。”夜”はその繰り返しを三日行ってからくるので、三日目はマルフィクとの組手でぼこぼこにされるけど。
今は昼食が終わった後の休憩中だった。
「だーかーらー、次の組手は僕がマルフィクさんとやりたいんだってば!」
「意味ないやざ。うらの修行を優先するべきやざ」
いつも通り休憩や食事時は一緒にいるようになったサダルとタルフが言い合いをしている。
仲が良いのか悪いのか、二人はしょっちゅう喧嘩をしてる。でも、すぐ何事もなかったようにけろりと仲良さげに話しているのが不思議だ。
「たまにはいいじゃん! 僕だって、教えるだけじゃなくて強くなりたいんだよ」
「力は十分やのに、心が狭いやざ」
「なにをー!」
「心が狭いやざ」
「二回言うな!」
自分の気持ちを素直に言い合えるから、喧嘩になるんだろうな。でも、二人が喧嘩するたびに、俺の頭にはヘレがよぎって、胸が締め付けられる。
「はぁ……」
俺は日常になってしまった、ため息を吐いた。
「アスクさんまたため息ですか~?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた」
俺は誤魔化してヘレのことを頭の片隅においやった。
「また加護が使えねェッて嘆いてンのか?」
俺の二つ目の悩み事をマルフィクが口にする。
そう、体力はついた。組手をして加護のコントロールもマルフィクに教えてもらっているのに、一向に加護を使える気配はない。
「お前、牡羊の神の話まだ信じてンのか」
「だって、加護をコントロールできれば自分でプロテクターを外せるって言われてるし」
アリエス様はそう言ってた。なのに、全然、どの加護を引き出そうとしても何も起こらない。
「……そろそろ頃合いだ。無理やりぶっ壊すぞ」
「うーん……」
マルフィクは体力をつけて、内側から圧力をかけるとかなんとか。ようするに無理やりアリエス様が施した封印を解こうっていう考えだった。
前はどうせ体力もないし、選択することもできずに流してたけど、今はもう選択できるくらいになったということで。
アリエス様を裏切るようで気持ちは重いけど、でもそれ以上に俺は加護が使えないことに焦っていたから、正直だいぶ傾いている。
「え、牡羊の神様の力を破壊できるんですか?」
「加護であれば俺でもいける」
「けど、そんなことしたらアスクさんが危ないんけ?」
「そりゃあな、無理やりやンだから危険に決まッてんだろ」
危険……そうだよな。やっぱり危険だよな。
「いいじゃないですかー、僕も協力します。それに、いざとなればカプリコルヌス様がどうにかしてくれますよ!」
「サダルは無責任やざ」
「そんなことないよ。だって、このまま行ったらアスクさんはずっと加護を使えないかもしれないんだよ?」
サダルの言葉が胸に刺さる。
いつ加護を使えるかわからない。いつこの修行が終わってしまうかもわからない。
カプリコルヌス様に聞いてみたけど、まだ全然大丈夫って明確な時間は教えてくれなかったからよけいに。
マルフィクと俺の目的――この修行で一番成長したら二人に与えられる褒美。未来か過去を一度覗くことができる。こと。
その競争に俺はスタート地点にも立てずにいる。だから、いますぐに加護を使えるようになれるなら。
「ほやでも、万が一があるかもしれんやざ」
「万が一ばかり気にしてた大きいもの逃しちゃうし」
「商売と同じに考えんなやざ!」
「はぁ? 何かを得たいなら何かを犠牲にすべきに決まってんじゃん!」
二人は本格的につかみ合いになりそうなくらい声を荒げだした。一つ目の悩みがちらつくのを、頭を振って追い払い、俺は喧嘩を仲裁するために口を開いた。
「サダル、タルフ、二人ともありがとう。心配してくれるのうれしいよ」
「…………」
「…………」
言い合いしている二人の言葉は、俺のことを考えてのことだったから、素直にお礼を言った。
二人は黙った後にお互いを見合ってふんっと鼻を鳴らし、威嚇しあう。
マルフィク、サダル、タルフを見てから、口を開く。俺は結局傾いた心を止めることはできなかった。
「タルフの言いたいこともわかるけど、俺は……方法があるなら試してみたいと思う」
そうだ。早く。早く加護を使えるようになって皆に追いつかなきゃいけないんだ。
「さすが、アスクさん! 挑戦してこそですよね~!」
「……アスクさんがいいならいいやざ」
「フン。なら、カプリコルヌス様に乙女の騎士を呼ンでもらえ」
「え、なんでスピカ?」
「加護が暴走して、身体が限界に達しても治してもらえれば生存確率はあがッからな」
今、不穏なこと言わなかったか?
