※大幅に変更される可能性があります。
レグルスを見送ってから、俺はマルフィクに向き直った。エスカマリさんのところに行く方法を考えないと。
「空飛べたらいいんだけどなぁ」
「ムリだな」
俺の安直な考えは、すかさず否定される。エスカマリさんは軽々と移動できたのだから、俺たちだってできるのでは? と思ったものの、大きな天秤は現在、闘技場中央まで移動している。
やっぱり飛んでくしかなくない?
「傍まで近づいて飛び乗るとか?」
「高さがあるな。オレたちの跳躍力じゃ届かねェ気がする」
「じゃあ、マルフィクの槍で飛んでくのは?」
「正面から向かってッたら、撃ち落されんじゃねェか?」
「ええ……」
あれもダメ、これもダメ、どうしたらいいんだろう。ダメ元でもいい、何か案を出さなきゃ。
「じゃあ、真上辺りまで槍で飛ばして落っこちる。とか?」
マルフィクが肩眉だけ下げて、頬を掻く。
「着地を自分でなんとかできるンなら……可能性はあるンじゃねェか」
着地、できるかな? 双子の加護があったら、脚力強化してできただろうけど……。蠍と双子、牡羊の加護はエスカマリさんに持ってかれた。
他に使える加護は何だろう? オフィウクスの加護も山羊の加護も、身体強化するものじゃないんだよな。何か方法を見つけるなら、オフィウクスの加護で調べてみようか。
「ねえ、マルフィク。オフィウクスの加護使っても平気かな?」
山羊の星で暴走してしまったことが、どうしても気になる。不安だった。また使って仲間を傷つけないか。
「師匠の加護の気配はしない。大丈夫だろ」
マルフィクの返答にほっとした。
オフィウクスの加護を使うのは、ヘレの力を借りた時以来だ。あの時みたく上手く使えるだろうか。
「知識の本(コーデックス・スキエンティエ)」
呪文を唱えると、いとも簡単に本が目の前に現れる。まだ奪われてなかった、良かった。
「で、何を調べるンだ?」
「山羊の加護について。かな。何か方法があればいいんだけど」
俺の言葉に反応して、本が勝手にパラパラとめくれる。開かれたページは山羊の加護について記載されているページだった。
「過去にも未来にも飛べるヤツか。他にもあンのか?」
「わからないから調べてるんだってば」
ページを読む。
「えーっと、山羊の加護は他に比べて強力な力を持つ。同時になんらかの不幸がもたらされる」
「不幸属性を持つヤツは大丈夫だッたンだよな」
「うん。山羊の加護は、過去や未来を視ることや、地震、地割れなど災害級の被害が出せる力を持つ」
「……ここでそれやったら洒落にならないぞ」
「人が多い場所で使う力じゃないね……」
残念ながら身体強化の項目はなかった。他に気になる項目といったら、不幸についてだ。目を滑らせる。
不幸は命に関わるものではないことがほとんどだ。不幸を持つ者には山羊の不幸がもたらされづらいが、一部不幸が強化される場合がある。
ということは、不幸が起きてれば命の危険はないってことじゃないか? 俺は巻き込まれ体質だと言われてたっけ。
「ねえ、自分から巻き込まれにいった場合って不幸のうちに入るかな?」
「自分から不幸に飛び込むンなら不幸なンじゃねェか?」
なら、命に関わる怪我はしない気がするな。うん、大丈夫。”確信”がある。
「じゃあ、たぶん着地は大丈夫」
知識の本をしまって、俺はマルフィクを見た。ずいぶんと険しく眉根を寄せていて、笑いそうになる。俺より不安そうだ。
「どうにかなるって」
「……オレは責任とらねェぞ」
「大丈夫。力を貸してくれるだけでいいんだ」
お願いと手を合わせれば、マルフィクはため息ひとつしてから槍を取り出してくれる。
「バレねェように、高度は高めで行くからな。上に飛ばした後急降下させる。ただし、相手は狙わねェ。気づかれ防止だ。降りる地点はオマエに任せる。どうにかしろ」