リスクがあるのはわかってるけど、俺の頬は引きつった。
「方法があるなら試してみてェんだろ?」
俺の様子ににやにやと口端をあげて、どう見ても煽ってくるマルフィクに俺は目を細めた。
「はいはい、マルフィクも心配してくれてありがとね」
「……してねェよ」
流すように言えば、マルフィクは眉をひそめて苦虫を潰したみたいな顔をした。思ってた反応じゃなかったらしい。ざまあみろ。
はっと鼻を鳴らせば、マルフィクは同じように鼻を鳴らして返してきた。
「じゃあ、カプリコルヌス様にお話ししてみましょう!」
話がまとまり、次の”夜”にカプリコルヌス様に話をすることになった。
カプリコルヌス様まではよかった。面白そうとか言って、普通にスピカを連れてきてくれたからだ。
けど、スピカに事情を話してからスピカはひどく怒って話を聞いてくれはしなかった。
「そんな危険なこと、私は反対だ」
「でも、このままだといつまでも加護が使えないし……」
「アリエス様はアスクがしっかりと加護のコントロールができるようになれば使えると言ったのだろう? アリエス様のご意向とは異なることをして、身を危険にさらす必要はなかろう?」
もっともな意見。でも、俺はいつになるかわからないこの状態に不安しかなかった。
「でも、それじゃあいつになるかわからないし……」
「そのために修行しているのであろう?」
「うぐっ……」
あいまいな返答ではスピカを納得することはできそうにない。
俺はマルフィクに助けを求めるように視線を向けた。マルフィクは、はぁっとわざとらしくため息を吐いてから、カプリコルヌス様に視線を向ける。
「俺は、アスクの封印はおそらく長い期間解けないと思うが、カプリコルヌス様はどう思うンだ?」
「一生解けないであろうなのである」
「どういうことですか?」
カプリコルヌス様の返答にスピカは眉をひそめて、カプリコルヌス様に問いかける。
「正確に言うのであれば、蛇使いの加護はこのままいけば一生牡羊の加護に抑え込まれるのである。双子の加護や蠍の加護は必要条件によっては使えるようにはなるであろうが、一度蛇使いの加護に吸収されそうになったであろう? その際に結びつきが強くなったのであろうな、蛇使いの加護の影響を受けているようなのである」
「……うん? それなんで最初に言ってくれなかったの?」
俺は思わずカプリコルヌス様に突っ込んだ。初めて出てきた話にスピカよりも俺が驚いてる。
「聞かれなかったからであるが?」
きょとんとして言ったカプリコルヌス様に俺の頬がぴくぴくと引きつった。
俺の今までの時間返せー! って叫びたくなったけど、当然というようなカプリコルヌス様の表情に俺は何も言えなかった。
「どうせ、体力がなきゃ牡羊の加護の制御を無理やり引ッぺがすのは無理だッたからな?」
俺の表情から読み取ったのか、マルフィクに釘を刺される。
「なるほど……いずれ双子の加護や蠍の加護は使えるようになるはずだったと」
「そうなのである。その二つの加護のいずれかをアスクの体になじませ、最終的には加護を統合させようと思っていたのであろうな……。もしその二つのいずれかを選べたのなら、蛇使いの加護との結びつきが弱まり、使えるようになるであろう。しかし、アスクは別の選択――すべての加護を使うことを選択したのであるからして、何かしらしなければ一生封印は解けない確率が高いのである」
「……そうですか」
改めて、カプリコルヌス様に一生加護が使えないと言われて俺は俯く。
アリエス様は、なぜそこまでして蛇使いの加護――オフィウクスの加護を封印したのだろうか?
アリエス様は、俺を信じてはくれないのだろうか?
不信感。そう言ってしまえるほど、俺はアリエス様に疑問を覚えてしまっていた。
でも、アリエス様のことをどうこう考えている暇はない。俺は、自分の目標を達成するために、その封印を解かないといけない。
それには、多大な代償がついてまわる。
「スピカ、お願いだよ。俺に力を貸して!」
「だが……」
「スピカがオフィウクスの力をよく思っていないのは知ってる。でも、俺は……全部の加護を使いたいんだ」
俺は、スピカの青い瞳をしっかりと見つめた。
「加護の力、どれもみんなと旅して得た力だから、大切にしたいんだ……お願いだよ、スピカ」
俺の言葉にスピカの瞳が揺らいだように見えた。
すぐに、スピカは柔らかい笑みを浮かべてくれる。
「……アスク、わかった。私にできることなら力になろう。ただし、本当に危なくなったら……その時は止めさせてもらうぞ」
「うん、頼りにしてる!」
俺はアリエス様のことをどうこう言えない。だって、俺だってスピカに本当のことは言えてないから。
失敗すれば――確実に命はないなんて。
俺の目の前にマルフィクが、横にはスピカが立っており、カプリコルヌス様とサダル、タルフは少し遠くでこちらの様子を見ている。
「俺のオフィウクスの加護で、お前のオフィウクスの加護を活性化させる。それによッて牡羊の神が施している封印に加護たちが抵抗して、勝ち得れば加護が戻るンじゃねェかッて話だ」
『抵抗するということはかなりの力がアスクの体の中で暴発するということであるからして、抵抗中は身体が内側から壊れるのである』
「そこを私が修復していけばいいわけですね」
『今のスピカの癒しの力であれば信用に足るのである』
「オフィウクスの加護のコントロールをしッかりできなきゃ、また暴走ッすけどな」
「暴走した場合は僕たちが歯止めをかけるわけですね」
暴走したら、命はないと思え。と先にマルフィクに脅されている。なんとしても俺はコントロールしなきゃいけない。
「アスク、準備はいいか?」
「うん!」
マルフィクの言葉に俺は頷いた。マルフィクは頷くと、アスクに手を伸ばす。袖から、黒い鱗と真っ黒な瞳を持つ小さめの蛇が顔を出した。
そして俺に向かってとびかかってきた。
大きく赤い口が、白く鋭い二本の長い牙が目の前で異彩を放っていた。目の前が真っ暗になる……。
ズルズル――
ズルズル――
何かが這いずる音がする。
俺は、目を開けた。
真っ白な空間が広がっていた。ここはよく知っている――視界の端にちらつくそれに視線を向けた。
思った通り、緑色の瞳と赤く長い鱗を持つ蛇と、すべてが黒い蛇が俺を見下げている。
「……俺は、また加護を暴走させているのか?」
この光景を見る時、過去二回。俺は加護を暴走させている。
暴走させていたら、今回のこれは失敗だ。不安で鼓動が早くなる。
『否。牡羊の加護が強し』
普通に赤い蛇は返答をくれた。意思疎通ができることにほっとする。
俺は起き上がって辺りを見回した。でも、何もない。
「じゃあ、牡羊の加護と話をすればいいわけだ」
『汝、我を求めよ。さすれば、封印を破壊できよう』
「それじゃあ、ダメだ」
オフィウクスの加護は、自分を求めろと、そう言ってきた。
マルフィクには加護を求めることでコントロールしろと言われた。でも、それじゃあダメだと俺は思った。だって、俺は全部の加護を使いたい。
「俺は、全部の加護と意思疎通をしたい。牡羊の加護にも認めてもらって封印を解く」
『難しきこと』
「やってみなきゃわからないっ!」
俺は立ち上がって歩き出す。何もない。けど、何かがいる。こっちに二体。その先にさらに一体。
『黒いのの力が分け与え終われば、必然的に封印が破壊されるが?』