「わかった、ありがとうマルフィク」
「フン……サポートはするッつッただろ。槍に乗れ」
マルフィクは顔をぷいっと背けながらも、指示をくれる。俺は言われた通りに槍にまたがって乗る。
「しっかり掴まッてろよ。振り落とされるぞ」
「うん」
俺が前のめりにぎゅっと槍を掴むと、マルフィクが空に手を翳した。
その瞬間、ぶわっという風が全身を襲う。ビュービューと耳に風の切り裂く音が響いて、視界は空に向かって駆けていく。
くるっと視界が反転した。地面へと向かう急直下に足が竦む。真下ではない、斜め右の方に天秤とその上に座っているエスカマリさんが見えた。
足が、手が冷えて怖い。けど、降りなきゃ。ぐっと体に力を入れて、槍から手を離した。足で槍を蹴る。
さっきよりも遅い落下だった。景色がゆっくりになって、周りを見る余裕もできた。そしたら、地上でヘレが固まっているのが目に入った。エスカマリさんが何かヘレに言葉を投げかけている。
ヘレも、何か選択させられているに違いない。早く、助けなきゃ。
「ヘレ!」
思わず声が出た。ヘレが、エスカマリさんがこちらを見る。
ヘレがほっとしたような顔をして、動いた。エスカマリさんもヘレの動きに俺から一瞬顔を背けた。
「うわっ!」
「きゃっ!?」
ぶつかった。エスカマリさんに。
「いてて……」
多少痛いところはあるけど、着地位置は完璧だった。エスカマリさんを巻き込んだことで、落下のダメージは減ったみたいだ。
「な、なんですか!?」
視界が揺れる。エスカマリさんががばっと起き上がったせいで、転がり落ちたせいだ。起き上がって、エスカマリさんに対峙する。エスカマリさんは動揺しながら乱れた髪を直して、立ち上がった。
「アスクさん、まさか私をクッションに飛び降りてくるなんて思いませんでした」
「俺もこんなうまくいくなんて思わなかったよ」
ふうっと一息ついて、エスカマリさんは冷たい目を俺に向けた。威嚇されている。言い知れない恐怖に喉がことりとなった。次の行動だって俺にはうまくいく自信はない。けど、やってみなきゃ。可能性がある限り。
「こんなところまで何のようです?」
「抗議……しに来たんだ」
「あら、抗議だけですか。お可愛い」
ふふっと笑ってから、エスカマリさんは俺に手を伸ばした。一瞬にして鎖が出現して、じゃらりと俺に絡まる。鎖の重さにぐっと前のめりになった。
「それで、どうやって? 貴方、攻撃できる加護をもう持っていらっしゃらないでしょう?」
見透かされている。エスカマリさんが俺の首に手をかけた。ひんやりとしていて細い指が絡まる。
「なのに、ひとりで、私の前に来た。勝算があったのですか?」
目を見開き、笑いながらエスカマリさんは顔を近づけてくる。そんなのわかってる。力では敵わない。加護の力を使われたらひとたまりもない。だから、怖い。怖いけど、俺はやらなきゃ。って思う。
「まあ、勝算も何もかも奪ってあげますよ。ほら天秤が動いた」
ズンっと黒い天秤がひとつ動いた。また何かを奪われたんだ。俺の加護の力でどうにかはできない。だから、俺がしっかりしないと。
口を開いた。
「これって本当に公平?」
また黒い皿が下がる。すべてを奪われてしまうかもしれない恐怖に舌が渇く。でも、俺は話し続けなければならない。希望を捨てたらいけない。そうしたら、次はヘレたちが迫られる。この恐怖に。
「公平です。天秤の星にとってはですが」
「本当に?」
カタン。しゃべる度に黒い皿が落ちていく。後、何回猶予があるだろうか。帰属した加護は乙女、魚、獅子、牡牛、水瓶、蟹で六個もらったはずだ。まだ猶予はある。
「ええ。黙った方がよろしいのではないでしょうか? しゃべる度に、天秤が傾いておりますよ?」
「エスカマリさんに言ってない!」
カタンという音。気になる。焦る。でも、呼びかけなきゃ、あの人に。