「まだ時間はあるんだろ?」
『可。しかし、時間が経ち我を望まぬ場合は暴走が確実となる』
「だよね……」
それでも、いますぐに決めろとは言わない赤色の蛇に、俺は笑う。やっぱり、俺の加護なんだな。って思った。甘いな。って。
少し歩けば、双子の加護と蠍の加護が姿を現す。
黒い蛇に威嚇をしている蠍の加護に手のひらを出せば、おとなしく俺の手に乗った。双子の加護も自分で俺の肩に移動してくる。
『牡羊の加護に会いに行くの?』
「そうだよ」
双子の加護の問いかけに頷く。蠍の加護が腕を上って双子の加護とは反対の肩に乗って小さく震えた。
『無理するべきではないのです』
「そんなに怖い?」
『取り込もうとするのです』
牡羊の加護は封印だけではなく、加護を取り込もうとしているのか。
俺は歩くのを再開して加護たちの会話に耳を澄ます。
『そっちの蛇使いの加護も前回はやってくれたよね』
『求められたならば必然である』
『あるじは、全員を必要としているのです。抜け駆けはよくないのです』
『そうだよ、最初からいるからってちょっと求められたぐらいで調子乗んなよ』
『我の方が力が強いのだ。おとなしく従うべきであろう』
『はぁ? 俺の方が膨大な力ありますー! 主が全然適応できないだけですー』
『加護をもらった時の量は蛇使いの加護が一番少なかったはずなのですっ!』
うん。オフィウクスの加護VS双子の加護、蠍の加護って感じだな。
『双子の加護は元々、主用には作られてなかろう』
『これから慣れればいいんだよ、主が』
言い合いにそろそろ頭が痛くなってくる。ずいぶんと加護たちはおしゃべりなんだな。これ、まとめていかないと協力とかしてくれなかったりするんだろうか……?
加護に自我が芽生えすぎてて怖い。ヘレのメ―メ―とかここまで意思疎通してなかった気がするし、マルフィクの黒い蛇使いの加護は一言も発してない。
そういえば、みんなの加護が具現化したところも見てないから、これが普通なのかも全然わからないな。
さっきまで言いあいをしていた加護たちがぴたりと口を閉ざした。
目の前に牡羊の加護が姿を現したからだろう。メ―メ―と同じように羊の形をしている。でも、色は薄い赤毛で、羊って言っていいのかちょっとわからない。
『主、何用でしょうか?』
丁寧に牡羊の加護は頭を下げ、俺に話しかけてきた。声は静かで感情が読み取れないけど。
牡羊の加護はもらったばっかりで、”自我”ができてる可能性は低いってマルフィク言ってたのに、普通にしゃべってるな。
「他の加護たちを解放してほしいんだ」
『できかねます』
「なんで?」
『牡羊の神の解放条件は、すべての加護を一つにすることです。それを達成しておりません』
「……牡羊の神――アリエス様は、なんでその条件にしたの?」
アリエス様は、そんなこと言ってなかった。コントロールできるようになれば加護を使えるようになると、そう言っていた。
でも、だからわかる。加護を一つだけ使えるようになるって言わなかったのは、アリエス様に何かしらの思惑があったからだ。
『牡羊の星の子であれば、牡羊の力が一番合うはずですから』
「要するに、牡羊の力だけを俺に与えたいってこと?」
『ええ、自分の星の子は自分の星に戻ってくるべきであり、そうであれば、牡羊の力を強めていただき牡羊の星を守ってもらうというのがアリエス様の意志です』
なんとも言えなかった。俺が思い描いている内容じゃなくて、アリエス様の意志を反映しろと言われているようで、気分が悪い。
「それを断れば?」
『加護を使うことを承諾できません』
「……お前は俺の加護だよね?」
『はい。すでに牡羊の神とは分離しておりますから、私の主は貴方ということになります』
「じゃあ、牡羊の加護。お前を求める」
『わかりました。それであれば他の加護を――』
俺は牡羊の言葉を遮る。
「そして”命令”する。他の加護と”共存”することを」
はっきりと言いきった。俺は、コントロールしなきゃいけない。オフィウクスの加護だけじゃなくて、すべての加護を。
『なるほど、私を従わせたいということでしたか。では、わかっていらっしゃるのですね? 私を”力づく”で従わせなければならないということを』
「予想通りってとこかな」
言うことを聞いてもらうには、力づくで実力を認めさせないといけないことは予想ができていた。
加護は神が認めた者に与えられるけど、牡羊の加護は抑制として俺に与えられたから。牡羊の加護は俺を加護を扱う器として認めていないんだ。
『何故、友の言う言葉通り動かぬ?』
オフィウクスの加護が俺に問いかけてきた。
マルフィクはオフィウクスの加護を強化して破壊してこいって言ったけど、俺はイヤだった。オフィウクスの加護か牡羊の加護、どっちかに加担すればたぶん全部の加護が吸収されてしまうと思うから。
「俺は、全部の加護を求めるから……だから俺は、他の加護の力を借りて牡羊の加護を従わせる!」
『主……わかったのです』
『ふふん、それでこそアスクだね! もちろん協力するよ』
俺の言葉に蠍の加護と双子の加護が、力強く頷いてくれた。
俺が後気にするべきは、リミット。マルフィクの黒い蛇が俺のオフィウクスの加護に取り込まれたら、力が大きくなってオフィウクスの加護が暴走してしまう。
それまでに牡羊の加護と決着をつける。
俺は牡羊の加護をしっかりと見つめた。
「じゃあ、始めようか」
『ええ、時間が惜しいですから』
牡羊の加護は弓を構える。弓の周りに数十本の矢が浮かんだ。
これ、見たことある。オフィウクスの加護を受け取った時にアリエス様が放った技だ。
「足に力を込める!」
俺は口にすると、その場から飛びのく。立っていた場所に数十本の矢が刺さっていた。
間一髪、ずいぶん本気で殺しにかかってくるな。背中に冷たい汗を感じる。
『その程度で、私に認めさせようとは驚きが隠せません』
牡羊の加護が目を細めている。あれは、呆れているな。
『君、前より飛んでない……?』
双子の加護の驚いた声に、俺は目を瞬いた。あれ、そういえば攻撃された位置からだいぶ距離が空いてる。
『成長してるのです?』
蠍の加護の言葉に、思い当たる節があった。
マルフィクに体力作りをどうしてするのかって聞いた時、「神の力に耐えうる体になる必要がある」だって言ってた。
「もしかして、体力つけた分だけ加護の力引き出せたりする?」
『人間は壊れないように無意識で制御するからね。とりあえず試してみよう!』
「わかった!」
使えるっていうなら、加護の特性をしっかり考えなきゃ。
コントロールの仕方で教わったのはたったの二つ。「加護のことを信頼し、よく知ること」「加護には元の神の特性が色濃く表れてる」だけ。
だから、加護の特性は元神の使えた力ってことだ。ヘレが牡羊の神と同じ力を使えたように。
双子の神は何が使えた? 風を操れてたから、きっとそっち系ができるはず。
蠍の神は? 毒しかイメージがないんだけど、あの尻尾を届かせるのは難しそうだし……他に何かあったかな……?
『来るのです!』
考えている間に、牡羊の加護が丸まって俺に突進してくる。双子の神が風を暴れさせていたのを思い出す。
「双子の加護、吹き飛ばして!」
俺の掛け声とともに風がうねりをあげて強く吹いた。やった、できた……!
牡羊の加護が突進を邪魔されてその場で揺らぐ。
チャンス!