「天秤の神! 貴方はどう思ってるんだ!」
カタン。
「天秤の神は私にすべてを委託しました」
「ちがう! まだ天秤の神は生きている。考えろ、貴方が何を大切にしていたのか」
カタン。まだ、反応はない。でも、呼びかけなきゃ。目の前にはいない彼に。
「ふふ、気でも狂ったんですかね。貴方も天秤の神を見たでしょう? もう彼は、動けないんですよ」
「俺は見た、貴方が天秤の星を大事に思っていることを。天秤の神! これが貴方が望んだ世界なのか!?」
カカカ、天秤が小刻みに揺れる。エスカマリが驚いて天秤に向かって「何やってるんです!?」と叱咤している。けど、そんなことはどうでもいい。俺が話しているのは、天秤の星と繋がっている神、天秤の神だ。
「これが、貴方が望んだ天秤の星の姿なのか!?」
がっしゃーん! という大きな音を立てて、天秤はんまったく真逆に動いた。白い皿から鎖が千切れて地面まで落っこちていく。
「そ、んな……」
エスカマリさんの顔が真っ青になる。エスカマリさんからふわっと白いかたまりがいくつも浮かんできて、俺の身体に溶け込んだ。加護が戻って来た。そう思った。
エスカマリさんが、キッと睨みつけてきた。けど、空に現れた人物に俺は目を奪われていた。骨と皮だけの身体をローブに包み、悲しそうに奥まった眼でこちらを見ている彼。紛れもなく天秤の神だった。
エスカマリさんが俺の首を掴もうと手を伸ばす。しかし、俺の周りが金色の光に包まれた。バチンとエスカマリさんの手を弾く。俺を縛っていた鎖は脆くなっていて、立ち上がればボロボロと崩れ落ちていった。
「まだ私に反抗するつもりなのか!」
エスカマリさんが天秤の神に向かって吠えた。悲しそうな瞳をエスカマリさんに向けつつ、天秤の神は俺の傍へと降り立った。
「私の星が迷惑をかけた。ここは私が受けもつ。其方たちは射手の星へ送り届けよう。そこで彼から――射手の神から話を聞くのだ」
俺の他にヘレやスピカ、レグルスが金色に包まれる。マルフィクだけはそのままだった。マルフィクに顔を向ければ、手を振られる。ここでお別れだと言われたみたいで、目を瞬いた。なんで?
「私はもう一度、がんばってみようと思うよ。君の未来を見てみたい。私の加護を与えよう」
天秤の神が俺に向かって言葉を発したかと思うと視界が金色に包まれたのだった。
※ここまで
※ここからネタバレ
エスカマリの心情書留。
中立の立場という主張。欲に対して従順。
レーピオスがもたらす新たな刺激や文化については是と思っている。
一方、それに敵対(仲間にはならない)人間について、立ち回りを考えるべく観察を主にしようとしている。
天秤の星の現状を乙女の星で厳格な性格のスピカは気に入らないだろうことはわかっている。他の人間も同様なのか、レーピオスの話ではそうではなさそうなのと、レーピオスの仲間のマルフィクが一緒にいるので判断がつかない。
今後の天秤の星の運営は自分が行うことから、他の星とのもめごとはしたくはないが、意見の食い違いがあるのであれば殺る気。自分の地位を脅かす相手には容赦しない。
レーピオスよりも生かすか殺すかについては0か100、白か黒かで決めがち。
生かしてしまえば自分に牙を向けることを知っている(過去で牙をむいたし向かれた)ため、有害と判断すれば確実に殺害してきた。
にこやかな笑顔の裏で冷酷に見極めている。
レグルスの弱いところ。
逃げちゃうところ。けど、仲間のためなら逃げないところ。を描写したい。
簡易プロット
レグルスの恩賞を使って過去に。
天秤の神の心情を知る。
本当にこれが天秤の星のためになるのか!? とアスクが天秤の神に問いかける。
レグルスはライオンになって、他の獣を蹴散らす。
天秤の神が応え、天秤が傾く。アスクに天秤の神の能力が譲渡。
同時に、射手の星に飛ばされる。