俺は牡羊の加護に向かって、腕を振り上げた。けど、柔らかい毛の弾力にはじき返されてしまった。
「――っ!」
『さきほどよりはマシですが、力が使える時間が短いようですね』
牡羊の加護が言うように、風もすぐに止んでいた。
『もう力を見極めるまでもないでしょう。こちらの番です』
淡々とした声と同時に脇から強い衝撃を受ける。牡羊の加護が腹部に体当たりをしてきたのだ。先ほどは柔らかかった毛が、今は固くなっていてごりっという骨がぶつかる音が聞こえた。
「ぐっ」
とっさにガードして痛む腕を抑えながら、目を牡羊の加護に向ける。
『えぇー! だいぶ力を引き出せてると思ったのに』
『完璧に出せてたのです。短いだけで』
そうだ、双子の加護を引き出すことはできてた。問題は持続性と、牡羊の加護の防御を貫くための威力だ。
考えている間にも牡羊の加護が幾度となく突進してきて、なんとか双子の加護の風の力で躱していく。
「持続性はすぐにどうにかなんてできない。一撃で倒すための方法を考えなきゃ」
『打撃は無理そうだよ? 僕の弓でも使ってみる?』
「鋭利なものならたしかに……」
『あたちの力も使ってほしいのです!』
「毒か……でも、どうやって?」
たしかに双子の加護だけを使っていても、どうにもならないのは明白だ。
蠍の神がレグルスに与えた攻撃は動くことができないほどの毒性だった。だから、その攻撃を牡羊の加護に当てられれば、決着はつくはずだ。
『また矢になるのはダメなのです?』
蠍の加護の言葉に、扶養の騎士との戦いで双子の加護と蠍の加護が連携していたのを思い出す。
「それならいけそう! 双子の加護、一番強い風を!」
突進してきた牡羊の加護を吹き飛ばすほどの風を出して距離を開ける。
「弓を出して!」
『うん! 今の君なら再現ができるはず。しっかりと弓矢を、蠍の加護を矢にするイメージをして!』
双子の加護の言葉に、俺は目の前に弓矢があるイメージをする。それは淡い光となって表れて、蠍の加護が弓の中央に移動すると矢に変化した。
『放って!』「放つ!」
双子の加護と俺の声が重なると、矢は牡羊の加護に向かって放たれた。けど、それは直線的で、牡羊の加護はあっさりと避ける。
『攻撃が直線的ですね』
これじゃあダメだ。牡羊の加護が避けられないようにしないといけない。
「マルフィクの槍のようにターゲットを追跡できればいいのに……」
『追跡って?』
「避けても決まった相手をずっと追いかけてくんだ」
『……やってみれば? 今なら、そこの黒い蛇使いの加護も使えるかもでしょ』
「えっ……」
『君は、複数の加護を使えるんだから、試してみればいいじゃん』
双子の加護に言われて、俺は黒い蛇――マルフィクの加護を見る。黒い眼玉は何を考えているのかわからない。
『俺の目で見ると思えばいい』
マルフィクの加護は、俺が聞く前に端的に答えた。
「よしっ!」
俺は牡羊の加護の攻撃を避けると、飛んで行った後にこちらに駆けてきていた蠍の加護のそばに行く。
「双子の加護の弓矢、蠍の加護の矢、マルフィクの加護の目!」
口にすることで、明確にイメージができる。
目の前で再び弓と矢が形成される。「放つ!」という言葉で、矢は牡羊の加護に向かう。牡羊の加護が矢を避けた。けど、矢は牡羊の加護を追った。
『!!』
「やった!」
成功だ。これで少しでも掠れば、蠍の加護の毒が火を噴く――はずだった。
『まあ、当たらなければ意味がないですが』
矢は、牡羊の加護の前で弾かれた。それが透明な障壁だと気が付く。ここまでできるなんて……。
牡羊の加護の体当たりに蠍の加護が吹っ飛ばされた。
『きゃうっ!』
「大丈夫!?」
『危ないっ!』
一瞬蠍の加護に気が逸れた俺に向かって矢が放たれた。双子の加護が慌てて対抗するけど、避けきれないっ!
右腕が、左の腿が、熱い。
「ぐっ」
『力の差は歴然です。さあ、私を受け入れてください』
牡羊の加護の言葉で矢が消えた。
まだ立ってられる。ずくずくとした痛みが傷口から感じるけど、まだ。
あきらめたくない。
考えろ、考えるんだ。力で認めさせられないなら、別の方法で認めさせればいい。方法はあるんだ。”確信”している。
でも、どうやって?
知らない方法だったら、オフィウクスの加護をもっと借りないとダメだ。でも、どこまで借りて大丈夫なんだ? どこまで借りちゃったらオフィウクスの加護は暴走する?
俺はちらりとオフィウクスの加護を見た。
『主、既に答えを導き出す情報を此処で得ている』
「!!」
オフィウクスの加護は、無理やり求めさせようとはしてこない。
気持ちが軽くなって、俺は頷いてみせた。
すでに知っている何かが答えってことか。俺は何を知っている? ここで何をした……?
体力がついたおかげで、双子と蠍の加護を使って戦えた。だから、牡羊の加護の力をいくつも見た。そして、もう一つ俺はそこにいる黒い蛇――マルフィクの加護を使った。
なんでマルフィクの加護が使えたんだろう? 俺の加護じゃないのに。唯一条件として当てはまるのは……
「ここにいる加護の力が使える?」
そうとしか思えなかった。
『さあ、主。私を受け入れてください』
牡羊の加護が催促してくるのを、俺は聞き流した。
ここにいる加護の力が使えるなら……試してみる価値はあるかもしれない。
「……牡羊の加護、矢を牡羊の加護に向かって放て――っ!」
俺の周りに矢が複数出現する。牡羊の加護が使った力だ。
『えっ?』
矢は、俺の言葉通り驚いて固まっている牡羊の加護に向かって飛ぶ。
「牡羊の加護、盾を出現して牡羊の加護を守れ!」
俺の言葉に、矢は牡羊の加護の前で飛び散った。
「できた……」
やっぱりそうだ。牡羊の加護の力も、俺は使えるんだ。
『どうしてですか、私はまだ主を認めていないのにっ!』
「それが俺の力だからだよ」
なんで加護の適性がないと言われた俺が、複数の加護を扱えるのか。どうして加護が複数とも自我をもっているのか。”ここ”がどこなのか。
すべては、俺の持つ力なんだと”確信”している。
「俺の力、っていっても正確に理解してるわけじゃないけど」
ただ、そうだ。と”確信”しているにすぎない。
『根拠もないのに言っているということですか?』
『明確な答えを知りたいッてのか?』
黒い蛇――マルフィクの加護が俺の横に進み出てくる。
牡羊の加護の疑問に、質問を重ねてくる。牡羊の加護は怒るでもなく、視線をマルフィクの加護に向けて返答を返した。
『知らなければ納得できませんからね』
『お前は、ここがどこかわかるか?』
『主の無意識に相当する場所です。夢、とでもいえばいいのでしょうか』
そうだ。ここは幾度となく見た場所だ。蛇が這いずってくるこの場所は、”夢”だ。
『そうだ。だが、アスクは夢の中でも明確に意志を持ッて動いてる。俺たち加護もな』
『それがなにか?』
『普通はできない。加護は現実で具現化して主と話をするのが一般的だ。この状況は異例、アスクの夢の中だけで起きているッてことは――アスクになんらかの力があるッてことだろ?』
『なるほど。前例がないために、詳しくその力を説明できないわけですね』
屁理屈って言ってしまえそうな説明に、牡羊の加護は納得しているようだ。
異例って、結局俺の力がなんなのかわかんないじゃん!
『もう一つ、気になることがある』
『それって、蠍の加護や牡羊の加護が自我を持ってること?』
双子の加護が話に割り込んでくる。
『そうだ。”早すぎる”ンだ』
『だよねー。主は加護の適性がないのに』
『ですです。加護を使うのにも条件があったり、口に出したり制約が多いのです』
もう何度言われればいいんだろう……。
「それなのに加護の自我が芽生えてるのがおかしいんだろ?」
『もっと言うと、自我がアスクとかけ離れてるのもおかしい』
たしかに、マルフィクの加護はマルフィクに雰囲気が似ている。おっせかいなところなんか特に。
『それなら、僕の力が維持したままなのもおかしくない? 使えるわけじゃないのに、暴走もしないでそのまま持ち続けるなんてさ』
『主、我を2回暴走させている。外部からの関与はあったが、損傷は無。異様』
双子の神やオフィウクスの加護も口々におかしいと主張してくる。どんだけ出てくるんだよ……。
「……おかしいことだらけじゃん」
『それを繋ぎ合わせて出た仮説がおそらくアスクの力だ』
なるほど。複数が合致する仮説が立てられればそれが一番答えに近いってことか。
『結局、まだ解明はされていないということですか』
『ああ』
牡羊の加護の返答に空気がぴりついた。また攻撃されるだろうか? 俺はじっと牡羊の加護の様子を見守る。
『……なにはどうあれ、私の力を主が使ったことは事実です。本来加護の力が使えるということは、加護に認められたという証拠。それであれば、私はすでに主を認めていた。ということを認めねばなりません』
「じゃあ! 俺の話聞いてくれるんだね!?」
『はい。私は主を認め、そして封印を解きましょう。貴方のお心のままに力をお貸しいたします』
「ありがとう……っ!」
よかった。どうにもならなかったらオフィウクスの加護を暴走させるしかなかった。
これで、俺は加護を再び使えるようになるんだ……!
『よかったのです~!』
『主~! 僕の加護ももっと使えるようにしてよ?』
「う、うん。がんばる」
喜んでくれてる蠍と双子の加護に、俺は頷いた。
『主、”己の力”を知りたければ我を求めよ』
オフィウクスの加護がそう言って俺と同じ緑の目を光らせる。
――そこで目の前が眩しくなった。
次に視界に入ってきたのは長い金髪だった。髪が風でなびいて、心配そうに青い瞳が揺らいでいる。スピカだ。
その後ろで黒い髪と黒い目を持ったマルフィクがじっと俺を見ていて……ああ、夢から覚めたんだな。って思った。
「大丈夫か? アスク」
「うん! 牡羊の加護に封印を解いてもらったよ」
起き上がって、スピカに笑ってみせる。
少し遠くにいたサダルとタルフ、カプリコルヌス様が近寄ってきた。
「腕や腿から血が出てたみたいですけど、大丈夫なんですか?」
「え?」
サダルにそう言われて右腕と左腿を思わず見る。たしかに血の跡はあるけど、痛みはない。
「私の力で傷は塞いでおいた。痛みがなければよいが……」
「うん、大丈夫。痛くないよ」
スピカに手を開いたり閉じたりしながら答える。この部分は”夢”の中で牡羊の加護の矢が突き刺さったところだ。夢と現実が繋がってるのか……? そういえば、途中から痛みを感じてなかったような……?
「そうか、よかった」
「ありがとう、スピカ」
「ああ」
スピカとの会話の区切りでマルフィクが俺の肩に手を置いてきた。離すと同時に黒い蛇が姿を現し、マルフィクのフードの中に消えていった。
「……?」
「どうかした?」
「いや……なンでもねェ」
明らかになんでもなくなかったと思う。驚いたような顔してたし。でも、きっと今話したいことじゃないんだろうな。
「しかし、どうやったのであるか? どの加護も暴走したようには感じなかったのであるが」
「えっ!」
「そうだ。内側から壊れると聞いていたが、まったくそんな様子はなかった。右腕と左腿に矢で射られたような傷ができただけだった」
「あ、えっと……牡羊の加護を説得しただけだけど……」
「説得って具現化もしとらんのに、どうやったんやざ?」
そうだった、普通は加護と話できないんだっけ。これ、どうやって説明すればいいんだ?
「うぅん。ちょっと長くなるんだけど――」
俺は”夢”で起きたことをみんなに1から話した。
「ふぅむ。吾輩もそのような現象は知らないのである」
「私も、アスクの話が初めてだ」
「僕もそういう風な話は聞いたことないですよ」
話をし終えると、全員が首をひねった。
「うらにはわからんことばっかりやざ。聞いてた話と違いすぎるやざ」
「僕たちとは、加護の性質が違うんじゃないかなぁ」
「どういうことやざ?」
「ふむ。加護とは、人間を神と同等の力に成長させるものなのである。よって”自我”と呼んではいるが、加護の”自我”は持ち主の投影なのである」
「客観的に自分の欠点や、長所を知るためですよね」
「そうなのである。そして長所を外部の加護で育てあげ、再度自分の中に取り込むのである。それによって力が増幅し、神同様の力を手に入れるというのが加護のプロセスなのである」
「だからこそ、複数の加護を持つこと自体が珍しいわけですね。たしかに一見アスクとは違うような性格を持つ加護ですが、アスクの性格が分断されているだけなのではないですか?」
「その可能性は大いにあると思うのである」
結局、あーでもないこーでもないと予測を立ててはいたが、俺の力についてはわからなかった。
あっという間に”夜”が来てしまって、各々身体を休めるための準備をするため解散することとなった。
カプリコルヌス様はレグルスのところに、サダル、タルフは夕飯の準備のために材料集めをしてくるって二人で出かけていった。マルフィクも師匠にいろいろ聞いてみると姿を消して、残ったのは俺とスピカだけだ。